理由を求めなかった日。1
来たる決戦日。
藤咲さんに八月二十日にかわいい服を着て、駅前南入口に十時という不幸の手紙を頂いた。
かわいい服とはなんぞや。皮がいいとかボケんぞ。
お姉ちゃんが今回は可愛い唇を尖らせて、服の選んでくれなかった。お母さんは早く帰るのよと何度も念を押し、お父さんは無言で黒豹を背負っていた。
そういえば、私の後ろの怒りのイメージマスコットがウリ坊に変更になった。たぶん、神取のせいだろう。牛かイノシシといわれたせいでウリ坊。
なんだろう。しっくり来たような気がする。
あんまり、可愛いのもあれだが、藤咲さんに逆らいすぎるのも怖いし、センスに自信がないので……少しフリルが多めの白ブラウスとふわふわ黒のキュロット、ニーソも履いてぺたんこ靴になった。ちょ、ちょっとゴスロリっぽい気がするのは気のせいだろうか。いや、いつものしま◯らで買った物だ。買ったのがお姉ちゃんじゃなくお母さんだっただけだ。問題ない。問題ないから藤咲さん、早く来てくれ。
「あれ?ちみっこ」
「ノオォォォォォォォッ!!!!」
突然、片倉さんが現れた。秋月ルカは大きな声で叫んでみた。
……周りの目が痛くなった。だって、仕方ないじゃないか藤咲さんを生前は色んな意味で着れなかった少女趣味に巻き込む覚悟は出来たが他は違う。
それにこのひとにさんざん、ひまわりヘアピンでからかわれたのだ。会いたくなかった。特に自分のセンスで選んだ服では。
携帯で時間を確認する。
十時まであと十分。
秋月ルカは逃げることにした。
「こんにちわ。片倉さん。じゃあ、急いでいるんで」
「え、う、うん?」
ダッシュで近くの本屋に逃げてみる。よし、藤咲さんを五分くらい待たせようとも、しばらくはあそこに近づかんぞ。
秋月ルカは混乱していた。十時五分過ぎ、片倉さんがまだそこに居たのに藤咲さんが来ない。メールチェックをしたり、辺りを見回す片倉さんを遠くから見学中。ストーカーでしょうか。いいえ、ただの不審者です。
「片倉さんの相手、早く来い~。藤咲、誘っておいて遅刻か~」
あの男。まじ、いつか痛い目にあわせて見せる。
私は心から誓いつつ、しかし、片倉さんの白シャツにデニム、腕時計といったシンプルな恰好なのにカッコイイとか羨ましいなーと見学の趣旨が変わり始める。うん、本当に待ち合わせに遅刻とかないよ。藤咲、私、貴方のアドレス知らんぞ。あと、三十分待ってこなかったら帰るからな。
片倉さんは埒が明かないと判断したらしく、電話するようだ。うん、そうしなよ。
私は辺りをきょろきょろする。藤咲はまだ来ない。……むー。別に親しくないし、底意地悪いし、怖いけどこんなに相手を待たせるようなことする人かな?もしかして、出がけに何かあったのかもしれない。
だんだんと不安になってきた。
携帯を開いたり閉じたりしてみたが、連絡先を知らない。うちに連絡して藤咲さんの家の電話番号を……。
「ねえねえ」
なんだろ。誰かが私の背中を叩いている。いや、なんか撫でてる!?
うずくまっていたので心配されたのかと一瞬、思いもしたが、なんていうか。そう生理的嫌悪が先立つ撫で方なのだ。ぞわわっと鳥肌が立つ。
大慌てで立ち上がり後ろを振り向くと、んー自分軽いですと全身で主張している高校生?大学生かな。くらいの青年がニタニタ笑ってこんにちはーって。
「暇そうだね」
なんで、確定。
「ずっと見てたけど」
お前が暇なんじゃねえか。そして、そのセリフなんかむかつく。
「楽しいとこ知ってるから一緒にいかね?あ、もちろん、俺がおごるし。大人っぽいね。高校生?」
「いいえ、中学です!」
反射的に答えてしまった。あほかーっ!!こういうやつに会話の糸口与えてどうすんだ。
「まじで、へえ。じゃあ、遊ぶ場所とかそんなに知らないんじゃね。俺が教えてあげようか」
脳内会議ーっ!!
こういう奴って殴っていいんだっけ?ーーはい。ダメだと思います!!なんだと!?ーーバットが手元にありません。殺傷能力に不安あり!!なるほど、私冷静になった。うさちゃんのようにバッグをーーひゃう??
突然、誰かに肩を抱き寄せられた。
え?悲鳴をあげるべき?
でも、ナンパ男は目の前にいるし、反射的な悲鳴を飲み込み確認したところ私を抱き寄せているのは片倉さんだ。
どこだ。私は視線の先をどこに持っていけばいいんだ。
片倉さんを見るとすっぽり胸の中のせいで見上げる形になる。
それは、やばい。
なんだかわからないが脳内会議すらしていない段階で拒否を示した。うんわかった。君子は危うきに近寄りません!!
だから、ナンパ男の方に視線を向けたらだらだら文句を吐いていたが、だんだんと顔色を悪くし、最終的に
「見せつけてんじゃね」
と吐き捨てられた。え、片倉さんは、ただ、私を保護しただけだよ。後輩を助けただけだから、見せつけたりしていない。
私が同意を求めたくって、私を抱き寄せたままナンパ男を睨みつけていた片倉さんを見上げたら、片倉さんはナンパ男の背が見えなくなるまで、ずっと厳しい目のままだった。
そのあとにようやく気付いたとばかりに片倉さんを見上げていた私にふんわりと微笑んだ。
「ごめん。怖かったね」
ーー何故か、意味もなく泣くという行為をするという失態をしてしまった。お姉ちゃんとリンの前でしか最近していなかったのに。




