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藤咲は簡単に見つかった。当たり前だった。パーティー主催者の息子だ。
しかし、たどり着くまでの道のりがあまりに遠い。
立食パーティ形式だから、飲みものがないとギャルソンが持ってきてくれた。アルコールじゃないよね?
「女性ばっかり」
男性陣の嫉妬の炎を一身に受けているというのになんて、余裕綽々なんだろうか。…いや、やっぱり、弱っているのかな?
笑顔にいつもの腹黒さがない。
「調子に乗りやがって」
「悪魔憑きの一族の癖に」
「おい、聞こえたらどうするんだ。前に………」
ここに本物の悪魔憑きがいまーす。と一瞬叫びそうになった。が、私は今、クールな怒りの使者の筈だ。いつも見たいにしていてはいけない。
神取と腕を組みながら歩くのも大変だ。ヒールは低めにして貰い、挨拶もある太刀川さんから想定して貰ったカンペだ。挨拶が終わって話掛けられたら、神取を見上げる。設定は神取の遠縁の子。
同じような話題ばかりでそろそろ、頭がパンクする。
キョロキョロと辺りを見回し、藤咲の回りが捌けないかジーッと見つめる。……一人になる事がまずなさそうだ。
「入ってきてもいいんだよ?」
「ヒールじゃなければ行きます。が、踏まれるの怖い」
あの凶器を履いた女性陣の中に入れとか何かの拷問だろうか。……神取は近寄る気はないらしい。
「息子の方には下手に近寄らないことにしていてね。今日も本当は来る気はなかった」
私の為に無理を通したらしい。恩を売って会社を継がせる気だろうか。私が一歩をなかなか踏み出せずにいると、やれやれと肩をすくめる。
「なんというか、君らしくないな」
「何がですか」
呆れたようにため息を吐かれた。
「猪か牛のように問題事に突っ込んでいくのが君の個性だと思っていたのだが、怒りや迷いで逆に面白味のない人間になったようだ」
その時の神取の言葉に私、なんといいましょうか。カッチーンと来ました。ええ、ムカムカしましたが、ーー面白味のない?
ほう、ここで一発芸でもしろと?
よかろう。やってやろうじゃないか。私は女優。負けないわ!どっかのダンサーの台詞だった!
神取から腕を離しヒールをコツコツと、鳴らし女性たちに囲まれた藤咲の前に立つ。
突然、猛進してきた私をぱちくりと視線に入れた藤咲ににっこり、微笑む。
「こんばんわ。良い夜ですわね。まるで、あの日みたいですわね。葵さん」
ザワッと、周りがざわついた。ところで、あの夜って藤咲さんに口をデコに置かれた日の事だ。それ以外ない。嘘はついてない。問題ない。
藤咲が固まっている。なんだろ。何かやばめなことで思い当たる節があるのかな。まあいい。ちょっと、誤解を招こう。
「どうなさいました。まさか、わたくしをお忘れですか。(昨日もあったよー)あんなにわたくしを想ってのお言葉。(姉から離れろっていったよね)初めてだったから血が…(額に藤咲さんの血がついてたー)母に…泣かれました」
私が不良になったと泣かれた。
ふむ。心の声を省けば、かなり、誤解を招けたのではないのだろうか。あんぐりと周りが口を開いている。肝心の藤咲さんは頭を押さえているくらいだが、ダメージは受けただろうか。
しかし、意外とダメージが自分に跳ね返ってくる。自爆だ。メガ◯テ!え、意味がわからない?目が点。……はい。このギャグは某大手RPG四コマと云う歴史書に乗ってる筈だからググると良いよー。そんな時間はないだと!?………チッ。
にっこりと、微笑む。あ、間違った。普通なら恥ずかしげに俯くものだったかな。いや、もう失うものはない。顔が真っ赤なのは仕方なかろう。そっち方面に誤解をさせるつもりだから仕方ないが、私。免疫ないんだよ。畜生め。
藤咲さんの冷たい目が気になったが、私の様子にだんだんと首を傾け始める。うん。もう一押し。二人っきりで話したいからどこかに連れてってくれよ。早くー。
「あの日、葵さんに買って貰った下着、大事にしていますわ」
女優を目指すならポッと頬を赤くして見せるといいよ。でも、私、すでにゆでダコだから。汗が大量に出てますから。
ぎゃーっ!!と女性陣からの悲鳴と、誰だ。口笛吹いた奴。説教だ。
藤咲さんはそこでようやく、合点がいったらしい。
「え、どうしているの?」
「会いたかったから」
これは本音なので、そのままストレートに伝えれば、困惑したままだが、私の手を取る藤咲さん。
「すみません。皆さん。少し、彼女と話がありますので」
誰かが醜聞だとか、あれが今回の犠牲者かと言う声が響いたが、神取がいる方向に目配せすると笑顔で手を振っている。ーー神取も狸だった件について。あ、語る時間がない。
ホテルの庭に連れて来られた。物凄く足が痛い。
「ああ、慣れない靴だったんだ。そこの噴水の近くのベンチに座ろう」
促された先に確かにベンチがあったので腰を落とすと、てっきり、隣に座るものだと思っていた藤咲さんが私の前にひざまずき、ヒールを勝手に脱がし、地面に自分の着ていた上着を置いた。
ギョッとした。なんて手際だ。イケメンーー憎い。
「足はこの上に置いてね。赤くなっているから」
「はあ…、どこで習うんですか。モテ男講座とかあるなら習います」
「秋月さんが習ってどうするの。…しかし、化けたね。声を聴いてもわからないとか、何気に屈辱だよ」
苦虫を噛まれたような藤咲さんを見て、太刀川さんの本気に戦慄した。……あの人も怖い人だったんだ。
なんとなく、気まずいまま沈黙が続く。後ろには噴水がある。水が立ちのぼり落ちて行く。その音がやけにうるさい。
何故、気まずいのか、理由を述べよ。はい。何故か相手が弱った表情をしながら、私に優しくしているからです!なるほど。襟首を掴んでいけるノリではないと。イエス!マダム。ーー私はまだ独身だ!!
私の頭も喧しかった。
「秋月さんが来るのはもう少し、経ってからだと思ってたんだけど。今ごろ、大好きなマルさんとの関係で騒いでるか落ち込んでいると思ってたのになんで、俺の方が先なの?意味がわからないから説明して」
本気で困り果てたような声音の藤咲さんに、はて?何故、そんな現象をしなければならないのか私こそ困惑する。
「君の口から、『大好きな姉』に『嫌い』って言葉が出たんだよ。なんで、マルさんに寄り添わないの。今頃、落ち込んで泣いてるかもしれないよ」
んー、よくよく見ればなんたかまた、背が伸びたような。まあいいか。しかし、藤咲さんを誤解していた。もしかしたら、今回の件はアディーだけのせいかもしれない。
チッ、勘が濁っていたかもしれない。練り直しかなと溜息を吐く。
「秋月さん?」
「そもそもとして」
誤解を招くかもしれないが、仕方ない。
「今回の原因を絶たずに謝って、また同じ原因で今度はお姉ちゃんあるいは他の誰かも含めて傷つけた場合の二度目の謝罪を誰が信じてくれるのでしょうか。あれは、完璧に私のキャパを超えた何かです。『彼女』と話合いたくてもどうにもできない。だから、あの時、片倉さんを私の元にーー『秋月ルカ』を止めさせに送り込んだと推測させてくれた藤咲さんの嫌な笑い方を信じてここにきました」
「ーーそれは」
私は頬杖しながら、やはりこんな話をすんなりと受け入れている藤咲さんはある程度私の身に起きている何かを知っているのか。
でも、それって。
「片倉さんが嫌いなんですか。傷ついてましたよね。このまま、私のこと見捨ててくれたらいいのに」
なんだか、最近心配をかけたり助けてもらってばかりだ。もしかしたら、居なくなるかもしれない私に時間を使うよりもっと、有益なことで時間を使ってほしい。
「……君が、期待させるようなことしたからだよ」
ん?
何かを堪えて吐き出すように藤咲さんが語り始める。
「リンが、『この土地』から出て行ったから。だから、俺も出ていけるんじゃないかと思って……、笑えたよ。目的の為なら手段を選ばなかった自分が。親友も傷つけれるんだって。ーー正解だと思うよ」
傷ついている顔にほだされそうに一瞬なったが、本当に一瞬だった。続いた言葉に私が絶句したからだ。この私がだ。
「もっと後に君が来ていたらもっと酷いことを平気でしていたからね。釘を刺すと言う意味では正解だ。片倉は混ぜてあげないとあとあと拗ねそうだったっていうのもあるけど。後で謝っておくよ。ああ、もし、今回出てきた方が君の正当な姿だとか勘違いしているなら安心していいよ。ただの悪魔への疑似餌だから。すぐに消せる」
にやーっと悪役全開の笑顔を魅せつける藤咲さんにあれ?この人、全然何にも反省してないんじゃと心で、突っ込んでみた。
口に出さなかった私を褒めて欲しい。




