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悪魔の領分と







 家出を行った。

 自分の口から出た言葉が信じられず、どう帰宅したのかもわからなかったがいつの間にか自室のベッドに寝かされていた私は真夜中だと言うのにキャリーバッグに荷物を詰め込み、足音を立てないよう逃げるように家から出た。

 謝るという選択肢もあったが、私はまたいつ、『あの子』になるかわからない。そのたびに私が謝っても何の解決にもならない。

 記憶が暗転する前に見たあの藤咲さんの楽し気な笑みだけが、手掛かりのような気がする。

 『あの子』は、『秋月ルカ』だ。

 ゲームでみたそのものの最悪な性格をしていた。自殺を考えた昔を思い出し憂鬱な気分になりながら、頼るべきじゃないとわかりつつ、部下の太刀川さんに連絡し神取の自宅に世話になってしまっている。


「ついに会社を継いでくれる気なったんだね」


 夜だから寝言かな。私を前に満面の笑みの神取に辟易する。


「ルカさん、お疲れならすぐに寝室の準備をしますが」

「すみません。太刀川さん。その前に藤咲葵っていう私の学校の先輩について、少し調べて欲しいんです。」

「わかりました」


 こんな小娘に顎で使われると言うのに文句の一つもないとは。これは彼を見出した神取を少し尊敬せねばならないようだ。


 ああ、頭が働かない。


 いや、妙に働きすぎている。どこで間違ったのかではなく、足りない情報のまま動くなと何度兄に言われたのかと自分の前世が責めてくるような気がする。だから、周りを傷つける。そう、あの時も…。そこで、ズキンッと頭が痛む。思い出して欲しくないらしいので、とりあえず保留だ。

 神取の自宅と言ってもホテルの一室だ。どう考えても不経済な間取りにまたため息を吐く。何故だろう。ものすごく私は冷静だ。

 --そう、冷静に怒っている。


「神取さん。」

「何だね」

「二重人格や多重人格、前世、天使、悪魔。どこまで信じますか」


 私は馬鹿にされる覚悟だったが、神取は意外に真剣に答えてくれた。


「何か困った事でも?」


 仕事柄こういうことを言いだす人間もいるのかもしれない。もしかして、このまま病院かもと思いながら話を続ける。ともかく、わかっている内容をまとめたい。

 話が長くなるならと一人掛けのソファに座るように促され、素直に座る。


「まず、私の中に二人の人格と三つの意思があるとします」

「ああ、」


 狼狽はしたが、まだ話を聞いてくれるようだ。


「三つの意識のうち二つは同じ人格で主人核と副人格のようなものだと思っています。副人格は主人核にとっては懐かしい過去であり、有益な情報をくれる存在だと今までは思っていました」

「問題でも?」

「はい。有益な情報ではなくウィルスつきのアプリだったんだと。とんでもない未練があるらしくバグを起こしました。どうも、警察が嫌いなようです」

「それは、私と仲よくなれそうだね」


 そこは、にこにこするところじゃない。

 太刀川さんが珈琲の準備をしてくれた。どーも。


「まあ、この子に関しては、まだいいんです。バグがあろうと私の強みです。が、問題はもう一つの人格です。私のお姉ちゃんに暴言を吐きました」

「あ、ああ…昴の」

「そして、巻き込まなくていい相手にも拘わらず、喧嘩を売ってくれました」


 お姉ちゃんの傷ついた顔と片倉さんの悲しみに歪んだ顔がちらつき、持っていたカップを荒々しく置いた。


「……で?」

「しかし、仮に彼女をAとしまして。実を言えば私、Bの方が間借な存在なのかもしれません。いつか、Aに体を返すとしてもやったことの落とし前はつけていただきたい。そこで、天使と悪魔と藤咲葵です」

「市長のご子息ですね。代々政治家の家系です」


 太刀川さんが神取に説明する。へー、政治家の息子か。知らなかった。やっぱり、生の情報も必要だね。


「代々この土地の市長の家系か。」


 呟かれた声音で、相手にしたくないのだろうと理解した。


「手伝わなくていいですよ」

「いや、そういうことじゃない」


 苦虫をかみ殺した表情で考え込んだ神取に私は、何度念じてもここに来ないあの悪魔にも怒りの矛先を向ける。実に悪魔らしい。

 一瞬でも頼ろうとした自分のなんと愚かなことか。あの時、あいつは確かに『私』に囁いていた。『秋月ルカ』の方に。冷静になるとふつふつ沸く怒り。『悪魔の手引き』か。本分に忠実なんてなんて優秀なんだ。二千年も落ちこぼれてたなんて信じられないよ。

 太刀川さんが何かの連絡受けて、神取に耳打ちをする。わたしは、その様子にああ来てくれたのかと


「太刀川さん。人間離れをした白銀の美形なら私の知り合いです。ここに通してください」


 数分もしないうちに現れた顔面蒼白の天使様に私は、微笑みかけた。そう、ただの嫌味だ。


「こんばんわ。天使様。間抜けは私とお揃いですね。確かに『秋月ルカ』と契約してたみたいですね。アディーの奴は」


 くす、ふふ……と笑いかけたらなんだか笑いかけた天使様以外も青い顔をしている。やだ。みなさん。私、ちゃんと何度も心で怒ってるっていったじゃん。


「天使様。もしよければ藤咲で知っている内容洗いざらい吐きませんか?ああ、あと、アディーの身に何があろうともう庇いませんよね。それから、魂がどこに連れてかれるんでしたっけ。一つくらい魂が増えても逃がしたりしませんよね。同罪で、連れてってくれますよね」


 ニコニコと念を押しているのにどうして、そんなにどん引いているんだろう。


「お、落ちつけ」


 制されたが、私は冷静に怒っている。


「無理です。私の最大のアイデンティティーを否定されたんですよ。」

「あ、悪魔に復讐など、」

「だから、藤咲について洗いざらい吐け。アディーがあれを嫌っているのはブラフじゃないだろ。」

「……私は、」

「セラ様、私はお姉ちゃんが好きなんです」


 そうだ。一番、そこを否定されたのが気に入らない。何年もうこの世界の私の大好きな姉を私に傷つけさせるとは。――後悔させてやる。


「セラ様は言いましたよね」

「な、何をだ」


 詰め寄り、下から睨みつける。


「自分を貶めた奴の罪をこのままにするのかと」

「それは、」


 揺らぐ天使に私は畳みかける。


「それに私、アディーを一瞬信じかけてました。ーー物凄く屈辱です」


 顔を歪め、本気で不愉快なんだと。あの野郎、何がやだやだだ。しばく。しばいて、簀巻きにして、樹海に置いてきてやる。


「もう契約切って、『真名』を千回くらい呼び続けてやる。」

「わかった。落ちつけ」


 捕まえてくるからと確約してくれた天使様にうれしくなって、満面の笑みをしてしまう。その時手帳を開いて何かを確認していた太刀川さんが口を開く。


「藤咲市長開催のパーティが明日開催されますが。すぐにご子息を捕まえたいのでしたら参加なさってみれば」

「太刀川」

「しかし、藤咲議員のご子息を我々が招待するのは無理がありますので」


 神取の叱責にもどこ吹く風の太刀川さんに感激のあまり抱き着き礼を言えば、すぐに神取に引き離された。


「あまり、私から離れないことと。天久兄弟に気をつけなさい」


 何故か、念を押された事に首をかしげながら、明日の為とそのままベッドに放り込まれ、朝から早く付け焼刃の礼儀講座とドレスアップをし、神取にエスコートされながらパーティの行われるホテルについた。

 ドレスは、真っ赤なる……すいません。

 うむ。気合は十分。


「腕まくりは止めなさい」


 袖なしタイプだから、まくるふりをしようとしただけなのに何故ばれた。




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