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意を決してチャレンジしてみる。
キッチンでソーメンを茹でているお姉ちゃんに突撃だ。
「お姉ちゃん、高校どこ行くの?」
「まだ、候補が絞れてないの」
私のチャレンジが終了したと同時に七月が過ぎてしまった。
え、ヘタレ過ぎないかって。バカな。あと一人確認しなきゃいけないのがいる。リン。電話くらいくれ。いや、通話料高いしな。節約は大事。うん。私は学力で学校に入るぞ。
意外なことに私の図書館通いに会長様はもくもくと付き合っている。
長机のど真ん中にお互い対面しながら座る。真ん中なのは嫌味だ。たぶん気づいていてイライラしている。
「お前は、国語は波が有りすぎだわ、英語は最初から覚える気がないとか。どんな思考回路で生きているんだ!」
お怒りはごもっともですが声のボリュームを下げてください。周りで読書したり、勉強したりしている方々が眉を顰めていますよ。
ついでに私の唯一の得意教科は数学だ。式の辻褄が合うとパズルみたいで面白いからだが、いまいち誰も信じてくれない。何故だ。
「社会も歴史に波があるな。なぜ、戦国時代が終わると記憶力が低下する」
会長様、オリジナル問題テストの答え合わせはさんざんです。待って、中一が習ってないとこまでやらせるからこんな点数なんだよ。数学で、会長より良い点取ったのは生前プラスαのおかげだよ。え、それなら他も出来るだろって?
うん。無理だ。
「プリントは作ってきた。わからない場所があれば、訊け。ただ、今から十分間は自力でやれ」
「はい。会長」
「返事だけはいいな。お前は」
呆れとため息は両立して仲良しさんなんですね。わかります。
もくもく… もくもくっていうとちゃんとしてるような感じがするよね。いや、ちゃんとしてるから。
「会長」
「黙れ」
「昔のひとはどうして、恋文が返ってこないくらいで死ぬんですか」
「しるか」
「会長」
「……」
「源義経が一の谷で乗っていたのは鹿だという説を唱えた学者についてどう思いますか」
「…………いるのか」
「いえ、いま急に思いつきました」
無言で、頭を取り押さえないでください。
「誰かが信じたらどうする気だ!!」
確かに他人の耳が多い場所だ。
「責任は取りません。皆平等!」
いいから、勉強しろと怒鳴られた。
適度な雑音は勉強にいいと聞いたことがあるから、話しかけてるのに。
しかし、途中までは生前と歴史に並ぶ名は同じだけど最近の総理大臣になると全然違う。特に目まぐるしく交代した……ん?いま、西暦何年だろう?ド忘れ?
「かいちょ……あれ?」
いつの間にか船を漕いでおられるよ。このひと!!
あ、居眠りね。手に顎を乗せてどんぶらこっこ~どんぶらこ~。
おおう。美形様の寝顔なんて眼福以外の何物でもないが、どうしよう。ほっとくと起こさなかったこと怒りそうだし。疲れてんならほっとくのが優しさだろうか。 いまだけ、乙女ゲームもしくは少女漫画の主人公様。落ちてこい!!……素養がないんですね。わかりました。あ、かわいそうな子って、涙で枕を濡らしてくれていいよ。え、私も同士だって?こ、こんなところで同士と出会うなんて。うれしい!パカカカーン。ルカは自分の脳内で同士を手に入れた。ーーーは、自分だった。
やばい。私が白昼夢を見ていたようだ。
「秋月」
ひばりんが現れた。なんか紙を持っている。
「こんにちわ。なにそれ」
隣に座り始めたひばりんに持っている紙について聞いてみる。別に凄く聞きたいわけではない。ただ、気になっただけだから、気まずそうな顔をしないで。
「塾の考査の結果。少し下がってて、母さんに何言われるか」
「試験あるなら、会長に見てもらえば?」
「そうするつもりだったけど………寝てるな」
「うん。眼福でしょ」
「いや、秋月のなら……じゃなくて!か、会長がこんなに早くいるの珍しくないか?」
指摘されて確かにと頷く。この人、最近忙しそうに文化祭の予定やら体育祭の準備をしていて、勉強を教えてくれるのは大概、夕方の一時間くらいなのに今日は何故か午後一から来ている。
なんだろ。準備終わったのかな?んん、あ、別な可能性に気付いて、私は溜息を吐いた。そうだとしたら暇なのか。この男は。
「そういえば、秋月って最近眼鏡してるけど。目が悪いのか?」
「ううん、UV対策。マナルンがしたほうがいいって」
お揃い!と渡された伊達メガネだが、違和感が特にないのでつけっぱなしにしている。しかし、高い品だったらどうしよう。最近、貰い物が多い気がする。あ、そういえば、
「光原さん、髪切った?」
「あ~~~」
変な声を出すひばりんに私は、首をかしげる。あの妙な色気の主人公様がイメチェンに失敗するとは思えないが。
「秋月、心美に絶対、テル兄の前髪切れって言った人間だってばれんなよ」
「?うん。別にあの日以来あってないし」
なんだろ。この微妙な反応。まあ、私、今できることをしよう。
「そういえば、もうすぐ夏祭りだよな」
「うん。いかないけど」
なぜ、 ショックそうな顔をするんだ。ひばりん。
だって、リンがいないときにお姉ちゃんを連れて歩くなんて、ナンパしてくださいと言っているようなものだ。護衛が必要だが、誰がそんな事したいのか。お姉ちゃんも今年は乗り気じゃないからいかない。
「予定があるとか……?」
むしろ、ない。
泣くほど無い。
それに下手に出歩いて主人公様とお姉ちゃんを引き合わせたくない。私は慎重になっている。うん。リンがいない間は私がお姉ちゃんの番犬だ。
「がんばろー」
「え、お、おう………?」
「あ、あと、私、今日予定あるから早めに帰るね」
「え、は?な、なんで?」
ひばりん、びっくりしすぎだよ。
私はプリントの問題を解きながら、う~んとって、答える。
「お姉ちゃんが絵で賞を取ったのが、市の美術館に今日から飾られるんだって。だから見に行くのだよ」
どうだね。うちの自慢の姉はと胸を張ったらふーん。と。な、なんだ。その薄い反応は。どれだけ素晴らしい姉かを語り明かす…、
「テル兄もなんか賞取ったとか言ってたからそれも、そこに飾られるのかな。あ、そこにいくなら一緒に…秋月?」
「すまん!急用ができた」
ザーッと、適当にバッグに勉強道具を詰め込み、私は走った。そろそろ司書のお姉さんの目がきつくなった気がするが、きっとまだ許してくれる。会長が来てからちょっと優しくなった気がするから。
美術館は図書館からそう遠くないけど、真夏にダッシュしてはいけない距離だった。ゼーハー入り口で息を整える私は、さぞ怪しかろう。
お姉ちゃんに電話した。まだ来ていなかった。……よくよく考えたら走ってくる意味はなかった。お姉ちゃんは、閉館頃来ると言っていた。五時まで、あと二時間。私は何しに来たのだろうか。
「あれ?ルー」
わざわざ、敵地に乗り込むとはアホなんだろう。そして、声の主を見上げたら強烈な色気を醸し出す灰色の瞳の美少年が私に手を差し伸ばしていた。さすが、18禁の主人公様。とんでもねえ、高スペックの持ち主で。
「どうしたの。気分が悪いなら休めるとこに行く?」
その優しさが大変苦痛です。
拝啓、未来のリンお義兄様。貴方のうかつな義妹は、とんでもない強敵を作り出してしまったようです。




