知識の改悪。1
謹慎あけ。私はすぐにデートに誘われた。
愛川センパイに。
誰だ。お前が百合に走ってどうするとか言っているのは!バカな。今までの私の行動一つ一つかんがみてくれ。どうして、お姉ちゃん以外と百合ルートが開拓されるんだ。
もし、私とお姉ちゃんの百合が開拓され……ごめん。百合に興味なかった。そういえばそのルート一切してないな。うん、秋月ルカは、自分の趣向を理解した。
「るかちゃん、たのしい?」
きゃるるんっと聞こえる。まあ慣れたけど。白いマキシムワンピとサンダルと日傘って、どこのお嬢様。あ、警察のお偉い方の孫だったね。
私は、Tシャツとジャンスカにレギンスだ。お姉ちゃんが選んでくれたんだぜ。しかし、何故、このメンバーなんだ。会長とひばりんまで巻き込んで何がしたいんだ。…ああ、そういえばひばりんも一緒と言ったら、本当はキャミワンピを着たくらいにしようとしていた私にお姉ちゃんがコーディしてくれたんだ。ハンカチも三枚。お姉ちゃんは本当に私の為に抜かりがない。
「天ちゃん、最近、勉強のしすぎだと思うし、図書館でよく会う月ちゃんと仲良くなったから誘ったの。ダメだった?」
ダメじゃないが、カオスだ。
「何故、俺が…」
「あ、キリンだ」
ひばりんが歓声あげる。
「爬虫類コーナー行こうよ。触れるよ」
「サル用の餌買う?投げて良いみたいだし」
ひばりんと愛川センパイが楽しそうだ。
あ、そういえば、呼び方を改めたんだった。マナルンに。きゃるるんとの合併だ。え、意外と普通だと!?バカな。これが普通だと思い始めたら私に毒されすぎている。
「動物園か……やはり、カバを見ないと」
「お前が馬鹿だからだな」
あ、この人、ちゃんと会長様だ。最初、棒付きアメ舐めてたから兄の方かと思ったが、私に対するこの皮肉は会長様だ。努力なさってるんだね。
「なんだ」
睨まれたが、確認しないほうがいいのかな?区別されたくないって言ってたし。
「頭を撫でて差し上げようかと?」
迷いのないアイアンクローに私はギブを申し上げる。痛い。
檻の向こう側のトラもびっくりなどう猛さだ。あ、あくびしてる。
「……なぜ、わかった」
トラに気を取られていた私にひそひそと耳打ち、私を試していたらしいとピーンときた。
「会長、私と喋りすぎだと思います。あと、なんかツッコミがワンパターンです。お兄さんの方はもう少し、右斜めからのボケの対処をしてくれます」
「…そこまで、似たくない」
苦虫を噛んだかのような会長。どんどんと人ごみの中を突進する二人の背中が気にはなるが今は、会長様だ。
「区別されたくないなら頑張ってください。あ、それとも、会長は『同じ』は嫌なんですか?」
「……はあ」
ため息で返された。何故だ。
「疲れる馬鹿だ」
えー。なんでだ。私、親身に相談に乗ってるのに。
先にマナルンと行っていたひばりんが人垣を逆流しながら戻ってきた。私たちが遅れていることにようやく気付いたか。そして、すまん。話し込んでいた。
マナルンもひばりんも興奮しすぎている。
「秋月。動物、何が好き?やっぱり、ウサギとか?イメージ的に…」
「キングスネークだよねっ」
「カバかクジャクだろ」
何故だろう。みんなが私をどう思っているのかよくわか……わかんないよ!?
カバはともかく、蛇と孔雀とうさぎ?……わからん。共通点が動物くらいしか思いつかない。
「えーと、ハシビロコウとか。最近よく聞くし」
「それは、好きとは違うだろうが」
確かに。
会長様、ツッコミの種類がちょっと増えた?馬鹿から始まんないなら、増やす気かな?マナルンが大きな地図を確認し、あっちと示した方向に歩く。
うん、本当に動かない。目つきも悪いね。檻の向こうの鳥たちに私は一見の価値を見出した。
「なんだろう。リンに似てる」
お姉ちゃんに見せなきゃとカメラ機能を使用しようとして携帯を開くと、ひばりんが携帯を覗き込んでくる。
「……リンさんの写真が待ち受けなんだ」
「うん。離れている間はこれで我慢しろって」
リンが大きく映った写真だが、お姉ちゃんに膝枕している写真だ。
リン不足なので、リンが大きく映っている物を選んだが、データフォルダーにはお姉ちゃんのファッションショーが大量に入っている。
しかし、ひばりんが何故か、ずるいよなとか呟いている。どうした。ひばりん。 あ、そういえば、
「携帯、いつから復帰予定?」
「え、ああ。夏休みが終わったらで、って。父さんは考えてるみたい。あと、塾もその辺でかえるから。」
嬉しそうに笑うひばりんに塾が替わるなら、確かに連絡用の携帯は必要だと納得する。護身の為にも。緊急時の為にも。
これは、夏休み中に主人公様改造計画を早めに進めねば。
「そ、れで」
「うん?」
あ、ひばりんが何か言ってたんだ。
なんだろ?
「アドレス、教えてほしいんだけど」
何故か赤い顔だね。
ああ、ひばりんの中で私は女として終わっていようとも、青少年だもんね。先輩たちの前で、異性の同級生にアドレス訊くとか結構恥ずかしいか。
「わかった。メモ書くから待ってて」
お姉ちゃんに準備して貰っている女子力必須の道具、切り取り可能メモ帳とペンをバッグから取り出す。いいですか。皆さん。私が準備していないのがミソです。
皆さんって誰だろう。
「あ、会長のアドレスも」
「断る」
「天ちゃんにはもう送ったよ~。るかちゃんもほしい?」
速攻で断られたのに私のアドレスはもう貴方の手の中ですか。私は、マナルンに欲しいと言っておく。だって、今度、あの兄に会った時の対処法とか相談したいし。
「…勉強した方がマシだったな」
本音でもただ漏れあきません。私が言うなって。ーーじゃあ、誰が言うのかね。
「勉強ばっかりだと逆に頭に入らなかったり、誰かに勉強教えたりすると効率があがるって、訊いたことありますよ?」
あ、ガン見されてる。
「……俺が誰に勉強を教えられるというのだ」
苦虫の量が増えたのですか。不機嫌度が高くなりましたね。しかし、話には乗ってくるんだ。どんだけ、追い詰められんの?
「出来れば、県外の寮付きの高校に入りたいと思っているのだが、市を離れるならここではないと許さんと両親がいう高校が有ってな。……学部的にもそこが望ましいのだが」
会長。本当にどんだけ追い詰められてんの?
私に貴方、『真ん中を喜ぶ馬鹿』って言ったよね。勉強のことでアドバイスは無理だ。
「このままでは公立の『神光』高校に兄と通わなければならない」
「ん~。そうだね。この辺だとあそこがいちばん」
「会長、良かったら勉強教えてください!!」
マナルンの言葉を遮り私は迷いなくむんずと、会長の手を取る。なぜ、ひばりんが悲鳴をあげる。
「私、良い物件だと思うんです。塾にも通ってませんし。会長の冷たいとか精神的にきつい暴言の数々を右から左に流せますし。長期旅行の予定もお盆くらいです。遊びに行く予定もそうそう有りません。いかがですか。夏のお供に。この秋月ルカという暑苦しい存在を鍛え上げていくムリゲーを楽しみませんか」
反論を許さない早口で言い切った私の腹筋は鍛え上げられていたらしい。
会長が他県の高校へ行くだと。そんな展開的に美味しい状況を何故、手ばなさねばければならないのか。
うん。そうすると…、そうすると…?あれ、別に旨みがないような。天久双子のイベントがなくなって、リンとお姉ちゃんの攻略イベがなくなる訳じゃないな。んー、どうして、良い案だと思ったんだろ?
うんうん唸っていたら、会長が勘違いしたらしく溜息を吐いた。
「勢いだけで言って、後悔するな。別に馬鹿の相手など」
「あ、いえ、勉強を教えて欲しいのは本当です。私は『神光』に通いたいので」
これは、本当だ。ゲームでは『秋月ルカ』が金を積んで入る学校に入れなかったせいで、お姉ちゃんは全寮制の行きたかった高校に入れなかったと書いてあった。なら、私は近くの公立のどこでも入れる学力を手に入れれば良いはずだ。
ん?お姉ちゃんが全寮制に行ってその場合リンって、どこの高校行くんだ?
あ、あれ……?
「勉強を教えて欲しいというなら教えるが…、お前、顔色が悪くないか?」
ただいま、頭の中がグルグルしております。あれだけ、自信満々だったことが、足元から崩れ落ちてきている。
「か、会長様」
「な、なんだ」
「るかちゃん、本当に顔色悪いよ?」
「秋月、大丈夫か?」
ちょっと、半泣きなのは仕方ない。
「私の学力をあげてください……」
今、私、これ以上何が言えるんだろう。




