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マクド・マック・マクナル。どれが正しい略称なのだろうか。私は、略さない。だって、前世で同士の会で出会った子たちの半端じゃない争いに巻き込まれて以来、コウモリになることを選んだ。意見を言ったところで、誰も覆さないと知っているからだ。
どれにも媚びを売らず、略すの好きく無い!と主張するだけだ。ただのチキン。
というわけで、私は珈琲を注文し、藤咲さんの分もおごらせていただいた。苦笑しただけで素直にありがとう、というこの人の方が大人なのでは、と私のプライドはズタズタだぜ。
四人掛けの席で藤咲さんの隣に素直に座り、ヒーロー様とご対面。
うん、目つきの悪い目で、睨まんで。
しかし、ひばりんより真っ赤な燃えるような髪色と敵意しかない茶目。ワイルド系って、普通メインになるんだろうか。不思議。まあ、女主人公の幼なじみだから、いいのかな。制作会社のストーリー制作部かキャラデザインが病んでたんだろうか、趣味に走ったんだろう。
「で、話はなにかな?」
砕けた口調に戻し、藤咲さんが話を促すとヒーロー様は睨んできた。睨むしかできないのかこいつ。
「……その前に自己紹介でもして、落ち着こうか」
おお、有難い申し出に私は、安堵した。名前知ってるから、うっかり、名前呼びそうで困った事態になりそうだった。…ん、なんか、手遅れな事した人がいたようないないような。
「俺は、さっきも名乗った通り藤咲葵。天匙の三年生」
爽やかな悪意などないと言わんばかりの笑顔にうっ……と、詰まるヒーロー。畳みかけたほうがいいか。
「私は、秋月ルカです。藤咲さんの後輩の一年です」
ぺこっと無難な挨拶をする。ううん、なんか調子が出ない。
ここで、ひとつボケでも放って、場を和ますのが私の使命では。…うん、出来ない。睨んでるから。怖い。
「オレは、近帝中の二年鮫島陽翔だ」
ぶすーっと不機嫌そうな鮫島になんだろと首を傾ける。話があるなら、早くしろよと言いたい。が、ちらっと藤咲さんに視線を向けて苦々しい顔をするだけだ。……なんだろう。小者臭がする。
「秋月さん、彼に話はないようだよ。帰ろうか」
にこやかに切って捨てようとするお手並みは尊敬できるが、
「待てよ!」
だよねー。
怒鳴るのはいいが、周りに冷たい目をされてるよ。そして、怒鳴ったあとが続かないとかなんだろう。
「藤咲さんに話があったんじゃないですか」
私の言葉にパッと顔を輝かせる鮫島。
藤咲さんなんで、あーぁって顔してる。
「オレの姉に色目使うんじゃねえって、お前の彼氏だろ。きちんと管理しろよ」
なぜ、いきなり偉そうなんだろう?
「彼氏ではなく先輩です。うさちゃんに色目なんか使ってませんし、人を管理しろとか意味不明な事言ってんなボケ」
イラっとしたので思わず反論してしまったが、私は悪くない。反省もしない。
なぜ、そこで、唖然とする。
「お、おまえ、先輩に対する礼儀がなってないんじゃ…」
「私、お世話になったこともなく、学校自体違う年上なだけの礼儀知らずな相手にわきまえる礼儀はないと思うのですが。どうですか?ああ、貴方が年上だからと藤咲さんを丁寧に扱うというなら、今後の参考にしますので、ぜひそうしてみてください」
がるーっと心で威嚇しながら言えばオロオロし始める。なんだ、お前。見た目だけなのか。藤咲さんがクスクス笑っている。なるほど、見抜いていたわけか。
「そっちが悪いんだろ!」
「何が?」
「お、オレと姉さんの邪魔をして」
「傍から見たら担任が痴漢に遭ってるとしか思えなかったんですが?むしろ、警備員じゃなくてよかったね。」
何だこいつ。意味がわからん。
「ね、姉さんはのんびりしているからオレが守ってやんなきゃ」
「それで、なんで抱き着かなきゃいけないの?」
「だって、『思いっていうのは、おもいやりと距離感だ』って、変な知恵をつけてきたから、てっきり男かって、……話を聞くために……」
どこかで聞いたような…あ、私だ。え、私のせい?
「卯佐島先生は、正しいよ。あんなところで、抱き着くような弟は『恥ずかしいよね』。秋月さん」
同意を求められ、思わず肯きそうになったが、あれ、これって、私にも通じる話じゃ…。
「ええと……?」
鮫島の傷ついた顔が他人ごとに見えない。でも、こいつと私は通じ合っている部分とそうじゃない部分が、そこをきちんと……。
「どうしたの?『大好きな姉の為に』距離をきちんと取ろうって話だよ。秋月さんだって、納得できるでしょ?『迷惑だから』、『お姉さんは距離を取りたがっている』んだよ。『好きならひきなよ』。――『自分の為に』」
藤咲さんの言葉が、甘く…あまくて。
あれ?
なんか、あたまがぼう・・・としてきた。
しんぞうがどきどきしていて、みみに・・・かんびなこえが、
『うん。おねえちゃんのためにはなれよう』
なんだ。これをいえば、いいのか。
うん、おねえちゃんのため。
おねえちゃん…くろかみのきれいなおねえちゃん。わたしのだいすきな、・・・ねえさん?んん…、わたしがすきなのは…ねえさん、おねえちゃん……ど、ち?
『――私が大好きなのは、お姉ちゃんとリンだ!』
甘い声なのにパチンっと何かがはじけた。
ぼーっとしていた意識が浮上する。そうだ、私はお姉ちゃん大好き。こいつと同類。
私は、私の顔を覗き込んでいた二人ににやーっと嫌な笑みを浮かべてみせる。意表を突かれたような藤咲さんと答えを求めて困惑していたらしい鮫島。ふ、鮫島よ。見るがいい。お前と私はある意味同類。そして、それがどれだけ傍迷惑かということを!
「シスコンで何が悪い!シスコン万歳!!お姉ちゃん大好き!!リンとの結婚、まじのぞむ。いいかね。本当のシスコンとはわたしのことを言う。常にこのテンションの妹がついている姉を誰が貰ってくれる。いいかね。私は、姉の相手すら強制し、付き合え、結婚しろ、奴がお姉ちゃんの王子様だと豪語し幾数年、君にうさちゃんのために、いや、自分のためにここまでできるか!姉と姉の相手をニマニマした気持ちで眺められてこそ真のシスコンだ。君には熱意が足りないようだ。さあ、姉を心配だというなら、任せられる相手を探してこい!!」
ビシッと鮫島を指したら、何故か藤咲さんとコソコソ話し出した。
「お、オレって周りからあんな風に見えてんのか?」
何故、絶望したような声なんだ。そして、藤咲さんが苦笑している。
「ちょっと、種類は違うけど概ねあんな感じだよ」
ふ、何を恥ずかしがっている。私だって、お姉ちゃんに抱き着いて癒される瞬間がある。ちょっと、うさちゃんの弟はサイズがでかいから、迷惑だろう。しかし、我慢してもらえ。……ん?その前にちょっと問題発言してたような。まあ、なんか、今までふわふわしてて記憶が曖昧だ。
「おもいやりは距離感か……オレ、少し考えてみる」
なぜ、冷静になるんだ。私と一緒にシスコンを極めようとは思わないのか!?
ヒーロー様について、ほとんど思い出せないまま別れ、藤咲さんに家まで送られると自宅の前で半泣きの青年姿のアディーが立っていた。その姿を見た瞬間、ヒーロー様が蛇蝎のごとく嫌われる理由を思い出し、あっと思ったが、それ以上にもっと驚く事態になった。
リムジンから私を下す際エスコートしていた藤咲さんに足早に近寄り、アディーが藤咲さんの頬を殴った。
「ば、なにしてるの」
確かに殴りたいとは思ったが、私は慌ててコンクリートにしりもちをついた藤咲さんの怪我を確認する。口の端が切れてる。
「に、にんげんのくせに!!か、かんしょ、するから!!」
肩を震わせるアディー。
人間の癖に、かんしょ、……干渉?
私が慌てて、藤咲さんから身を離そうとすると、彼の動きの方が早かった。
頭を抑え込まれ、抱き寄せられコメカミ辺りに柔らかい何かの感触がした。
「ひぃ!」
慌てて、デコを隠したら苦笑された。
「その反応は傷つくよ」
にっこり、微笑まれたが、コワイ。そして、アディーを見る目がどこまでも冷たい。
何故だ。アディー。たかだか、人間なんだろ。睨まれたくらいで電信柱に隠れて、震えるんじゃない。つーか、セラ様、どこ!?
私が抱きしめられたままわたわたしていると、クスクス笑う藤咲さん。
「『くれなゐのにくき唇あまりりす 突き放しつつ君こそをおもへ 』」
ん?と突然、何言ってんのと見上げたら困った顔で私のバッグを指す。…アマリリスってカード?
「リンが渡したモノにしては随分情熱的だね。本当は唇を奪おうかと思ったけど…今日は止めておくよ。綺麗なお姉さんの加護も怖いし。」
視線の先の綺麗なお姉さま姿のセラ様が雷を背負っているのはイメージでしょうか。それ、下手したら死人が出るやつですか。止めてください。
私を無言で、藤咲さんから奪い上げ、威厳あふれるお声で。
「今回は見逃す」
あ、良かった。リンの親友だし、アディーのせいで、気がたってただけだよね。藤咲さん。
「見逃されても、ね」
アディーをもう一度ねめつけ、私に視線を戻す藤咲さん。
「あんまり、『嫉妬』させないで」
「――だれを?」
思わず、反射的に返した言葉に目を見開き、頭を優しく撫でてきた後、藤咲さんは車に乗り込み帰ってしまった。もちろん、買い物したものは置いて行かれたが。
アディーよ。もし、私の手を握るならエキゾチック美少女バージョンで頼む。今日はもう疲れたよ。パトラッシュ。




