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休憩できる場所に移動した後、私は光原さんにナナシの権兵衛について熱く語った結果。喉が渇いたので、ジュースを買おうとしたら光原さんに奢っていただきました。
まあ、あれだよ。女性の地位が低いときに身分の高い人しか入れない場所に遊女を派遣しなきゃ時があって~~うんたら。出てきた固有名詞だという説があるという話を延々したのにずーっと、笑顔なんだけど。
このひと、何のために私と話し合おうとしてたんだっけ?背もたれもない場所に仲良くもない相手と二人並んで喋り続けるとか、どんな罰ゲームだ。
「光原さん、楽しいですか?」
「え?……う、うん」
よしんば楽しくてどうすんだよ。ひばりんについての話はどうした。まさか、私から話題にしろと、はっ、選択肢のない主人公様の弱味か。………え?まじで。
「光原さん、何か話があったんじゃないですか?」
「え?」
………私、帰っていいかな?
黙ってジーっと、光原さんを見つめる。絶対、話題をこちらからふらないで見つめるだけだ。五分したら帰ろう。なんにも言わなかったら帰ろう。引き留められても帰る。
「あ、あの」
黙って見つめる。
「その…」
話題はふらない。
「あ、秋月さん」
じーっと見つめる。なんか、この人の声聴いてるの、懐かしいような…そんな、
「………恥ずかしいんですが」
目を背けやがった!
「帰っていいですよね?」
「待って!」
私が立ち上がった瞬間に慌てて腕を掴むだと。き、貴様。さすが主人公。モテ男だな。終始、自分ペースでことが進むと勘違いした存在か。私のように小賢しく策を労しなければならない小者の敵だな!
「あ、ごめん。痛かった?」
………その瞬間のぞわぞわした感覚をなんと言っていいのか。
誰かー、私の腐った耳が光原さんの声だと、ゲーム脳を刺激しまくるんです。やだ、そのセリフ、あのベッドシーンの………私、本気でそこら辺の壁に頭を打ち込もうかな?
「秋月さん!どうして、壁に突っ込もうとするのかな!?」
「壁と仲良しなんです!そして、秋月と呼ばないで!ルカって呼んで!!お姉ちゃんが呼ばれてるみたいでやだ!!あ、やっぱ、ルカも駄目だ。ルーとお呼びくださいまし。しゅ、……光原さん!」
いやだーっ、気づいちまった。この人の声、私の黒歴史なんだ!
お姉ちゃん、リン。ごめんなさいぃーっ!!あの時、スチル欲しさにあんな選択肢をした私を許して。違うんだ。私は、改心したんだ!お姉ちゃんとリンとの明るい未来のために。
「え、えーと…ルーさん?」
「ルーです!もう大柴でも構いません!!ルカとか秋月って呼ばないでください!!」
ついでにゲーム時主人公様は姉を『秋月さん』、ルカを『ルカ』と呼んでいた。当然、18禁なので例のシーンはフルボイス。……駄目だ。なんか苦手な理由がまさか、声までも含まれるなんて。
「ええっと…相談に乗ってほしいんですが、ルー?」
釈然としない様子だが、諦めてくれ。
「勿論でございます。私をと姉を二度と『秋月』と呼ばなければ、なんなりと!」
「あ、はい。ルー。…えっと、月夜の事なんだけど、……どうして、俺達から距離を取るか理由、わかる?」
はい?
「急に、一緒にいる時間を大切にしなくなって…、心美の気持ちだって、あれじゃあ可哀想だから…」
光原さんは何を言ってるんだろう。私の耳が腐ってるせいですか。否定は出来ませんが、別問題だと思います。
「光原さんの中で、ひばりんは、可哀想じゃないんですか?」
「え?」
何故、きょとんなんだ。主人公様って攻略キャラ以外扱いがザルなのか。ひばりんだって可愛いんだぞ?
「だって、年上の女の執着心とヒステリーに付き合わされ、相談した兄みたいな存在にそのヒステリーした女を『大事にしてやれ』とか、親にすら相談できなかったんですよ。ちょっと距離を取られる程度で済んだなら、ひばりんがもの凄く寛大なんじゃないですか?それとも、本当に引き返せなくなるくらい追い込まれてから、逃げろっていうの?光原さんって、優しくないんだね」
淡々と事実を羅列していったら、光原さんは前髪のせいで、表情の変化はわからないが、あーとかうーとか……最終的に黙った。
さて、私はもっと追いこもうか。と大事な事を繰り返す。
「光原さん、」
にやにや。
「優しくないんですね!」
にこっと、私はとてもいい笑顔だよ。光原さんは、口許をひくりとひくつかせ、壁に向かって歩きだしぶつかって止まった。
だって、主人公にダメ出しできる機会などあと何度あるだろうか。そうだ。ヒロイン様より可愛い女など掃いて捨てるくらいいるんだ。むしろ、ヒロイン様より可愛い子しかいない筈だ。今のうちに誰かとくっつけてしまえばいいのではー…っ!妙案を閃いた!!
優しくないを連呼され、私の代わりに壁と仲良く見つめあっている光原さんの背中を叩く。
「光原さん、夏ですよ!恋をしましょう!!」
「……………え?」
何故、嫌そうな声を出すんだ。私は、ちょうど良い子羊も見つけている。大丈夫だ。展開次第でビーエルエンドもあった。そっちでも良い相手の筈だ。
「心美さんばっか、視界に入れるから心が曇るんです。綺麗なものを目にしないと心は豊かになりませんよ!」
「あ…じゃなく、ルー。それ、心美を凄く貶してない?」
「八割、気のせいです」
「……二割は?」
「心意気で!」
「……無理」
ぶんぶん首を横に振る光原さんに私はうーんと、考える。しかし、恋に盲目な男は黙っててくれなかった。
「心美を悪く言わないでくれないかな。あの子は優しい子なんだから」
「え?どこが」
心底不思議だったので聞き返したら、なにかを言おうと口を開いたのに…なにも言えずに困惑し始める光原さん。
ん?なんだ。
まるで、『心美は優しい。そうじゃなければいけない』とのいうような態度の光原さんに私は、最初は疑問に感じたが、いや待てよと。と思う。誰かに洗脳でもされてるのか。それとも、ゲーム世界の仕様かな。ーー付き合う義理がないな。
うまく誘導しちゃおう。
「心美さんが優しいって、他に誰がいってるんですか」
「え?…母さんやおばさんたちが、心美は綺麗で優しいって」
うんうん、そういえば、ひばりんも親同士の仲の良さで逃げられなかったもんね。親かー。厄介な洗脳者だな。
にこにこと、私が笑顔を作れば、作り始めた警戒心をあっさり解く光原さん。
素直だ。ーーああ、だから簡単にアディーの『悪魔の手引き』に乗ってしまうのか。これが主人公ってやつなら、よほど特殊な才能でもなければ、生きてけない。
まあ、それは置いといて。
「うんうん、心美さんは、『優しい』ですよね」
私の言葉に光原さんがほっとしたように胸を撫で下ろした。
バカな。私が本気でそう思うはずがないだろう。悪魔の手引きなど生ぬるい。
私が、本当の人間の陥れ方を教えてくれよう。
私は、にっこりと光原さんに微笑んだ。時に悪魔よりたちが悪いのは人間だぜ。
自分でもとても、イイ笑顔を浮かべられたと思う。だから、光原さんが何かを感じ取ったのか息をとめる。さて、と。
「本当に『やさしい』ね。――自分に」
これは、試練だ。がんばれ。主人公。もとい光原さん。




