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話がある程度纏まるとセラ様とアディーは二階にある児童文学コーナーに行ってしまった。何故かアディーの教育に一生懸命らしいセラ様に私のオススメはカチカチ山だよ。と教えておいた。悪魔に情操教育をしてみようかと思って、一切アレンジされていない古いやつを読めといっておいた。
ーー人の恨みを買う恐ろしさを思い知るが良い。くく…っ。あ、アディーに謝るの忘れてた。あとからでいっか。
陽射しが弱まるまでまだ時間があるので、推理小説など読んでみる。……後ろから。私は、犯人がわかってから読み出すタイプだ。だって、推理できないから。
犯人を確認し、淡々と読み進めていく。おおっ、この作者、こんなトリック考え付くのか。凄いな。……主人公よ。ヒロインが犯人だ!……目が疲れてきた。
「さて、と」
読みかけの小説にリンがくれたアマリリスのカードを挟み、くーっと椅子に全体重をかけて背中を伸ばす。椅子の前足が浮くくらいのバランスを楽しむ。うーん、
「あれ、君は…」
突然、後ろから声が落ちてきた。
「あ、…」
声の主を見ようとさらに後ろに体重を掛けたら、一気にバランスが崩れる。
後ろに倒れるなーと覚悟した瞬間、絶妙なタイミングで椅子ともども背中を支えられた。
「……大丈夫?」
長い前髪の下から覗く灰色の瞳に私は硬直した。
ーー主人公様だ!
「おい。テル、何してるんだ」
しかも、今会いたくない人物ベストスリーもいやがる!天久遵。会長のお兄様。
ぎゃー、会いたくない人物二位と三位が一緒につるんでるんだ!!ペナルティ!?ついでに栄光ある一位は、ヒロイン様だ。ハッ!い、いないよね?
しかし、二人ともブレザー姿だ。学校帰りか?きっちり着こなしている光原さんとは対照的に着崩してる天久兄。腰履きって、動きにくくないのかな?
「知り合いの……何さんだっけ?」
え、訊いちゃうの?
「名無しの権兵衛あるいはJohnDoeです」
反射的に答えてしまった。……ち、沈黙が痛い。
「女の子なのに珍しいね。ジョンさん」
主人公様!?ーーじゃなかった光原さん!?
にこっと、何の疑問もないのか。いや、ただの嫌がらせか。しかも何故、ジョンの方なんだ。せめて、日本人らしく権兵衛の方にしてくれ。
「ナナシのほうなんじゃねー」
興味なさそうなのにしっかり、ボケを受け止めるな天久兄。あ、棒つきアメ舐めてんじゃねえよ。図書館は飲食禁止だぞ……やさぐれんぞ。気を取り直し、転ばずにすんだ恩人なので名前くらい名乗る事にした。
「ボケてすみません。秋月です。光原さん、」
「え…、ああ、オレの名前は訊いてたんだ」
「いいえ、興味がないので誰にも訊いてません。貴方が私に興味がないように」
ーーピシッと、何かにヒビが入る音が聞こえたような。まあ、どうでもいいよね。
「べ、別に君に興味がないとかは…」
「大丈夫です。かかわり合わなくても平気なのはお互い様です。どうぞ。このまま通りすがりの通行人Cを演じさせてください」
「ま、待って!月夜について話したいことがッ!」
「そうですか。でも、私の方には自分の都合を優先して、守るべき方を蔑ろにするアホと喋る言葉はないんで」
っていうより、関わりたくないんだよ。光原さんとは。痛いところを突いて迷惑だアピール。なんて人として最低な人間なんだ。私。ハッ、こっち方面の悪女にはなれるかもしんない!
「あーぁ、カワイソ」
ちっともかわいそがってないよね。天久兄め。
「そんなお子ちゃまブスと喋るよりさー、借りたい本借りてくれば?」
天久兄のやる気なさげな声と聞き捨てならない単語に私は、ショックを受ける。ブスはともかく、お子ちゃまだと!?
バカめ。生前、さんざん言われ慣れた単語では傷つかんぞ。しかし、子供に子供と言われるのは癪に障る。
「守るべきマナーも守れないガキにお子ちゃま呼ばわりされたくありません。だいたい、君もだらしなさ全開だね。パンツが見えそうな履き方して。もしかして露出狂ですか」
「ぱ…っ」
「え、ええと…お、女の子が下着とかは…」
思わぬ反撃に口をあけたまま絶句した天久と何故か赤面して慌て出す光原さん。……私も下品だった。顔から火が出そうだ。
「失礼。目の毒に対してつい、うっかり」
慌てて、取り繕うが遅かった。
「…真っ赤だよ?」
「勢いで乗りきれない瞬間は誰にでもあるさ。今の私のように」
先程までのエアコンの寒さもどこ吹く風だ。あ、あつい。
「……ムカつくな。そのガキ」
ふん。と背を向け、PCのある方向へ歩いていく天久。ん?光原さんはいいのか?
「ごめん。適当に時間潰しておいて」
天久兄の背中に声をかける光原さんに振り向きもせずにひらひらと手を振る天久。……待ちな。この展開って、私と光原さんが二人残される展開……?
ふ……さて、と。
「秋月さん…?なんで、勉強道具を片付け始めてるの?」
「勉強も終わったので帰ろうと思いまして」
「えー、と…話があるって」
「私は話したくないといいましたよ?」
ピシッと、またなんかの音が聴こえた。……なんだっけ。フラグが折れる音なら楽だよな。と、考えながら、読んでいた本も棚に返す。ちょうど近くから借りた物なので返すのも楽だ。
俯いて、何事か考えているらしい光原さん。……ひばりんの為を考えたら少し話し合うべきかな?
ヒロイン様の為に近寄るな!とか寝言をほざきやがったら、目を覚ますまで殴ればいいか。あ、さすがに拳ではまけそうなので、言葉で。
うん。
「光原さん、私、休憩コーナーに用があるんですが。光原さんはありませんか?」
「あります!」
私の歪曲な誘い方に察しが良すぎるらしい光原さんは、パッと顔を綻ばせて、大型わんこ宜しく私についてきた。……尻尾があったら全力で振ってるんじゃないかな?
うーん、男の人に対しての評価にしては失礼だが、こんなに分かりやすくて可愛いのに何が不満なんだ。ヒロイン様。
わからん。
モテる女の気持ちはわからん。




