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日常に首を傾げる。1


 中学生になりました。

 セーラー服ですって、皆様。

 ブレザーばっかだった生前では憧れたりもしましたが、着てみるとコスプレみたいだと感じるのは、精神年齢が生前+αになるからでしょうか。ところで皆様って誰だろう。暑いと変人が沸いてくるそうです。私がそうでないことを祈ります。

 ………夏ですね。


「リン様ーっ!」

「きゃーっ!こっちみたあ!!」

「好きです!」

「誰よ。どさくさに紛れて告白とか!」


 リン様。貴方、サッカー部じゃないでしょ。

 なに、本業様をぶっちぎりしてやがる。あ、ゴールまで決めて。ほら、かわいそうだろ。放課後だぜ。室内楽部に帰れ。

 この前、バスケ部の自信も粉々にしてただろ。このクラッシャーめ。

 制服で汗を拭うな。キラキラすんな。姉だけを見ろ。みーろー。と呪詛と込めたら目があった。


「ルカ」


 私じゃないんだよー。

 手を振るんじゃねえ。視界から消えて、お姉ちゃんのもとへ逝け。………もとい行け。

 青みがかった黒の髪とスカイブルーな瞳を細めて美形様は私の願い虚しく、こちらに来やがったので、はい。とハンカチを渡す。



「ハンカチとティッシュは常備したまえ」

「貸しました」



 誰にだよ。フラグたてんじゃねえよ。

 私の殺意に気づいたらしく笑いながら、


「マルに」

「おねえさまーっ、どこ?説教して良い?」


 あの人、私に準備しておいて忘れるとか。

 いや、これは誰かに貸したな。あのフラグ量産型兵器が。いや、工房か。どちらにしても折らねば--いますぐ相手を見つけ出し、折らねばならん。


「泣いていた下級生に貸したらしいですよ。大丈夫です。女の子ですから」


 爽やかにしっかりと誰に貸したのかを把握しているリンは、もしかしてストーカー予備軍だろうか。

 ………うん、しかし、姉になら許そう。私もヤンデレ化さえしなければ、うざいくらいの恋人たちの横にいるくらいの度量を見せつけてやろう。

 だが、甘い。


「アホかね。リン殿」

「ルカのキャラチェンジが多様すぎて困ります」

「くふ、日々、お姉さまに新鮮味を持っていただける特技を量産するのに私は努力を惜しまない。そして、何より相手が女の子だからとラブが生まれないとは限らない」


 だって、『天使と悪魔の楽園』は、百合もあった。

『天使の祝福』と『悪魔の手引き』は、それはそれは恐ろしく人の精神面を揺るがしてくる。……そう、だから、姉が高校生になる前にリンとくっついて欲しいのに。


「そんな子には見えませんでしたよ?」

「ふ、甘いな。その子は無くても兄がいた場合どうするのだよ。『妹が世話になった』とかなんとかでそこから新たな恋愛ストーリーが!嫌だ。待ってお姉ちゃん。私、そんなゴリラみたいな奴を義兄と呼びたくない。細マッチョ!細マッチョがいいの!あと、できればカッコいい人。あ、ここは手近なリン様で手を打ちましょうよ!ね、お姉様。ほら、ちょっと空気読めないし、こっちを殺意的な目で睨むファンどもが憑いて来ますが、私の幸せのために。ーーリン殿。姉をものにしてみたまえよ」

「あ、ようやく一人芝居が終わりましたか?」


 聞いてやがらなかったのか!貴様っ。


「いえ、観てはいましたよ。面白かったですが、ちょっと保険証の準備してくださいね。未来の義理兄(お兄様)が精神科に連れていって差し上げますから」

「バカな。私はどこも病んでいない。むしろ頭に花が咲きそうなくらい元気だ」

「夏ですからねー。変態が増えても仕方ないのでしょうか」


 諦めたような顔で私の頭を撫でるな。今はやめろ、ファンが怖いのはマジだぞ。

 そこで誰かがゴフッと吹く音が聞こえた。なんだ。どこに笑いの要素があったというのだ。むしろ、そっちで楽しい話があったのか。ぜひ、交ぜてほしかった。


「あれ、藤咲、片倉、どうしました?」

「む、…迎えに…っ」


 腹を抱えて、必死に笑いを堪えている。……笑えば良いのにどうした。

 あ、でも、待てよ。この二人、見たことあるな。

 ああ…攻略キャラの金髪碧眼の方が藤咲葵で茶髪に茶眼なのは片倉達也だ。そういえば、親友なんだったなこの人たち。

 どっちも美形だが、なんか藤咲葵が小さい。私が見上げなくてもいい身長だ……あ、高校に入ってから伸びるんだっけ?

 細かい部分とか忘れてる。

 つーか、お姉様のルート以外ほとんど覚えてない。いっそ、清々しいな私。

 あ、でも。『妹』が最低だったのは覚えている。………うん、思い出すのは止めよう。私がいる時点でこの『忌もうと()』が、リンに惚れて主人公と一緒になって姉を貶める『悪魔ルート』はあり得ない。

 それより、問題はなぜか私の頭を撫でる達也。

 なんだ?

 甘やかすと懐くぞ。


「止めてください。花が咲かなくなるじゃないですか!」

「達也、禿げるくらいに撫でてあげてください」


 あ、葵が吹いた。

 達也もヘラヘラしてやがる。


「バカな。花が咲かなくても良いというのか。人間、花があってこそだと思うのだが」

「頭には咲かなくていいんです」

「個人的には見てみたいけどね!」


 あはっと笑う達也に頷く。


「では、さっそく今日からリン殿の頭に種を蒔いて」

「やめなさい」


 葵が大笑い。あ、っていうか、初対面のふりして自己紹介しないと。


「ところで、この美形なお兄様方は誰?まさか、恋人とか言うなら、せんぎるよ?」

「何をですか……いえ、良いです。訊きません。友人の藤咲葵と片倉達也です。同じ室内楽部に所属している同級生です」

「なるほど、愛人ですかお義兄様。でも、本命はお姉様だけにしてください」

「いっぺん、シメますよ」

「やめてください。あ、姉を嫁にするのはやめないでください」



 ………葵と達也が過呼吸を起こし始めている。何故だ。



「へ、変だ…このちみっこ。変すぎるっ」

「リンとこんなに会話が続く子って初めて見た」


 変な関心を買ってしまったらしい。まあ、別に構わん。『悪魔ルート』だったら主人公たちから引き離してやれるならしてやろう。犠牲者は少ない方が良い。あ、達也。私をちみっこと呼んだ恨みはきちんと換算するからな。

 ……ナチュラルに下の名前で呼んでいた。やばいな。精神的に年下な感じだからなめすぎてるんだろうか。うん、藤咲さんと片倉さんね。

 あ、そういえば、リンの名前は藤堂鈴だ。漢字で書くと可愛いよね。コンプレックスなんだって。




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