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女の涙は強力だ。
すべての理不尽を飲み込んでくれた会長と片倉さん、男前。『お兄ちゃん』に関しては、リンだと解釈してくれたようだ。
私、生前は兄を『お兄ちゃん』ってよんでたのか。やっぱり、子供っぽい性格だったのか。
「あー…、だるっ」
生徒会室に三人でいるのも外聞が悪いと、途中から殿が来て、保健室で四人で話もせずにまったりしていた。片倉さんは、ベッドに横になれと殿に言われて、横たわった私の頭をずっと撫でていた。
どうも、首にさっと痕が残るくらい絞められていたらしい。なるほど、そりゃ、死の危険を感じてパニックになったと解釈してくれるわな。
「おい。小娘。お前が思うほど、お前はガキじゃないんだ。男二人と同じ部屋にノコノコついてくんじゃねえ。特に片倉。お前にはがっかりだ。もっと、気の使えるやつだと信じてたんだがな」
わー、殿改めて笹塚静先生。辛辣。かったるそうに作業用の机につっぷしている白衣の女性。男前な性格とは聞いたが、初めてお世話になったよ。格好いいかも。ーーそういえば、お姉ちゃんが良い先生だから、相談したい事があればお世話になれと言ってたような。
「信用してください」
「当たり前だ。お前は信用しているが、この小娘の評価は最悪だ。見た目の派手さと身内の派手さ。性格も女受けは最悪。周りは人気者ばかり、これで、お前がどんなに人気者だろうが、この小娘は確実に干されるな」
最初は苦笑した片倉さんだったが、殿の指摘にどんどん顔色を悪くしていく。わー、やっぱり嫌われてたんだ。
なんとなく気づいていたことにかなりショックは受けたが、泣いたりしないぞ。た、たぶん。
「これで、見た目と中身が同じなら、まだ女同士でつるむ選択肢もあるんだがな。いかんせん、どう考えても馬鹿なのに毒舌家だ。女はそういう馬鹿の癖に内側から和を乱す鋭い人間を嫌厭する」
「見た目のいいバカは使えますからねー」
しんみり言ったら、殿、何故わたしを睨むんですか。
「これだ」
どれだ?
「口を閉ざすか。喋る前に一拍考えろ」
「考えずに出した答えが正解です」
「そうか。片倉の心の傷になったら、お前。ーーそうだな、貰ってやれよ」
しっしっ、と犬でも追い払うように手をふられた。ひでぇ。
「オレ、今の流れで関係ないですよね?」
「あるだろ。お前はすぐにかわいそうなモノに手を出す。お前が助けなくてもいいモノもあるのにな。それで損をしてヘラヘラ笑ってられるうちなら、まだいいが。捨てられたりされたら目もあてられん」
……うん。私よりよっぽど、毒舌だ。
「それの何が悪いんですか」
片倉さんが拗ねてる。子供っぽく唇を尖らせてる。
「お前が何にも出来ない子供だと、一度くらいは理解させてやりたいが、私の役目じゃないな。……そこの小娘、今のうちにコレがとことんヘコむ失敗させてみろ。そしたら、グンッと男前になる。そしたら私が貰う」
「『俺と煙草のどちらを愛しているんだ』と迫られ、迷うことなく『煙草の煙は私にとって空気と同じだ』と相手を振った女が何を言ってるんだ」
今まで黙っていた会長がとんでもエピソードを披露した。殿、まじ半端なく尊敬していいでしょうか。
「藤堂や藤咲みたいな人間味のない奴等や、お前みたいに血筋にがっちりされてる子羊より、将来有望な青臭い正義感のガキを育てたほうが美味しかろ。こういう楽な所の男から転がす手管を覚えろ。小娘。お前くらいな年代なら、年上な分、余裕を見せようと頑張ってくれるぞ。ああ、いま、近くにいる大型の子犬は、躾に失敗すると五月蝿い」
そういって、白衣のポケットから赤と白のパッケージの箱を取り出す殿から、無言で近寄った会長が箱を取り上げ、持っていたアメを代わりに手渡す。
「殿。いい加減にしろ」
「殿、ここ禁煙」
片倉さんまで私の頭を撫でるのを止め、殿のほうへ諌めにいってしまった。
「ちっ、知恵の回るガキほどメンドクセえな」
無造作に結んだ黒髪と眼鏡で若干、オタクっぽい雰囲気だが、うーん。いいな。憧れる。
キラキラした尊敬を表現できない事が残念だ。
片倉さんと会長が二人で何かを話し合っているようで、ふたりに座っていた椅子を貸した殿が、私の寝るベッドの真横にある椅子に座り、カーテンを引く。
「もうすぐ、夏休みだな」
「そうですね」
「……運がいいかもしれん」
何がだろ。そして、運は天使に下げられてるよ。
「こればかりは、人間だからとしか言いようがない。誰が悪くても、結局お前も加害者にされる。わかるな?」
ひそひそと内緒話をされているようだ。んー、なんかあるのかな?
「私には立場がある。お前ばかり優遇できない。最近、小娘の話を女子どもからよく訊く。悪い話ばかりだ。何かがあるかもしれないが、軽々しい行動だけはするなよ」
あ、浮いてるのには気づいてたけど、そこまで深刻だったんだ。あーぁって思う。
「わざわざ蜂の巣を突っつかなくていいのに」
ペシッと頭を叩かれた。
「そこが、私に放って置かれても大丈夫だと判断される理由だ。少し、考えても『かよわいふり』を覚えろ。いいか。藤堂がいない今、成長のチャンスだ。アドバイスくらいはする。長期の休みで忘れるかもしれん幸運も願え。……心が折れるほど、我慢するな。ギブアップしたかったら、今回は私に頼れ」
「はーい」
と、お昼前に約束したのを回想しつつ、私は、ただ今三人くらいの女子生徒に囲まれております。現実逃避です。
ああ、屋上じゃなく体育館裏。
はは、逃げてー。
やっぱり、居たよ。二年生。お姉ちゃんのライバル未攻略キャラクター。日比谷美憂。ミユミユの愛称で話題の大量殺人ルートありのキから始まる放送禁止用語の性格な、会話が通じない女王様が。
………関わりたくなかった。




