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生徒会室は、なんだか豪華だ。
普通簡易テーブルとか、教室と同じ机とかでもいいじゃん。なんで、ソファとかあるんだろう。会長の席に至ってはどこの社長だとツッコミたい。
私の呆れた視線を感じ取った現会長様は、自分の定位置の椅子に座り、
「何代か前の生徒会長がとんでもなかったからだ」
知ってる。そいつ、ゲームの時、プレイヤーが選んだ主人公の担任になる。
興味なかったので、やっぱり未攻略キャラなんだけど、『悪魔ルート』だと、社会的に主人公との仲を引き裂かれるというEndだった。Endには、続きがあって……あれ?いま、なんかおかしいと感じたのに…何が、おかしいのか、わかんなくなった。Endに続き?あれ?思い出せない。
歳なのかな?
「で、」
で、ってなんだ。お前は私の上司か。なんだか懐かしいぞ。こんちくしょう。………ん、懐かしい?あ、そっか。私の、前世の上司ってこんな人の話をあまり訊かないワンマンタイプだった。……生前の職業ってなんだったっけ?
んー?
なんで、こんなに生前の記憶が刺激されてるんだろ。部屋のせいかな?
「お前の売春の噂だが」
「違いますよ」
いい加減にしてほしい。
「わかっている。その口を縫わない限り、客と面倒を起こしそうで誰も雇わんだろう。片倉にいちいち振り回されているのも、男慣れしてないと判断材料になる」
「片倉さんに懸想してるから、反応が大袈裟とは考えないんですか?」
「自分の首を絞めないで。ちみっこ」
来客用のソファに座るよう片倉さんに促される。わーい。ふかふかだ。
「なに飲む?紅茶。珈琲、ミネラルウォーターに炭酸水。缶ジュースだけど」
次々に飲むもののピックアップをしてくるが、……そこ、一人掛けのソファですよね。
なんでパカッと開くの?改造したの?
「何故、生徒会役員でもないお前が嗜好品を隠している場所を知っている」
「たまに桜田に飲ませてもらってるから。あ、このクッキー、旨かったよ」
「……あの、会計め」
会長が桜田とか云う人に殺気を込めました。私に向かない事を祈ります。
片倉さんは、私に無糖の紅茶を渡してきた。惜しい。私は、珈琲派だ。飲むけど。
「はい、水」
会長にはミネラルウォーターか。渋い顔をしながら受けとるようだ。しかし、何故無糖なんだ。片倉さん。これしかなかったの?
自分はオレンジジュースとかなにさ。
「片倉までサボる必要性はなかったのだがな」
「ちみっこ、俊平と二人きりになりたい?」
私は、思わず片倉さんを見つめてしまった。え?見捨てるの。私を見捨てる気!?
「ほら、俊平の殺意に怯えてるよ」
「ひとを犯罪者のように言うな。お前も座ればいいだろうに。何故、立っているんだ。目障りだ」
「んー…」
私をチラリと見る片倉さん。何故か苦笑し、頭を振る。
「いまは俊平の味方じゃないからかな?」
「殴らんぞ」
物騒だね。会長。
片倉さん、さすがに呆れ返ったご様子だ。
「その辺は心配してないから。そうじゃなくて、ちみっこ。なんとなくだけど、……さっきから顔色が悪いから。すぐに殿を連れてこれるようにしようかなって」
顔色が悪い?
思わず、自分の額に手を当てだが、別に熱はないな。
「気にしすぎではないのか」
「俊平、自分の都合で人を振り回してるんだったら、相手の体調くらいには気を配れ」
ご指摘にグッと詰まる会長。……苦手そうだ。
「だいたい、昨日からお前の様子がおかしすぎる。何、今まで他人に、特に異性に興味がなかったくせに黒髪の女の子探してるみたいだけど……まさか、遵の命令じゃないだろうな」
じゅん……?
ああ、会長の兄か。天久遵。一昨日会長のふりして、女性を振っていた最低な奴だ。……あ、ひばりんのハンカチの回収、会長に頼んでみようかな?
片倉さんの底冷えするような声音を睨み返し、ふ…と、視線を下に向ける会長。胸ポケットから棒つきではない飴ちゃんを取り出し、口に入れる。うむ。落ち着かないんだね。
「……黒髪、黒目で猫目の美人だ。我が校にいるらしい」
一息いれ、落ち着いたらしく、淡々と話し出す会長に片倉さんの目は冷たい。こ、怖いんですけど?
「あの、外道。年上だけならともかく、中学生にまで手を出す気か。」
憤慨する片倉さんだが、待て。年上ならいいの?どこまでなら許容範囲ですか。ちょっと説教していいですか。
片倉さんの態度に会長がから笑う。
「俺達を見分けたらしい」
「ーーは?」
「俺と同じ格好をした兄をきちんと遵だと認識したらしい」
「……それは」
友達同士なのに見分けられないのか。……片倉さんが絶句している。
単純な理由だし、確かにその程度といえば程度だけど、……教えたほうがいいのかな?
しかし、私の他にも見分けた子がいるのか。いいなー美人なのか。ふ、誰が中身のせいで残念な人間だ。お、おかしい。私、容姿は悪女に近い未来になれた筈の『秋月ルカ』 なのに。だ、誰も美人だと賛辞をくれない…っ。取り巻きもいないし。………ボッチだし…………な、涙なんか出ないからね!
「……候補として、その馬鹿……いや、秋月が一番可能性が高い気がしたが、客でも取っていなければ、子供が行ける場ではない場所で会ったらしいからな。もう一度訊くが、売春はしていないな」
「イエスッ。サー」
「変な言葉使いをするな」
びしっとソファから立ち上がり、敬礼したのに青筋が。会長様、お怒りですか。
「『ひばり』という少女に心当たりはないな」
「女の子にはないです」
「男の雲雀なら、俊平も知ってるだろ。図書委員の」
片倉さんが絶妙なタイミングで茶々を入れてきた。な、なぜだ。私がしようとしたボケを横から盗られた気がする!
キッと、ボケを盗られた恨みで睨んだ片倉さんは口に人差し指でシーっだって。ああ、からかわない約束だった。
ついついうっかり。
疲れたようにため息を吐く会長。なんだか、かわいそうに見えてきた。君は尊大なくらいがちょうどいいと思うよ?
……この様子だと、ハンカチ返してとは言えそうにないな。片倉さんですら、毛嫌いしてる様子の兄のほうにホイホイ会いに行くのは危険なようだし。んー、諦めって肝心だよね。
「でも、その子凄いな。俊平と遵を見分けるなんて」
「だから、遵が執着している。あれは、そういう類いの我慢が出来ない。……面倒な話だ」
忌々しそうに舐めていただろう飴を噛み砕く会長にふーん。と、じゃあもっと完璧に双子のふりが出来ればいいのかと、私は、助言をあげることにした。
「見分けられたくなかったら、アメの種類を統一すればいいんですよ。わかりやすい癖だよ?」
こてん、と首を傾げたら、絶句する片倉さんと会長。
あれ、何か間違った?
「遵に会ったことがあるのか!どこでだ!?」
「俊平、落ち着いて。ええっと、売春はないんだよね?」
会長の怒気と片倉さんの困惑。あ、やばい。そこに疑いが戻るんだ。えーと、えーと……。上手い言い訳が思いつかないぞ。
んーと、考えこんでいると、会長が席を立ち私に掴みかかってきた。素早い行動で、片倉さんが間に入れなかったようだ。
「どこでだ」
「俊平!」
意図はないだろうが、制服を思いっきり巻き込んで掴んでいるせいで、首が締まっている。圧迫感に息がしづらいが、意外と冷静に笑いかけたら、不気味に感じて止めるかもとそこまでは、冷静だったはずだ。
「あ………」
瞳孔が見開く。
耳にイヤナおとが、
「ちみ……っ秋月さん!?」
会長を力任せに私から引き離す片倉さんをまだ、冷静な部分で見れた。でも、サイレンがドンドン大きくなるにつれて、私は、がたがたと体の震えを止められなくなる。
「『こわい!こわい、こわいよ!!おとうさん、おかあさん、『お兄ちゃん』!!×××が、私をころしにくるよ!!』」
「秋月さん!?」
ぎょっとした。なんだ。私の口から、まるで堰が切れたようにあふれ出した言葉に覚えがない。なのに止められない。なんだ、駄目だ。しゃべっちゃ駄目なのに。
「『あいつ、あいつ…っくそ、ころしてやる。わたしじゃないの!!わたし、わるくないもん。どうして、こたえないとだめなの!?わたし、やだ。あんなやつきらい!!』」
「落ち着いて。俊平は、ほら、もう君を傷つけないから!」
私を落ち着かせようと、抱きしめる片倉さんに私は、自分でも信じられないくらいの馬鹿力で、暴れたが、それでも辛抱強く私の背中を擦る片倉さんとパトカーのサイレンの音が遠ざかりだんだんパニックが収まり始める。しかし、それでも口から出る言葉は意図しないものばかりだ。
「『だめだよ。そんなのうそだよ。ほら、ちゃんと…』」
「ちゃんと?」
茶目を細めて、優しく私を労わるような眼差しを向ける片倉さんに暴れていた『私』が心底不思議そうな声で、訊いた。
「『『お兄ちゃん』、じゃない…?』」
「ごめんね。リンじゃないよ」
『私』が、暴れないことを確認しゆっくりと体を離すと今度は、気づかわしげに頭を撫でてくれる。
「怖かったね。もう、大丈夫だから」
呆然と、頭を撫でられる私は、だんだん悲しくなってきた。『私』の言葉の意味がわからない。
思い出せない。何が有ったの?どんな事があったの。無念があるの?
わけのわからない苛立ちに唇を噛んでいたら、冷静になってくれた会長が、「すまなかった」と、謝ってきたせいでトドメになった。
二人とも、突然、しくしくと泣き始めた私に付き合うはめになり、結局午前の授業をさぼらせる結果になってしまった。
受験生に悪いことをした。




