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お姉ちゃんは会議を終えたが、先生に捕まったらしい。なんか、賞がどうとかの話らしいが、
「笑顔が怖かったですよ」
その時、一緒にいたリンの話では、姉を捕まえた担任にとてもじゃないが表現できない笑顔で対応していたらしい。うん、きっとかわいかったんだね。その笑顔。
「お姉ちゃんは女神だからね!」
「それ、返答として零点ですよ」
ただ、お姉ちゃんを待つのもなんなので、リンと一緒に学校近くの雑貨屋に入る。……ハンカチが欲しくて。そして、初めて入ったけれど、なんかあんまり客がいない?
「僕なら、こんなファンシーなハンカチはいりません」
候補をいくつもチョイスしたが、ひばりんへのお詫びだと知るとリンがいきなり厳しく批評し始めた。某人気キャラのクマとだれてるパンダなんて何の嫌がらせだと怒られた。か、かわいいは正義だぞ!
ファンシーな世界の住人を手に取り怪訝そうにするリン。
「もう、大手のショッピングセンターに行くまで諦めなさい。無難が一番です」
「返すのが夏休み後になるよ。いいのかな?」
「いい女は男を待たせてもいいんです。………ルカがいい女かは別ですが」
「リンは、お姉ちゃん相手なら待てる?」
「いいえ。好きな相手は絶対に逃げられないように罠を張って、周りも固めますね。ええ、僕と結ばれなければ親類縁者全てに縁を切らされるくらいは逃げ道を塞ぎますよ」
なんか怖いこと言ってる!
初めて、リンに姉を任せて良いのかと疑問に思ってしまった。だって、なんか怖いぞ。今の発言。
ぶつぶつ言いながら、お姉ちゃんが好きそうな小物を見ている。うん、桜とか好きだよ。あ、カスミソウとかも。……地味で薄い色なの好きだよー。
「ルカは、このどぎついピンク好きそうですね」
どうして、そんな目に優しくない色合いを私が好きだと判断できたのかな?と疑問符だらけの謎の輝きを放つ物体がリンから差し出された。ど、どこにあったのかな、それは。
「私にどんな偏見を持ってるの!?」
「血の滴るような真っ赤なハンカチとか、ああ、これなんか目に痛い発光色ですね。好きでしょ?」
次々に渡される変な小物。す、すごいよ。逆にどこに目を置けば、ファンシーな世界からこんなダークな物を探し当てられるんだ。
「すごいですねー。ここの店の仕入れの人間。病んでますねー。」
病んでるのはリンも同じだ。こんなに探し当てて、どうする気なんだ。買うのか?
「あ、好きなの選んでくださいね。買ってあげますから」
「ここから!?」
リンから渡された、どう考えても嫌がらせの部類の小物類に私は戦慄した。ーー怒ってるんだ。確実にリンは怒っているんだ。夜遊び事件から始まり、朝帰りとか。本気で怒っているようだ。
「り、リン兄。わ、私。ヘアピンなんか欲しいな」
あはっと、笑い、渡された小物をもとに戻し、誤魔化すようにヘアアクセのコーナーに行くと、リンが無言ででっかい唇のヘアピンを私に手渡す。
「お似合いで」
「もう、許してお義兄様!」
「よく喋るルカには、本当にこんな禍々しいものが似合いますね。あ、この剣が刺さったドクロなんて可愛くていいんじゃないですか?ファンキーで」
ファンシーな店でファンキーになりたくないやい。
「お花、お花のヘアピンが欲しいの!でっかくてかわいいやつ」
「女の可愛いは未知の世界です。腐った魚でも皆が可愛いって言えば、可愛くなるんでしょ?」
リンのお怒りはマックスらしい。とんでもない事を平然と言ってのけるあたり、怖い。が、
「ならないよ。っていうか、なる訳ないじゃんか」
私がさすがに唇を尖らせれば、それに気づいたリンがまなじりを下げて謝ってきた。
「ああ、すみません。言い過ぎではありますが、ちょっと気になる事があったので、つい」
つい、とはなんだ?
腐った魚を皆が可愛いとかいうシチュエーションでもあったのかな?
それって、異常だよね?
何かの隠喩か。私がだまり込んだら苦笑し、空気を変えようとするリン。
「ルカには、関係ないんですけどね。……あ、このひまわりのヘアピンが、ルカには似合いそうですね」
そういって、前髪に合わせられるが……うーん、確かに好きだな。これ。おおきなひまわり。うんかわいい。誤魔化されてる気はするけど。まあ、いっか。
リンは、店でお姉ちゃんにピンクのシュシュとかきつばたの刺繍が入ったハンカチを買っていた。私にもさっきのヘアピンと何故か、アマリリスのカードを買ってくれたけど…なんの意味が…?
「アマリリスの花言葉は『おしゃべり』だそうです。ーーお似合いで」
「しつこくない!?」
やだ。このひと、怒らせるとしつこい。
「仕方ないじゃないですか。僕、明日から海外ですし。ルカに説教できるの今日しかチャンスなかったんですよ」
………なんか、変な爆弾投げられた。私は、リンを見上げる。訊きたかった内容だけど、訊きたくない話だった。
「え?」
「学校の許可も貰って、明日から父さんの仕事について行くんですよ。それから師事したいヴァイオリンの先生の所で夏休みいっぱいはお世話になります。上手くすれば九月いっぱい帰らないので、マルを寂しがらせないであげてください」
頭をポンッポンッとするリンに私はボーゼンとする。え?明日?何も訊けてなかったよ…?
しかも、下手したら九月いっぱい帰ってこない…?
「や、やだ…。もしかして、死亡フラグ!?」
無言でデコピンされた。
「……言って良い事とそうじゃない事の区別がつかないのか。君の頭は」
「ご、ごめんなひゃい」
ジーンッと額が痛い。
「じゃあ、記憶喪失とか」
あ、やめてください。無言でチョップを頭に落とすのはやめてください。私、半泣きです。
「まったく、置き土産にルカが凄く喜びそうな物を撮っておいたのにいらなさそうですね」
「いいえ、貰えるものは貰います!」
だから、携帯で頭をグリグリしないでください。
「……はあ、ほら、」
そういってリンが携帯の画面を見開いて見せてくれた。ーー私は奇声を発した。歓喜で。
「にゃーっ!?い、いつの間に。っていうか、いつ!?お、お姉ちゃんに!!!」
興奮して、リンの腕をぶんぶん回す私に迷惑そうな顔をするリン。
「落ち着きなさい。この前の君の夜遊びの時に泣きながら帰りを待ち疲れたんでしょう。ソファで隣に座っていた僕の肩に頭を乗せてきたので、おばさんに撮ってもらいました」
グッジョブ!お母さん、大好き!!
「他にも、」
と、姉に見せれば恥ずかしさで奇声をあげそうなツーショットの写メに私は、もう。だめだ…。
「は、鼻血でそう」
「本当に出したら引きますからね」
いそいそと赤外線通信をする私とリン。さっそく、一枚を待ち受けにし、私は幸せな気分になる。
「じゃあ、明日からしばらくそれで毎日を過ごしてください」
なんだか、リンが適当な対応しているが、今はいい。ああ、しばらく、これで乗りきれる筈だ。
うんうん。
明日の夜になったら、もうリン不足になるとかの軽いお約束は、言うまでもない。




