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食事に罪はないので、もくもくと神取の真似を続ける。
ん?グラスの飲み物、無くなるの早すぎたか?なんだか喉の乾きがはやい。ギャルソン、注ぎたしてくれてありがとう。……ウェイターとどう違うの?
私に興味がなくなるかと思ったが、そうではないようで期末テストの結果を聞かれた。なぜ知っている。どうせ、太刀川さんに調べられるだろうから、真ん中だったと報告しておいた。そしたら、意外な事に嬉しそうな顔で、頭を撫でてきた。……懐柔しようとしてる?
「お手洗い」
「化粧室だよ」
マナー講座もされている。うーん、そろそろ家に帰らないとな。リンの留学について、訊かないと。
「えーと、『化粧を直して参りますわ』」
「うーん、60点かな」
む、難しいな。立派なレディとはいかなものか。
「化粧を直すのだから、バッグも持ち歩きなさい」
立ち上がって化粧室へ行こうとしたら、もっともなご指摘。
うーむ、難しいな。
化粧室から出てきたが、迷った。……へい、ギャルソンもしくはセルヴーズ、神取蓮の席はどこだい。って訊いて良いのかな?
おかしいなー。化粧室までは真っ直ぐで。帰りは真っ直ぐじゃないとか。うろちょろしている私をそろそろ誰か保護してください。
「だから!なんで、弟のアンタにそんな事言われなきゃなんないのよっ!」
ん?この高級感溢れるレストランで立派なレディじゃない人がいるようだ。大声で怒鳴り散らしている。おいおい。TPOを弁えたまえ。
……私に言われたくない?
うん、わかってる。
ちょうど、観賞用の植物があるので、ササッと隠れて見物してみる。気分は家政婦さんは見た。だね!
「ですから、兄と貴女では釣り合わないと申し上げております」
あ、れ…って、うちの会長だ。スーツ着て、わざわざ兄の恋の残骸の後始末かー。
わー、そりゃストレスも溜まるわ。眼鏡をくいっとしながら肩を怒らせる女性に別れを強要している。あわわっ。
はい。お兄さんの彼女さん、振りかぶりました。
パシーッン!
唸れ、わが平手打ち。あ、私のじゃないよ。気分で言っただけ。痛そうな音だ。すんげえ痛そうな音が響いたうえに、あの女。グラスの中身まで会長にぶっかけてから「死ね!」とまでほざいて出ていった。……こ、怖い。
修羅場だね。でも、殴られた当人に責任ない。あー、会長に明日から優しくできそうだ。と思いながら、様子をもっと観察する。………あれ?
がさごそとスーツから棒つきの飴ちゃんを出す会長……じゃなかった。
私は奴を知っている。最低だ!アイツ、最低だ!!
奴は、飴ちゃんの包み紙を取り、口の中に入れ、棒をモゴモゴと動かしながらこちらに歩いてくる。うん、化粧直しですねー。
「ん?」
植物の後ろに居た私に気づいたらしく、ジーッと見つめてくる。ふん。一言言ってやらねば、な。
「最低ですね」
「ああ、兄がな」
不機嫌そうに言い返すコイツにふん、と鼻を鳴らす。ついでにバッグをがさごそ。いや、滴ってる水が気になるからハンカチくらいは貸そうかと。しかし、喧嘩は売ります。なんだかそんな気分なんだよ。
「あら、天久さんには弟しかいないんじゃ御座いませんか?それとも、どっかに父親か母親違いのお兄さんでも?」
驚愕を顔に張り付ける天久に私は、内心、ガッツポーズ。ふふん、お前らの見分け方は簡単だ。あ、私のハンカチ使用済みだった。……雲雀のがある。ひばりん、呪いが発動したよ!?
口が寂しくなるとアメを舐めるのは共通だが、棒つきかそうじゃないかという、双子判別方法がある。ただ単にそれだけだが。何故知っているかと言えば、有名な話で、兄のほうには『天使ルート』もある。これを最終の選択で指摘すると、スチルが一枚増えるというなんだか理解できないイベントがあるらしい。双子ファンが騒いだ攻略本には載ってなかったネットのみの情報だ。ついでにそのスチルは、『へえ…、その程度の事で俺達をわかってますって顔してたんだ』……と、凄い殺気を感じる声と笑顔スチルだったらしい。なんだろ。エンディングには『Happy』が出たらしく、グッドのはずなのにそのスチルと台詞を聴いたファンは、絶対、バッドだ!と騒いでいた…。とかなんとか。
ポタポタ、髪から水か酒かがしたっている人にハンカチを貸すことはやぶさかではないが、うーん。
人様の物を貸すのは、如何なものか。でも、使っていいって言ったよね。ひばりん、ごめん。回収できなかったら、少し高めのハンカチでお返しするよ。
藁しべ長者ってやつだね!
「俺を知っているようですが、俺に双子の兄がいるとご存じないのですか?」
まだ、言うか。そして、わたしは、今日、知り合ってんぞ。
はい、ハンカチって渡したら微妙な顔された。喧嘩売ってくる奴に借りてもねー。言葉と態度がちくはぐだって。
私は、ツンと偉そうに顎を上げる。ハンカチを貸した相手に。
「へえ、我が校の誇り高い帝王がたかだか、兄の恋の尻拭いとかあり得ませんね。まあ、名前くらいは貸してくれるかもしれませんが、あの方、馬鹿がお嫌いなようですよ。貴方の今のその姿って、馬鹿そのものでしょ。双子だと馬鹿でも大事にされてるんですか?」
拝啓 片倉さんへ。
真面目な会長様にやり返さない代わりに私、そのお兄さんに今日の出来事の鬱憤を全力で吐き出します。くふふ。なんか、足元がふらふらしてる気が。ヒールのせいか?
「へえ、俊平の学校の子なんだ」
あ、狸の皮を投げ捨てた。ようやく、本性ですか。どーも。
獰猛な肉食獣のように舌なめずりまで、始めそうな天久兄。私を敵認定したらしい。
「こんな熱烈なファンがいるなんて初めて知ったな。で、何?誰が馬鹿だって?」
本性全開のところ、悪いが、私はふん。と胸を張る。やられなくてもやり返す。ーー八つ当たりだ!!この台詞、考えた人をまじ、リスペクト!!
私は今日のうっぷんを果たすために声を張った。え、マナーって、なんだっけ?
「ーー私が馬鹿なんだってよ!お前の弟に言われたんだよ。ちゃんと弟、教育をしろ!!傷つくんだからな。ばーか」
半泣きで、叫んだ。意外と悔しかったのだといまさら、気づく。そして、思う。
あれ?なんか、私、おかしくないか?
「ルカ!」
あ、神取のおっちゃんだ。なんで、そんな焦った顔してるんだろ。え?ギャルソンが、いつもの気で、酒飲ましてた?………やだ。私、この世界では、お姉ちゃんに迷惑かけないよう真面目に生きるつもりなのに。
やっぱり、神取との付き合いを考え直すべきか。
「神取さんのところの子でしたか」
神取を知っているって、この人。ああ、ここに居る時点で、やばい繋がりを持っているのか。私へ、侮蔑めいた眼を向け、神取に作り笑顔を張り付けた。
「新しい『花』の教育がなってないのでは?」
「申し訳ない。まだ、教育中でね。」
んだと。こら!?『花』として、売り出す気はないぞ!!
しかし、神取が目で、黙れとサインを送ってくる。そういうことにしたほうがいいのかな?
私が、貸したひばりんのハンカチに目を落として、にやりと笑う。
「なんなら、その『小鳥』を俺が教育しましょうか?ああ、言い値で買いますよ」
『小鳥』って、なんかの隠語?
「なに、一人に相手を絞るような器量ではないので、断らせてもらう」
なんか、頭の上で不愉快な会話がくり広がっている。
「そうですか、残念です」
あっさりと引いた天久兄が、私にすっと近寄り耳元でささやく。うわっ、ぞくってなる。
「俺は、しつこいからな。ーー『ひばり』」
そう言い残して、ギャルソンがいつの間にか用意したタオルを持ってどっかに行ってしまう。その様子に神取がため息を吐き、
「面倒なのに目をつけられたね。それから、部屋を用意したから少し休んでから、帰ろう。その様子で帰したら、さすがに二度と合わせてもらえなくなりそうだ」
いやいや、大歓迎な展開なんですけど。
それにしても、…あ、『雲雀』だから『小鳥』?
「上手い、座布団一枚!」
「黙って、ついてきなさい」
お酒は、二十歳になってから。




