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 あれから、二時間くらいだろ。

 えーっと、下校したのが、四時くらいだから。六時くらい?

 お姉ちゃんにはメールして、お母さんには電話が繋がったから事の経緯を説明して、……お父さんには怖くて、『ルカ、ラチられる編!』とメールでだけ残した。しかし、ひばりんに悪いことしたなー。

 目の前の胡散臭い笑顔を殴りたい。あ、この人、私の生物学的な父。神取蓮。嫌い。


「うん、やはり美人だね」


 はい。親しくない男の言葉は八割お世辞だったよね。前世のお兄様。

 私、ついてきたとはいえ、目まぐるしく歩かされ、風呂に入れられ、オイルマッサージされ、着せ替えさせられ、髪型も弄られ、化粧までされた。やだ。怖い。成人していた生前ですらなかった至れり尽くせり!

 着てる服が高級です!ってアピールしてる気がする。

 Aラインの真っ赤なワンピース。私、一度とあるクラシック漫画の台詞を彼氏が出来たら言って貰いたい!!とか妄想した分際です。『俺の真っ赤なルビー!』。うん。言って貰えるかもしれない格好をしたよ。……ないわー。

 ヒールも履きなれず、もう痛い。ペタンコ靴と学校指定のローファしか履いたことないよ。準備万端、さあ次は!というところで、なんか高そうなレストランまで連れてこられた。

 ホテルの前に停めたロールスロイスを降りるときに神取のエスコートを渋っていたら、太刀川さんに注意された。こういう場所ではマナー違反らしい。そうなのかな?嫌なのに?わかんないから、借りてきた猫みたいにおっかなびっくり大人しく云うことを訊くしかできない。

 くそ、社会人だった時こんな所来なかった。生前、絶対、私には必要ないと断ったマナー講座受けておけば良かった。

 高層ホテルのレストランの中までは、太刀川さんはついてきてくれなかった。代わりにギャルソンが、おっかなびっくりしている私についてくれた。いや、私じゃなく神取にだって、わかっているけど。席に案内されて椅子を引かれたので、ホントにここは日本かと目を見張った。

 私、本当に戦々恐々なんだって。なかなか座らない私に焦れたりせずにニコヤカにどうぞ。と態度が示している。すみません。マナーも知らずにこんにばんわ!

 おっさんも私の態度にイライラした様子もなく、ギャルソンと何か話してる。は?ワイン?いやいや、私、未成年だから。いらないよ!

 ホテルの最上階にあって、 夜景が綺麗なお店らしい。窓際に行って『ふ、人がごみのようだ』といってやろうか。そして、まだ、夜景としては陽が赤いよ。夕焼け。


「コースは定番で良いね。君はどうやら、このような場は初めてのようだから。下手な事はしない方がいい」

 

 その辺はあーざっす!ううっ…別にうちが貧乏だからじゃないもん。普通だもん。中学生をこんなとこに連れてこないだけだもん。

 生前は、……うん、ただ、私がガサツなだけだった。堅苦しい店より、一人焼き肉か。ふ、むなしい。


「マナーは武器になるよ。覚えた方が良いね」


 にこっと、柔らかな笑みを浮かべるおっさん。うぅん…、なんで、無神経に私に会いに来れるのか。認知しなかったんだって知ってるよ。三年前、初めて、会いに来やがったとき、お母さんに『親権は渡してないだろうな!?』『あっちに行けとか言ったら、思いつく限りの嫌がらせするからな!!』興奮してた私に問い詰められ、わんわん泣いた母。私が怖くて泣いたんじゃない。娘がこちらに残りたいと願ったことに母は、感動して泣いたんだ。きっと。必死だったんだから、許して、お母さん。

それにしても、確かにゲームの『秋月ルカ』は、高級娼婦だったな。大物政治家から裏を牛耳るヤのついたりマのつく人間まで、手管を駆使して落とすような子だった。それはきちんとした礼儀作法と教養、頭の良さがなければ出来ない。ただ顔や躰だけなら、一度だけで飽きるだろうが、誰もが『秋月ルカ』を囲みたがった。……いまの私が、彼女のような振舞いなどしたところで、ただの頭の悪い女ということだね。しないけどさ。うん、出来ないって訂正しよう。

 中身が変わると見た目が良くてもモテなくなるって良い例だね!

 コース料理が運ばれてくると、私は、神取の真似をしながらちまちま食べる。正直、味どころではない。うん、それにしても観察しながらなんとなく察した。私が粗相しても周りが眉を顰めたりしないって事は、もしかしたら、そういう店なのかもしれない。だって、そうじゃなきゃ、『秋月ルカ』の教養はどこで磨かれたかだ。


「えーと、神取さん」

「パパ、もしくはお父様と呼びなさい」

「嫌です。怪しい関係みたいじゃないですか。もしかして、ここって教育の場所ですか」


 あ、一気におっさんの空気が変わった。なんだろ。緊張感の質が変わった気がする。まあ、いいか。身の危険を感じるくらいじゃないし。


「教育、とは?」


 質問を質問で返すか。あんまり、訊いて良いことじゃないんだろうけど、でも、そんな場に連れてきた方が悪い。


「えーと、一般人育成レストラン的な。つまりは、……『花』を育てるみたいな?」


 神取から息をのむ音がした。あ、『花』って、娼婦とか男娼の意味だよ。

私が、答えをおとなしく待つと、はあ…と、ため息。眉間に皺まで寄っている。


「君は、愚かなのか聡明なのかハッキリしなさい。会話に困る。」


 あきれ返った顔で、それからもう少し声も落とせと指示される。いや、ただのゲーム脳。

 好きなゲームの裏設定をほじくってるだけ。


「神取さんが犯罪者で困ります。せめて、血の繋がりのある私の名前が実名で出ない未成年のうちに捕まってください」


つまりは、売春の斡旋をしているんだとこのおっさん。最低なのは、知っていたが、なんてことだ。娘がぐれたのは、必然じゃないか。しかも、環境的に悪女として磨かれてるのも頷ける。


「そこは、娘として『パパが捕まったりしたら悲しいから。犯罪はやめて!』じゃないのかい。」

「えー、もう真っ黒じゃないか。食事に誘いに来るのもやめて。マナーも神取さんからは習いたくない。神取さんが捕まったらうちに居れなくなるなー。どっか田舎にお家を私の為に買って。そこで細々暮らしながら、お姉ちゃんとリンのラブラブな日常報告聞くから」


 あ、神取が頭を押さえている。


「あのね。私は、君に私の仕事を継いで欲しいんだよ」

「おととい来てください」


 無理無理、前世で二次元は大丈夫なのにナマモノの裏DVD見て、ぶっ倒れたんだぜ。そんな人間がどうそんな裏の稼業を継げるの。お陰様で一緒に観賞会した友人に『彼氏欲しいの!紹介して!!』と言えずに喪女に…。な、泣いたりしない。目から流れてるのは汗だぜ!

 それにパトカーの音聴いただけでびくびくする人間だしな。悪いことしてないのに異常だと……あれ?これって、今の生になってからかな?………んー?


「大人への言葉使いもなってない。まったく、昴はどんな教育を」


 ぶつぶつ言ってる。なんかお父さんの名前出てきたけど、知り合いなのかな。


「愛されてるよー。大事にされてるよー。この前も姫抱っこされた。さっきの話だけど、お父さんが悪いことしたら『お父さんが捕まったりしたら悲しい』って言えます。一緒に償うよ。貴方とは出来ないけど」

「……」


 黙られた。は、まさか。お父さんになんかする気じゃ。いや、それは完璧に逆恨みじゃん。え、だって、私を認知しなかったんだし。


「……愛されてないと思っていたのだがな」


 ぽつり、と寂しそうに呟かれた。

 聞き逃しそうなくらい小さい声だったけど、ちゃんとか聞こえてしまった。……彼の中で『秋月ルカ』は、愛されてちゃ駄目だったのだろうか。

 不思議と腹が立たなかったのが、すごく、不思議だ。



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