2
片倉さんに手を引かれ、二階にある図書室まで連れてこられた。……昼休み、あと十分ですよ。私はこのまま階段を降りれば、すぐの教室だからいいけど。一緒に来た愛川センパイはどうなのだろうか?
片倉さんは、遠くても私のほうに気を使うよねー。
「ごめんね。ちみっこ。俊平とアオの喧嘩に巻き込んで」
人のいない生物コーナーまで連れてこられ、頭を下げられる。……待て、片倉さん。貴方は何をしているんだ?
「これは、オレのけじめだから。……本当にごめん」
「あ、……はい」
謝ってもらう理由がないが、けじめなら仕方ないのかな?
うーん。難しい。
会長も藤咲さんも友達にそこまでして貰いたいだろうか。……なんだろ。モヤモヤする。なんか、納得できないと眉間にしわが、うーんと、唸ったら、ぷっと片倉さんが吹いた。
「って、オレがここまでやると大概の女の子はいいよいいよって、曖昧にしてくれるものだよ。ちみっこ」
は?
ニヤーッと質の悪い笑みを浮かべ、片倉さんが殊勝な態度を一変させる。
「駄目だよー。せっかく可愛いんだから、かわいい女の子の対応の仕方ってものも覚えなきゃ」
ニヤニヤと、ああ、なんだろ。これって、からかわれてるのか?
「んー、そうだねー。るかちゃん、ちょっとあの場で俯くくらいしたら、あおちゃんはあそこまで利用しなかったろうし、天ちゃんもるかちゃんを無視して喧嘩してたかもー」
愛川センパイまで、なに!?
そして、喧嘩はやめないんですね。わかります。
「しばらく見てたけどさ。」
「また、見てたんですか!?」
「声が大きいよ。だって、ちみっこが面白いし。俊平にキッツイ事言われても、なんか面白く返そうとしてるだろ?真面目な奴だからからかわないであげてね。後、人間観察は趣味だからその辺も許して欲しいな」
にこっと人の良さそうな笑顔を全開にし、私に向ける片倉さん。でも、言ってること黒いよー。
こ、この人、生前プラスαな人生経験の私を軽く凌駕する社交性の持ち主だ。長く生きてても絶対身に付かない。は、まさかこれが天然物なのか!?
「るかちゃん、たっくんに手を合わせたら失礼だよー?」
「すみません。あやかりたくて」
ぜひ、私もこうなりたい。テンション高く、暴走する脳内をどうにか落ち着かせたいものだ。ーー無理か。無理なのか。
「あー…、拝まれるくらいの人格はしてないけど。少し、ちみっこ、人の弱い部分を抉るの得意そうだから。……雲雀に助言したのって、秋月さんでしょ?」
抉るの得意かな?自覚ないよ。
しかし、雲雀も口が軽いな。……うん、否定しておこう。
「違います」
「秋月さんと帰ってから、テルと葛西との距離を少しずつ取るようになってるんだから、どう考えても秋月さんしかいないでしょ」
素晴らしい推理だ。ワトソンくん。第二のシャーロックは君だ。そして、ひばりん。失礼なことを思った私を許してくれ。
「葛西は、今の所気づいてないけど。テルは、気づいてるよ。……普段は過激な事をする奴じゃないけど、葛西がからむとなると、怪しいんだ。何か有ったらオレに連絡くれない?これ、オレの携帯のアドレスが書いてあるから」
すごい。片倉さん大正解だ。そして、味方になってくれるのか。わーい。
「今、携帯を持っているので赤外線しますか?」
「え、……あ、いいの?」
メモを手渡そうとした片倉さんを遮り、携帯を差し出せば、驚いた顔をした後すぐに破顔した。
いそいそと三人で携帯を出して、アドレス交換をする。愛川センパイまで、なんで携帯出すんですか。流れ的に断れなかった!ちくしょう。
空メールを送るほど、確認に余念のない愛川センパイが怖い。そんな誤魔化しの機能付いてたら、真っ先に使ってやったのにと、呆れながら、愛川センパイを眺めていたら、クスクス笑い出す片倉さん。
「どうしました?」
「いや、秋月さんって。オレみたいなタイプをすぐに信用すると思わなかったから。軽いでしょ。オレって」
あ、ご自覚がありましたか。
「端々の誠意は感じ取ってますよ?」
なので、本音をぶちまけてみる。軽いだけじゃないとはわかってる的な?
あ、意外でしたか。ちょっと恥ずかしいので嬉しそうな顔しないで。
「アハハッ!やばい。面白すぎて好きになりそう」
なんてかわいい笑顔で強烈な冗談をいう人なんだ。私の頭をポンポンする。
「やっぱり、人の心を抉るのが得意そうだよね。ちみっこは」
えぐるって。私をそんな恐ろしい凶器かなんかだと思っているのか。
「でも、かわいい後輩の気持ちを潰すくらいの感情じゃないんだ。安心してね」
んん?私に何を安心しろと?
話は終わったとばかりににこっと、また軽い笑みを浮かべる片倉さん。愛川センパイも満足げに携帯を仕舞い始める。
「あ~、そういえば」
間延びした声で何かを思い出したように愛川センパイが私に向く。
「リンくんが、短期留学するらしいけど。るかちゃん、知ってたー?」
まさかの爆弾に私は、愛川センパイをガン見してしまった。
あ、どっかで鐘がなってる。え?違うよ。『天使の祝福』じゃなくて、ただのお昼休み終了の合図だよ。