フラグの立て方。回収するのは、だれか。1
あれから二週間。
天使様にいろいろ相談できない現状に悩みつつも、いつの間にか期末テストが終わった。お姉ちゃんの束縛がキツイ!やだ。お姉ちゃん、私は不良になったわけじゃないよ。日々、お姉ちゃんの為に草の根活動中なんだよ!夜遅くに帰ったのは謝ったじゃないか。
あ~ぁ、失った信用をサクッと取り戻す方法はないのか。
廊下の壁に貼られたテスト順位結果……うん、私の順位は素晴らしい。一年生231人中、116位か。ちょうど真ん中。ミス真ん中とは私の事を言う。
ちょんちょんと、私の肩をつっつく誰かがいる。
なんだ。私の偉業を褒め称えてくれる気か?と振り返れば、見覚えのある金髪碧眼。見上げなくても良い身長差で助かるよ。藤咲さん。
「見事に真ん中だね」
にこっと、私の偉業を褒めてくれた。なんて良い方なんだ。藤咲さん!
「ありがとうございます。初めての期末で、この偉業。他に狙っていた方が居た事でしょうが、わたくし、秋月ルカがこの栄誉に携われることと相成りました」
えっへんと胸を張るとにこやかな笑顔。うん、腹黒って知ってるけど騙されてあげるよ。
「良かったね。えらいえらい」
頭をなでなでしてくれる藤咲さんにわーい!と喜びを表現する。
あー、癒される。最近、リンも冷たいし。なんだよー。ちょっと、帰りが遅かっただけじゃんか。ブーブー。
私が、癒しを求めて藤咲さんにさらに撫でろアピールしようとしたら、冷たく横やりが入る。
「馬鹿が馬鹿を褒めてるな。藤咲」
え?藤咲さんが馬鹿?
それこそバカな。この人、たしか『神光高校で常にトップクラスの成績で生徒会長の天久俊平と張り合っている』的なポジションの筈なのに。
いや、最高に仲の悪い奴ならあり得るか。そう、天久俊平こと現生徒会長様。……あ、やっぱり、紫の髪と眼鏡。冷血漢と名高い帝王。たしか、どこかの御曹司。で、双子。兄のほうは、……中学生時は別な学校なのかな?噂もないや。この方も藤咲さんも未攻略キャラクターだ。
でも、藤咲さんは『天使ルート』 しかないキャラだし、その逆に会長は『悪魔ルート』しかないんじゃなかったっけ?制作会社、ちょっと頑張れよ。っていうか、やっぱり、隠れ攻略キャラのリンとお姉ちゃんのスチルとイベント数が異常なんだよ!
「順位で片倉にまで負けた負け犬に馬鹿って言われたくないんだけど」
あれ?
なんだか。気温が下がったような気がする。うん、寒い。……夏なのに寒い。そして、片倉さん、テスト上位の方に名前あった気がしたよー。
チッと、舌打ちをする会長だが、すぐに私を指して嫌みを炸裂させる。
「その頭の悪そうな人間と付き合うなど、自分の価値を下げるぞ」
あれ?なんで、私、ほぼ初対面の会長にここまで言われなきゃなんないのかな。
「彼女の聡明さがわからないなんて憐れですね。学業の順位だけが人の価値じゃない」
聡明?
だれが、どう聡明なんだろ。藤咲さんの私への評価が怖い。
「ふん、名前が真ん中にある事を喜ぶようなたわけがか?」
会長に侮蔑めいた目で見下された。えー、私がどこで喜ぼうが自由じゃん。けっ、私、やさぐれモードなんだよ。喧嘩なら他所で売りな。
「だめだよー。天ちゃん。るかちゃんをいじめないで」
げっ。この声は。
「愛川。お前もこの馬鹿と知り合いか」
「るかちゃんはばかじゃないよー。だって、うちのマロンちゃんを一緒に探してくれたから」
きゃるるんって、効果音が聴こえた。そういえば、登場時にいつもそんな音が聴こえたような気がする。幻聴かな?
「マロンちゃん?」
藤咲さん、訊かない方がいいよ。
「うん。クロコダイルのマロンちゃん」
きゃるるんって、また聴こえた気がした。私たち他、順位を見に来て、藤咲さんの冷戦に耳を傾けていた一般生徒まで絶句。
「あのねー、学校にねー、連れてきちゃったときに逃げられちゃったの。そしたらね。るかちゃんが必死になって探してくれたの~」
いいえ。必死になって逃げただけです。警察を呼びました。何故か私が説教されて半泣きになりました。彼女は警察の偉い方のお孫様なので無罪放免。世の中の不条理を久々に感じた瞬間でした。
「るかちゃんって優しいの」
背筋にぞわぞわっと何かが這い上がる。こ、この台詞は!この女がよくリンをそう評していた言葉だ。『優しくしてよ~、私だけにぃ』とだんだん狂気じみてきた『悪魔ルート』の後半。怖い。やだ、近寄りたくない!
「頭が悪い分、どこかで補う必要があるからな」
会長が私を冷たい目で見下す。いい加減、私もキレんぞ。
「いい加減にしろ。彼女は俺と喋って居ただけだ。ーーそこまで、言われる必要なんかないだろ。ああ、それとも、秋月さんがお前の好みだったから話していた俺に嫉妬とかか?見苦しい」
何故、怒りに燃料投下したの藤咲さん。
「こんな馬鹿が好み?ハッ」
藤咲さんと会長が、絶対零度のオーラを放ち始めた。藤咲さんはまだ、幼い感じの容姿なのに逆らってはいけないようなオーラが。会長はそのまま存在が怖いし。やだ、順位表見に来た生徒たち、巻き込まれて憐れ。そして、発信源の近くにいる私、ガタガタ震えそう。それにしても私、なんでこの場に居るだけで鼻で笑われてんだろう。納得がいかない。
「るかちゃんがかわいそーだよ。天ちゃん、あおちゃん。やめてあげて」
愛川センパイに庇われるのもなー。
「はい。ストップ」
パンッパンッと、誰かが手を叩いた。
あ、片倉さんだ。
「いい加減に見苦しい。やめろ」
いつもの愛想の良さもなく、藤咲さんと会長を睨み付ける片倉さんに二人ともバツが悪そうに視線を落とす。おお、猛獣使い!?
「ちみっこは関係ないだろ。絡むな俊平。あと、アオも秋月さんをだしにして煽るなよ」
チッと両方で舌打ちした。……これって、私を巻き込んだって白状している態度だよね。
なっ!と念を押す片倉さんに渋々頷く二人。それにしてもいつの間にか愛川センパイと私が手を繋いでいるのが気になる。
「はい。周りのみんなもごめんねー。お詫びに投げキッスしてあげるけどいる?あ、オレじゃないよ。会長様と藤咲葵くんが」
きゃーっと黄色い声とえーっという落胆の声が響く。あ、藤咲さんは慣れてるみたいだけど、会長は困惑している。ざまあ。
しかし、尊敬はするが片倉さんの軽さに慣れない。うーん、いい人なのにな。
「たっくん、すごいねー」
「ソーデスネ」
素直に感心している愛川センパイが羨ましいが、……でもなー。会長はなんでそんなにイライラしてたんだろ?
八つ当たりなんかするキャラじゃなかったよな…。
それとも、八つ当たりしても良いと判断された自分を嘆くべきか、いまのところ、判断が難しいな。