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「だいたい、なんで、俺が心美と同じ塾に通わなきゃいけないんだよ。うちの近くにだって、塾あるじゃんか!おか、…母さんたちが仲良いからって。もともと、あっちに住んでて、でも、一軒家建てたからこっちに来たのに」


 あー、ポロポロと泣き始めたひばりんによしよしと、背中も擦ってみる。ーー味方がいなかったんだね。

えーと、つまりは、もともと光原さんとヒロイン様とひばりんはご近所さまだったけど、ひばりんの親が家を建てたことで学校が違うから、気軽に会うには距離ができてしまったと?


「家を引っ越すまで、心美もテル兄も普通に優しかったのに…、俺が中学に上がってから、なんか急に心美が、俺にベタベタ、し始めて…。怖かったけど、テル兄が優しくしてやれっていうから…」


 ぐずり始めるひばりんの顔をハンカチで拭ってやる。……このハンカチ、ひばりんのだ。

 そして、ヒロイン様。怖いって言われてるよ。ヒロイン様が、どのタイミングでひばりんを好きになったか察してやれないが、いろいろ残念な人だね!

あ、私に言われたくないか。

 なんというか。中学生に成りたてのひばりんは自己防衛の仕方もわからないまま、身体だけ成長してしまい、それが元で周りの状況が一気に豹変して、どこにも助けを求められず毎日綱渡りみたいな気分で過ごしていたのだろうか。

 正直、お疲れ様としか言いようがない。


「うんうん、疲れちゃうね」

「……疲れてない」


 私の言い方が悪かったのだろう。男のプライドとか意地をみせるひばりん。しかし、ここで折っとこう。


「そう?もっと、頑張る?」


 わざと冷たく突き放す私の言葉に涙で真っ赤になった目を見開くひばりん。


「ダメだよ。頑張れないなら言わないと」


 見捨てられると思ったのかひばりんは、一生懸命考えてから答える。


「い、今までみたいな事はもう頑張れない、………です」


 何故、敬語なんだ。


「そうだね。でも、塾には行きなよ。全部、一気にじゃなくて、まずは塾のお迎えって心美さんだっけ?あの人の親がしてくれてるんでしょ。家の方向反対なんでしょ?」

「う、うん」


 矢継ぎ早の質問に頷くひばりんから、ふぅ…と、身体を離す。落ち着いたと判断したからなのだが、あ…と、せつなげな声をあげ私の手を掴んでくる。まだ、不安だったのか。そうするとなんだか親に見捨てられまいと必死にすがる子供みたいだな。とーーその瞬間、変な感じがした。

なんだ?

耳を傾けてはいけないような、そんな甘い声が。






『私が、守ってあげるから大丈夫だよ』






 ーーは?

 脳内で響いた言葉にポッカーンとなった。

 何、これ。私の脳が考えたセリフ?ないない。耳を傾ける価値もなかった。私は気をとり直して、ひばりんに語りかける。


「じゃあ、もう『悪いから』って、断ろう。ひばりんが言わないでお母さんに言ってもらって。お母さんに理由を訊かれたら、『学校でからかわれた』っていいなさい。どんなにそんなの大丈夫って言われても絶対、拒否するの。今日のその顔で言えば、もっと良いよ。真実味がある」

「え?や、やだよ。恥ずかしい…」

「じゃあ、お父さん。よろしく」

「あ、やっぱりか…」


 思春期の恥じらいに私は理解を示し、お父さんに丸投げする。苦笑ありがとう。でも、私の説明じゃ説得力がない。むしろ、不安だ。

 ………時間的にもちょうどいいな。そろそろ、本気で警察に電話されてもおかしくない時間だ。


「親が心配して電話してきてない?」


 慌てて携帯を取りだし、私に差し出すひばりん。待ちなさい。なんで、私に渡す。まあ、渡されたから見るよ。一応一言ひばりんに言ってから開いて、表示された着信歴とメールの数に私はがっかりした。


「着信とメールが気持ち悪いくらいあるよ。お父さん。」

「親は心配なんだよ」

「違う。七割、心美さん」


 お父さんが黙った。……うん、下手に感想言ってひばりんを刺激しない方がいいよね。


「これ、いちいち返さない方がいいけど。……返信しないと怒る?」

「……うん」

「じゃあ、携帯をしばらく解約しよう」

「えー…」


 不満げな声をあげるひばりんにチョップ。


「いてっ」

「貴様、やる気があるのか!」

「~~なんで、偉そうなんだよ!」


 不満げな声にあ、ちょっと元気になったのかと安堵しつつ、冗談を重ねる。


「偉そうなんじゃない。偉いんだ!相談に乗ってやってるだろ!!有り難がれ」


 ふんっ!と胸を張れば、気まずげに申し訳ありませんでしたと…。貴様、まだ危機感が足りないのか。


「まず距離を正常に戻さなきゃ、後ろから刺されるぞ!」

「なに、怖いこといってんだよ!そこまでされる訳ないだろ!?」


 甘い。メールシロップより甘すぎる!!


「自分だけは大丈夫とか無いからな!」

「う゛…」


 私の指摘に痛いとこがあったのか、しぶしぶ納得する。何故、渋々なんだ。泣くくらい辛かったんだろ。



 その後、泣き止んだひばりんを家まで送り、私とお父さんがひばりんと一緒に玄関先で雲雀ご両親にアレコレと説明をした。私は、ひばりんに手を繋がれたままなのでジーッと待つ。

 お父さんは、手っ取り早く雲雀ご両親にひばりんの携帯を見せた。それを見た親たちは絶句した。あ、その辺まともで良かった。

 思春期なので距離の取り方がわからないのでしょうと軽くヒロイン様をフォローしつつ、ひばりんが携帯を使いすぎたせいで解約したという事にして、少し距離を取るようにしてほしいと頼んでくれた。

 最初は、渋った雲雀母に雲雀父が泣き腫らしたひばりんを見て、奥さんを説得し約束してくれたのでホッとした。

 そうなると、……眠たくなってくるんだよねー。

 今何時だろ。……十一時近いよ。


「ルカ、眠いのかい?」


 んー、いつもは寝てる時間だからね。あと、今日はよく歩いたし。お喋りもしたし、気疲れもしたよー。


「すみません。うちの子が…」

「いいえ。こちらこそ、お世話になって」


 うんうん、お世話したよー。これでヒロイン様が多少落ち着けば良いけどね。


「月夜、ほら、手を離しなさい」

「う、うん…」


 一度、ぎゅっと手を握る力が強くなったが、すぐに手が離れた。

 うんうん。あとは、ご両親に任せるよ。

 ふらふらーっとしたら、お父さんに抱き上げられた。姫だっこだよ。お父さん、細マッチョ。


「では、私たちはこれで」

「ええ、遅くにうちの子が…」


 うん、もうだめだ。


「秋月!」


 ひばりんの声がする。なんだよー。眠いんだよー。


「……ありがとう」


 瞼が重すぎて、ひばりんがどんな顔してたかわからないが。うん、


「おやすみぃ」


 強制ブラックアウト。

 私の長すぎる一日がようやく終わった瞬間だった。



 そして、次の日の朝、私が不良になったとお母さんに泣かれ、お姉ちゃんには笑顔で「ごめんんさいは?」と反省を促され、未来のお義兄様であるリンには片倉さんから、きっちりと事情説明と共に見知らぬ外国人二人と一緒に(悪魔と天使だよ!)との報告を電話で受けていたらしく、にこやかな尋問を聴きながらモーニングコーヒーを啜るはめになった。

 天使サマー、どう考えても運が下がりすぎてますよー。



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