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クラスメイトにゴミ箱の行方を聞かれ、撤去した旨を伝えるとガッカリされた。
それから記念撮影は丁寧に断った。制服に戻ってからにしてください。
私は黒歴史を量産したい訳ではない。
歩きながら『華藤林之助』の事を考える。ーーリンが居る以上、私はもう『華藤林之助』に心を寄せることはないだろう。
『秋月ルカ』は、父親の代わりがほしかった。
今の私は、お父さんとリンと……少しだけ心を寄せ始めている神取がいる。
父親枠は飽和状態だ。
代わりはいらない。
でも、お姉ちゃんは?
彼はお姉ちゃんの恋人だった。未だにその枠は空いている。
……記憶があるから嫌だなんて我が儘で身勝手だと主張する自分もいる。『秋月ルカ』が誘惑しなければ良かったのだと……でも、それでも……。
「……あ、すみません」
ひばりんの演劇を見ようと二階の視聴覚室に向かう。ー体育館から時間枠を弾かれるくらい弱小らしいーと。考え事をしていたら誰かにぶつかってしまったので謝り、相手を見上げ確認すると、スマホを持った私服のサメっち。オラオラ系?っていうんだっけ?
「「……」」
お互いに沈黙し、目を丸くした。そしてーー、
「なんだよ。その珍獣姿は!?」
「私の可愛さをいかんなく発揮するためだよ」
「はあ?ナルシーなのか?」
ココさんの言葉だよ。しかし、何故いる。
「うさちゃんなら、体育館だよ」
「いや、ツレと待ち合わせなだけだから」
その言葉に私は衝撃を受けた。サメっちに友人だと!?
「サメっち、ちゃんと他者にも見える友人かい?」
「よし、女子とか関係なく殴らせろ」
なんたる暴力発言。将来DV男になりそうなので、ますます教育が必要なようだ。
「名前は?同じ学校なのかい?煙草とお酒はまだ早いよ」
「清々しいくらいオレを貶めるな!?」
高校生になったら悪い友達が出来るはずだ。そして、初体験がまだな事をからかわれて女主人公様に手を出すんだよね。前世のネットで書いてたよ。
「証拠を見せたまえ」
「……」
サメっちが諦めてスマホを見せた。
「!!」
私は画面に映っている奴の姿に戦慄する。
「前までうちの学校に居たんだけど、こっちに引っ越して近くの深託に編入したんだよ。久しぶりに会おうってここの文化祭の券が有ったから待ち合わせって……?シスコン、なんで肩を震わせてんだ?」
「この……っ!」
「ん?」
信じていたのに君は私と同じシスコンで姉に近寄る輩を一緒に退治してくれると。
「愚か者!!」
看板を振り上げる。
「おい、何看板持ち上げてんだ。危ない!!」
持ち上げた看板をサメっちが取り上げる。なんだと!?
「ふふん、持ち上げても叩かんぞ。お母さんが泣くからな」
「無駄なことすんなよ!誰だよ。この珍獣に武器を与えたのは!?」
「生徒会だ!!」
「ちょっと、ここの生徒会なにしてくれやがんだ!?」
途中で書記の先輩が来てサメっから看板を取り上げ、私に看板を返し「ツーアウト!」と去って行った。見張られている!!
「まだ、持たせるのかよ……」
「信頼度が違うからね」
「……ツーアウトだろ」
サメっちが呆然としている。
「仕方ない。君を見張る正当な理由が出来た。私について回ると良い」
ふんぞり返って宣言すれば、まだ呆然としているサメっち。あたりを見回している?
「サメっち?」
「……なあ、」
「なんだい?」
「オレ、ついて回んないとあの人たち、敵に回すのか?」
いつの間にか集まっていた風紀委員の方々と見知ったクラスメイトがサメっちの言葉にうんうん頷いている。
君たち、暇なのかい?そして、やはり見張られている。
「憂鬱だ」
「仕方なかろう。君の友人は我が姉を狙う敵だ。ーー叩きつぶしてもらう予定だ」
「何悪人面で言ってんだよ。しかも他人任せかよ」
肩を落としながら私に見張られることと友人ーー『華藤林之助』から着いたメールが有ったら教える事を了承したサメっち。藤咲さんの名前を出したら一発でOKを出した。さすが暴君。
あと、奴の呼び名を聞いて「は?華藤だけど?」というのでスリーアウトにはならずに済んだ。『リン』と呼んでいたらもう一回、物理が火を噴くぜ。がおー。
ふぅ…と、ため息を吐きながらふらふらと視聴覚室に入室すると、先に来ていて椅子に座っていたセラ様が私に気づいて近寄ってきてくれた。
その分、サメッちが硬直した。ーーわかるよ。美しすぎる罪を。
……このままセラ様に惚れたらそれを理由にココさんの紹介も拒否してやろ…、
あれ?ココさんいない。
「おい、シスコン」
「なんだい、サメッち」
「……綺麗すぎて怖いんだけど、あの人」
「は?」
「なんか……眩しい」
目を細めて、手を合わせて拝むなサメッち。
しかし、セラ様の美しさに恐怖を感じるとは……浄化されてるんじゃないか。色々。
じゃあなんで私の汚れた心は浄化されてないんだろう?
「……何故二人で私を拝む」
「なんかありがたやーって気分なんで」
「自分の不信心ぶりを嘆いて」
セラ様、呆れきった表情は止めてください。
「誰だ?」
「サメッちです。三下とシスコンの同志です」
セラ様が一歩引いた。
「お前と同じ存在だと…?」
「違います!つーか、シスコン!お前、どんだけ色んな人に迷惑かけてんだよ!?」
「つつがなく生きたいのにね」
「答えになってねえ!」
同意を求めたのに怒鳴られた。何か有ったのかと光原さんもこちらに来た。
「ルー…と?」
「サメッちです。ココさんを狙う三下です」
「オイィーッ!」
なんかサメッちが言ってる。気にしてはいけない。面倒だから。
「心美を…?」
光原さんの視線に険が籠ってしまった。私の後ろに隠れるなサメッち。
第一の壁だぞ。
「な、なんかものすげえ殺気だった色気ただ漏れな人は誰だよ!?」
「ココさんの幼なじみ兼ワンコの光原暎さん」
「ワンコなんて可愛い存在じゃねえよな!?」
「普段は天然不思議ちゃんだぞ」
「その時に紹介しろよ!」
「いや、ココを狙ってる時点で無理だろう」
セラ様正解。
「で、こちらはセラ様」
「セラサマ?」
「セラだ」
「……なんで、様付け……」
「美しいからだよ」
セラ様、チョップはリンの特技です。
サメッちは、何か納得したように頷いている。……美しいと納得するのだな。
「鮫島陽翔ッス」
どうやら、自分が勝てる相手ではないと早々に気づいたらしく、頭を下げて挨拶するサメッち。
さすが、私が三下だと見込んだだけはある。
「心美に下手な気持ちで近づくなら許さないから」
「い、いえ!そのような」
光原さんの牽制に怯えるサメッち。
「テル、ココの交遊関係を狭める行動は慎め」
「……うん」
セラ様が光原さんを咎めると、大型番犬はワンコに戻ってしまった。くぅーん…という鳴き声が聞こえた気がする。
「ですが、サメッちは悪い虫なので鍛え上げるという意味でどんどん牽制してくださいね!」
「シスコン!」
「ルー、ありがとう」
光原さんに感謝された。ふぅ、良い事したね!
セラ様、頭を押さえて頭痛でしょうか。
「そこの人たちーっもうすぐ始まるので静かにしてください」
注意されてしまった。
ココさんが不在なのはマナルンに生物部に誘われたかららしい。女の友情を取ってる。……やはり同い年の方が楽しいのかな?ちょっと、疎外感。
演目は推理ものだった。……誰が犯人かを光原さんに聞いたら、「多分、伯爵令嬢」と答えが返ってきたので、サメッちを見ると「……」ソーッと視線を外された。
セラ様は興味がないようだが、ひばりんが出てきた時は少し嬉しそうにしていた。ーー親か。
光原さんのいう通り、伯爵令嬢が犯人だった。
脚本はオリジナルらしいので、光原さんの推理力に脱帽だ。
「この後どうするの?」
「ゴミ箱の確認を」
こんなにゴミ箱に気を配る私は、きっと女子力が高いのだ。……何かを失ってはいる気がするけど。
「手伝おう」
「いえ、サメッちがいるので」
「なんでだよ!?」
「君の友人を叩き潰すためだよ」
「お前の姉にちょっかい出そうとしたばかりに……華藤かわいそ……」
それでも来るなという連絡をしないということは、同じシスコンとして私に同調してくれてるのだろう。 正直来るなとメールしてくれた方が助かるのに。
……ゴミのぽい捨てがあった。窓のふちに置きっぱなしの缶。中身はない。うむ、
「呪われろー」
「藪から棒になんだよ!?」
サメッちが煩い。
そして、通りすがりの藤咲さんとそのお友達らしき面識のある方が固まっている。
「じょ、女王ちゃんがやっぱり発信源なんだね」
「確定!?」
「鮫島、なんでいるの?」
「葵さん!このシスコン、どうにかしてください!オレの友人がピンチっす!」
藤咲さんとサメッちが仲良くなってる!
「秋月、なに?」
「サメッちの友人がお姉ちゃん狙いなので」
「鮫島、諦めろ」
切り捨てられたサメッちがショックそうな顔をした。
「俺、リンと秋月を敵に回したくない」
「何その凶悪なコンビを敵に回すのか。サメッち、逃げろって伝えてやれよ」
ケラケラと藤咲さんの友人がサメッちにアドバイスをしている。
「あと女王ちゃん、なんのコスプレ?」
「怪獣パジャマです」
「がおー?」
「がおー」
皆ノリ良いな。しかし、スマホを向けるのはやめてください。
「写メはお断りしております」
「まじで?」
「マジです」
しかし、藤咲さん、チョーカー気に入ったのか学校にまで着けてきている。うちの学校校則ゆるいからなー。その分、自己責任の割合が高すぎる。
「葵さん、そのチョーカーダサいッスね」
なんだと!?
悪気なく私のセンスを非難しやが……ん?なんか寒い、
「さ、サメッち、逃げたまえ」
藤咲さんから絶対零度の空気がっ。
「鮫島、なに?」
「い、いえ……シスコンに似合いそうだなって……」
なんの言い訳にもなってないよ。
「藤咲、落ち着けって。そうだ、女王ちゃん。掲示板見た?」
「なんのですか?」
「生徒会の」
知らないので頭を横にふるとおいでおいでーと手招きされたので近づく。と、
「ほら、秋月」
何故か気だるげな藤咲さんがスマホの画面を見せてくれた。「おーい、藤咲君?」と友達が呆れてるけど良いの?
「…何故、私の行動が書かれているのでしょう?」
「天久と桜田のアドレス知らない奴もいるから」
「意味がわかりません」
「体育祭でうろちょろして、いろんな人に探されてたでしょ?だから、見かけたら皆報告してるみたい」
……過去の所業で見張られているようだ。
「シスコン…」
ジトーっと白い目はやめたまえ。サメッち。
「……オレの事も書かれてる……“新しい被害者(笑)”って」
「新しくもないのにね」
「そこじゃねえよ!」
じゃあ、どこだよ。
「後、生徒会役員からのお知らせってとこに桜田が」
「えーと『我が校名物のお片付けの女王に噛みつかれぬように姉である秋月丸代に男は近づかない事をお薦めする。近づく他校生には優しく“近づくな危険!”と注意してあげよう』…シスコン」
読み上げたサメッちが、私に優しくない目をする。
「学校中を味方にして、オレの友人の恋路を邪魔すんなよ!」
「バカな。学校中な訳はなかろう。三割くらいは敵だ」
「意外と多いな!」
少なく見積もったつもりだよー。
「藤咲さんたちは、これからどこへ?」
「野球部の女装喫茶」
サメっちが、うぇっと変な声を出した。
「女装なんて何が楽しいんすか?」
「友人の嫌がる姿」
「葵さん、性格悪いっす」
今さらだよー。
「誰か一人くらいは目覚めてるかもしれないじゃないか」
「……」
サメっちが今まで以上に冷たい目をしてきた。偏見だぞ。
「秋月も来る?」
「葵さん、オレは?」
偏見に満ちているくせに何故行こうとするんだ。
「来なくても良いよ」
サメッちがショックを受けたようだ。
「んー、まだゴミ拾いがあるので」
「そう、じゃあ、後で連絡するから一緒に回ろう」
「?はい」
藤咲さん達が行ってしまった。……サメッち、ゴミ拾いの手が止まってるぞ。
「なあ、やっぱり付き合ってるのか?」
「藤咲さんは女嫌いだよ?」
「……お前は別枠とか」
別枠と言えば確かにそうだ。『契約』してるし。
ポケーッと考えていたら、他の風紀委員の人が私に走りよってきた。
「女王、風紀委員の仕事離れて良いよ」
「何でですか?」
また生徒会のホームページの掲示板を見せられた。
「これを見て女王がいる場所にゴミが集まってるから」
話を聞くと私以外はお暇なようだ。確かに短時間でゴミがたくさんあるなと思っていた。
最後の方だけ手伝ってと頼まれ、風紀委員の腕章を外して、看板だけもって歩く。
「なあ」
「なんだい?」
「女王ってどんな経緯でなったんだよ」
知らないよー。
掲示板に誰かが“女王、休憩中” と書き込んでいる。……風紀委員の誰かかな。
「ゴミはゴミ箱へー、ポイ捨ては、許しません。……付き合うなら真剣に」
後ろのサメッちに言い聞かせるように繰り返す。……なんで、うろんげな瞳をしているんだい。「音痴で耳に残る…」ってうるさいよ。
まあ、特に問題はない。
「サメッち、なにか見てみたい催しはあるかい?」
「あー…、午後の葵さんが参加する室内楽部の演奏とマン研の本が欲しいのと、歴史研究部の冊子とか?」
……サメッちがオタクだと云うことがわかった。
「藤咲さんと仲良くなったね」
「……あの人に逆らっちゃいけない気がして」
三下臭が留まらないようだ。
サメッちの希望の場所に行くと生徒会メンバーに出会った。……見張られてる。
しかし、楽しい行事をあまり親しくもない相手と回る苦痛をサメッちとともに体験している。
「サメッち、大変苦痛だね」
「お前、いくら温厚なオレでもそろそろ怒るぞ」
藤咲さんからメールが着たので、待ち合わせ場所を決めてそこに行こうとすると、サメッちが拒否した。
「邪魔だろ?」
「何を言うんだ。見張られてる分際で」
無言で頭を絞めるんじゃない。
「ふ、甘いな!会長より痛くないぞ」
「誰だよ!?っていうか何この手慣れ感!?」
脱力して手を離すサメっち。それにしても泉さんも見つからないし、『華藤』からの連絡もない。
お姉ちゃんの方はゴン様が居てくれるから、滅多なことには巻き込まれないだろうし。
待ち合わせ場所の一階にあるクラス前に行くと、アディーが藤咲さんに何か話しかけているのが見えた。……びくびくしながら何してるの?
「アディー、藤咲さん」
「るかーっ」
いきなり私に抱きつこうとしてきたアディーの首根っこを掴む藤咲さん。美少女姿だよ!?
「何、あのエロい美人!?」
悪魔だよ。君の背中を狙っている悪魔だよ。
「ちょうど良かった。鮫島、これ預かって、余計なとこに行かないようにして」
「いきなり難題!?」
「るかー、種が育ちそうだから、いっしょに」
私は無言でリンにメールし、セラ様に念じ、念には念を入れて、隣に居るだろう光原さんにセラ様にアディーを預かって欲しい旨をメールで送った。やだ、この子、地味に迷惑。
「……なんで、頭を撫でてるの」
「いえ、一応努力は努力なので」
「おれ、出来る子になってる」
きらきらと褒めろ!と言わんばかりのアディー。人目がなければチョップしているのに。
藤咲さんが無言でアディーを撫でていた手を掴む。
「じゃあ、鮫島、しばらく預かってて」
「え、アディーの企みを」
「聞いたから」
心底嫌そうな顔で、藤咲さんが急ぐよ。と……。何故、手を繋いでるんだろう?
そして、サメっち、アディーの隣で途方に暮れた表情はやめなさい。狙われるぞ。あと、友人からメールが着たら絶対連絡しなさい。忘れたら許さんぞ。
ーー私も途方に暮れた表情をしたい。
「いらっしゃいませ、珍獣様」
「日比谷さん、『お帰りなさいませ。お嬢様』じゃないのかな?後、肩をつか……揉まなくても良いよ。こってないから」
「サービスデス」
青筋をたてながら私の肩を揉む日比谷さん。何故、私は剣道部の催しの執事喫茶
なんてまさに敵陣に赴かねばならなくなったのか。
眼鏡を外し、深託の制服を着た会長と同じ席に座るという日比谷さんに喧嘩を売っているとしか言えない状況。
さすがにここは避けてたよー。
私を敵視している日比谷美憂がいるんだもん。それと執事服を着て、にっこりと私に微笑みかける泉さんの姿も確認し、
「日比谷さん、注文決まったんだけど」
「はあ?水でも飲めば?」
日比谷さん、それ、喫茶店に来た意味ないから。




