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 結論から言えば、長谷部さんに怒られたのでちょっと怒りがしぼんでしまった。しょんぼり。

 市長に振り分けられたお仕事の最中だったらしい。

 ……長谷部さんは、天使に惚れられやすいらしく、情報を喋らせ聞くという役割があるらしい。

 大人、汚い。


 しかし、逃げようとした天使なお姉さんは藤咲さんに睨まれたら、びくりっと肩を震わせ、光原母の記憶を消去した事は自白した。


「た、頼まれただけよ…ッ」



 人通りのある場所で話すこともできず、近くの中華店に入り、個室で四人席について話し合う。

 藤咲さんがもう諦めたような表情でお茶を飲んでいる。長谷部さんが昼食を食べていないのでと適当に注文し、好きに食べてくださいと目の前に皿が並べられた。杏仁豆腐、おいしい。もぐもぐ。

 

「そういえば、貴女の存在を万葉さんがお目こぼししててくれたんですか?」

「………」



 ぎりぎりと悔しそうに歯噛みしている。

 プライドを刺激されているんだろうか。そして長谷部さんは、何事もないかのようにチャーハンをもぐもぐ食べている。



「秋月、たぶん、力が弱くて死にかけて『この土地』に来た天使だよ」


 呆れたような藤咲さんの言葉に思いっきり藤咲さんを睨みつけるお姉さん。ふーん。



「ええ、あの悪魔が歯牙にもかけない小者です」



 長谷部さん、意外と辛辣ですね!そして、小籠包をはふはふしながら食べている。なんて緊張感のない空間なんだ。



「ですが、今回は随分な大立ち回りですね。今後、『この土地』で生きづらくなります。何かお考えでも?」

「は、長谷部君と一緒ならどこへだって」

「行きませんよ。今の私は、赤人様に逆らう気がありません」



 すごいきっぱりとしたお断りだ!……え?情報だけ貰ってポイ?

 は、長谷部さんが悪党に見える!!



「小賢しい人間なんて私達、天使がすぐに」



 バッサリ切られたのに粘るねお姉さん。



「ーー父さんに害を与える気?」



 ぞわっと隣でお腹のそこから冷える声を出す藤咲さん。

 さ、寒い。

 



「と、父さん?」

「藤咲市長のご子息です」



 ぎょっとしたような顔をしなさんな。先程名前を隠して良かったよ。この反応でよくわかった。やはり、同じ臭いがする。……三下か。チッ、大物ではなかったか。

 しかも頼まれただと?まだ誰かいるのか?

 しかし、狐様のお守りで体調を崩したとなれば、やはり光原母に良くない感情が有るのだろう。

 ふむ、やはり痛い目に……。



「光原さんのお母さんがお嫌いでしたか?」

「……」



 沈黙。ーーそして、長谷部さんを見るか。



「光原冬馬という人を知っていますか?」



 やだ。舌打ちしたよ。この三下め。今の私には暴君がいるから強気だぞ!ガルーッ。



「私じゃないわ」



 ぽつり、と呟いた。



「冬馬君に何かしたのは私じゃないわ。私に頼んだ奴よ。……有希さんに気持ち悪いくらい執着していて……」

「うん?」



 有希って誰だっけ?とちょっと思考が飛んだ。


『『『光原さんのお母さんじゃないのー』』』


 脳内会議、ありがとう。



「天使の執着心にも困ったものです」



 ふぅーっとため息を吐き、それのせいでかなり苦労してる人が何か他人事だ。



「み……有希さんの記憶を消去して何がしたいんですか?その方は」

「……」



 何故か目があいません。ちらちらと長谷部さんだけを見ている。



「助けられませんよ」

「違うわ。……その、子供にしていい話か。こういうこと、長谷部君は気にするでしょ?」




 生前プラスαだから大丈夫だよ!と心で頷く。そして、長谷部さんが基準かよ。



「秋月、何か目が輝いてるよ」



 藤咲さんがお姉さんに早く喋れと促した。言いづらそうにちらちら長谷部さんを見たのち口を開く。いや、どう見ても脈ないよ?



「……真っ白な彼女が欲しいと言っていたわ」



 ………どうしよう。意味を察して鳥肌がたった。

 心からの嫌悪に助けを求めて藤咲さんと長谷部さんを交互に見たら、二人とも沈痛な表情で、ドン引いてる。『記憶消去』が肉体まで出来るかもって推測している私はさらにドン引きたい。



「秋月さん、春雨も美味しいですよ」

「ありがとうございます!」

「二人とも現実逃避しない」



 空気を換えたいらしく、皿に盛ってくれた。もぐもぐ。……正直食欲がわかない。



「冬馬君も有希さんも、初恋が実った同士で………」

「そんな二人に横恋慕?しかも無理矢理手にいれようって訳?」



 藤咲さんが嫌悪と一緒にあきれ返ってる。もっと言ってー。



「仕方ないじゃない!こ、この気持ちを抑えろって言うの!?」

「だいたい、冬馬って誰?」



 藤咲さん、そこに戻りますか。あ、天使なお姉さん、目が点ですね。



「え?ぜ、全部バレてるとかじゃ…」

「いいえ。私だけです。しかもまだ確信がありませんでした。自白ありがとうございます」



 ぺこり、と頭を下げる。ふぅ…やはり、強者の居る場での尋問は楽だね!

 三下と小悪党は身の安全の為に口が滑りやすい。特に強者の前だと。今ここには藤咲さんという暴君が居る。



「あと、今回の件について、雑貨屋のお兄さんにお話ししておきますね。わざわざ、セラ様のお手を煩わせる訳にはいかないので」

「ーーあの突然、邪魔してくれた天使はッ」



 可愛らしいお顔が一気に鬼の形相に。

 そして、まだ何かするつもりだったのか。やはり、手加減無用だね。



「私の契約天使です。問答無用で『記憶消去』されない分、ありがたいと思ってくださいね」



 にこっと微笑みつつ、声音は完璧に低音でドスを利かせる。サーッと血の気が引いているようだ。



「は、長谷部君!」

「お気持ちに答えられないので、望ましい形かと」



 淡々としてらっしゃる。



「それに天使は一途だと聞いていたのですが、冬馬とかいう方と私の二股ですか?」

「え……?」



 呆然と自分がいかに語るに落ちたをしているのかわからず困惑している。




「だから、状況を察してるの私だけです」



 万葉さんの真似して怪しくうふふっと笑う。それに藤咲さんが嫌そうな表情をした。三下なりに色々覚えてるの。許してください。



「あ、あの天使に…」

「いいえ、皆様、私にたくさんお話くださるので、足りない頭ですが一生懸命組み立てながらの推理です」


 ゲーム知識もあるけど!



「ーーッ頭おかしいわ!」



 ヒステリックに叫ばれてしまった。

 んー?

 くつくつと笑う。やだ、滑稽な。



「人の記憶を勝手に消す天使様はどうですか?しかも、ご自分の都合で」

「神の使徒に愛されるのよ。光栄だと思えないの!?」

「その上から目線、止めてくれません?」

「上から目線?私とお前が対等とでも?」



 長谷部さんにハッキリふられたから猫を被るのを止めたのか。

 それとも、今回の事記憶消去しちゃう気なのかな?

 さて、どうしよう。ここまで暴露してくれたから腹立たしいけど、後は天使同士の話にしてしまっても良いのかな?


 正直敬う気になれないし救済処置として送られた場所でなにしてるんだか。

 睨んでる相手にきつい目つきで睨み返すが、私よりも藤咲さんが視線を送った方が怯えているように見える。むう、やはり格の違いか。

 お互いににらみ合っていながら、さて、雑貨屋のお兄さんへどう繋ぎを取ろうかと考えていたら、



「では、逆に聞こう。お前程度の力で、私をどうするつもりだ」



 突然のバリトンに私は鳥肌がたった。



「ヒィッ!」



 思わず悲鳴をあげてしまった。振り替えれば市長が居る。個室に入ってきやがった。

 驚きすぎて、藤咲さんの後ろにバタバタと回り込む。



「し、市長!」

「お呼びしておきました」



 しれっと必要でしょう?と、出来る男か長谷部さん。

 藤咲さんも固まっている。



「『この土地』で、私に喧嘩を売るうつけが居るとはな」



 スーツ姿が今日もバッチリ決まっております!今日は黒コート着用ですか。やだ、素敵!!



「秋月、なんで揉み手を始めてるの?」

「きょ、強者が…っ、圧倒的強者が居て怖い!ささ、藤咲さん。あとは大人同士でのお話あいなので逃げましょう」



 藤咲さんの手を握り、部屋から退出しようとしたら、乱暴に襟首をガシッと掴まれた。



「居ろ」

「やだーっ!」

「葵」



 藤咲さんが、裏切った。

 申し訳なさそうに私の手を引いて席に座るように促す。ぐすん。不安なので居て欲しいと頼んだら隣に椅子を並べて手を握ってきた。……藤咲さんも震えて不安なようだ。

 長谷部さんが自分の座っていた席を空け、市長に譲ってコートを預かっている。



「人間ごときが」



 お姉さんからばちばちっと稲光が見える。

 やはり、人間ではないのだな。



「……」



 あ、市長、鼻で笑いますか。性格の悪さが透けて見えますよ。



「小娘」

「ひゃい」

「これをどうする気だ」



 ハンパない威圧感を感じるーっ。召喚したかった訳じゃないよー。

 どうしてこうなった。

 なんだか温度がない目で見られている。答え方を間違ったらいけない様な。うむ、攻撃される前に応えるか。



「『この土地』に根ざした天使に判断を委ねます」

「何故」

「この件が放置されているのか気づかれなかったのかを計る為です」



 緊張しながら、語る。……本当はもう関わりたくない系だと気づいたからだが。



「……」



 藤咲さんに似てるけど冷たさが増した碧眼で見られると怖い。

 先程と違って、暴君という防波堤がない。

 いや、アマリリスのカードはある!今日はちょっと強気にいけるね!!



「私を無視する…っ」

「『黙れ』」

「……っ!?」



 あれ?天使なお姉さんが市長の言葉で金魚みたいにパクパクするだけで、何も話せてない。



「どうやら『この土地』に嫌われたらしいな。……そのうち淘汰されるだろうが、使えるうちは使ってやろう」



 怖いぃーっ!

 何事もないように私に視線を向ける市長。怖いよ。



「あ、あの…血を飲ませなくても」

「何故、説明しなければならない」

「残ったご褒美に!」


 あ、何か考えている。長谷部さんがひそひそと何かを耳打ちすると、ちっと忌々しそうに答えた。



「『この土地』の市長には、『この土地』を護るだけの力が与えられる。特に勘違いを起こしている天使や悪魔を潰すだけの力を『この土地』が与えてくれるーー葵が継ぐ位置はそれだけ『この土地』の寵愛を受ける位置だと云うことだ。その分の責任も重い」

「……」



 ごくりと、藤咲さんの喉が鳴った。

 ん?でも。



「自分が気に入らなかったら潰せるって訳ではないですよね?」

「その通りだな。自分自身が気に入らないで潰せるなら、天久家とお前をとっくに潰している」



 ギャースッ!

 市長は私がお嫌いか。……あれ?天久家も?



「あのガキ…、忌々しい事に小賢しく振る舞いやがって」



 チッ、と舌打ちですね。わかります。そして、あのガキって誰ですか。教えてくれたら助かります。



「万葉が油断したせいで、こんな三流以下に足元を掬われるとはな」



 すぅっと……さらに温度が下がった目でお姉さんを睨んでいる。



「赤人様、宜しいでしょうか」

「なんだ」

「天使は一途ではないようです」

「……そんな訳は」


 怪訝な表情をする。長谷部さんは私の考え、否定派なのかよくわかってないのかどっちだろう?あ、記憶消去の可能性の話してないからか。ん?そういえば、記憶消去について自然に話してたけど知ってたのかな?



「その天使は、私と冬馬という方を同時に思っていらっしゃるようです」



 市長の動きが止まった。目を丸くし、長谷部さんを凝視している。



「それと、かの悪魔が私を認識して冬馬くんと呼んだのですが、うっかりご報告が遅れましたので申し訳ありません」



 ………あんぐりと、開いた口が塞がらない市長。

 長谷部さんは、報告を終えて満足そうだ。



「お前はーっ!」



 あ、なんだか藤咲さんが私を怒る時に似た表情で市長が怒り始めた。



「どうして、そんなのんびりしているんだ!『命じて』も、うっかりで忘れるとかなんなんだ!!天使から引き離しても、たまに外に出すと惚れられて帰ってくるとか、いい加減にしろよ。俺も、あいつに借りを作るのはいい加減止めたいんだぞ!?」


 この様子では、お仕事ではなく惚れられたついでに情報を貰って来いということのようだ。あいつって誰だろう?万葉さんは違うとして候補として、神光の理事がちらつく。



「申し訳ありません?」

「なんで疑問系なんだ!昔から、いつもー…ッ。ーーいや、気おつけろ」



 私と藤咲さんのポカンとした表情に気づいたのかすぐに改める市長。

 ただ、必死に怒りを抑えてるせいかカタカタ震えている。



「市長」

「なんだ」

「長谷部さんは、光原冬馬さんでしょうか」



 あ、警戒心むき出しで睨むのは止めてください。

 私は、自分に起きた状況を信じられないと言わんばかりに喉を必死に声を出そうとしているお姉さんに冷めた目を向けてから、市長に質問を続ける。


「天使の」

「禁忌だ」

「はい?」

「普通はしない。出来ない。ーー『この土地』だから出来る」


 謎々かな?

 もっと、優しくわかりやすく情報を教えてくれないものか。



「『この土地』では、己の神に『感謝』が届かないと言う天使が居る」



 そういえば、セラ様がそんなことを……。


「言い換えれば、どんなことをしていてもも見張りや裁く相手が近くにいないと云う勘違いが起きると云うことだ」

「はい?」

「ここに来た天使がどのようなタイプか思い出せばだいたい推測できるだろう」


 えーっと、力が弱かったり、罪を犯していたり……。罪を犯した天使は傲慢だったり……いや、力が弱っている天使も『感謝』を心得てないとかだったな。傲慢で一途で……恋が叶わないと狂う……、あれ、鳥肌がさっきよりたってきたな。さ、寒い。


 ぶるりと、肩を震わせていると市長が話を続けてきた。


「この天使は、容姿が美しくない」


 話が飛んだ上にとんだ暴言!!



「ふんわり癒し系ですよ!?」

「お前の契約天使を思い浮かべろ」



 ……他の追随を許さぬ美しさだった。並んで見劣りしないのは、狐様と喋らないアディーくらいだ。



「これのように人間側に近い容姿は、惚れっぽく力が弱い。惚れた相手の好みにある程度容姿を合わせるくらいしかできない」


 長谷部さんを見たら、頷いている。……光原母、スレンダーだよ?あ、でも出るとこは出てた。後は、姉御系だったような……。ふんわり癒し系が好きな長谷部さんが光原冬馬って推理は間違い?恋は好みとか関係ないってやつ?



「逆に力が強く神に愛されている天使は、容姿が美しく……美しすぎて反吐が出るが」



 この人、何か有ったのだろうか。


「葵の姿を見ろ」

「はい?」


 突然、何故、藤咲さん?



「あれがお前の愛されたいという願望のある歳の頃だ」

「はい?」



 こてんっと、首を傾ける。



「見た感じは高校か大学……十代後半あたりか、まだ成長しているのだから二十歳そこそこか。契約した悪魔か天使に言われなかったか。この姿の方が楽だと云う姿か契約するときになっていた姿がお前を堕落させやすい年代だと。葵も堕落させようとしたお前に合わせたようだが。お前は葵が勝手に堕落させようとした相手だからな。手順も何もかも拙い。……力任せだな」



 ギギギッと変な音をさせながら藤咲さんに頭を合わせて視線を向ける。と、云うことは私は藤咲さんを通してこの歳に恋愛したいのーっといろんな人にアピールしてたってこと?

 藤咲さんが気まずげだ。そして、知らなかったようだ。

 アディーの時はアディーが正気じゃなかったけど、確かに青年姿が楽って、セラ様の契約時も青年姿……、



「後は、敵意がない場合は幼子の姿を取ることが多い」



 あ、狐様、私が好きな姿ではなく本能的に敵意がないって表してくれてたのか。


「聞いているのか。小娘」

「ひゃい……」



 腕を組んでイライラしたような声音だが、待ってほしい。心の準備っていうか精神がごっそり削れた。何この羞恥プレイ!?もうう、床と仲良くなって気持ちのままゴロゴロしたい。


「はっ!じゃあ、契約悪魔と天使が超絶美少女な姿を取っていた私に百合疑惑が!!」

「気づくことはそれだけか」


 かなり重要なことだと思うのに市長の声は低い。温度がないのかのように冷たいし。


「お前に与える情報が多すぎると思わないのか。と聞いている。確か『多すぎず心躍るような』だったか?」


 それっぽい事を言った気がするー。な、なんだ。不安になって藤咲さんを見たら、藤咲さんの顔色から血の気が引いてる。どうしたの?何か間違った?


「あおーー」

「赤人様」


 藤咲さんに声をかけようとした市長を遮って、長谷部さんが口を開く。それに不愉快そうに眉間に皺を寄せたけど、すぐに真顔に戻る。


「なんだ」

「第一秘書の轟から早く帰れコールが」


 にっこりと、微笑み携帯を差し出し指す長谷部さん。……こっちの用事が終わったので早く帰れですね。わかります。


「……」


 憮然と携帯を眺めてもどうにもなりませんよ。市長。



「秋月さん、『この土地』に根差した天使の居場所を教えてください」

「あ、はい」


 近寄ってくる長谷部さんに藤咲さんが不安そうに視線を向けたがにっこりと笑みを浮かべるのみ。私が学校の近くの雑貨屋を教えて、多分、市長と一緒に行くと見えないということを伝えると「わかりました」と返事が。


 それから、名刺を渡されたのち、ひそっと耳打ちされた。


「ほら、葵さんを助けてしまったでしょう?」



 にこやかに底の知れない笑みを浮かべる長谷部さんにゾッとした。






 

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