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7



 ーー雨が降ってきたので公園行きは中止になって、忌まわしき記憶のある駅のショッピングモールでウィンドショッピング!!



 私は警戒している。



「ふ、藤咲さん、ランジェリーなお店に行ったら迷わず暴君から変態に進化しますからね!」

「……それ、退化だよね。秋月」

「あ、ついでにお父さんが藤咲さんの事嫌いな理由に下着をくれたのが藤咲さんだとばれているのも含まれています」

「ッ!?」



 お母さんにはあの後、やはり神取がくれたと誤魔化したが、それを聞いたお父さんがお礼と釘を刺す為に神取に電話して嘘が発覚した結果、追求されたのであっさり吐いておいた。

 その時は、暴君を庇う気にならなかったんだよー。



「あ、あの時のは……っ」


 藤咲さんが珍しく動揺している。


「藤咲さんが選んだ訳じゃないとわかっているので、勿体ないので使用しておりますが、やはり代金を支払わせて………藤咲さん?」


 獣柄を買ったと言った藤咲さんの言葉とは違い、貰った品は初心者に優しい仕様だった……そういえば、この前、私を着飾ってくれた『花』のお姉さんに似てる人が店員さんにいたような……。気のせいかな?

 着物、返すの太刀川さんが請け負ってくれたけど、あんなに私好みにしてくれたのにお礼しなくていいのかな?と悩んだのでお礼のお手紙を書いてみた。……太刀川さんの眉間の皺が凄いことになったので止めよう思ったが彩さんをいじめないでとお願いも書いたので持っていって貰った。

 着物は、天久家ではなく、個人の貸し出しだったらしく、返さなくてもいいものだって、あーたんから彩さんがそう言っているとメール貰ったけど、気になるよねー。

 なんて思考を飛ばしていたら暴君が座り込んでしまった。何か耳が真っ赤だけどどうしたの。



「……手順の一つだったんだ……」



 ぼそぼそと何か言ってる。



「リンがいない間に『堕とそう』と思って……最短で、秋月が明らかに苦手にしてる分野からって……だから、違うんだ」



 人が行き交っている場所で踞るのは良くないよ。



「藤咲さん?」

「……最悪だ」



 立ち上がってくれたけど、頭を抱えている。

 ついでに夕飯に誘ってみたら「なんでこのタイミングなの…」と弱々しい声音だ。

 でも、すぐに仕方ないなって表情で微笑んでから、「お邪魔するね」と、あ、気分を害している訳じゃない事にホッとする。



「この時期は秋物が大安売りだね」

「それでしたら、春に着れる品を探してみます」

「……」



 決意を固めたら、藤咲さんが呆れている。な、何故だ。



「藤咲さんは?」

「俺?……あー……身長いきなり伸びたから、…全部買いたさないといけなくて」



 そういえば、そうだった。藤咲さんは一気に私が見上げなくてはならないくらいに身長が伸びたんだった。

 成長期とはいえ不思議だ。



「この服も長谷部さんが適当に買っておいてくれた物だし」

「長谷部さん…」



 む、長谷部さんの話が聞きたいが、市長に繋がる話だから今日は自重した方が……、



「父さんと『契約』してる人の中であの人だけ毛色が違うんだよね。……のんびりしてるっていうか、トゲトゲしさがないっていうか」



 やはり噛み砕けない感じの人なのか。イカかタコみたいな感じ?



「……あの人を追って、『この土地』以外の世界があるって知って……」



 あ、遠い目をしてる。

 くいくいと、服の裾を引っ張って見上げたら、苦笑で返された。



「……ゲームセンターがあるから行ってみる?」

「はい、それならば藤咲さんを格ゲーでぼこぼこにしてみせます!」



 ふふん、自信があるぞー!と胸を張ったら、藤咲さんがにやりと悪どい笑みで返された。




 結論、ボコボコにされた。



「……秋月、弱いよ」

「そ、そんな……黄金の左手が」



 お姉ちゃんにたいして接待ゲームになるほどの私の腕前が瞬殺された。

 ガタガタガタ。



「片倉や遵にも秒殺されるよ」

「なんですと!?」

「リンとは対戦しないの?」



 そういえば、リンは私とお姉ちゃんがゲームセンターで対戦していたら生暖かい目を向けるのみだった。



「保護者的な目で見られてました」

「……他のゲームしよう」



 異論はなかったので、早々に席を立つ。



「ガチャガチャありますね」

「好きなの?」

「コンプリート出来ないので、あまり」

「太鼓叩く?」

「頑張れ、藤咲さん!」

「ああ、音痴だったね」



 楽しそうに笑って上級者向けで叩き始める藤咲さん。むぅ、上手い。



「音ゲーといえば、踊りましょう!」

「何気に俺を疲れさせる方向に誘導してない?」

「くふふ……私が踊るので見ていてください」

「わあ、不安しかないね」



 棒読みかつ藤咲さんの表情がひきつっている。仕方ないのだよ。動かないとカロリー消費が……う、右足出しそびれ……え、左足を後ろ?



「秋月、棒立ちになってるよ」

「テンポが速すぎて…っ」

「初心者向けだよ」



 知ってるよ!

 ううっ……、近くにいたカップルにクスクス笑われてる。



「藤咲さん。笑われてます」

「君がね」



 躍り終わってトコトコと藤咲さんの元に戻ると、慰めてくれなかった。ちょっと他人のふりしてないか。



「藤咲さんも踊ってください」

「めんどくさい」

「何故ですか!子分の仇を討ってください!!」

「いつから?」

「え?主従関係ですから」



 デコピンされた。



「大きな声で言わないように」



 額がヒリヒリする。



「ダンスよりクレーンゲームとかどう?」

「あの猫パンチなクッションが欲しいです」

「貰える前提なんだね」

「あ、スロットもありますよ!私の腕前を」

「……秋月、絶対ギャンブルに手を出さないで」



 私は堅実な貯蓄派だというのになんたる誤解。

 猫パンチなクッションを取って貰えたのでご満悦だが、買い物するには邪魔だとコインロッカーに預けてからショッピングモールの方に戻るとどこかで見覚えのあるひばりんより赤い髪が……、あ、あっちもこっちに気づいた。



「シスコン!」


 どうやら、話し合いが必要な関係になってしまったようだ。



「同志だよね!サメっち」

「変なあだ名つけてんじゃねえよ!!」



 真っ赤になって吠えたが……藤咲さんに睨まれて黙る。相変わらず見た目詐欺のようだ。



「確か鮫島だったっけ?なんでいるの?」



 威圧的な藤咲さんに見た目ワイルド、中身子兎がびくびくしながら、答える。目をそらし、言いにくそうに、でも、否定的ではないというスタイルで|鮫島陽翔⁽メインヒーロー⁾は口にした。



「……姉さんの婚約祝いを買いに」



 その瞬間、私の涙腺がおかしなことになった。



「なんでお前が泣くんだよ!?」

「う、うらやましくて…」



 ぽろぽろと流れる涙、私はいつその幸せに恵まれるんだろうと泣くと、藤咲さんがそっとハンカチで涙をぬぐってくれた。

 えぐえぐと大泣きはしないけれど、涙を流す私をスルーし、藤咲さんはメインヒーロー様を睨んだ。



「前の時でわかってただろ?」



 何がだろ?



「……これの姉、これをどう扱ってるんすか」



 微妙な敬語だなサメっち。

 そして、藤咲さん、それにはノーコメントだね。



「ああ、秋月、先走ってお祝いとかしないようにね」

「はい!」



 藤咲さんの言葉にこくこく頷く。デリケートな問題だと思うので、うさちゃんが教えてくれるまで黙っているつもりだ。



「私も早く皆に『お姉ちゃんとリンの婚約が決まった』と報告したいです」

「……相変わらず相手指定なのか?」



 何故呆然としているんだ。メインヒーロー。

 藤咲さんが言いづらそうに肯定した。



「指定」

「相手かわいそう!」

「バカな。うちのお姉ちゃん、まじで美人だ」

「いや、お前見た目詐欺だからな!!どんな良さもお前が妹な時点でマイナス面が大きすぎる」

「ふ、バカな。リンは私にー…」


 ……薄っぺらくなったんだった。

 思い出してしょんぼりと、黙りこむ。



「秋月?」



 藤咲さんが不思議そうに顔を覗きこんできた。



「な、なんだよ。やっぱりお前の存在が重いって言われたのか?」

「うぅん、薄っぺらいって」

「逆!?……す、すげえな相手」



 やはり、サメっちの見た目詐欺は止まらないようだ。私とシスコン以外にも共通する匂いがする。

 そう、小者臭という。



「サメっちと私、似てるね」

「はあ!?どこがだよ!!」

「性格が残念で見た目詐欺、三下同盟を作ったら入る?」

「入らねえよ!」

「今なら暴君がついてくるよ?」

「秋月、ちょっとどこかでじっくり話し合おうか」



 あ、藤咲さんがちょっとお怒りのようだ。



「……結局、お前ら付き合ってるんじゃねえか」



 威圧するようなサメっち。しかし、なんだと!?



「私は今接待の最中だぞ!」

「デート」



 藤咲さんが訂正してきた。むぅ…こほん。



「接待デートだぞ!」

「……一気に如何わしく響いてるんだけど。でも、君に俺達が付き合ってるとか関係ないでしょ」

「……う」



 サメっちが視線を逸らした。見た目詐欺なせいで一時的にモテても長続きしないからね。一途に思ってくれている幼なじみである女主人公を手酷く振った上に……周りがどんどん大人と思われる経験をしていくから、焦って関係を迫って、女主人公を妊娠させて他の女に走る……どうにかこの男に女の怖さを教え込み、二度となめた真似が出来ないくらいに叩き潰す方法はなかろうか。



「藤咲さん」

「なに?」

「女って怖いなーって思わせる方法あります?」

「秋月と一緒にいると常々感じる」



 なんだか望んだ答えと違う。

 仕方ない。ーー私的に軽く脅しておくか。


「サメっち」

「その呼び方、認めた訳じゃ」


 じーっとサメっちを見つめる。覚えている知識で脅さないと。



「後ろから刺される人生は嫌だよね?」


 見つめる。だって、それしかできないから。



「純粋な目で怖いこといい始めてんな!」


 純粋?ともかく語らねば。



「このままのサメっちだと近い将来、身近な子から」

「具体性まで持たせはじめてやがる…っ」

「すごいよー」

「何が」

「場所とか選ばずに恨み言だけ繰り返してねー。新しい彼女の前で」

「……やめて、温度のない目で怖い話をするのは止めてください」

「一撃でね……うん、そしたら良かったのにね」

「なんだよその間!?」



 私は、ぽんぽんとサメっちの後ろに回り刺される予定の背中を叩く。



「命を大事にしてね」

「……」



 そーっと三歩下がって物理的に距離を取られた。



「誠意のない対応しないようにね。悪魔は貴方の背中を狙っている……」


 君の『悪魔ルート』だからねと心で付け加えておく。



「おい、彼氏な先輩!これ、どうにか出来ないんすか!?」

「……」


 藤咲さんに助けを求めるとは、やはり三下としての才能が有る様だ。しかし、



「藤咲さんは彼氏ではありません。告白もなくなんとなくで付き合うなどあり得ぬ!」

「じゃあ、秋月、好きだよ。付き合って」

「ふぎゃああああっ!!」



 暴君が精神的に追い詰めてきた!!なんたる悪ノリ!!



「……鮫島、あの様子の秋月が誰かと付き合うってまだ無理だから」

「せんぱい、かお真っ赤っすよ」

「うるさい」



 道に踞って与えられたダメージを必死に受け流していると、サメっちがぽんぽん肩を叩いてきた。



「邪魔だぞ、シスコン」

「煩い。同志。君のせいで精神力が多大に削げたじゃないか!慰謝料を寄越しなさい」

「お前すげぇよ。逆にオレが欲しいくらいだわ」



 一通り釘を刺したが、まだ心配なサメっちのアドレスを要求すると、サメっちは、遊びで作ったという名刺を素直に渡してきたので藤咲さんに流す。



「……ねえ、秋月」

「この流れはなんなんだシスコン」



 男性陣の目が冷たい。



「私の携帯に登録されるには、サメっちはまだまだ修行が足りぬのだよ」

「秋月の携帯に遵のアドレスあるよね?」

「ふお!?」



 何故かばれてるっ!

 あーたん、なんにも気にしないで連絡取ってるのか。凄い神経だ。いや、なんも知らないから、あーたんにとっては普通のことなのか。



「あ、あーたんは、……あーたんなんでリンとお姉ちゃんの誕生日知ってたの!?」

「教えたから」

「犯人は藤咲さんか!!」

「分かりやすすぎるから暗証番号変えなよ」



 さらっと酷い。

 そして、サメっちがあきれ返っている!

 バカな、私の中では日比谷さんと君はシスコン同盟のメンバーだぞ!



「で、デートの邪魔だからどっか行ったら?」



 藤咲さんが辛辣だ。



「姉さんに何買ったらいいかわかんないのでアドバイスが欲しいっす」

「ハンカチか櫛……時計」

「なるほど」



 メモしている。真面目だ。

 しかし、めんどくさそうな藤咲さんの言葉を鵜呑みは危険だぞ。同志よ。



「意味は?」

「ハンカチは手切れ、櫛は苦や死の連想、時計を目上に贈るのは『より勤勉に』という意味があるから失礼」



 サメっちがメモを取るのを止めた。



「靴下と靴も目上に渡すと踏みつけるって意味だったかな」



 なんだと!?

 私、ひばりんに靴下渡している!!

 ち、違うんだ。ひばりん。踏みつけたいとかないから!!



「秋月、何を心配してるのかわからないけど目上だよ?」



 はっ、ひばりんは友達だ。ふぅ…、危ない。



「ギフトカードとか使ってる化粧品を買って渡せば?サプライズなんてしないで本人と一緒に買い物でもして」



 何か藤咲さんが冷たい気がする。どうしたんだろ?



「彼氏な先輩、デートの邪魔したからってひどいっす!」

「煩い。彼氏じゃない。秋月が断言してるだろ。あと、鮫島、名前覚えてないからって適当に呼ぶならーー『堕とす』よ」



 目が据わってる上でドスの効いた声で本気の脅しだ!

 あ、私の後ろに隠れるのですか。サメっち。

 バカな、私も震えるほど怖いのだぞ。



「秋月、行くよ」

「で、でも…」



 ちらちらとサメっちを見てしまう。



「何、鮫島が気になるの?」

「はい、同じシスコンとして気になります」



 お姉ちゃんとリンが婚約したというならば、私はご近所様に号外新聞を作って配る予定だ。

 そして、バーベキューを振る舞い、幸福のお裾分けをしようとは思っているが、お姉ちゃんとリンの為のお祝いがわからない。

 是非、サメっちで成功例か失敗例のサンプルを見たいものだ。



「ただ、うさちゃんに微妙な気分になって貰いたくはないのは確かなので、人の心を巧みに操る藤咲さん監修のもとのお祝品を見たい気がするのです」

「さりげにハードルをあげない」



 はあ……と、重いため息だ。



「婚約だけなら、やっぱり、祝いたい相手のいつも使用している消耗品だよ。タオルとかは使用期限が過ぎてても大切にする人がいるから。……執着できない物の方がいいと思うよ」



 執着する理由なんて、いくらでもでっち上げできると思うけど、藤咲さんが最小限にしようとしているのにはなんとなく気づいてしまった。

 そして私と視線が合わない。



「……結婚祝いで頑張るしかないのか……」



 残念そうなサメっち。



「シスコン、一応姉さんと同性として何を貰ったら嬉しい?」

「お姉ちゃんと」

「わかった。黙ってくれ」



 出だしで止められた。うーむ、



「花とか良いんじゃないかなー」

「そうか?例えばどんな花」

「青紫のライラック」


 ぼそりと、藤咲さん。

 サメっちがメモリ始めたので、私はそっと携帯を出して検索してみる。



「藤咲さん…」



 検索結果に思わずジトーッとした目をしてしまう。



「人の言葉を真に受けると痛い目にあうって授業だよ。鮫島、青紫のライラックは婚約破棄の申し出の品だよ」

「!?」



 あ、メモを破らないで!痛い目にあった授業の形として残しなよ!



「ぶ、ブリザードフラワーとか可愛いよね!」

「手元に残って重い」

「妹や弟からのプレゼントくらい手元に残してください!」

「俺、一人っ子だからね」



 藤咲さんが冷たい!

 あれー?ゲームセンターから出た時は、機嫌が良かったのにどこで間違ったの?



「……シスコン、デートに戻れ」

「え?接待に?」

「デート!そうっすよね!先輩!!」

「接待デートで良いよ。秋月」



 やばい本気で気分を害している。

 思わず藤咲さんを見上げて、やはり、ちょっと不機嫌?拗ねてる?



「藤咲さん」

「なに」

「はい」



 そそっと近づいてバッグを持っていない手で藤咲さんの腕の部分の服をちょっと握ってみる。で、デートだからね!



「?何」

「で、デートなので腕を組もうかと」

「……服を掴んでるようにしか見えないけど」

「やはり、ですか」



 そっと腕から手を解かれてしまった。……頑張ったのに。

 そしたら、手をぎゅうっと握られたのであわあわと挙動不審になる。なんねん!どうした。暴君!?



「手、繋ぐ方が慣れてるでしょ」



 ーー確かに。



「俺は慣れてないけど」



 ……嫌み?

 バッグを持ってくれた。……藤咲さんがくすくすと笑って機嫌が浮上した様だ。な、何がお気に召したの?



「……滅べ。バ○ス」



 サメっちは、見た目詐欺、ヘタレ、女にだらしない、シスコン、中二と五重苦だったらしい。



「今のうちにどこかへ行きなよ」

「いえ、なんかもう邪魔してやりたい気持ちが……たとえ誰に嫌われようとも、ぼっちな同志がオレの味方の筈っす!」

「なに、友人がいないのかサメっち。なら、私も味方だよ!」

「お前は敵だ!」



 なんだと!?

 あっさり吐き捨てられた!どこが敵だと言うんだ。




「ルー!!」


 突然の聞き覚えのある声に辺りを見回すと、人垣をかき分けてココさんが大荷物を持ってこちらに走ってきた。

 やだ、私の姿が視界に入っただけで嬉しそう。…すみません、調子に乗りました。



「ココさん、どうしたんですか?」

「おばさまのもとに着替えと遵のご家族にお世話になっているから、お礼を買ってたの」



 にこっといつものお嬢様スタイルではなく動きやすく黒のパーカーと黒のパンツスタイルのココさん。あ、頭にひまわりヘアピンを付けている。



「あとはね、テルの中学校入学の時のアルバムやDVDを持っていく予定なの。おばさまと一緒に見る予定なの。ようやく、遵が来ても良いって許可をくれたからうれしくて。あ、でも、おばさま、お仕事には出てるのよ。なんだか梅の香りがするお守りを持たされてるけど……ふふ、遵って信心深いのね。意外」



 そのお守りはかなり効果の高い品となっております。藤咲さんにも気づいて、挨拶している。若干テンションが高いココさんに引いてる。


 待ち合わせの時間が迫っているからと名残惜しげに今度、お礼にうちにお邪魔するねと言い残してからココさんは行ってしまった。


 ……サメっちの視線が何か訴えている。


「なあ、今の可愛い人誰」


 え?可愛い?美人で可愛い人なら知ってるけど?



「紹介しろ」

「やだ」

「どストライクなんだ!!」

「ココさんは君には勿体ない!!私とセラ様と光原さん、そしてひばりんという壁を越えていかねば誰にもやれん!!」

「確実に婚期が遅れるコンボだね」


 なんだと!?


「同じ三下として頼む!!シスコン追加でも良いぞ」

「何!?」

「秋月、友情を大事にしなさい」



 これ以上邪魔されたくなければ登録しろとがっつりとアドレスを押し付けられ、サメっちは去って行った。何故だ。解せん。


 藤咲さんがメールしている。


「どうしたんですか?」

「予算訊いて、ちょっとお洒落なレストランを紹介中。選んだら父さんの紹介で予約してあげようかと」



 どうして、その優しさを面と向かっているときに出さないのだろう。この人。

 手を繋いで色々店を回る。……あ、ショーウィンドウの前で立ち止まる。


「?どうしたの」

「ちょっと待っててください」


 いそいそと繋いでいた手を離してお店の中に入り、急いで物を購入し待っている藤咲さんのもとに戻ったが、ちょっと不機嫌だ。


「いきなり、どうしたの」

「可愛いチョーカーを見つけたので」


 はい、と藤咲さんに購入した物を差し出したら目が点だ。



「……何?」

「藤咲さんのイメージだったので、どうぞ」



 紙袋を無言で開ける藤咲さん。品を見たらさらに困惑している。



「俺に?」

「はい。藤咲さんは気位の高い血統書付きの猫みたいな感じなので」


 ワンポイントに赤いリボンを付けた黒猫が付いたチョーカーを怪訝な顔で見つめる藤咲さん。

 ふふん、どうだね。この微妙な嫌がらせは。


 下着の時のお礼と地味な嫌がらせが入ってるぜ。

 誇らしげに藤咲さんを見たら、……あれ?「バカだ」って、なんで口元を押さえて下を向くの?


 着けてもくれず、ただちょっと繋いだ手の力が少し強くなったと思って店を見て歩くのを再開したら、あれ……?


「長谷部さん?」


 藤咲さんの呟きと、私はもう一人の知り合いの姿に固まる。


 あの人はー……!!


「具合が悪いと訊いていたのですが?」

「長谷部君に会ったら、なおったの」


 甘ったるい声に最初の好意的な気持ちがガラガラと音をたてて崩れ、なかったことになった。むしろマイナスだ。へえ、……貴方でしたか。



冬馬さん(・・・・)



 恐怖を藤咲さんの手をぎゅうっと握って誤魔化し、私は、ーー私はにこやかに微笑んで被害者と加害者の前に立つ。


 長谷部さんが、私と藤咲さんの姿に目を丸くし、そしてー…ふくよかで可愛い系なお嫁さんにしたいと思える光原さん宅で従業員をなさっていたお姉さんは、私を驚愕の目で見た後ににこっと、何事もなかったように微笑んだ。



「お客様、私たちにもプライベートが」


 やだ、何言ってんのかしら、コイツ。なので、にっこりと黙らせる。


「私、身内に甘いらしいです。ーー何、光原さんとココさんを悲しませて、セラ様に迷惑かけてんだよ。ああ、万葉さんの事、意外と私大好きなんだぞ。妥協って言葉を知らなかったんだね。ーーなら、私も妥協しないでいいよね」



 にこやかに追い詰めるぞ宣言をしたのにぱちくりと目瞬かせた。やだ、かわいらしいね。


「冬馬さん、この人、敵です」


 長谷部さんに向いて言葉を向ける。



「秋月、長谷部さんは」

「冬馬さんです。葵さん、私、本気で怒っているのでご協力をお願いします」


 にこやかに協力を求めると藤咲さんは面を食らった表情をしたけど頷いてくれた。


 藤咲って名前を出すと市長に繋がるかもしれないのであえて、名前で呼ぶ。


 そして、なんとなくだけど、同類の匂いを感じる。直前までサメっちと話したおかげかな?


 私をどぎつい目で睨んでるね。


 うんうん、私的にーー絶対、許さんからな。天使様。



 



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