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 アディーの伝言で、セラ様に大人しくしていろと通常の注意を受けた。

 役に立つよー。情報貰ってくるよー。……とはセラ様には言えない。セラ様の役に立つってどういうことだろう?



 ーー夢を見た。

 ……スーツを着て警察署内を歩く『私』。

 その姿に私の心臓は不整脈を起こし、必死に起きたい!起こして!!と叫ぶ。



 その拒否を起こして飛び起きると、まだ薄暗い。

 自室のドアを開けて、周りを確認したが皆寝ているようだ。



「アディー?」



 一緒に寝ていた筈のアディーもいないので、気分転換に携帯の電源を入れると、リンから雅さんのアドレスが送られていた。

 あと、何故か知らないメールが着てる。無視しよう。

 ……雅さんのは登録完了。

 そのまま眠る事も出来ず、そういえばと、片倉さんから借りている音源を聴いてみる事にする。

 何曲目かで『夢のあとに』が流れ始めたので、聴き入る。……あれ?佐伯さんのと違う曲?

 でも、メロディは同じ?

 首を傾げながら、イヤホンを耳にしたまま布団に潜り込むと、違う曲が流れ始める……なんだかホッと音だ。と目を閉じた。


「ー…ルカ、朝だよ」

「……お姉ちゃん?」


 夢の続きもなく、朝までぐっすりと眠っていたようだ。



「ーー凄い」



 子守唄の代わりを果たした音源様に感謝しつつ、朝食時にニコニコと片倉さんに音源を聴いた事と、『夢のあとに』の後に流れた曲が一番良かったと話しかけると、片倉さんも笑顔で返してくれた。



「一年前にリンが弾いた曲だね」

「そうなんですか?」



 リンが無言で立ち上がり、音源を出せというので渡すと、……そのままポケットに入れて席に戻った。

 なんで!?



「消したら返します」

「家に帰れば、パソコンにデータが入ってるから良いよ」



 はい。片倉さんの勝ちー。

 片倉さんの笑顔とリンの憮然とした表情。その自然な感じのやり取りに安堵する。


「あとで、秋月さん達の分も用意するね」



 秋月さんたちって言ったよね!?

 アニキ!

 今日は変な空気や気配を纏っていない片倉さんにお礼にご飯とお味噌汁のおかわりを用意します!と、お盆を出したら藤咲さんと佐伯さんの分まで頼まれた。

 ……お茶碗間違わないようにしないと。



「リンくん、おかわりは?」



 お姉ちゃんの言葉にリンは、いつも通りお茶碗を差し出そうとしたけど、止まる。



「リンくん?」

「あー…、いえ、ルカが珍しく動いているので、ーールカ、僕の分もお願いします」



 にっこり、と断るんじゃないぞオーラで魔王が威圧してくる。

 ……う゛、お盆のスペースは確かに空いているけど……、お姉ちゃんが少し悲しそうだけど、手を引っ込めて皆が私たち三人を不思議そうに見ている。

 なにかあったのかと心配している。

 

「すまない。私もおかわり良いだろうか?」



 もくもく食べていた雅さんが手を上げた。



「あ、はい」

「そうなると、ルーだけでは大変だな」

「そ、そうですね。はい、リンくん」



 大根役者も真っ青な雅さんの棒読みな気遣い。しかし、お姉ちゃんはホッとしたようにリンからお茶碗を受け取った。

 良かった良かった。

 リンが、複雑そうに笑顔を保って、すみませんって……、

 ……よくない傾向だ。


 佐伯さんに笑顔で見送られ、ーーあの人、学校どうしたよーー学校に着くと、それぞれのクラスに別れ、私が一年の廊下を歩いていると見覚えのある後ろ姿が……アディーが先に登校していたので話しかける。



「アディー」

「るか」

「夜居なくなったけど、どうしたの?」



 あ、顔が泣きそうに歪んだ。



「葵が…いっしょに寝るなって」



 藤咲さんかい!

 脳内会議といい、アディーといい、藤咲さん被害者の会が出来そうだ。ただ、私が重複している件について。

 本体と脳内会議は別物で良いのだろうか。



「子供の姿かその姿なら構わないよ?」

「…葵、帰るまで、やめる」



 ぐずぐず泣いているので、ハンカチを差し出すと……鼻を噛むんじゃない。



 教室に入り、机に座ってあーたんに『林之助』の写メを頼む。……もしかしたら、名字が変わっているかもしれないから、名前だけ記入しておく。……出来れば会わない事がお互いのためだと思うんだけど、彼は記憶が無いかもしれないし、有ったとしても………あんまり考えたくないな。

 日比谷さんが取り巻きと一緒に教室に入ってき、私を睨んだのでーー会長に自撮りを頼むメールを送ることを決意した。

 すぐに『馬鹿』と返信が返ってきた。わかっていたことだ。……雅さんか片倉さんに頼もう。

 あ、泉さんも教室に入ってきた。目が合うとニヤリ、と笑われた。

 ……企んでそうだ。梅のお守りもなくなったもんねー。そろそろ、力が有って傲慢じゃない天使様を探さなければいけないのだろうか。


 放課後になったので、藤咲さんがいう通りに生徒会の手伝いをせずに、お姉ちゃんが帰るまでの時間を教室で過ごそうとしたら、副会長のお姉様に捕まり、昼休みに来なかったねーと心配され体育館の使用時間が重複している部の訂正をしたけど、これで良いかと担当の顧問に聞いてきてと頼まれた。

 ーー私、来期の生徒会役員を目指せそうなくらい頑張ってる!


 そして、頼まれた件の報告に生徒会室にお邪魔したら、雅さんから雑務係と云う手作り感満載なネームプレートを頂いたので、さっそく着けて与えられた雑務を来なそうと廊下を歩いていたら、


「あ、雑用の女王、足りない物があるんだけど」




 ……………呪。


 そろそろ、女王呼びもどうにかしたい。

 会長の写メも送られてこないし、さっき撮ろうとしたら、アイアンクローをされたし、まったく、会長め。

 私が廊下で日比谷さんに絡まれるのは会長のせいだぞ!


「写メが遅い!」

「待ってくれたまえ、敵もなかなか頑固なのだよ。いっそう偽造品に走ろうとか考えたけど実行しない私を誉めたまえよ」

「………何を偽造しようとしたんだ」

「兄の方に眼鏡をかけて貰って」



 やめてください。グーは、さすがにやばい。



「……実行しなかった事は誉めるわ」



 怒りを静めてくれたようだ。

 しかし、何故我々はこそこそと隅に移動して話しているのだろう。



「……日比谷さん、お友だちは?」

「文化祭の準備」

「貴女様は?」

「アンタ、変な口調だね。……姉と気まずくてちょっと休憩中」



 なんという悲劇!



「私だったら泣くよ!?」

「知ってるよ!アンタのシスコンぶりは!!」



 怒鳴られてしまった。

 同士だよねー?違うの?シスコン万歳!な同士だよねー。



「なんか……アンタ、元気ない?」



 ………何故バレた。



「姉夫婦が…」

「重い」



 一言で切って捨てられた。そんなツッコみもなしに捨てなくても。有るでしょ、ツッコみどころ。



「アンタ、前に愛は重たくても気づかれない程度にしろって、あの図書委員に言ってた癖になんで自分は出来てないのよ。バカなの?」



 ここにきて特大のブーメランだと!?



「か、家族愛は自重しない!」

「藤堂鈴は他人」



 ……心が吐血しそうだ。

 ギリギリギリと歯を食いしばって日比谷さんを睨む。くそ、弱味を握ってやる。



「アンタのからかい方がわかったわー」



 優越感に浸ったような顔をしおったな。いつの日かその顔が苦痛に歪む日を待っておれ。くくっ。



「会長の写メを撮ってくればもういわないけど?」

「はい!お嬢様!!いますぐいって参ります!!」



 ビシッと敬礼したら、携帯が鳴った。ーー片倉さんからメールだ。そのメール案件ににやりと笑う。



「なに?」

「会長の写メ、着物と寝顔どっちがいい?」



 ふふん。一枚渡してもう一枚は渋ってやるんだから。



「両方」



 まったく選びもせずに二枚とも寄越せとな!?なんたる強欲。

 しかし、下っ端根性でつい両方渡してしまった……ぐすん。

 雅さんからも写メが。……これは、後から利用しよう。

 あと、もう一通“思い出した件について”ってタイトルが着た。



「どうしたの?」

「撮れたてと普通のメールが」



 雅さんのまで取られた。ぐすん。




 雅さんからも、誕生日には神取に会うなとメールを頂いたので、行きづらくなったから大丈夫だと返信を返した。

 安心できないらしく呼び戻された件について。

 雅さんが室内楽部に行くタイミングで生徒会室から出て、保健室によると誰もいなかったので、そのまま話をする。



「『秋月ルカ』が『花』になるキッカケになる事が起きる筈だ」


 前置き無しな雅さんにそのまま疑問をぶつける。


「神取が、私に何かさせるんですか?」

「いや、店がだ」



 店がなんだろう?



「確か『花を育てる』場所にマナーを覚えさせるつもりで着飾り、連れていった神取からはぐれた『秋月ルカ』を客の一人が部屋に押し込めて」



 ぞわっといつかの夢を思い出す。あの生々しい感覚が『秋月ルカ』の記憶なら……。



「な、なんではぐれたり」

「金を掴まされたギャルソンに酒を飲まされるからだ。酔った君を介抱するふりをして」



 ……あれ?近い記憶にあるような……。



「あーたんに出会った時に」

「……飲まされたのか?」

「はい。でも、道に迷って…あーたんに喧嘩売りました」



 雅さんが考えている。



「昨日、君の家に行き驚いた」

「はい?」

「父親に人間味が有った」

「お父さんは天使でも悪魔でもないですよ?」

「そうではなく、……情の薄いタイプだと思っていた。なのにーー」



 私をちらり、と見る。



「君がリビングのソファでリンの膝で寝ているのを見て、どす黒い殺気を放ったが……リンであれなら、私だったらどうなったのだろうと」

「雅さん、話がずれてます」



 軌道を修正して置いた。

 でも、お父さん、なんでリンに殺気を放ったんだろ?



「出来れば今後、神取と太刀川に会うのは止めなさい」

「太刀川さんも、ですか?」

「『秋月ルカ』に罪悪感を感じ付き従っていたからな……。はっきり言えば『秋月ルカ』があそこまで幅を利かせられたの太刀川のおかげだ。あまり、彼に頼りすぎて力を借りる事が当たり前になるのは……」



 もうなってる気がする。

 そーっと視線を下に向ける。と雅さんは、気づいたらしく、



「今の発言は勝手なルーの行動制限だな。君が気をつけてくれたり、何が有っても気持ちを強くもってくれるなら構わない」


 ……本当に過保護ではないらしい。何気に厳しい。



「出来るなら、誕生日は外出せずに家で家族に祝って……」

「その日は祝って貰えません」



 あ、雅さんから急激な気温変化が……っさ、寒い。



「それは……あの父親のせいか」

「いえ、父方の父母がいつもうちに来るので」

「祝いに?」



 ほほえましい話じゃないかと、雅さんが空気を和らげた。……どうしよう。言いづらい。でも、黙っていると怒られそうなので口を開く。……、あれ?今まで言いたくなかった内容なのに藤咲さんに弱みとして教えたおかげか愚痴りやすくなっているようだ。



「えーと…、お父さんと血が繋がってない事がどこかからばれて、毎年嫌みを言いに」



 舌打ちしたよこの人!



「帰らせられないのか」

「宿も決めずにきちゃうので……代わりにホテルを取ると、お母さんを冷血漢みたいに罵るので、それに私が顔を出すと『他人が居ると心が休まらないわね』って言うので……部屋に籠って帰るのを待ちます」

「リンの家は」

「『母親に似て、もう男好きなのね』と、リンまで悪く言われかけたので……私ももう中学生なので、漫画喫茶とかネットカフェとかで時間を潰して」

「何を君は聞いていた。その日は危険だーーいや、常に危険だ」



 やはりか。

 しかし、そうなると、自室に引きこもって嵐が過ぎ去るのを待つべきか。



「……父親は?」

「追い出したりすると玄関前で泣くんですよ。あそこまで形振りを構わないと何か逆に心配になってきますね」



 にこっと以上秋月家の心暖まらない話。と締めると雅さんが深く重い息を吐いた。



「意外に佐伯は鋭いのかもしれないな」



 何故そこで佐伯さん?



「あ、きちんと後日に仕切り直して祝って貰います」



 今年のご馳走なんだろーとのほほんと口にすると、痛ましい者を見る目をされた……あ、雅さんも黒い瞳だから神取と重なる。

 『秋月ルカ』を見る神取もこんな目をしていたな……と。

 気分が急落した。


 帰る事を告げ下駄箱で靴を履き替え、誰かいないかチェックするためにと校門前を見ると泉さんが誰かと楽しそうに話していて、私が来たことに気づくと、また嫌な笑みを浮かべてその相手と去っていった。

 …何、怖い。



「秋月」



 あ、藤咲さんだ。



「リンはどうしました?」

「開口一番それ……?」

「お帰りですか?」

「いや、まだだけど。ちょっと、長谷部さんに着替えを頼みに電話してきたところ……」


 ん?なんだか見つめられてる?



「……」

「どうしました?」

「朝から気になってたんだけど……何か誰かにされた?」



 色々な方に何かされましたが?特に筆頭ですよね?

 そういえば、秘密を打ち明ける相手、藤咲さんと片倉さんはどうなんだろ?

 会長にもう話したのかな?


「秋月?」



 ……うむ、誤魔化そう。そういえば、



「ミューズってなんですか?」

「女神」

「お姉ちゃんですか?」

「………音楽の、女神」



 何か一瞬言いかけて止めたようだ。

 しかし、そうなるとさらに私がミューズな理由がわからない。



「何?」

「佐伯さんにそう言われたので」

「……軽かったね」

「驚きの軽さです」

「でも、ヴァイオリンの音色は一級品……才能って言葉を痛感したよ」



 今日も指つりそうって愚痴られても。



「そうだ。美術部ーーマルさんが室内楽部で見学してるから来る?」

「はい!」



 わーい。と藤咲さんの後をついていく事にすると、あともう一個気になる単語が有った事を思い出した。



「ミから始まってロープで終わる単語って知りませんか」

「……」

 藤咲さんが考えている。無茶ぶりすぎたのか。



「もしかして、ミザントロープ?」



 ……この人、どんだけ。そうか。話術は悪魔のたしなみだもんね。ギリッ。



「人間嫌いって意味だったかな」



 へー。



「藤咲さんとは真逆ですね」



 あれ?なんでそんな碧眼を丸くして私を凝視するの?

 だって好きじゃなきゃ忘れられて悲しいとは思わないよね?



「藤咲さん?」



 首を傾げて、どうしたんだろう?と見上げると顔を覆ってる。あーとかうーって……、はっ、昨日のリンと同じ反応。

 まさか傷ついてるの?

 俺、人間嫌いだぜ的な態度で居たかったの?

 あ、いや、待てよ。女嫌いだから、男限定だぜと……ッ!?


「顔、見るな」


 心配してさらに覗き込んだらなんという暴言。女嫌いもそこまで行くと天晴だな。ふ、……これは頑張って会長との仲を橋渡ししなければ………、



 あれ?脳内会議が何も言ってこない?



 待ってくれ。脳内会議よ。私が会長との仲を受け持とうとした瞬間から藤咲さんが覆っていた手を顔から退けて、すうっと冷たい目を……やだ、こわいぃー!!



 そのあと、片倉さんが助けに来てくれるまで、私は、藤咲さんの絶対零度の怒りに当てられた……うん、契約早急に見直そう。




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