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これから関わる悩みと長い一日の終わり。1



 迎えに来たのは、お父さんだった。車でお出迎えか。うむ、疲れた身体に有り難い。

 しかし、良かった。マジで、リンだったらどうしようかと思った!

 片倉さんが丁寧に状況を説明してくれて、ひばりんと主人公様ーー(いい加減皮肉かな)光原さんが私の頬について謝った。お父さんは、ぱちくりと目を白黒させて。


「ええっと…、誰がルカの彼氏?」


 ボケたこと抜かすな。私がうろんげな眼差しを送れば、お父さんがびっくりしたとばかりに。


「え?違うの。ついにリン君離れかなって。」


 さらにボケた事抜かすな。

 私は、絶対、お姉ちゃんとリンから離れんぞ。

 片倉さんが吹いた。この人、今日の私とリンの会話訊いてるからな。


「まだ、秋月さんはリンから離れないですよ」


 まだ、とはなんだ。絶対だぞ。

 しかし、外面百点ですね。片倉さん。私をちみっこ呼ばわりしたしていた貴方はどこへ?


「まだかぁ~、ルカは可愛いんだけどなぁ」


 なんで、ガックリしてるのお父さん。私、まだ中学入りたてだよ!


「『お父さん大好き!』なら、まだわかるんですよね。リンが大好きじゃ不安でしょう。日本は重婚許されてませんし」

「そうなんだよ~。リン君にはマルがいるからね」


 なんで、片倉さんとお父さんは通じあっているんだろう。そして、リンが重婚なんてヤだ!

 一途なリンが好きなんだい。

 私がひとりで憤慨していると、ひばりんと光原さんはなんにも喋っていなかった。気まずい沈黙。


「じゃあ、テル、雲雀。兄貴があっちで待ってるから行こうか」


 お父さんと片倉さんの話が終わって解散!となる所、なんと、ひばりんが渋り始めた。


「いえ、あの、俺は別方向ですし…」

「もう九時過ぎ。一人で帰せるわけないだろ」


 片倉さんが、ひばりんの言葉に否を唱える。

 確かに遅い時間だ。お姉ちゃんはそろそろ就寝している筈だ。むしろ、起きてたらビックリな時間だ。そんな時間にひばりん一人を帰すなんて非常識だと私も思う。光原さんも説得しているが、ひばりんは頑なだ。


「反対方向ってどっち?」


 片倉さんと光原さんがさらにひばりんに何か言おうとするのを引き止め、お父さんがひばりんに話しかける。


「あ、えっと…」

「あちらです」


 言いたくなさそうにするひばりんを遮り、片倉さんが指した方向はうちの方角だ。

 お父さんは、うん。と頷き。


「じゃあ、うちで送ろう」

「そ、そんな大丈夫です!」

「そうか。大丈夫か。じゃあ行こうね」

「え?…………え?」


 お父さんにグイグイ腕を引っ張られるひばりん。甘いな。私の父親だぞ。挙げ足を取る技術において、私の師匠にあたる人だ。



「凄いな」

「……犯罪の手口」



 否定できないところが辛いが、まあいっか。

 私は、片倉さんと光原さんに挨拶をして急いでお父さんたちのあとを追った。

 車の後部座席にひばりんと並んで座る。何故、助手席じゃないのかと言えば、助手席はお母さん専用なのだと宣うお父さんのせいです。


 車が発進したが、空気は重い。


 そして沈黙が痛い。


 お父さんは私に説教する気はないらしい。

 反抗期?と訊いてきたくらいです。違うよ。と言ったら反抗期が来たら教えてね。と、たぶん、無いと思うよ。だって精神的にお父さんより年上のつもりだから。

 ひばりんが、ずーっと窓とにらめっこしているので、私は黙る。お父さんは鼻歌を歌ってる。微妙に音痴。

 落ち込んでいるらしいひばりんにどう話しかけたら良いのか。生前の記憶がある私の社会的経験値よ!

 いまこそ、発揮されるべきだろう。


「ひばりん、ジュース飲む?」


 ジュースなんてどこにあったのかいって?

 私の頬を冷やしてたやつだよ。はい、私、アウト!

 ひばりんが私の方を見て、固まる。……ないよねー。私ならキレてる。お父さんもバックミラー越しにあーぁ、って顔してるのが見える。

会話の糸口として最悪なチョイスだ。

 ひばりんが固まって、ついで私の頬に視線が向いて苦々しい顔をしていく。あ、怒鳴られるかもと思った瞬間、唇を血が出るんじゃないかというくらいに噛み俯いた。


「ひばりん?」


 ぎゅっと拳を握り、俯くひばりんの表情を伺おうとしたら今度はイヤイヤと首を振る。

 見られたくないのか。

 しかし、肩が震えている。私は、バックミラー越しにお父さんに視線を向けるとなんにも見てませんよー。というふりをしてくれている。なんたるタヌキ。私は、シートベルトを外し行動に出る。


「ひばりん、ちょっとごめんよ」


 許可も頂かずに彼の頭を抱き込む作戦に出る。


「なっ!?」


 お父さんは、車を停めてくれた。娘の奇行に慣れてるだけはある。


「離せよ!バカじゃないか!?」

「うんうん。大丈夫」


 頭を抱き寄せるとひばりんが暴れる。

 しかし、離してやるものか。本当は背中に抱きつきたかったが、座席に座っている以上、横から頭を抱き込む。それに顔を見られたくないようだし。ちょうどいいか。勘違いなら、良い。私が嫌われるだけですむ。

 明日から、ひばりんは、私を気持ちの悪い女と避けるかもしれないが、今日会ったばかりの他人に嫌われようとも、だてにこの世界に生まれてから、姉の気持ちを無視して自分勝手にリンとの結婚を強要している無神経人間を自称しているわけじゃない。無理にでも、泣かせて見せようホトトギス!あ、雲雀だけど。

 昔、前世の記憶がよみがえっては憂鬱な気分になったり、突然泣き出したりした私にリンとお姉ちゃんが後ろから、私を守るように抱き締めてくれていた。そのたびにここに居て良いのだと、確認できた気になって安心した。

 たぶん、ひばりんは今、凄く不安定なのだろう。だから、一人になりたくて一人で帰ろうとしたのだろう。……片倉さんに任せていれば、もっと良かったのかもしれないけど。抱き着いたら、暴れて、バカ!だの女として終わってる!!とか、さんざん暴れられたが、フェミニスト気取りなひばりんが本気で私を傷つけないことも計算している。

 私は、打算に満ちた人間だ。任せろ。

だんだん、暴れる力弱くなってきた。はーとか、ふーとか、興奮気味だが人の体温とはそれなりに精神を安定させる効力がある。

 そして、かなり暴れたので、疲れて、見栄を張る気力もないだろう。ふむ、そろそろ、悩んでるなら、私のお父さんが力になるよと丸投げして良いころかな?

私は、頼りになるはずのお父さんに視線を向けると困ったような複雑な顔をされた。…なんで?


「……恥ずかしい」


 ポツリと、暴れるのを止めたひばりんが呟く。なんだろ。と耳を傾ければ、鼻を啜る音がする。


「…俺、いつか、きっと、心美を……嫌いになる」

「そうなの?」


 ひばりんが吐露した言葉に私は、首を傾げる。今肩を震わせ泣いているだろうひばりんが、誰かを嫌いになる姿が思い浮かばない。

 しかし、そんな私の態度に苛立ったひばりんが、怒鳴った。


「そうだよ!あんなヒステリーな馬鹿女を好きでいれるわけないじゃないか!だいたい、なんだよ。テル兄も心美、ここみって。昔は、楽しかったのに。中学生になってからみんな変だ!恋だのなんだの!ーー俺、小学校に戻りたい」


 叫ばれた内容に、ああ、……そうか。大人っぽい容姿なのに中身が追いついて成長してなかったらしいひばりん。

 小学生に戻った所でなんの解決にもならないのが理解できていないようだ。いや、どこに理由があるのかはっきりと理解したくない子供特有の逃避が見える。

 この子供っぽさが見た目に伴えば良かったのだが、彼は容姿だけはもう高校生みたいだ。だから、あのヒロイン様は、自分がのし掛かっても大丈夫だと根拠の無い自信で自分のモノ宣言までしてしまっているのだろうか。

 そんなの今のひばりんには、重すぎる。

 私は、ひばりんの頭を撫でながら、うん。うん。と頷いてやる。

 今のひばりんは、どこかで毒を吐かせてやらなければならないくらいに追い詰められているのだろう。



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