表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/153

9

 室内楽部からの迎えらしく藤咲さんに雅さんと共に生徒会室から連れ出された。

 ……藤咲さんが会長と一切目を合わさなかったので、暗い気持ちになる。

 喧嘩するほど仲がいいっていう言葉の意味を噛みしめた。



「役員でもないのに生徒会室に入り浸るのは良くないよ」


 目線を合わせずにそんなことをいう藤咲さん。嫌味なのか本当にただ心配しているのか。会長と仲良くするなってことなのか、私が悩んでいると、雅さんがはあっとため息の後に。



「いや、困った女王が会長によって大人しくなっているという噂が流れているので良いのではないか?それにルーは使い勝手がいい」



 雅さんのさらっとした否定にグッと押し黙る藤咲さん。私、そんな大暴れしてないよ?

 そして、生徒会の皆さん、私を便利に扱ってるんですね。……あ、会長の写メ忘れた。

 明日でも良いのだろうか。会長に自撮りを頼むべきか。……しないだろうな。



「そうだ。今日は私もリン宅に泊まりに行く予定だが、何を持っていけばいい?」

「え?」

「リンは一人暮らしなのだろう?食費か材料か…」

「リンはうちでご飯を食べてますよ?」



 何故、そんな不思議な事を聞くのかと首を傾げると、雅さんも首を傾げた。



「……毎日?」

「はい」

「食費は?」

「わかりません」

「……リンに聞いた方が早いよ。桜田」



 藤咲さんも若干、口元がひきつっている。何故だ。 携帯のバイブ音に気づいてチェックする。



「あ、お姉ちゃんからメールだ。今日はカレーみたいです。鯖カレーで良いですか?」

「待て、鯖カレーとはなんだ」

「……それ、メールにあるの?秋月の嗜好でしょ」



 鯖カレーは軽く拒否された。味噌煮がお気に入りなのに。

 二人と別れて、校門前に行く。今日は、マナルンはお家の人が迎えに来るらしいし、ひばりんは、ひばりん母と光原母をお見舞いに行くらしい。ーー症状については、情報が上手く伝わって来ない。ココさんも、家出している場合じゃないと光原さんの方へ行くのでお礼は後日にと伝えてくれとメールが有った。

 セラ様が対応しているようなので私が下手に動いてお邪魔しても良いことかまだ判断できない。

 なんだろう。なんとなく万葉さんのせいじゃないと思ってしまうのは術中に嵌っているせいだろうか?


「ルカ」

「あ、お姉ちゃん」



 校門前で見張りをしていたら、何故かアディーを伴ってお姉ちゃんが来たので、私は首を傾げる。何故女神と悪魔が一緒にいるんだろう。



「アディー、お姉ちゃんに迷惑かけてるの?」

「なんで!?」

「アディーちゃん、今日一人で淋しいって泣いてたから、うちに泊まるって聞いたの。ルカのお友だちでしょ?」



 ……仮契約の悪魔だよ。そして、よく不法侵入して私の部屋で寝てるのに。今日はどうした。



「セラ様は?」

「万葉、怒ってるからやだ」

「……忙しいって事?」

「……うん」



 お姉ちゃんの前で下手な事聞けないな。

 そして、私の気持ちを察して下手な事言わないアディー。偉いぞ。



「あ、そうだ。お母さん、今日少し帰りが遅くなるって」

「?お母さんが」

「うん。何か急に忙しくなったみたいで、スケジュールの調整がって」



 ………もしや、狐様じゃないだろうか。

 嫌な予感に太刀川さんに電話をしながら、夕飯の買い出しをしようとスーパーに向かう。

 太刀川さんに電話する事に、お姉ちゃんは少し不満気だけど、太刀川さんを悪く思っていないらしく見逃してくれた。

 案の定、太刀川さんが困り果てたような声でに電話に出た。仕事を引き継ぎさせようとする神取にどんどん断りづらい仕事が舞い込んでいるらしい。

 太刀川さん個人にも。

 ……一応、日曜日の午後に政人さんからお招きがある事を伝え、引き抜きの話になるかもしれないとも教えた後に、慌ててあーたんと会長に狐様の暴走をメールで伝える。

 はしゃぎすぎだよ。狐様。お礼なの?

 後、どうして、お父さんは残業じゃないのか。血なら泣くぞ。



「ルカ、しょんぼりしてどうしたの?」

「うぅん、なんでもない」



 スーパーでお姉ちゃんがカレーの普通の材料をカゴに入れていくので鯖缶も一応入れておく。

 アディーが刺身に興味があるのか凝視しているが、今日はカレーだ。合わない。

 そんなアディーに気づいたらしいお姉ちゃん。



「シーフードにする?」

「鯖缶はー?」

「リンくんに聞いたらダメだって」



 なんだと!?文句言わずに食べてたのに本当は食べたくなかったのか!?





「そういえば、今日、リンの食費について話題が出たの」

「ああ、一度、リンくんがお父さんに現金で渡したんだけど、お父さんがリンくん一人くらいなら大丈夫って断ったら、お米とか消耗品を現物で渡してくるようになったの。それも気を使ってだろうって断ったら、リンくんも困ったみたいで。『祖父から送られてくるから消費して貰えないとどんどん増える』って…」



 リンのお爺ちゃんって傍若無人か破天荒って言葉が似合いそうなイメージだ。



「一時期は、ご近所さんにも配って回ってたみたい、『適量って言葉を知らないのか!』って愚痴ってたの見たことあるよ。ルカも何の荷物か知らずにお手伝いしてたじゃない」



 ニコッと微笑みかけられた。そういえば、幼いころにリンが複数の紙袋を持って近所を歩いてたのを横取りして、どこに運ぶのか。浮気か!とか、手伝えばお姉ちゃんとデートしてくれるのか!?としつこく聞いた覚えが……。

 チョップが定番になったのもあの頃だ。



「……リンって、我慢強いね」

「そうかな?いつも、ルカと居て楽しそうだったよ…」



 あれ?お姉ちゃんが寂しそうだ。なんで?

 



「ねえ、ルカ」

「何?」

「リンくんなら、ルカを幸せにしてくれるんじゃないかな?」



 お姉ちゃんの言葉が理解できずに首を傾げる。

 リンが私を幸せにしてくれるのは当然じゃないか。



「それはお姉ちゃんをリンが幸せにしてくれるって事だよね?」

「私は……」



 キュッと唇を噛み締めるお姉ちゃんは泣きそうな顔だけど、堪えたように見えた。



「ルカの幸せが一番なの」



 なんだと!!



「じゃあ、お姉ちゃんとリンの結婚生活を一番近くで見続ける権利をくれるんだね!!」



 私が直ぐ様に脊髄反射のおねだりをしたら、お姉ちゃんが目を見開いた。

 ど、どうしたの?



「……『今』のリンくんと?」

「?今も昔もリンは一人だよ。お姉ちゃんの王子様だよ?」



 何を言ってるんだろう。と首を傾けたら、お姉ちゃんは何かを考え込んだようだ。

 なんだろう。



「るか、まる、買い物、おわり?」

「あ、ご、ごめんね。アディーちゃん……会計まだなの」



 会計を終え、一番重たい荷物を持とうとしたお姉ちゃんからアディーは荷物を奪って、お客様だからと渡された軽い荷物をお姉ちゃんに返した。

 偉いぞ。アディー!!

 買い物を終了して、スーパーから外に出ると駐車場に陣取っている焼き鳥屋の前に集団ができている。……そんなに美味しいのかと、私がじーっと見つめているのを感じ取ったお姉ちゃんが内緒ね。と買ってくれるようだ。わーい。



「アンコール!」

「もう一曲だ。にいちゃん」



 移動式の焼き鳥屋さんの車の近くで誰かがパフォーマンスしていたらしい。

 私がその人を視界に入れた瞬間ーー『私』が震えた。



「『お兄ちゃん』」

「え?」



 思わず『私』が漏らしてしまったので慌てて口を押さえてなんでもないと首を振る……黒髪のツンツン髪、勝ち気な茶目。まったく違う。容姿と色合い以外はまったく『お兄ちゃん』じゃない。

 だらしなさとセンスのない服と……人が良すぎて損していた雰囲気……『お兄ちゃん』が、きちんとして、自信に満ちていたら美形だったんだってなんだか泣きたくなった。人の良さしかイメージになかったけど。似ている彼に一瞬泣きたくなったが、ヴァイオリンを構えて弾き始めた彼の姿に本当に別人なんだと強く思えた。

 ……綺麗な曲だ。なんだろう切ない気持ちになった。

 三人で静かに曲が弾き終わるのを待ち、弾ききった彼が腕をあげると同時に拍手する。



「なんて曲だろ?」

「フォーレの『夢のあとに』だね」



 なんだと!?

 片倉さんのオススメだった。こうやって罪悪感が溜まって……ハッ、お姉ちゃんがクラシックに詳しいってなんで!?と疑問の視線を向けたら、お姉ちゃんが少し頬を紅潮させてる。



「り、リンくんがオススメって……」



 ひどい。リン!

 私には、何にもススメてくれないのに。ーー聴かないってわかってるからだな。うん、さすがだ。リン。そして、お姉ちゃんの反応は大変おいしかったので、後で褒めて遣わす。きっと、「偉そうに言うんじゃない」とチョップされそうだけど。



「リンの聴いた、じょうず」



 まだ、拍手しているアディーにまで芸術方面で負けてるだと!?



「焼き鳥、買う?」

「ううん、並んでるからいい」




 演奏を聴いていた人たちが彼が楽器を片付け始めたのを見て、焼き鳥を買い始めた。うん、匂いが芳ばしくてお腹空くよね。



「帰ってご飯食べたい」

「そうね……お手伝いお願いね」

「はーい」



 お姉ちゃんと手を繋ごうとした瞬間、



「待ってくれ!ミューズ!!」


 ……ん?ミューズ??

 外国人……辺りを見回しても外国人顔はアディーしかいない。



「アディー、偽名?」

「ちがう。あれ、るかにいってる」



 アディーが指した先には『お兄ちゃん』に似た彼が私に全力で走り寄ってきた。



女神(ミューズ)!一目見た瞬間から恋に落ちました!!付き合って、秋月ルカちゃん!!」



 膝を付いて、手を差し出してくる彼に私はあまりの事に膠着した。



 ーー軽ッ。



 なんだ、あーたんより軽いぞ。綿菓子か。

 片倉さん、貴方が目指していた方向性の完成型が今目の前にいるぞ。

 ……ん?背筋が凍る。殺気が……マングース様から!お姉ちゃん、笑顔でマングース様を背負ってる!!



「いきなりなんですか。貴方は」


 そうだよ。なんで私の名前知ってんの?


「愛の下僕です」


 きっぱりお姉ちゃんに答えたけど、意味がわからない。


「和臣!!」



 ん?あ、三人で歩いてきたリンが片倉さんと藤咲さんを置いて猛ダッシュしてきた。



「あ、すずちゃん元気だったー」



 立ち上がって手を振る彼にリンはそのままーー飛び蹴り!?



「グホッ!」



 あ、楽器のケースを庇って変な転び方をした。それにリンが何故か満足そうな表情をし、仁王立ちで彼を見下している。



「マルとルカに近寄るな。あと、僕を(すず)と呼ぶな」

「すずちゃん、ひどい…」



 めげない彼にチッと舌打ちし、ーーリンはフッと鼻で笑った。



「次呼んだら、お前の七歳の頃の恥ずかしい過去をバラします」

「リン君とオレ、仲良しだもんな」



 彼が急に真顔になった。

 リンが私とお姉ちゃんを後ろに隠し、シッシッと手で追い払う仕草をする。


「帰れ」

「久々の幼馴染みにひどい仕打ち」

「煩い。ルカに会わせろ、紹介しろ、オレの好みに誘導してて!とか頼むようなアホが近づくな。喋るな。息吸うな」

「死ねと!?」

「まさか」



 ハンッと、せせら笑うリンは、魔王そのものだ。



「苦しめ」



 本当に悪辣な笑みで楽しげだ。天使の孫も堕ちたものだ。ハッ、堕天か!?



「性格が悪くなってる!薄幸の、あのおじさんの後ろに隠れて『なかよくしてね』って頼んできたオレのリン君はどこに!?」

「幻覚ですか。嘆かわしい」

「何オレが記憶を捏造してるみたいに言うんだよ!?」

「違うんですか?」

「やめて!だんだん自信が無くなってくるから!!」



 リンがもの凄く生き生きしている。

 あ、リンは親しくなるほどにキツくなるんだった。つまり彼と親しいのか。



「リン、周りの目」



 片倉さんがさすがに止めに入った。その間に私はそそっとお姉ちゃんと手を繋ぐ。

 このまま帰りたい。



「何しに来たんですか?」

「あ、進路!ほら、まだ間に合うコンクール資料!!」



 慌てて荷物を出し始める彼にリンが片眉をあげて、少し不機嫌そうな表情をした。



「連絡しましたよね?」



 彼も睨み返した。



「『神光』なんて訳のわかんない学校に進学なんて許す筈ないだろ。邪魔しに来た」



 彼の言葉に反応するようにお姉ちゃんがぎゅっと私の手を握る力を強めた。あ、リンの進路知らないのかな。不安なんだ。



「もう決定事項です。……説明するので家に来てください」

「それって、じいちゃんに関係あることか?」


 探るような視線。リンの祖父の事知ってるの?


「それも説明しますから。早く」



 気詰まりな中、帰路を歩くと片倉さんと藤咲さんが買い物袋を持ってくれた。

 片倉さんに持つよと言われたアディーだがおれが荷物運ぶーと拒否したのでそのままだったけど。……君、いま細身の美少女だから。藤咲さんは我関せずを貫いている。

 不機嫌そうなリンに彼の名前を聞いたら、佐伯和臣と言うらしい。



「片倉と藤咲は荷物置いたら防音室で個人練習お願いします。和臣は、部屋に来てください」



 そのまま、リン宅に行ってしまった。

 気になって仕方ないのかお姉ちゃんは料理に集中出来ないらしく、私が野菜を切っていると、インターホンが鳴り、アディーに対応を頼むと無理ーっと半泣きできたので玄関に行けばお邪魔しますと大きな荷物を持った雅さんが家に来た。


 

「ケーキを買ってきたのだが、リン宅でない方が良いだろうと先にお邪魔したが、皆はもう練習か?」

「いえ、あの、リンの幼なじみが来て……」

「ああ、進学についての文句か」

「なんでわかったんですか!?」

「詳しくは知らないが音楽学校の進学はそれなりの箔が必要な筈だ」

「そうなんですか?」

「聞いた話程度だから、違うかもしれないが……そうだな。箔付けというならばリンの記録は小学生時で止まっている。それと必ず『神光』に通えと『誓約書』も書かせられている。進学に関してはもう摘んでる」


 サーっと血の気が引く。


「『誓約書』って……」

「ーー秋月姉は?」

「あ、二階の部屋です。落ち着きが無いみたいだったので私が代わりにご飯を」

「そうか。ならば好機だ」



 突然、ひやりとした手を私の頬に添える雅さん。


「悪いが、私はどちらの意も汲んだ過保護をする気はない。いつか破綻するするなら今しなさい」



 真っ黒な瞳が私を見つめている。その瞳から逃げられず、そして、『私』が抵抗を止めた瞬間、私は、ーー…………、















 見覚えのないソファで、『秋月ルカ』は誰かの首に手をまわして……その相手は困ったように笑うふりをしながらーー、



『内緒だよ』






私の世界が暗転した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ