忍び寄る影
私を着物姿のまま帰せず、かといって、泉さんの件があるせいで神取の所に連れて帰る訳に行かなかった太刀川さんを救ったのは万葉さんだったらしい。
あの人、真面目な話、面の皮が厚い。ーー悪魔だった。
光原母の所まで連れていき、ぐったりとしている私を着替えさせたり化粧を落としてくれたり、髪型も解いてくれたり正直ありがとうございます!としか言えない。よくよく考えたら企みバレてますよって言ってないから、万葉さん的には平気だよねー。
『あとはー、点滴射って帰るといいわー。お薦めの場所は』
と、案内してくれた先はじい様医者だったらしい。夜もやってたんだ。個人病院なのにすぐに対応してくれたらしい……閑古鳥が鳴いてるからね。結局お帰りは深夜になったけど、そのおかげで私は朝ぱっちりと目覚めて、気まずい朝食を食べる事になってしまった。
皆、テーブルに座って談笑しながらももくもくご飯食べてる。……あれ……普通?
「リンくん、おかわりは?」
「いただきます。ーーそうそう、ルカ」
「なにー?」
「着物のモデルお疲れ様です」
ん?リンの言葉に首を傾けたら、リンが私をじーっと見ている。
話を会わせろって事かな?
でも、リンも言い訳的に苦しいと思ってるでしょう。ちょっと目が泳いでいる。
「でも、途中で具合が悪くなったならすぐに言いなさい。それと太刀川さんじゃなく僕かおじさんに連絡するのが筋でしょ」
「でも、太刀川さんの方が……」
「ルカ」
お父さんが苦笑してる。お父さんも話を合わせてくれるようだ。最近神取に優しいから、神取関連だと思ってるのかな?
「写真はいつできるんだい?」
「んー?」
「……天久に聞いてきます」
リンが頭を抱えてる。でも、下手な事言うとボロが出そう。でも、なんでモデル?
「リンくん、ひどいんだよ」
お姉ちゃんがリンのお茶碗に……そのおかわりは盛りすぎではないだろうか。を持ってきて、リンに手渡した。リンの表情が若干表情引き釣っている。
「ルカの写真くれなかったの」
しょんぼりしているお姉ちゃんにリンが申し訳なさそうに。
「モデルは不明にしたいそうですから」
「ルカ、だめ?」
やだ。お姉ちゃんが欲しいと言うなら、あげてあげてよ!と念じたら、リンが携帯の画面を開いた。
………雲雀小鳥ちゃんだった。
よし、お姉ちゃん。この子と私は別人だから要らないね!本物を愛でてくれ。そして、光原さん、どこまで写真あげてるの。
「お父さんは、あんまり好きじゃないな…」
「そうよ。どうして、もっとルカちゃんのふわふわした感じに出来なかったのかしら?」
別人だからだよ。とは話の流れで言えない。
「遵の好みでしょう」
「うん、あーたんの好み」
リンが辛辣だ。そして速攻で同意した私は悪くない。
「……ルカ、お付き合いは控えなさい」
「ルカちゃん、一人で会っちゃダメよ。ルカちゃんが好きな人は誠実な人だものね」
お父さんとお母さんの中で会った事もないあーたんの評価が下がった!ち、違うよ。見た目が派手な……あーたん、交遊関係も派手だった。ふ、フォローの仕様がない。そこでお姉ちゃんが首を傾げ、
「深託の会長さんだよね」
「うん」
「生徒会でボランティアに力を入れていて、学業は常に上位に入ってる人だよ。少し素行は悪いって聞いたけど、学校方針として市を弱い立場の人の目線に合わせて改革するようによく生徒間で話し合って嘆願書を送っているって…」
私とリンが絶句した。
「マル、詳しいですね」
「体育祭であちらの生徒とよくお喋りしたから。皆呆れながら『まあ、生徒会長だから』で納得してたの」
にこにこ、いい人そうだねって。やだ、本人を知らないからだね。
本当に世の中皮肉で出来てるっ。
「お姉ちゃん!好きになっちゃダメだよ!?」
「うん、私、ルカが大好きだから」
女神!
思わず席を立って、お姉ちゃんに大好き!!と抱きついたら、リンが味噌汁を啜りながら、遅刻しますよーって。やだ。平和だ。
さて、学校に着くなり私は生徒会室にお邪魔した。
桜田先輩と会長が何か話している様子だ。
先に私に気づいた先輩が、おはようと無表情に言うので私もおはようございます。と返す。
「『鶴』と『お狐様』との契約を破棄した」
聞きたかった内容をあっさり口にした会長に私は、ホッとしたが先輩が頭を振り、
「天久家は今、上も下もない程大騒ぎだ」
「『お狐様』に頼りすぎた馬鹿どもの末路だな。今日になって仕事の契約が一気に無くなった奴もいる」
「仕事のクレームも増えたらしい」
会長が頭を抱えながら、疲れたようにため息を吐いた。
「まさか、ここまでとは」
「会長とあーたんは、大丈夫なんですか?」
「『鶴』として、父さんは『お狐様』を奉っていたからな。……まあ、まだ、建て直せる段階ではあるらしい。早急に『真名』を『お狐様』に差し上げねばならないらしく、今日は政人さんと父さんが話し合ってるんだが……」
「ギスギスしてる、と」
「こんな状況でそれはない。高名な神官を呼んで『真名』を差し上げようとすると、『お狐様』が拒否なさるんだ」
「合わないんだろうーーと、云う訳だ。昼休みにここに来るようにとリンとセラを呼んでくれないか」
先輩に促され、念じてみる。あ、リンは普通に携帯で呼ぶ。会長が昨日の今日ですまないとお詫びしてきたので、あーたんの状況を聞くと狐様の側にいる為に今日は学校を休んでいるらしい。なら安全かな。
そして、ある意味この状況はいかに狐様をないがしろにすると恐ろしい事になるかという脅しも含んでいるのでいるのと、私……小鳥ちゃんにさっさと約束を果たせという政人さんからの無言の脅しも含まれてるって先輩が……怖い相手に喧嘩を売ってしまったようだ。
昼休みまでの時間を消化し生徒会室に行くと天匙のセーラ服を着たセラ様がアディーに引っ付かれながら現れ、その後にリンが続いた。制服をこちらに合わせてもセラ様の美しさで誤魔化しようがないような。
「セラだけ、ずるい!」
「狡いとかではないだろ!!」
アディーが私の姿を見た瞬間にパッと顔を輝かせ、突進してきたが、
「ひぃ!」
先輩の姿を確認した瞬間にセラ様の後ろに隠れた。……えーと……?
「アディー?」
「それ、変!やだ」
先輩をそれ呼ばわりって……思わず先輩を見たら、先輩も首を傾げている。
「私の正体がわかるのか?」
ぶんぶんと首を横に振るアディー。
「……セラは」
「理解できない」
「なるほどー…」
したり顔な先輩。
「私は『欠落者』だ」
………は?
あ、突然のカミングアウトに皆も目が点になってる。
「ただし、自力で私を『欠落者』にした者へ復讐を遂げている。そういう者は、『欠落者』として得た力を維持し、悪魔に堕とされる事はなくなる。例としては藤咲の家だな。悪魔の伴侶を得て子孫までに力を残している例は少ないが」
「はい!先輩」
「なんだ」
「さらっと説明されても困ります」
「………」
あれ、無表情を少し崩した。困っている?
「実は私もよくわからない事が多い。だから、天使や悪魔と情報を交換を行って見たかったのだが、どうも近寄るとアディーのように怯えられる」
怖くないぞーっと、手招きする先輩にガタガタ震えるアディー。セラ様もじりじり後ろに下がっている。
「ついでに僕も桜田の気配は苦手です」
リンまでだと!?
「それと初めてあった時のルカと少し通じている影が見えるのですが」
同じ転生者だから?
「でも、今は薄くしか見えないんですよね」
目を向けるリンに首を傾げる。なんねん。セラ様も何か同意するように頷いている。
「まあ、だから気兼ねなく天使や悪魔や神の話を私の前でしてくれ。むしろ、情報をくれ」
「桜田からもあるのですか?」
「一応は」
頷く先輩。あれ、転生とループについては語らないのだろうか。でも、それは有り難い。リンに……、
『ひみつー……』
ー…うん。そうだ。言っちゃダメだった。あれ?女の人の声?また?
「るか、どうした?」
「アディー、『囁き』してる?」
「うん、いろんな奴、たくさん!」
やだ。アディーが安定の努力……は、ダメだ。悪魔の企みは危険だ。
「ねえ、アディー」
「なにぃー?」
そっと、セラ様の後ろに隠れたアディーに近より、手を握る。
「立派な悪魔じゃなくてもいいから、人様にちょっと迷惑をかける存在でいてね」
「何、また馬鹿な事をアディーに吹き込んでいる」
「セラ、ルカがバカじゃない所見たことあるんですか?」
セラ様がリンの言葉に黙った。ひどいリン!
「昨日、馬鹿ではない所を見た身としては、まさに狐につままれた気分だ」
「天久、幻覚ですか?」
リンが会長を疑ってるーっ。む、まあいっか。
先輩に椅子に座るように促されて座るとひそっと囁かれた。
「転生について話すか?」
「え、どうしてですか?」
目を丸くして拒否したら、あれ…、困ってる。
「私の手持ちのカードは、それと『欠落者』というだけだが……ループについても………、言われると困る事があるなら後で話をしながら確認しよう」
先輩の言葉に必死にこくこく頷く。
「天久家はどうですか?」
「それを今から相談したい。ともかく、『お狐様』と話し合わなくてはならない相手が長時間、対面出来ない。また、秋月が恩を売った神に頼めないか?」
「話をつけるとしたら数週間かかる。もう秋月の恩も使えないからな」
先輩の無慈悲な言葉に会長が、頭痛い。と頭を抱えた。先輩、神様と話せるの?って、視線を送ったらプイッと視線を外された。なんだろ。まだ隠し事?
「そもそも、誰ですか」
「君の祖父とセラの主だ」
「なっ!」
リンの問いに先輩があっさり答えた内容にセラ様、びっくり。
「何故、我が主が!」
「穢れを落としたら戻ってこい。ということだ」
先輩の言葉にセラ様が目を見開き、震えてる。
「……セラ、感動?」
「ああ」
嬉しそうに微笑むセラ様にアディーが何か焦ったような顔をしている。
「セラ、帰る?」
「いや、まだ駄目だ」
無実だと陥れられたんだから、すぐに帰れるんじゃーーと口にしようとしたら、先輩に肩を抑えられた。……まだタイミングじゃないって事だろうか。
アディーが明らかにホッとした顔をしている。……悪魔じゃなければ、寂しいのかなって思う表情だけど……。
「セラ様、リン、神様の気をどうにか出来ないの?」
「そうですねー…『真名』持ちなら『契約』自体で何とかなるのですが」
「側遣えも居なかったと…神をなんだと思っているんだ」
セラ様もリンも困っている。お坊さんみたいなものかな?知り合いに……、あ、
「歌う牧師がいるよ」
「なんだ。そのあだ名」
「聞いた側から不安です」
「歌うってなんだ」
「秋月、まさか、アレを関わらせる気か」
アディー以外が私に厳しい視線を!
そういえば、牧師は自分が関わるとしたら狐様以降だと思っていたと言っていた。これを想定してかな?
……ないねー。
「でも、牧師ってつくから役に立つかも」
「……歌うのでしょ?」
リンが嫌そうな顔してる。
「あと『欠落者』だよー」
「何故、そこまで推す」
セラ様がコメカミを押さえている。
「『命題』の件で騙されたけど」
「不安しかないぞ!?」
会長がとうとうキレた!
「ーー『神光』か?」
あ、桜田先輩が納得してくれた。でも考えてたことと違う。けど、乗ろう。
「神様が通える方法があるなら、聞いてみようかな?って」
「なるほど」
二人でわかったように頷きあうとリンが私に近よりチョップしてきた。
「何を二人で通じあっているんですか。わかってる事は吐きなさい」
ハッ!これは転生者の話題だった。えーと…誤魔化さないと。
「待ちなさい」
あ、先輩が間に入ってくれた。
「女には秘密のひとつやふたつあるんだ。秋月を影のある女性に育ててあげなさい」
「ルカは変に企んでいる時が一番危険です。ーー僕に言えない内容が一番言わなければいけない事なんですよ。この前もそれで失敗したでしょ」
確かに。どう思う。脳内会議よ………ん?あれ、なんでひそひそボソボソ話あってーー逃げた!
「脳内会議ーっ!」
叫んだらリンにチョップされた。だって、逃げたよ。会議が逃げやがった。な、何故だ。昨日の件で疲れたからお休みしたかったのか。
ふむ。それならば仕方ない。
「リン、影のある大人な女になるよ」
「ルカと桜田が変に似ていて腹立ちますね」
私の態度がお気に召さないらしく、ていっともう一発とばかりにチョップが!
「……市長の側に話を聞きにいかなくても良いのか?」
会長が言いづらそう聞いてきたので、うーんっとって考える。
「『神光』には、桜田先輩と私で…」
「いや、私とリンとセラで行く。藤咲の家には君が片倉と会長とともに行った方がいい」
「?藤咲さんは」
藤咲さんが学校にいるなら、リンと一緒に市長に話を聞いてきてくれないかなって考えていたのに先輩は小さく舌打ちした。
「ーーあの、精神惰弱は休みだ」
バキッと無表情の先輩から何か聞こえた。ーーお、怒ってる。
私以外の皆が退いてる。
魔王と暴君を怯えさせられるなら先輩はもう勇者だね。
「しかし、片倉は関係な…」
「片倉さんは市長と『契約』してるからですか?」
「それもあるが、片倉にまで拗ねられると正直面倒だからだ」
皆から否定の言葉がなかった。
そして、アディーだけおれはーって辺りを見回しているので桜田先輩と語り合いなさいとセラ様に押し付けてみた。なんかやだーって聞こえたけど。ふう、やれやれ。
放課後になると、会長が迎えに来てくれた。日比谷さんの殺気が怖い。
「片倉さんは?」
「一時間後だ。多少は楽器を弾いて置きたいらしいからな。同じ理由で藤堂と桜田も部活動をしてからだな。ーー秋月、付き合わせてしまってすまない」
「政人さんとお約束したので。それに」
狐様を守らないとあーたんが心配だ。という言葉は飲み込む。隣を歩く会長が私の言葉の後を待っている。
「それに?」
「会長に媚びを売るためです」
「……そうか」
うむ、なかなかうまい言い訳が出来た。と自己満足していると、突然、会長が頭に手を置いてきた。な、なんだ。アイアンクローか。と警戒すると、不器用な感じで頭をなでなでと……、
ど う し た 会 長 !?
あまりの晴天の霹靂に私が恐怖で震えていると、会長が一人で頷き、
「この頭は馬鹿だが、撫でやすいな」
なんですとー!?
ひどい暴言だ。ものすごく楽しそうに笑いながら撫でてる。む、しかし媚びを売ると決めた相手だ。この状況を甘受してあげよう。うむ、会長の頭なでなでスキルが上がればきっと、誰かの役にたつ。
よし、もっと撫でろー。
「そう言えば、状況が落ち着いたらと、藤堂に言われたのだが」
「はい?」
「お前の着物姿の写真を秋月の家に贈れと……どういう意味だ」
「苦しい言い訳の理由を小鳥ちゃんで乗り切ったせいです。大変不評でした」
「わかった……次は黄色の着物で良いな」
何故黄色。まさか笑〇の黄色い人を連想してか。
「いや、髪が黒いからな。やはり赤が……緑も……捨てがたい。紫も良いな」
「ピンクを!!」
「秋月姉なら似合いそうだが……」
何、ならば記念にお姉ちゃんの分もと頼もうとした瞬間、校門の前にいる誰かに視線が集中してしまった。………リンに似てる?
「深託の制服だな」
「そうですね」
校門に近づくとさらに顔がわかった。本を読んでいるようで近づく私たちに気づかない。黒髪の………うん、ちょっと、リンに似てるけど顔立ちが甘すぎる。なんかナルシーっぽい。偏見……?いや、ちょっとだけでもリンに似てるのが悪い。リンの方が千倍も万倍もかっこいい。
「……秋月、目つきが危ないぞ」
「ふん!です」
別な学校になんねん。邪魔だぞ!と威嚇しようとした瞬間、相手が私をパッと見た。
「秋月……?」
「邪魔だよ。帰りたまえ」
地の底から響くような声を出して威嚇したところ会長にアイアンクローされた。ふごっ。
「すまない。猛獣のような性格で」
「いえ、構いません。あの、秋月丸代さんに用があるのですが」
頭の上で不愉快な会話が………お姉ちゃんに用事だと!?ゆ、許さん!!
「ああ、姉の方にだな。秋月、姉を呼び出せないか」
「断固断ります!!」
さらに力が強まった。く、屈服などしてたまるか。
「お姉ちゃんに会いたいというなら、私という壁を越えていきたまえ。どんどこ邪魔したる」
「……すまない。重病だ」
「……そのようですね」
「仕方ない。愛川に頼んで」
会長が敵に屈しようとしている!!
「いえ、今日は帰った方が賢明そうですので」
苦笑しながら、では失礼しました。と頭を下げて行ってくれた。今日は。だと……また来る気か。
「会長、会計の人に言って警備の人を増やしましょう。お姉ちゃんの為に」
あ、会長、ぎりぎり締め上げる手に力が……っ。そういえば会計って、桜田先輩だった。




