表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/153

7



 なにも起きない。


 空耳かなー的な『祝福』の音に恐る恐る会長を見たが、特に問題はないようだ。私が腰にタックルをかました以外に問題はなかった。ただ、コォーッて気合いの入れ直しは止めてください会長。


「ゲームの再開をする」


 政人さんの言葉に誰も否とはいわない。………なんだ、突然。

 みぎーにならえ!!みたいな感じに鳥肌がたつ。

 しかし、ラブハプニングはいつだろう。今起きても対処出来ないけど。

 ……もしや、私が後々に考えている天久家の報復抑え込み方法が非道だと言いたいのか。セラ様は。よし、ちょっと冷静になろう。ーーうむ、狐様も天久家も落とし所が不明なのが問題なのかな?

 そうなると、やっぱり、政人さんの首を嫌でも縦に振らせれるような状況が望ましいな。なんも思いつかないけど。


 発想が悪役だと!?



 …き、清く生きてる筈なんだけど。

 ………さて、会長も戻って並び変えも終わって三人を眺めてみると、わお……と、思わず感嘆した。ふてぶてしい感じがするのは気のせいか。

 手はさすがに見せないけど、後はなー、なんか端々から生意気なオーラが……ガルーッなんねん。

 こっちとら生前プラスαやぞ。


「小鳥さん、真剣なのかそれとも喧嘩腰なのかな?」


 おおっと、自他ともに認める眼力を披露していたようだ。危ない。威嚇したくなる男あーたんめ。

 まあ、彩さんが決まるまで下手な事をせずボーッとしていよう。何せ、会長の策があるからね!


「……」


 ギリッと、歯を食いしばって観察している彩さんとのんびりしている私……な、何か心が痛む光景だ。


「な………いえ、右の方……」



 先に彩さんが答えたが確証がないらしく、不安げだ。



「小鳥さんは?」

「真ん中です」


 彩さんが私を驚愕の表情で見た!ごめん。さっきは策がよくわかってなかっただけだよ。


「では、理由を」


 さっきは聞かなかったに今度は聞くのか。しょんぼり。


「……一番、遵君らしくなかったので」

「それだけか?」

「はい」


 明瞭な答えでない彩さんに政人さんが息を吐いた。


「右が遵だ」


 なんだと!?

 政人さんのわざわざのご指摘に当てられたあーたんすらびっくりしつつ、ハンカチを出した。


「お前の指摘を引きずって一番らしくない動きをしていた」


 む、これは次の勝負の為の布石か。あーたんが絶句している。彩さんも悔しげだ


「次に小鳥さん」

「はい、真ん中を誇ったからです!」


 よくぞ聞いてくれたと、えっへん。と胸を張ったら頭を振られた。


「……説明を」

「真ん中が好きだからです」

「……………」


 もう、途方にくれたような政人さんの表情に私も困惑する。む、何が足りないんだ。これ以上の説明はないぞ。


「勘で良いのかな」


 なんで、幼稚園児に話しかけるお祖父ちゃんみたいに優しげな声で聞いてくるんだ政人さん。分家もうんうん頷いてる人たちが大半だ。



 心理戦に疲れたのかな?



 そんな中で真ん中にいた狐様が変化を解いた。会長もどこか安堵していた様子で分家を見ている。何故だろう。


「小鳥ちゃん、策って説明しなさい。嘘じゃないけど、狡いわよ?」

「あ、策です」


 万葉さんの優しいご指摘にあーそういえばと口にすると、また、「「小鳥!」」と双子がハモったようだ。

 ん?狡くなかったのか?もしかして、会長の策を潰してしまったのだろうか。いや…、なんだか、この策って……。


「……謀った。と言うことかね」

「ええ、何か問題でも?」


 ふぅーっと息を吐かれた。そして、若干室内温度も下がったようだ。


「彩と君は一人で勝負をしていたと思うのだが、公平でなければならない遵や俊平と組んでいたのかね」


 えー、政人さんったら今更何を言ってるんだろう。まったく、私にあげ足取って言いくるめて欲しいのかな?

 屁理屈は負けんぞ。任せろ。そして、悪女モード中だぜ!


「私、『契約書』が欲しいと先に言いましたが?」

「だからー…」


 なおもいい募ろうとする政人さんに私は、笑みを浮かべた。彩さんのおかげでバリエーションが増えた気がする。


「では、私の相手は彩さんではなく、天久家全体だと思いますが?私の一番の望みは『契約書』ですので。それに賛同なさってくださっている遵さんと俊平さんのお心の強さは尊敬いたします。だって、分家と対立なさっても狐様を解放なさりたいと願っていらっしゃるのでしょ」


 自分でもよく口が回るなーと思う。ふむ、精神が削れる!


「遵と俊平の味方ではないのかね?」



 私の言葉がお気に召さなかったらしい政人さんがいよいよ渋面を作り、私を睨みつけた。

 ふむふむ、どこが問題だったのか。簡単さ。ここにきて、私、あーたんと会長なんか知らないって言ってるようなもんだから。

 でもねー、なんかできそうな何かがある気がー…っ。



 悪女である雲雀小鳥を最大限に利用して、政人さんの甘さと分家の厭らしい処をついて、狐様と『鶴』の解放……、会長の策をばらした事の旨みがね、










『白黒つけていいの?』






 あれ?『囁き』?

 甘ったるい声だけど、あれ、アディーの『囁き』と微妙に違う。あれ……?この声、前に、







『ーー狐様のお家は天久だよ』







 パチンと、何かが弾けた。

 

 ああ、言いくるめる材料と脅迫の材料は出来ている。そうだ。うん、どうせ、後は人に押し付ければ良い。目的は『契約書』のみ。あれもこれもと欲張るから頭が働かないんだ。くつくつと、大分悪女ではなく悪人の笑い方をする私に政人さんを含む周りの視線が集中した。

 やだ、三下らしい笑い方をしてるだけだよ。



「さあ?分家と敵対して救われる道を標せれるほどの賢女ではありませんので……逆にお聞きしますが、政人さんはこのまま勝負に白黒をつけても宜しいのですか?」

「何を今更」


 不愉快気な政人さん。甘いね。


「遵さんと俊平さんの代からは、自由にさせたいと口になさりましたよね」

「それは」

「その前に狐様が限界を迎えますが?」

「……っ」


 黙ったー。

 私を睨みながら必死に自分を出さないようにしている。そう、政人さんの弱みはこれだ。『鶴』に対しては巨悪のような冷徹な一面を見せるが、狐様に対しては違う。情がなければ成り立たない関係を持っているのに知らん顔をするから、私に利用されるんだよ。

 さて、畳みかけよう。


「『鶴』は穢れを狐様に与えておりますよ。次世代の『鶴』も」


 ざわつく室内。怒鳴り声を上げようとする人間より先に口を開く。


「分家の『鶴』への教育のせいだと狐様は仰りました」

「……神を神として崇める心構えを教えただけだ」

「それが狐様にとって余計なお世話なのにですか?」

「……」


 誰も答えない。

 この場で『鶴』より狐様を理解している人間はいない。それなのに『鶴』がしなくても良いと判断した事を神という枠に囚われた分家が狐様に押し付けるのかというこれは問いだ。

 ……ん?もしかして、弓鶴って人と政人さんもその辺の誤解もある?……んー、別に狐様に好かれてないからって悪い人ってわけじゃないし、政人さんも結構あくどいのに狐様に好かれているから、む、神様って難しい。


「小鳥さん、勝負になんの関係がー…」

「勝負の勝敗はもう決まってます」



 なっ!?と目を見開いた彩さん。その姿にニヤッと笑う。わーい。引っかかった。駄目だよー。私が謀った事を政人さんが否定しきる前に口を出しちゃ。肯定したって事で話を進めるぞー。



「狐様のお気持ちをこれから、掴めるのですか。彩さん。言っておきますが、そうー…私にさっさと会わせていれば、狐様は政人さんとの話し合いの場をつくり、現状のご相談をなさったと思います。ーー私に会いたかったのは、先に私が他の神様へ売った恩を使わせて欲しいというお願いしようとしただけなのに分家が騒いだ分、狐様は切羽詰まってしまったと思われます。……責められると弱い子供のような存在なのです。さて、天久家の皆様、『お狐様』がどのような存在かいい加減察して差し上げるべきだと思いますよ」


 思う、思うと代弁しているふりをしております。ここまでハッタリとこじつけが七割くらいなのだが、誰も否定しないと云うのは、当たらずとも遠からずか誰も否定できるだけの材料を持ってないか、だね。

 それにしても、彩さんが勝負は決まったという言葉に衝撃を受けているようだ。あれ?理由を言うべきかな?


「勝負が決したと言うのは、狐様にただ私が頼めば良いだけだからです」

「真ん中に行けとでも?」



 蔑むような目に。…………ははん、バレてるだと!?

 ふ、ふん、内心の動揺を必死に隠すよ。だって、小悪党だからね。


「そこまで直接的には言いませんけど。ええ、『私を喜ばせてください』と、私が何を喜ぶ人間かは皆様に宣言いたしましたよ。あとは狐様のお気持ち次第です」

「……小鳥」


 狐様が目を見開いた。しかし、私が甘いこというなよーっと念じれば苦笑しながら頷いた。

 だいたいこの場に私を立たせたのは狐様だ。『契約書』の後は知らない。後から考える。自分の中で無理に纏めない。うむ、リンの教育がこんな時に役に立ったよ。

 そそっと座り直し、皆様の顔を確認し、最後に政人さんに対して微笑む。


「さて、政人さん。私と勝負をしている彩さんに今現在では、狐様の寵愛を引き戻す程の魅力がありません。分家の皆様が誰かに頼らず私と戦えば、あるいはー…があったかもしれませんがね」


 悔しそうに歯噛みする彩さん。狐様に取って魅力のある人間とは、誰かという話だ。残念ながら私ではないぞ。リン曰く、怠惰が大好きらしいからね。何かしようとしてもお姉ちゃんとリンが先にやってしまって終わってるだけだもん。ぐすん。


「私がどうして強気なのかはおわかり頂きましたか」

「本当に悪魔かと思うほどにな」



 違うぞ、生前プラスαとちょっと、天使と悪魔と契約してるだけの一般人だよ。


「そうですか。それは後々比べて貰う事になるかもしれませんが、特に問題はありませんね。ーーさて、少なくとも真面目にこつこつやってきた方々には吉報ですよ。私は悪魔みたいな性格かもしれませんが鬼ではありません。ゼロかイチかで天久家が狐様の恩恵を頂ける状況を残して差し上げています。ええ、狐様のご寵愛を頂いているらしい小鳥からのプレゼントですがいかがでしょう」

「そんな事が通るとでも」



 政人さん以外の分家が不満そうに口を開くが開き直った私は強気だ。バンっと畳を叩く。痛いけど、静寂は出来た。



「お忘れでしょうか。ここには、万葉さんと狐様以外の神がいます。勝負がついた時点でどのような不測の事態が起こるか。政人さんは、お分かりになって分家の皆様を救えるのでしょうか。本家は……、ええ、狐様のお心次第でしょうけどね。狐様に守ってもらえるなら本家は狐様のご寵愛を頂けるくらいの努力を怠っていなかったということです。ああ、皆様、そろそろ小鳥についてご理解頂いた頃だと思います。ーー負ける戦いはしませんよ」


 ふふって、にこやかに微笑めば、皆様がどん引いてる。

 これがホントの虎の威を借る狐だね。私他人任せ。ドヤっと正解を求めて万葉さんを見たら、「手順、やり直しね……」と切なげに呟いている。あ、お邪魔してしまって、すみません。

 しかし、これが最後の脅しになったらしい。ざわざわと私の言葉を反芻し、隣同士や仲間同士で話合い、



「政人」



 誰か知らないけれど、纏まったらしい話を政人さんのお隣にススッとすり寄り、耳打ちしている。

 諦めたように目を閉じる政人さん。


「ーー『契約書』は渡そう」


 あーたんと会長が手を叩きあってる。

 まあ、勝負には勝ったけどねー。

 でも、狐様はそれじゃあ救われない。狐様の望みがはっきりしない段階で分家に楽はさせんぞ。政人さんが、私に手ずからず『契約書』をくださった。どうも!!しかし、これは私が持つ物ではないので返さなきゃね。ーーそうそう、


「では、私は代わりに政人さんが狐様とこれからの天久家のより良い形の為のお話が出来る場を用意する努力をしますので」



「「「は?」」」


 なんで意外そうな顔をするの?

 まさか、本家に丸投げしようとしてたの。私、この中で狐様を任せるべきは政人さんだと思ってたけど違うの?

 政人さんだって、狐様の希望がわかったら、あーたんと会長にお母さん返してくれるだろうし、うんうん、政人さん事態は仕事面では問題ないし。狐様も好きみたいだから良いんじゃない?

 あ、家族は彩さん以外は『鶴』が居なくなった後、どんな副作用が生じるか知らないけど。

 自業自得だよー。

 

「恩を売った神様という方はよくわかりませんが、天使と天使の孫と『この土地』の市長と知り合いなので、多分頼めば、政人さんのご負担にならない場をご用意してくれるかもしれません。あと、本家のそういうノウハウもあるのでしょ。志鶴さん」

「え、えぇ」



 志鶴さんが動揺しながら必死に頷いている。


「小鳥さん?」

「皆様、間違えてはいけません。あ………雲雀小鳥は、狐様のご寵愛を頂いている身です」

「あ、あぁ……」


 なんで生返事。ーーまあいいか。



「ですから、籠の中に閉じ込められた狐様を天久家から解放するお手伝いはいたしますが、天久家を狐様から解放して差し上げるつもりはございません」

「「「はあ……」」」


 何故、皆様茫然自失しているのでしょう。秋月ルカにはわかりません。私は、頭に乗せていた狐様のお面で顔をすっぽりと隠し、


「あ、『鶴』は解放しますよ。それも狐様のお望みですから」


 政人さんから渡された『契約書』を持って、分家の人を避けて、はいはいごめんよー。狐のお面を被った秋月ルカが通るよーとえっちらおっちら歩くと、何か頬を摘まんでいる方々が見える。狐にでもつままれた?

 障子を開けたら、クスクス笑っているおばあちゃん。あ、居てくれて良かった。



「はい、最初に『鶴』の伴侶が持っているべきものだと言ったので、お返しします」


 私が『契約書』をひょいっと手渡したことに驚いたようだ。え、だって、『鶴』のお着物を着てるんだから、前『鶴』のお嫁さんでしょ。現『鶴』の奥さんは、入院中でいないし。


「………どうして?」



 手渡したお婆ちゃんの手が震えている。どうして……、どうしてかはわかんないけど。



「弓鶴という人の弁護が出来るのって志鶴さんとお婆ちゃんだけですよね?」

「あの人は」

「頑張ってください。あ、弁護出来なくても良いんですけど」



 ぽろぽろ泣きながらありがとうって頭を撫でられた。

 おおう、会長に神経質に小物にまで気を使って用意されていた手拭いを渡しつつ、もっと、撫でろーと言いたいところだが、その前にお婆ちゃんの後ろで無表情で私を手招きするのは止めてください。桜田先輩。ただ、『契約書』を手渡したことは咎めないから問題ないのかな。


 ……ん、どうして、先輩を信頼してるんだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ