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 万葉さんが玉露ですねーって、お婆ちゃんにお礼を言ったので飲んでいたのが玉露だと判明した。ーーバカな。それをズズーッと2、3杯平気で飲んでいた私は、恐怖を感じた。


「遵と俊平に真実を話さないでほしいのです」


 頭をあげて貰った後にぽつぽつと語る志鶴さんの言葉に私は、納得できる部分と出来ない部分に融通が効かないなーって自分に、ため息を吐いた。

 あわよくばと会長かあーたんに事実を知ってもらってから頼むつもりだった事だけど、志鶴さん相手だと脅迫まがいにしないと安心できない。

 ちょっと、神経すり減らしてでもやってもらわないと割に合わない。万葉さんにも協力してもらえないかな。……息子さんの件だけど怪しい。ーー仕方ない。


「その件で訊きたかったんですが、もし、一族に双子ということを利用して、次代『鶴』を逃がして、ーーギリギリまで粘った所で志鶴さんが、……あまり考えたくもないですが亡くなった場合。全てがバレ、『次代の鶴』として残され、逃げられなかった方がひどい目にあうとは考えませんでしたか?」


 私的にいまいち志鶴さんを信用出来ない部分はここなので一応訊いてみる。

 あ、万葉さん。何が楽しいんですか。畳を叩くなら外干ししながらお願いします。


「き、キツいわねー。ルーちゃん」

「確認してるだけですよ?」


 目元を拭って、まだ笑うんですか。だってねえ……、


「長子以外は、……志鶴さんは、会長だけがお気に入りでしょうか」


 ーーあれ、ただの質問と確認のつもりだったのに私は、志鶴さんへ問いを重ねるたびにイライラしてきている。

 すぅっと目を細め、表情筋が動かない。…………ふむ。生前の記憶がビシビシと刺激されている。片方は好きで片方は嫌いか。


 ーーあ゛あ゛ん?



 思わず、ぎろっと志鶴さんを睨みつけてしまったぜ。


「ルーさん、お饅頭は好きですか?」


 何故か志鶴さんの顔色が悪い。殺気を込めて睨みつけていたらそそっと、お婆ちゃんが横に来てお饅頭をくれた。わーい。

 

「ルーちゃん、ギャップが凄いわ……」

「?何がですか」


 お饅頭をもぐもぐ食べたら、ほっぺに餡がついてるわよ。って、万葉さんが取ってくれつつそんなことをいう。睨んでたのやめたせい?

 だって、お饅頭が美味しいんだもん。


「……遵も俊平も大事な子供です。……ただ、あの時はー…、タイミングが良すぎたんです」


 顔色を悪くしながらも、ちゃんとどちらも大事だと口にする志鶴さん。

 あーたんと会長の親なのに気が弱いのかな?



「藤咲さんと……あー…いま、『遵』と名乗っている方が、『この土地』から出れなかったってタイミングが、でしょうか?」


 はい…と、力なく頷く志鶴さん。入れ替えるタイミングとしては確かに最高だったのかもしれない。



「狐様が信用できなかったんですか?」

「ルーちゃん、どうしたの?」

「はい」

「言い方も物腰もきついわ。志鶴さんは、これから、ルーちゃんと協力しないといけない人よ?」



 万葉さんに本気で心配されているようだ。ど、どうして?

 むー……、だって、私の方にも協力してもらわないと藤咲さんが傷つくんだもん。この件であーたんとまで友情が壊れたらどうしてくれるんだ。



 次代『鶴』は、『この土地』から出れるとか、むしろ、このままだと一族の問題が解消されたら『鶴』だって、外に出れるかもしれない……。狐様次第か。

 誰に相談していいことだろうか。あ、駄目だ。今のところ、リンしか思いつかない。

 あーたんにも会長にも志鶴さんが説明してくれるだろうって思惑が霧散してしまった。私の口からこんな鬼のような事実を伝えるなんて出来ない。やはり、志鶴さんを睨んでも仕方なくないかな。

 あーたんには、本当は『鶴』じゃなく、本当の次代『鶴』を逃がすための影武者にされてたとか。会長には藤咲さんとの友情を失うこともなく、孤独を感じずにいれたとか。

 んん?………もしかしたら、会長を『この土地』の外に出して、どこかに閉じ込める予定だった?

 そういえば、行く高校を指定されてたとか。

 そうしている間に一年に一回『契約』に必要な『反物』を志鶴さんが織らなければ、『契約破棄』出来る。……短気を起こされて、あまり宜しくない考えだけど話を聞かない志鶴さんより、『鶴』に乗り気なあーたんに替えたところで、あーたんは、長子じゃないから『鶴』になれない。

 あれー、よしんば志鶴さんの企み通り展開しても、会長にもあーたんにも志鶴さんにもバッドな先行きしか見えないぞ。



 ちょっと、脳内会議どう思う?

『しりませーん』

 ーー殴りたい。いや、自分だった。

『もう、リンに頼ればー?』



 ハッ!誰かが楽を覚えやがってる。馬鹿者。我々の真なる目的を忘れたのか同志諸君!!



『『『お姉ちゃんとリンの幸せな結婚!!』』………生活を日々観察する』



 うん、最後、おかしい単語が語尾についたけど、仕方ないね。

 それにしても、たまにノリだけじゃない返しをしてくるな。だからだね。リンの時間を私にばかり割かせるわけにはいかないのだよ。わかったかね。はーいって返事が有った。うむ、さすが同志。………自分だった。



『じゃあ、反物の変な色合いのあれは?』

『引きずられているって意味は?』

『藤咲は、どうでも良いと思う』



 何故、今の意見が先に出てこないんだ。そして、脳内会議よ。ひそひそと藤咲さんの件は考えたくないだと!?



『『『体育祭で(あの時)の恨み晴らさずおくべきか』』』



 そ、そうか。本体()は何をすれば、



『気にしないでくれ。軍曹』

『我々と(藤咲)の戦いだ 』

『塵際の屍は拾ってくれ 』

『軍曹殿に敬礼!!』



 本当に敬礼しながら終了した脳内会議に何故か、万葉さんが私を見つめながら微妙な表情をしている。

 な、何故だ。

 そして、脳内会議よ。負け前提なのか。ーーしかし、会議を行ったおかげか若干すっきりした。が、うーん。そうなると別問題が出てくる。ちょっと、聞いてみよう。



「狐様が、次代『鶴』じゃない方を苛立ちを理由に閉じ込めたっていうのは嘘ですよね。万葉さん」



 微妙な表情から一気に表情を読めなくしますか。で、やっぱり空気が寒い。



「どうして、そこで私に話がくるのかしら?」

「えー、狐様が最初に私のところに来た時と話が合わなくなってますもん。子供の可愛い入れ替えごっこって遊びにあの狐様が激怒して、『この土地』から出さないようにするなんて、おかしいですよね?私が興味を持つように入れ知恵したのは、万葉さんですか?」



 にこーって、控えめに笑いますか。怖いです。ま、負けそう。しかし、口と

思考は動かさないと。



「……私の興味を引くだけじゃなく、私の口から会長とあーたんにこの件を聞かさせ、ーー恨まれたかったとも邪推が出来ますが」

「うんうん」



 肯定も否定もしないで、面白そうに頷いてる。ーーうむ。万葉さんは、わかんないね。狐様の庇護下のもと試してみたい気もするけど、本命は志鶴さんだから、万葉さんをあまり敵に回すのもないね。

 ターゲットを替えよう。



「……『引きずられている』の意味とあの禍々しい感じの『反物』について、私はなんの説明も聞いてませんが、それって今回、狐様が私を無理に参加させようとしている事と関係がないんでしょうか」

「有りますが、…そこまで貴女に責任を背負わす気は」

「『鶴』が天久の教育のせいで、『お狐様』に敵意を持ったせいでああいう産物が出来てしまったとか……それが不敬にあたっているとかではないのですか?次代『鶴』である会長の気持ちに反応して、変色していましたから。……『引きずられている』と、その件で、もしかして狐様自体にも何か不具合が…」



 可能性を羅列して、志鶴さんの表情を確認すると何故か絶句している。あれ、間違ったの?



「……思考がすっかり、悪魔()側ね。ルーちゃん。間違ってはいないんだけど」



 何故かため息を吐かれた。そうか。すっかり、悪魔寄りか。……う、うれしくない!

 万葉さんが、ふぅっと、吐息を漏らす。今回は特別よ。って、う、嘘をつかれても、リンに確認するんだから!

 結局そうかーとか聞こえない。



「『お狐様』は、『真名』も神代もお持ちではないから、力の供給の仕方が天久家の信仰だけで入口が『鶴』なのよ。歴代の『鶴』は、『お狐様』は悪くないって、きちんと理解していたんだけど。志鶴さんは、前の『鶴』が天久に恨みを持って亡くなった事と天久の『鶴』と『お狐様』離しみたいな教育のせいで、根強い不信感を持ってしまったのよね」



 志鶴さんがかつての自分を悔やむように下唇を噛んでいる。…仲良さそうだったのに。



「……どちらも信用できないから、一人で企んで、それを『お狐様』に知られて、本当に遵君を『この土地』から出れなくされて……って、言い方をすると『お狐様』が悪だくみしてるって思っちゃうだろうけど。遵君も俊平君も自分たちが違う人間にされたって、感じていたけど、幼いことと、本当に遵君が『この土地』から

出れなくなったことで、記憶の折り合いを何とか付けてるみたいね。でも、やっぱり、不具合が出ちゃうのか。カッとなりやすい性格になっちゃったわねー」



 ふふ、って何か楽しそうですね。万葉さん。



悪魔()がいなくても、混とんとしてるでしょー。自分たちの行動一つ一つが信仰している神の性質を変えちゃうのに。『お狐様』が崇り神になっても私は、お友達よー」

「ふえ?」



 崇り神って、何?



「まあ、そうなる前に『契約書』を『鶴』の手に戻したいらしいのよ。しっかり、『お狐様』のご寵愛を受けた強欲な小娘を演じてねー」



 肝心なところを誤魔化された。や、やっぱり、リンに聞かなきゃいけないのか。がっくり。

 否、待て。ーー強欲な小娘?……はて、今の話にどこにそんな終着地点が。



「何故、強欲なんですか?」

「『契約書』をほしがらなきゃ駄目だからよ?」



 ん?私が『契約書』を貰ってどうするの?



「一応、遵君の婚約者だから、こう言わなきゃ『お狐様との契約書を持つのは、『鶴』の妻となる私の方がふさわしくありませんか』って」

「はあ……」

「ルーちゃん、もしかして、謎解きに夢中で『お狐様』の企みにいまだに気付いてないの?」

「いえ、なんとなくは……。でも、私、座ってるだけで」

「うぅん。メインよ。だって、あの纏め役を相手に女狐を演じなきゃいけないのよ?」



 見つめあいながら首を傾けたら、万葉さんも同じように首を傾けてきた。



「わ、私、ひとみしり」



 怖い。そんな大狸に対面しなきゃいけないの?



「うふふ、明日が楽しみだわー」



 後ずさろうとする私の腕をがっしりと掴む万葉さん。



「綺麗な女の子に仕立ててあげるわよー」



 いや、おー!なんてしないよ。明日、迎えに行くからってこわいぃぃぃっ!!






 げっそりとしながら自宅に帰り、リンに崇り神について聞くと、平将門?と返ってきた。狐様の事だというと、難しい顔をされたよー。「調べておきます」って何を?あ、天久家の書類をリンにも見せておこう。と。

 あ、お姉ちゃんにやっぱり、ご飯欲しいとおねだりしたら、凄く、機嫌が良くなった。……ちゃんと、胃袋掴まれてるよー。









 そして、決戦の日。

 放課後、万葉さんに拉致られ、最初に葛西家でお風呂に入れられ、その後、万葉さんに呼ばれたらしい光原さんのお母さんに化粧やら着付けをされた。……お手伝いをしていた光原さんが、私の変身完成後の姿を見て固まった。

 いや、確かに凄い強欲っていうのが表面化したようなメイクをされたけど。万葉さん、光原母よ。金持ち好きそうとか、男途切れた事なさそうとか褒め言葉じゃないよ!

 悪口だよ!?



「ルーなんだよね?」

「はい」



 頭を撫でてくれようとしたらしいが髪が崩れる!!って。光原母に蹴られてる。



「あたしの作品に手ぇだすんじゃない!!」



 いや、確かにちょっと、下ろしているが手の込んだ髪型にされてる。唇、紅い。真っ赤過ぎない?ネコ目がもう肉食だと完璧に主張しているよー。鏡に映っているのは『秋月ルカ』だ。なんだろ。大人っぽくなった!!そして、一見、悪女だ。……へこむね!!



「写メ良い?心美と月夜にも見せたいし」

「あ、はい」



 その後、私にも写メを送ってくれるらしい。確かにこんなに高級そうな着物を着る機会がなさそうなので有りがたく受け取っておこう。



 万葉さんにあーたんと会長が迎えに来たと告げられ、玄関先に出ると横付けされたリムジンに見知った人が、



「太刀川さん」



 私が走り寄ろうとしたら、光原さんが着物!と制してきた。おっと、危ない。



 太刀川さんがリムジンのドアを開けて、あー、ダルッと、伸びながら出てきた着物姿のあーたんが私の姿を視界に入れた後に停止した。

 その後、やっぱり、着物姿の会長が退け!遵。と、あーたんを押しのけて出てきて、やっぱり、私を視界に入れて、少し、首を傾げたかと思えばため息を吐いた。な、何故?



「あ、「『ひばり』!!」



 会長が何か言おうとしたの遮ったな。あーたん。そして、ひばり?……スズメは飛んでるけど?



「なんで、ここに……チビは?」



 着物なのに走り寄ってきて、私の手をぎゅうっと握るあーたん。あ、会長が天を仰いでる。どうしたの?あーたんが言うチビは、私だよ?

 しかし、なんで手を握るんだろ?

 私が困惑して、手をじーっと眺めていたらその視線に気づいたらしく、パッと手を離してくれた。



「わ、悪い…」



 じーっと、ただあーたんを見てみる。だって、会長が後ろで黙れジェスチャーをしているから。なんでー。

 しかし、うっすら頬が赤いな。秋の陽気に負けたんだろうか。着物って、案外暑いからかな。あーとか、うーとか唸ってる。きっちり決めた髪を掻いても良いの?



「遵」



 見かねた光原さんが、あーたんに話しかけてきた。それにあーたんが、ああっと納得したように頷く。



「ああ、なんだ。おばさんが着付けに来たのか……で、チビ知らねぇか?」

「ルーなら、目の前にいるよ?」



 可愛いでしょ?って、ふんわり笑う美形!やだ、照れちゃうね。悪女顔でも褒められるとうれしいよ。で、どうして、あーたんは目をまん丸くして、私を凝視してるの?会長は、あーぁって顔してるの?



「ち……ビ?」

「なんだい、あーたん」



 愕然とした様子で、私を呼ぶあーたん。返事をしたのにどうして、固まってるの?

 だいたい、この真っ赤なお着物で私だと気づいても良いじゃないか。



「あーたん、どうしたの?」


 あれー、あーたんが動かない。ど、どうした。え、私から視線を逸らして、光原さんの背中に頭をおくなんて、まさか、恋が……、

 会長、キラキラした目であーたんと光原さんを見つめたと自覚は有るが、途中で目の毒判定しなくても良いじゃないか。

 

 始まる前に疲れたとか知らんぞー。


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