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 結論から云うと、神取が用が有ったのは、私ではなく片倉さんだった。


 太刀川さんと時間を潰していたら、リンからお叱りの電話がっ!

 曰く、穢れの件を忘れてるだろうと……ま、魔王がお怒りだ。

 確かに『欠落者』もダメって聞いた気がする……。め、目先の餌に飛びついてしまった。

 う、うっかり…。

 お姉ちゃんからもお叱りのメールが……。や、やばい。『最近家族団らんを大切にしないんだね』って。怒ってる。マングース様が赤マントを羽織始めた姿が見える……でも、まだ予定があるんだよー。天久家にもまた行かないと行けないし。



 リンからは、あれから藤咲さんが普通に室内楽部の練習をしていたことも聞いて安心した。手が出てしまった。そして、あんなに傷ついた顔をされるなんて、……でも、あれ以上、藤咲さんから会長を否定する言葉を聞きたくなかったんだよ。藤咲さんの方もトラウマなのかな?


 神取のお宅は、前に泉さんに撮られてるので、私は太刀川さんに連れられて適当なところで夕飯をとって来なさいと神取に追い出された。

 む、扱いが雑だ。そして、何故知っている。太刀川さんが私の不満顔に気付いたらしく苦笑しながら行きつけの店だと連れてきてくれたのは……居酒屋?


「……中学生って入って良いんですか?」

「自分の知り合いの店です。……酒を注文しないからと、頼みましたので……気にしないでください」


 しかし、……片倉さんになんの用だろ?

 カウンター席の端っこに座り、目の前に置かれた焼き鳥やお刺身をジーッと眺める。神取と片倉さんはどうしてるんだろう。


「あちらには、デリバリーが届いています」


 太刀川さんになんでも注文してください。と言われて、オロオロしてしまう。太刀川さんが最初に注文した品が結構な大量で、食べきれるだろうか。お酒と勘違いされない飲み物ってなんだろ?メニュー表をガン見する。く、クリームソーダ? ミルク?


「それから、……これを」


 ん、なんだろ。この書類は?


「ルカさんが、天久と関わっているとお聞きしたので」


 どうぞって。結構な厚みがあるよー。やだ、心が折れそうだ。


「だ、だれから…っ」


 私が、戦慄していれば、太刀川さんが声を潜め、


「……『花』だった子たちからです。少々、困った相談がありまして……」


 あ、そうだ。その件を聞きたくて、連絡したんだから。聞けるのかな?ジーッと太刀川さんを見つめたら、太刀川さんが、私を見つめ返してきた。サングラス越しに。


「天久の分家の若者が神取の知り合いまたは上客だと言って関係を強要すると云った内容です」


 あれー、どこかで聞いた話だな。あ、最近私が体験してたよ。


「分家の纏め役の甥だそうです。……この情報は、ルカさんがお好きなようにしてください」


 一応、パラパラと書類を眺めると、結構ひどい。え、子供に見せて良い内容かな?

 いや、生前+αだし!そして、貼られた写真はやっぱり、あの小物だった……よく、これで天久一族って繁栄出来てるなって疑問。狐様って、凄いんだ。


「……天久が『神憑き』と云われる由縁はこれです。この部分です」


 書類の一部を指す太刀川さん。……今年の上半期に買った品々が凄い額になってる。いや、毎年凄いんだ。


「別荘とかブランド品とか……あれ?旅行にこんなに行ってて大丈夫?」

「この分家の纏め役の子供は、月の半分は日本に居ません。仕事ではなく遊びです」


 ーー私が志鶴さんの……『鶴』の立場ならキレてる。


「贅沢三昧で金を消費しても、商売で帳尻が合ってしまうんです。どこかから、必ず大口の契約が舞い込むと云った形で」


 なんだか、『堕落』しそう。……この贅沢に対する赤字の帳尻を合わせるなんてかなり不自然だぞ。


「当主に天久志鶴さんと云う方がいらっしゃりますが」

「はい」

「このお方の奥方が何故、『天川』市の市立病院ではなく、隣県の私立病院に入院されているのか調べてみました」


 こちらです。と、書類をどんどん捲ってそのページを見せてくれる。


「あちらの私立の病院長と纏め役が既知の間柄で、奥方を当主の元へ帰さないようにあれこれと理由をつけて精神異常者に仕立て上げているそうです」

「……どうしてですか?」

「奥方のご実家が、天久とは関係ない老舗百貨店だからです。末っ子でご兄弟仲は悪く有りません。むしろ、猫かわいがりされています」

「……えーと、……自分の役割が奪われそうだから、ですか?」

「はい」



 あれ、会長、そんな話しなかったよ。



「実は、押しかけ女房らしく、それでご実家に勘当されておりまして。ですが、お子様二人が生まれた事によって、和解し勘当が解けたらしいのです……それ以降、突然の病気を理由に実家にも帰れず、見舞いに来た相手も病院の方で追い出しているようですね。時々、正気が戻ったとされて天久に帰宅はなさるようですが」

「本当は精神が患ってないって事ですか?」

「だと、思われます。何度か探りを入れましたので」



 それが、この分厚い書類の束か。



「これ、私には手に負えません」

「はい。お好きになさってください」

「誰かに渡しても良いと云う話ですか?」



 こくりと、迷いなく頷く太刀川さん。


 もぐもぐと、焼き鳥を食べながら、考える。渡す相手は、とりあえず、天久当主である志鶴さんだけど。………こんなにいっぱい人が居れば、堕としがいがなくても『悪魔』も満足できるんじゃ。もぐもぐ。……太刀川さんって、必要以上に喋らないんだよな。ええっと、とりあえず会話の糸口を。



「天久に憑いている神様って、働き者と努力家が好きらしいですよ」



 あ、話題を間違ったのかな。きょとんってされて、そのうえで何か考えている。



「座敷わらしみたいですね」



 控えめな笑みで応えられてしまった。待って、座敷わらしって、神様だっけ?あと、大人には見えないんじゃ。太刀川さんが私の混乱を私の知識がないところでの話だと考えてくれたのかそうですねって。



「昔話で、口減らしの為に捨てられた子供の魂か、水子の集合体とも言われています。子供しか見えないとか悪戯好きというイメージが大きいです……それにしても、天久に憑いているとされる神が本当に座敷わらしのような性質の神なら、さぞかし、今の天久は無念でしょう」



 太刀川さんの言葉に狐様を思い浮かべる。退屈だーと繰り返していた。なんだか狐様自体も怠惰な気がする。……そういえば、いきなり豹変したような…志鶴さんの引きずられているってどんな意味だったんだろう。



「……コピーが必要でしたら、用意しますよ」

「あ、はい。お願いします」



 じーっと、書類を眺めていたら太刀川さんが有りがたい申し出を。か、かゆいところに手が届く出来る大人だ。す、すごい。よし、この勢いで神取の事も聞こう。



「あの、『花』を育てなくなったって」

「ええ、神取が、……留守にしますので、『花』の希望を聞き、信頼のおける同業者に譲ったり、これを機に地に根を張りたいという『花』は出来る限り、自分と同業がサポートするつもりです。そのつもりもあっての教育ですから」



 ……筋が通ってるの?ど、どこをツッコもう。えーと……、太刀川さんがなんだか、これ以上聞くなオーラを醸し出している気がする。あ、カウンター席だからかな。不特定多数に聞かれたらやばい話なのか。

 それとも、本当にこれ以上説明することないのかな?



「……書類を見なかったんですか?」



 私が眉間に皺を寄せて考えていたら、太刀川さんが難しい顔をして聞いてきた。



「はい」

「昴さんも何も言わなかったのですか?」

「どこかに家を買ったから一人暮らしが出来るか的な」

「……どうして、余計に混乱するような事を言うんですか。あの人も」



 呆れられている。お、お父さんが太刀川さんに呆れられている。



「家を用意したのは、神取です。もしもの場合、ルカさんにそこに住んで欲しいからです」

「もしも?」



 首を傾げたら、太刀川さんが、ぐっと押し黙った。



「……これ以上は、じ……私の口からは言えません」



 神取かお父さんに聞いてくださいって。黙ってしまった。

 これは、機嫌が悪くなったからじゃなく、本当に神取かお父さんに訊くべきことだと判断しての事なんだろうな。……家にある書類を見れば、自分でも察することが出来るんだろうか。



 うーん……。



 答えが出ないまま、天久関係の書類を志鶴さんに渡したいので、帰りに寄っていいかとメールすると、玄関に出るから近くに来たら電話を入れろと返信があった。



 お刺身をもぐもぐ食べながら、神取からの連絡を待っていると、神取と少し顔色を悪くした片倉さんが店に入ってきた。



「連絡をくだされば」

「ああ、すまない。飲みたい気分だったからね」



 太刀川さんが、仕方ないなとため息を吐いて、店員さんに場所替えを頼んでいる。



「片倉さん、どうしたんですか?」

「……ごめん」



 何故、視線をそらして謝ってくるの?……む、なんだか、また感情が落ち着かない。モヤモヤする。



「か、片倉さん」

「ごめん、疲れたみたい」



 あ、能力の制御とかででしょうか。

 神取に視線を向けたら苦笑で返された。片倉さんに無理難題を押し付けてなければ別に良いんだけど。



 結局、神取に質問するにしても、『花』の件だから片倉さんが居るので出来ない。不満だ。むむ、もしかして、狙ってやがったのか。くそ、なんて罠だ。

 さらに飲んで帰るとタクシーに乗って行ってしまった神取と別れ、太刀川さんに片倉さんと一緒に会長が待っている玄関前まで送って貰い、書類を渡すと会長は怪訝な顔をしながらも受け取ってくれた。



「達也君は、お家には」

「すみません。リンに用が有るので、秋月さんと一緒に」



 携帯でメールを打っている。夕飯は終わった時間だし。リンの家には冷蔵庫はあるけど、水しか入ってないはずだ。



「ご飯は?」

「デリバリとおつまみを食べたから大丈夫だよ」



 ニコッと微笑む片倉さん。……ちょっと、能力説明を求む。その笑顔に甘えたいって気持ちと、カッコつけんな。ケッ、て気持ちが……、むー。どっちも強い感情だから混乱してしまう。私は、どうしたいんだろう。



 うちの前で片倉さんと私を車から降ろした太刀川さんに本当に申し訳なく思ったけど、くれた情報のコピーをとりあえず2人分ほど頼んでみる。


「今日中に用意致します」


 今、八時半くらいだから、……お、起きていられるかな。


「達也君は、リンさんの家に今日は泊まったりするのでしょうか」

「そうしようとは、思っています」

「ルカさんは、基本的に早く寝てしまうタイプですので、もし、連絡がつかなかった場合、書類を預けても宜しいでしょうか」

「……秋月さん、そんなに早く寝てるの?」

「出来れば、9時に」


 片倉さんが袖を捲って、腕時計を見ている。


「わかりました。秋月さんに連絡が取れなければ、オレにお願いします」


 2人でアドレス交換を始めてしまった。……私が起きていられない認定ですね。わかります。

 リンの家に視線を向けたら、まだ、電気がついていない。うちに居るのかな?


 太刀川さんを見送った後に片倉さんが、リンに連絡を入れているが出ないようだ。どうせ、うちに居るんだからと玄関を開けて、「ただいまー」と、呑気に家に入ってしまった。うん、マングース様の姿がちらついていたのに何をしてるんだ。私。


「おかえりなさい。ルカ」


 にこにこと玄関に仁王立ちのマングース様と後ろの魔王。


「ご飯にする?お風呂にする?それとも、説教かな?」


 やだ、世の新婚さんが一度は夢見るシチュエーションだね。最後だけなんか違うけど。


 あ、リン。どうして、私を助けずに悪かった。お休みって、後ろの片倉さんと自分の家に戻ろうとするの?片倉さんも、おやすみ!って爽やかな笑みじゃないよ?にげたーっ!!そして、悪かったって何!?


「ルカ。今日は、お姉ちゃんと一緒に寝ようね」


 やだ、大好きなお姉ちゃんにベッドに誘われて断る不義理は出来ないぜ。とっつあん。

 後ろのマングース様が煉獄の炎を背負って手招きさえしてなければ……。


 それにしても、ちゃんと夕飯いらないって、連絡したのにどうしてこんなにお姉ちゃんは怒ってるんだろ?私が疑問いっぱいに首を傾げたら、顔色を真っ青にして、お母さんが、リビングから出てきた。



「り、リンくんから聞いたんだけど、ルカちゃん。お友達に暴力振ったって」



 ………心辺りはある。が、よし、今から、リンのうちに行って、リンにどういう説明をしたんだと説教だ!!悪かったってこれか!?

 そして、私に暴力は駄目だよって、最初は悲しそうな顔をしていたお父さんは、相手が藤咲さんだと知ると、よくやった!って、なんでか私を褒めた結果、お母さんとお姉ちゃんに私より説教された。……一緒に反省しよう。お父さん。


 お姉ちゃんの部屋で寝ることになったから、やっぱり、太刀川さんから連絡着ても出れなかった。



 リンはともかく、片倉さんの迷惑を考えながらも早朝早く、リンの家のチャイムを鳴らすと、誰かがガチャと玄関を開け……リンでも片倉さんでもなく不機嫌な顔をしてジャージを着た藤咲さん?


「……」


 何故か、睨まれてる。いや、焦点が合ってない?


「アオ、朝弱いなら無理に起きなくていいよ」


 後ろから、片倉さんがおはよーって、こっちもジャージ着てる。


「ちょうど良かった。はい、太刀川さんから」


 書類を渡され、礼を言えば、これから走ってくるけど一緒に走る?だと!?

 藤咲さんに視線を向けたが、走ってこようって人のシャキッとした感じがないが、日課らしい。



「ルカの足は、遅いから付き合ってられませんよ」


 リンが、最後に出てきて朝食はコンビニで買うからいりませんって、言って置いてくださいと言い残し、3人はランニングに行ってしまった。………いま、6時ちょっと前だよ?リン、いつ寝てるの?そして、藤咲さんが若干ふらふらしてるから片倉さんが背中押して誘導してる。そんな3人の背中を見送りつつ、


 片倉さん、話が有ったのってリンだけじゃなかったんだ。

 三人でどんな話をしていたんだろ?



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