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親と立場と理由


 腕を掴まれたまま、私が呆然となにも答えられずに居れば、会長は唇を噛み締めた後に…表情をなんとか笑みに保とうとしながら、失敗したらしく、俯いたまま、すまない…と呟いた。


「何を言ってるんだろうな。俺は……」


 私を掴んでいた手を離し、代わりに頭をポンポン、叩かれた。

 それに私は、戦慄した。私に会長が優しいだと!?ーーあり得ぬ。


「き、狐様!?」


 ……数秒くらいの停止時間後、会長が無言で机に書類を置き、その後、すぐに私の顔をわし掴んだ。


「あーきーつーきーっ!」

「痛い!確実に握力が上がってます。会長!!」

「お前のおかげでなっ!」


 やだ、体力測定が楽しみだね!

 私の顔を握り飽きたのかようやく離してくれた。額に指の後がついてたらどうしよう。

 しかし、先程までの悲壮感はなく私に対する飽きれで、はーあっとため息を吐く会長。


「お前と話すと毒気が抜ける」

「みなさん、そう仰有ります。がー…、私、秋月ルカは毒だらけであります!」

「黙れ」


 あ、アイアンクローの後は、頭をわし掴みですか。暴力反対!

 本格的にシメに入ったのか、ギリギリと頭が軋んでいる。


「お前、『お狐様』を狐様と呼んだらしいな」

「たぶん、あの様子だと狐ちゃんって呼んでも気にしません」

「呼ぶな!」


 ギリギリと確実に握力が増した指でシメられてる。


「か、会長!」

「なんだ」

「会長の健康維持に役立った、私に先程の言葉の真意をちょろっと…っ」

「……なんだ。その野次馬根性は」


 心底呆れたらしい。

 はーあって、ため息を吐かれた。し、仕方ないじゃないか。一瞬、会長の悲壮的な表情に脳内処理が追い付いてくれなかったんだもん。

 でも、ここで訊かないと会長は、口を閉ざしそうなタイプだし。溺れるものは藁も利用してみせよう!

 ジーッと見上げたら、会長がふぅ…と、胸ポケットから眼鏡を取り出し装着した。


「隣県の市立病院に入院している母が、見舞いに行く俺を『遵』と呼ぶ。そのせいで自分が『遵』だと思い込みたいだけかもしれない。父さんに甘やかされて、側に置いて貰える『遵』に……そんな俺に呆れて、友人も大分減ったからな……あおちゃ……藤咲も、………『鶴』が、『この土地』から出ていけないなら、俺は、長子である『遵』ではない筈だ。なのに……」


 会長が、持っている知識には、やっぱり、『鶴』でなければ、『この土地』から出ていけるというものはないようだ。

 しかし、私は物足りなさに首を傾げる。


「それだけで、自分をあーたんだと思い込むんですか?」


 あ、会長、めんどくせぇなって顔しないでください。私程度ならこの説明で済むと?甘いな。


「……多分、昔、頻繁に繰り返した1日、入れ換えごっこのせいだとも思う」

「入れ換え?」

「母と父の趣味が違い、『遵』は父の 趣 味(着物)に合わせて、『俊平』は、母の趣 味(カジュアル)に合わせた服装をしていたんだが……、大抵の人間は服を代えただけで俺達を見分ける事が出来なくなった。それが楽しくて仕方なかったが……だんだん、『遵』の立場も『俊平』の立場も知り、『遵』だった俺は、天久から逃げたいと、父さんに泣いて頼んだ記憶がある。棘と毒だらけのあの家で『鶴』なんかになって閉じ込められたくないと……あの時の俺は、本気で『俊平()』になりたかった。

ーー俊平は自分なのにおかしな話だろ?」


 黙って聞いている私に会長がソファに座るように促したので、頷いて座ることにした。……狐様の言葉は、会長に当てはまってる。


 ーー『鶴』になりたくないから『俊平()』になりたい。


 もしかしたら、双子の立場の入れ換えが同意の上か。片方は知っていると思っていたのに、今の話だと違うということか。

 あーたんは、諦めていたし。『鶴』になるのを嫌がってなかった。……狐様が、あーたんが『この土地』から出ていけなくしたんだ……。

 む、何か足りない。企んでる人が多すぎる。……志鶴さんもなんか企らんでるし。どうして、『鶴』になる前なら外へ行けると教えなかったんだろう。

 ぽけーっと、考え事をしていたら、コホンッと咳払いをされた。


「今日、遵のふりをしてきた理由だが…秋月、父さんから聞いたんだが遵の婚約者になるらしいが…いつ、そんなに仲良くなったんだ?」


 気まずげな会長に私が心からの否を唱えるぞ!


「違います!狐様が『契約』の上書きを……許嫁披露の場でするって、話です。企みに巻き込まれたのです!!」


 志鶴さんめ、どんな説明の仕方をしたんだ。会長が、混乱してあーたんの真似してくるくらいの説明って。


「なるほど……」


 今の説明で納得したらしい会長が、何かを考えている。


「自分の商売の規模を拡げたいとか、馬鹿を言ってるボンクラがいるからな。『お狐様』の威光のおかげで、初代の血筋に近い者は、成功者が多い……が、少し離れるとそうでもなくなる。一族の一部にそれを不満に思っている馬鹿が多い。……むしろ、天久から血筋が遠かろうと『お狐様』が好きだと云う人達の方が成功してる事に気付いてない。……もっと、『お狐様』(天久)に依存している自分達を大切にしろ。とでも書き加える気なんじゃないか」

「………狐様、もしかして、その場で『契約』破棄を狙ってますか?」

「可能性は高いな。本来『鶴』が持っているべき、『契約書』を『この土地』から出れない事を理由に奪い取った歴史持ちの分家のまとめ役が来るだろうからな……ついでにボンクラの叔父だ」

「?『この土地』から出れないと、何か問題でも」


 あ、今の質問は愚問だったと気づいたが、言ってしまった事は仕方ない。


「うちは呉服屋だからな…。外での交渉事は、ほとんど任せきりになる。それに」


 いったん言葉を切る会長。


「『鶴』は短命だと聞いたか?」

「はい」

「……『お狐様』の威光を持っていない者に任せて、失敗したらどうするんだと云うのが言い分だったらしい。……『鶴』が一度『契約』破棄をしようとしたから、焦って取り上げたんだろう。ーー『鶴』は基本が職人気質だ。口が達者な奴に負ける。横の繋がりも商売のノウハウも分家に劣っているんだ」


 ……会長とあーたんなら、大概の相手に勝てそうだけどなー。


「……遵の事が好きな訳じゃないんだな」

「はあ、我々の対決の歴史を知っている筈なのにどうして、そんな発想に……」

「いや……、ある日、突然、自分と仲が良かった友人が遵とばかり遊ぶようになったせいで」


 顎に手を当てて、少し言葉を選んでいるみたいだけど、結局うまい言葉が見つからなかったみたいだ。そして、それって、もしかして、藤咲さんのことかな?


「……トラウマになってるようだ」

「あーたんの友達と無理に仲良くなろうとするって云うのは?」

「……」


 どうして、視線を逸らすんですか。心当たりはあるんだ。


「俺が『遵』のふりをしていて、得た友人だったから……『俊平』としてでも友人になれると思って話しかけたら、無視されて…後から聞けば天久の大人に次代『鶴』に気に入られて来いという話だったらしい。それなら、『俊平』に媚ても無駄だからな……ーーそれで、どうして、お前はハムスターのような頬しているんだ」


 ぷくーっと頬を膨らませたけれど、何でしょうか。はん。むかつくからじゃ。


「会長は、私とその人達を一緒にしてたんですか。失礼です。私は、確かに小悪党ですが、自分で媚びを売る相手を選ぶタイプですよ。人に言われるがままの無責任な奴と一緒にしないでください」


 だから謝ってください。と、主張したら顔を覆ってどうしたんですか。


「……そうだ。馬鹿だったな」


 嬉しそう笑み、私の頭に手を伸ばしてきたので、鷲掴みされないようにガードしたら、何故か一気に不機嫌になり、そのままアイアンクローを……っ。ど、どうしてだ。



 昼休みも終わり、狐様の企みについて、説明は前日の方が良いだろうと会長にすら説明されてなかったらしいことにがっかりした。受け身だー。でも、他に神様の知り合いなんていないし。………居ても、狐様みたいにアバウトだとは思えないけど。

 セラ様やアディーに会いたいなー。って考えていたら、放課後に携帯にメールが着た。太刀川さんからだったけど、用があるのは、神取らしい。


『達也君を誘って校門前に来てくれないか?』だとー…っ。


 片倉さんは部活が有るからと、当然お断りメールを入れたが、部活が終わってからでも良いって。その為、室内楽の部室の周りをうろちょろしなければならなくなった。

 だって、片倉さんにメールや電話しても電源が入ってないって。そりゃそうだね。授業や部活の最中に電源入れないか。………部活デビューに失敗した身としては青春!的な部活動の場は心に痛い。ちょっと、とある運動部の一年生が部室を扱えないことへの問題提起しただけなのになー。どうして、その後入りたい部活動全部に拒否されたんだろ。


 私がうろちょろしていることに気付いた先輩が、見学していいよって誘ってくれた。あ、顧問は、リンの担任の先生なんだ。


 文化祭の準備の為か、グループで固まっているけど。リンだけ一人で楽譜を見てる。一人なら話しかけてもいいか。


「リン」


 一瞥もせずに無視された。え、どうして?


「藤堂が楽譜を読んでる時に話掛けても無駄だ」

「あ、桜田先輩」

「暇なら、片倉と藤咲のグループに構ってもらいなさい」


 暇認知されてしまった。

 言われたとおりに藤咲さんと片倉さんに視線を向けたら、あれー、片倉さんの周りに人が少ない。むしろ、顧問の先生に群がってる。それに片倉さんが視界入っても理不尽にイライラしない。

 どうしたんだろう。


 首を傾げて疑問いっぱいな私に気付いた片倉さんと藤咲さんが近づいて来た。


「室内楽部に興味が湧いた?」


 片倉さんの音源を貸して良かった。って、さわやかな笑みに一切聴いてないことに今更気づく。だって、なんか不快な気分になったから…。わ、話題を変えよう。


「あ、あの……、室内楽部の人たちは片倉さんに頼らないんですね」

「ああ、オレがこの中で一番の素人だからね」


 にこっと、笑う片倉さんに私が意味がわからず、首を傾げたら、藤咲さんが、不機嫌そうに睨んできた。ど、どうして?私が蛇に睨まれたカエルよろしく硬直していたら、片倉さんがひそひそと、耳元で​


「色々試してみたんだけど、オレの『欠落者』としての能力は年上には効かない(・・・・・・・)みたい」


 意味が分からず、首をさらに傾げたら、片倉さんがええっとって説明しようとしてくれようとしたが、藤咲さんが途中で割って入ってきた。不機嫌だね!


「今日、俊平の所に一人で行ったらしいけど?」

「あ、はい。狐様の件で話が有ったので」


 色々、企まれていてもその予備知識は欲しいなってヘラりと口にすれば、藤咲さんの機嫌がさらに悪くなる。


「俊平の話なんか聞く価値も無い」

「はい?」

「『鶴』でもないし、遵の友達に自分が『遵』だって口走る」


 藤咲さんは何を言ってるんだろう。私がパチクリと藤咲さんを見つめたら、藤咲さんが何故か顔を真っ赤にした。ーー怒ってるの?


「俊平は、『気持ち悪いから近づくな』 」


 その言葉を聞いた瞬間、色々考えた。多分、藤咲さんがなんとなく真実を嗅ぎ取って、自分の中の常識を揺らがしそうな相手を自己防衛や本能的に遠ざけようとした結果の言葉なんだろうけど、私は、うっかり、ぺちっと藤咲さんの頬に猫パンチを食らわせた。

 フルスイングでもなく、ただ、正気に戻ってくれ的な一発を。


 ーーどうして、頬を押さえて唖然としてるんだ。しばらくお互いに見つめあってしまった。本当にどうして?


「……秋月さん、オレに用が有るんだよね。ちょっと、外に行こうか」


 片倉さんが背中を押して、外に連れ出してくれる。なんだろ。視界がぼやける。


「ふ、」

「…大丈夫」


 片倉さんが、荷物を持ってくるから一緒に帰ろうという言葉に神取が会いたがっていること伝えると、良いよって。ハンカチを貸してくれ、帰りの支度をしに行ってくれた。


 あの程度の暴言なら平気な筈だ。だって、リンが私にたくさん言ってるじゃないか。でも、………どうしても、暴言より、藤咲さんが会長を語る時の酷薄な目が……怖かった。


 少しでも、気に食わなければいつでも、『私』を無いものと無視する両親の目にそっくりで…、怖かった。



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