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 沈黙が重苦しい。ーーどちらの意味にしても、狐様が知らないことだから答えられないのか。

 志鶴さんを探るように見れば、……あまりいい感情ではない目で私を見ている。うん……、きっと、あーたんと会長から、馬鹿だの鼻水だと聞かされていた子供に秘密を暴露されるかもしれないのは、ちょっと、沽券に関わるのかなーっ。はっはっはっ。

 それとも、的を外しすぎて余計な種を撒くな。って目かな。


「……狐様に心当たりは?」

「どういうものを当たれと?」

「『鶴』の葬儀に出なかった『鶴』とか。すぐに現れなかった『鶴』とか」

「我は時間の感覚は、人間より曖昧だ…。数年が数十年だったする…最近は、遵のおかげで認識しておったが…確か、志鶴の父がそうじゃったような…」


 放浪癖があったから。って……チラッと、志鶴さんを見ると、あれー。睨まれてるっ。こ、怖い。

 やめて。年上の美形の睨みは怖いから。

 いや、待て。私、生前+αだ!この人、年下だ。きっと。……そういえば最近、リンに睨まれて心が折れてたーっ。


「それが、どうした」


 狐様は、空気を読まない。と…。私は、志鶴さんに視線を向ける事を諦めて、狐様の方を向く。


「『鶴』になると、日常生活で何か変わることがあるのでしょうか」

「『この土地』からは出れないようにしてあると何度も言うてるだろう。だが、それだけだ。『反物』も本来強制ではない。織りさえしなければ、腕が上がった事すら気づかないだろう。通常……」


 そこで、狐様の動きが止まる。ようやく気づいてくれたのかな?


「『この土地』に居ずに、自分の前の『鶴』が亡くなったと知らねば、そのまま、外で生きていけると?」

「はい。そして、これは狐様の話を聞いてから思ったのですが、一年に一度の『反物』が、『契約』に必須なら、一年間を一族に見つからず、もしくは一族すら手出しが出来ない場所に居れば、『契約破棄』が可能なのではないでしょうか」


 あ、やばい。殺気を感じる。殺気をさっきから……な、和もうとしただけだもん。自分、セルフ癒しを求めただけだもん!

 着物の擦れる音すら敏感になるくらいに重苦しい。

 うーん、それにしても、ダルい。そろそろこれを理由に退場しても……、


「どうして、問われた事に答えぬのだ。志鶴」

「……っ」

「遵と俊平の件といい。今回の俊平が我の守り袋を穢した件といい。『鶴』とはいえ、容認はせぬぞ」


 弾かれたように顔を狐様に向ける志鶴さん。

 む、これはダメだ。


「狐様、答えられなくてもお怒りにならない約束ですし。それにお守りの件は、私が来たから許されてる筈ですよ」

「お前は、もっと早く我のもとへ来る約束となっていた。何故来なかった」


 わー、次は私が標的だ。いやいや。知らないし。暇をもて余してたよー。

 ………ん、あれ、いきなり性格が変わったように私を責め始めてないか?

 志鶴さんが悲鳴のような声を上げた。


「『お狐様』!引きずられています!!」

「五月蝿い!」


 チッ、と舌打ちまでしてくれた。……引きずられている?青ざめた顔を見られないようにか頭に被っていた仮面を被る狐様。


「……ルカ」

「はい」

「我は、そろそろこの一族が本当に厭になった。『鶴』まで、我を害そうとする」

「違います!」

「では、この『反物』はなんだ!?」


 玩具の中に埋もれていた反物を取りだし、志鶴さんに投げつける。……形容し難い色合いのそれを志鶴さんが、唖然としながらも拾う。


「我への不審、不快、嫌悪……憎悪までを込めたそれをわざわざ見せつけるように織り込むとはな!」

「……違います」


 弱々しい否定の言葉に狐様がふんっと、鼻で嘲る。


「では、何故、我を謀った!」


 これには、なにも答えずに違いますと、ただ繰り返し、頭を垂れる志鶴さん。それにイライラしたのか狐様は矛先を私に向ける。


「ルカよ。我は、次の『契約』の相手として、お前をと、考えている」


 ーーこの瞬間の私の気持ちはなんとも形容しがたい……絶対、何か企んでるッ!と、私の勘とちょっと磨かれた経験は訴えている。さんざん、働き者の努力家が好きだと宣った口で、私と『契約』?

 い、意味がわからない。私、もうアディーとセラ様と……藤咲さんと『契約』してる。それだけでも、異例なのに……ん?あれ、異例な例が、もうあるんだし、さらに重なってもおかしくないとか?


「どうした。喜びのあまり声もでないか」


 ………声音が挑戦的に聞こえる。狐様が仮面を被ってしまったせいで表情が読めない。うむ、でも本心を言えば、


「お断りします」


 深々と頭を下げてみる。


「何故だ」

「私は、もう『契約』を3つもしています」

「我以外とは、全て取り止めよ。それで解決する」


 理 不 尽 !!

 なんだろ。さっきから、私や志鶴さんが困るような事ばかり言ってないか。わざと?


「話はもういいんですか」

「お前と『契約』すれば、いつでも出来る」

「私は、アディーともセラ様とも『契約』を切るつもりはありません」


 藤咲さんは、決定権があっちだけど。

 でも、セラ様にはお世話になりっぱなしだし、アディーは、一人前の悪魔になるにはまだまだ掛かりそうだし、……悪魔(アディー)を一人前にしてどうするんだ。冷静になろう。アディーは一人前にしちゃダメだ。うん。


「では、どうしても、我と『契約』したくないと申すのだな?」


 あれ?なんか嬉しそうに聞こえるのは気のせいだろうか。志鶴さんに視線を向ければ、私を気の毒そうに見ている。……ハメられてる?


「志鶴、3日後だ」

「………はい」


 そう言って立ち上がる志鶴さんに意味がわからずに首を傾げる。と、狐様は、くつくつ喉を鳴らす。


「お前を次代の『鶴』の許嫁として、披露する」

「は?」

「その時、『契約』の上書きを求めている一族の代表に上書きをしてやると持ち掛ける算段だ。ーーわかるな?」



 何がでしょうか。私が目を白黒させていれば、狐様が首を傾げる。


「察しが悪い。……時間を与えての熟考が得意なのか?」


 いやいや、許嫁発言でフリーズしただけだよ。


「意味が」

「秋月さん、顔色がよくありません。おいとまを頂くべきです」


 まあ、確かにもう限界に近いので、志鶴さんの言葉に大人しく頷いた。


 クラクラする頭を抱えながらも、制服に着替えなおし、シュシュもきちんと奪還する。

 会長をお見舞いをしようかとおもったが、その前に私がお見舞いされそうだと断念した。私の顔色に今日の説明は止めましょうって。あと、三日しかないのに良いのかな?


 そのまま、自宅に送られ倒れるようにベッドにダイブすると、いつの間にか眠っていたらしい。そして、すっきりした頭がようやく、事態の緊急性を認識し始める。


 勝手に次代『鶴』の許嫁にされて、披露されそうになっている。

 なぜ?理由も聞かずに帰ってきてしまった。


 あわわっと、パニックを起こしているとお姉ちゃんが、普通に私を起こしに来たのでそのまま、時間も時間なので登校することになってしまう。そ、そうだ、会長に話を聞けばいいんだ。

 リンは、少し具合が悪そうな顔で、私に何か注意しようと口を開きかけたが、お姉ちゃんが、甲斐甲斐しくお世話している。……いいなー、リン。むしろ、憎い。


 お守りがなくなったせいか、泉さんが登校しているが疑わしそうな顔で私を見ている。カードは復活したぜ。お昼休みに一、二もなく生徒会室に行けば、普段通りの顔で、会長が……、居なかった。あーたんだよ。その棒付き飴は。眼鏡もしていない。しかも本人隠す気無いね。仕方ない。


「あーたん」

「 なんだよ。チビ」


 もう同じじゃなくていいって言ったのに何してんだ。私が呆れながら、どうしてか大量に持っている書類整理の手伝いを申し込めば、PCに打ち込んでほしいのはこれだと……、あれ?会長すら驚いた私のタイピングの腕を何故、あーたんが……差し出された書類とともに私は、さりげなく、ペンだこの確認をする。


 ーーある。


 なんで、会長なのにあーたんの物まねをしているんだ?


「どうした。チビ?」

「あ、……急用を思い出しまして」


 これは、藤咲さんに相談すべきだろうと、生徒会室から逃げようとするとがっしりと腕を掴まれる。何?いや、本来なら会長に相談事が有ったんだけど、今の状態の会長はやばいと、大分壊れている私の危機管理能力がこの時を待っていましたとばかりに警報を鳴らす。会長にばっか鳴ってないか?


「……今度は、どこが悪かった」


 見分けられたことを気づいたらしい会長が、私に問う。いや、これは言うなって、桜田先輩に言われてることだし……と、くるりと方向転換し、会長に適当な理由をでっち上げようと笑い掛けようとした瞬間、会長が何故か痛みをこらえるような顔で私を見つめている。


「お前もなのか……?」

「会長?」

「お前も、俺より、遵が良いのか?……本当は、俺が…なのに……みんな、アイツのものになるんだ。なあ、『俊平』は嫌いなのか?」


 か細く聞こえづらく濁した会長の言葉の意味を正しく理解した私は、身を硬直させる。俺が『遵』なのだと、会長は確かに言った。


「なあ、秋月。『遵』は大切されて、何故『俊平』は駄目なんだ。どうして、俺は遠くの高校へ行かなければならないんだ」


 引き留めて欲しかった。三年間帰ってくるなと言われているようで、辛いと吐露された本音に私は、何にも言えずに呆然とただ黙った。


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