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 私が差し出したおいなりさんを見つめ、『お狐様』は、遵と同じことを……と、ボヤいた。おおうっ、待て。私が、あーたんと同じ思考回路だと!?………否定できない。

 でも、あんなハレンチな存在ではないぞーっ。

 しかし、どうして、こんなこじんまりとした和室の一室に仏壇と雑多にされてるオモチャとテレビ。


「その仏壇は…」

「歴代の『鶴』の物だ。織った『反物』を一反ずつ奉っている」

「あの」

「ああ、万葉に聞いてる。人の家の仏壇に手を合わせるのが趣味だとかな」


 もっと、言い方があると思うーっじゃなく、たぶん、『お狐様』の中でそう変換されたのか。うむ。別に気にしないけど。

 仏壇に手を合わせると、『お狐様』がお守りを寄越せと言うので渡そうとしたら、志鶴さんに制され、先に志鶴さんに渡してから志鶴さんが『お狐様』に渡した。

 ……体育祭の時、棒付き飴を平気で貰ったけど。とそれを訊いてみたら、志鶴さんは、熱を出して寝込んだのでしょ?と指摘された。

 確かに。


「耐性がない子供に何の考えもなしに神が、施しを与えるなど軽率の一言なんですよ」


 志鶴さんの言葉にツーッと視線を逸らす『お狐様』。


「遵と俊平は平気な筈だ」

「産まれる前から、一緒に居れば耐性も付きますよ」


 しかも、『鶴』の子供ですから。と、……仲良いの?


「『鶴』はどいつも口煩い」

「子供みたいな振る舞いをなさるからでしょう」

「あの……」


 私、そろそろ帰っても良さそうな気配が。


「志鶴出ていけ。小娘に用がある」

「……しかし」

「お前は、我を謀った。この件では信用ならぬ。行け」


 ……先程までの暖かさもない言葉に立ち上がり、複雑そうな表情をしながらも失礼しました。と出ていく志鶴さん。

 どうしよう。不敬の定義がわからない私、ここで木っ端微塵かな?フォローを期待してたのに!


 よし、脳内会議どうしよう!?

 ーーゴマをするべきです!ここにちょうど、すり鉢が!

 よし、帰れ!だが、ゴマすりは採用しよう。ーーよ、小悪党!

 ……たまに私の頭の中は大変だ。

 『お狐様』と小さな和室に置かれて、さて、どうしよう。


「さて、小娘」

「秋月ルカです」


 とりあえず名乗ったら、にやりと笑われる。


「『神』が名を問う前に自ら名乗る事も不敬となる場合もある」


 なんですとーっ!?


「そういうのも居るだけだが、な……不敬。不敬、周りが口五月蝿かったろう」

「はい」


 あ、同意しちゃった。


「……気を使い過ぎて倒れる者もいるが、図太いな。まあ、だからこそ、あれだけの『悪魔』と『欠落者』に遭遇しながらも、『堕落』せずに済んでいるのかのぅ」


 ……時々、子供がお爺ちゃん口調になる。き、気にしたら敗けだ。それにしても、これが本来の口調なのかな?

 前は、あーたんのフリをしていたんだし。

 うーん、とりあえず軽く何かを訊いてみよう。


「『お狐様』、『反物』好きですか?」

「否だ」


 わお。あっさり、否定した。

 『お狐様』は胡座をかき、座り直した。もう、狐様で良いかなー。


「狐様」

「なんだ」


 あ、良いんだ。


「初代のどこが好きでしたか?」

「何故、そんな事を問う?」

「好きだから着いてきたと聞いたので。反物の腕でないならどこかなと」


 怪訝な表情をしながらも、そうだな…と口を開く

「努力家で働き者な所だ。皆が凡才と呼ぶ3代目も努力家で働き者だった。ーー2代目は腕が良いがすぐに付け上がり酒に溺れた。だから『契約』せず、初代ーーお鶴が死ぬまで『この土地』に居るだけにしようと考えていたが…。お鶴の子孫は、2代目以外は、努力家で働き者が多かった。三代目が心配して、子と孫を宜しくと願うので、子と孫と『契約』した。そう言えばこの頃から一族が繁栄するに連れて供物とし、腕を見てくれと『反物』が献上されるようになった…」


 何かを考える仕草をする。子供の姿なのに威厳がある。


「それで、ルカ。お前の話はどう」

「あ、もう少し、『契約』を定期的に更新ではなく、半永続的にしたのはいつ頃でしょうか」


 何かを考えて、私をパチクリと見る。どうしたんだろ。


「普通は、我が話せと言えば、皆、無い頭を捻って喋るものだが」

「いやー、それをやっていて、最近コテンパンにされましたので」


 へらーっと曖昧に笑いかけたら、呆れたと言わんばかりに眉間を押さえる狐様。


「十代目……あたりだった筈だ。たしか娘が男に弄ばれて、それを我と『契約』していなかったせいだと、娘に責め立てられた葉鶴が、個人ではなく、家族を護る『契約』にして欲しいと頼んできてな。ーーそこから、おかしくなった気はする。『鶴』が言えば『契約』を変えさせる事ができると思われてしまった……」

「狐様が『鶴』に固執して閉じ込めてるような話を聞きました」


 顔をしかめ、難しい表情をする狐様。


「『鶴』に無理に子を持たせようと輩が増えたからだ。我は万能ではない。そして、『繁栄』が自らが司った力だが。子を成す事も『繁栄』とは云え、拐かしは容認できぬ。何より、『鶴』が逃げた場合、我は放置せよと言うたのに奴等はー…っ。ならば、最初から逃げれぬようにし、護るべきだろう。『契約』が続く限り」

「それは歴代の『鶴』には言いましたか?」

「言うた。そして、『契約』破棄を持ちかけた『鶴』も居たが、牢に閉じ込められ、家族を人質に反物を織らされ続けたと聞く。それ以降、必ず我の近くに家族とともに住むように厳命している。最近では、志鶴のように最初っから、我に対する負のイメージを定着させてからの対面が多い……息子の遵は面白がって、ちょくちょく会いに来るようになった。それを思えば失敗ではあるな」


 あーたんの話し方だと狐様も悪者みたいな言い方だったけど、狐様の言い方だと、やっぱり、天久の一族が怖い。

 うーん…。


「私を暇潰しの相手に選んだ理由は」

「遵と俊平の両方に気にいられているからだ。そして、遵を『欠落者』から外してしまった。ーー目の前の娯楽を奪い取った小娘に代わりを所望してもおかしくはなかろう?」


 くつくつ笑う狐様に私は首を傾げた。いや、おかしい。

 ーーなんだろ。この違和感。うーん…。だって、ここまで話していて、なんとなく、狐様から『鶴』に対する愛情を感じる。なのに『鶴』から、家族を奪うような事をするのかな。

 あーたんを見た後だから余計に変な感じがする。


「あの」

「なんだ」

「おかしくないって、私はおかしいと感じてるので、その意見で納得した人がいると言う話で良いですか?」


 あ、目が丸くなった。

 そのまま、私と見つめあうことしばし、ケタケタと笑い始める。


「通常、『神』とはこういうものだ。と言われれば、あらゆる不条理を呑み込むべきだが?」

「でも、悪魔みたいに人を陥れようと企まれてたりしたら困ります」


 最近、痛い目にあったよー。リンのおかげで目が覚めたけど。……今日の事も報告させられるんだろうな。報告魔になりそうだよ。草の根運動はどうなったー。そして、やっぱり、今の話で誰かを納得させればいいって話みたいだ。神の我が儘って事にしておこうって?何のために?


「ーーなるほど、悪魔の件で疑り深くなったか」


 いいえ、魔王に正気に戻されたせいです。


「それで、ルカ。我が与えた情報でどこまでたどり着いた」

 ふむ、まだ体調は大丈夫だな。えーと。


「天久の『鶴』を縛るのは『この土地』ではなく、狐様だと云うことです。皆が暇をもて余して『この土地』のルールで遊んでいるとよく言いますが、今のお話を聞く限り、『鶴』を護る為に『この土地』のルールを真似してるのではと考えるのですが、どうでしょうか」


 ほう、と感嘆された。間違ってないのかな。私が視線を向けたら、続けろと促された。


「拐かしをされない為の処置だとして……。よしんば、そうなっても天川市内なら捜索範囲が絞れます。それに『この土地』には、悪魔と天使がいます。神の不興を買いたくない者が『鶴』を護ってくれる可能性も……」


 ニヤニヤしている。な、何か間違っているだろうか。


「『鶴』が逃げない為ではなく、護る為に、と……随分、我はやさしいな。」


 嘲るような笑みになんとなく、あーたんが重なる。うむ。したいことをしてると言いたいんだね。ーー似てるのか?


「いえ、会長とあーたん……じゃなかった。双子の件についてのお怒りは、ちょっと、親心なんだから許してあげてくださいという許容さを感じます。だいたい、あーたんが『欠落者』になったら悲しくないんですか?」

「あーたんとは、遵のことだな?」

「はい」


 きょとんとされた。あ、そこまで考えてなかったとか?


「『欠落者』になった所で、我といれば悪魔が『契約』を求めることはない。『堕落』する事など、まずー…」


 やっぱり、そこまで深く考えてなかったのか。確かに『神』の考えと人間の理屈は合わない。


「『欠落者』が特化する能力次第で、本人らしさが無くなるかもしれませんよ」

「……万葉には普通に過ごしていると聞いたが?」

「間違ってません。けど、人間らしいかと云えば、否定されるんじゃないでしょうか」



 泉さんにしても存在感が薄くなったし、私に異常に固執している。片倉さんも色んな人に追い掛け回されてる。歌う牧師にしたって、普通の人間らしい生活かと聞かれれば少々疑問だ。



「それは、……我の浅慮ということか」

「そこまでしてやろうって気だったと言われれば、なんとも言えません」



 少し、考えている様子だ。んー、ちょっと、疲れてきたかも。なんだか、クラクラしてきた。これが普通なのかな。



「双子の件で我が怒りを感じている理由もわかるのか?」

「あー、いえ……確定的じゃないので、出来れば志鶴さんの話も聞きたいなって考えているんですが」



 両方の意見をきちんと聞けって。……この場合、きっと『鶴』以外の天久の一族の話も聞かなければならないのかな。なんか、それは病みそうで嫌だな。



 志鶴さんに部屋に入るように促す狐様と、部屋に入るなり私の顔色を心配する志鶴さんに私は、口を開く。



「これから、私が聞くことで、私の考えの前提が変わるかもしれないので、答えられなかったら言ってください。答えずとも、その場合、狐様はお怒りにならないことを約束してくれますか?」



 狐様があっさりと頷き、志鶴さんは、それを確認した後に頷く。うん。はーっと、ため息。気合を入れねば。気になっていたこと。狐様が前に教えてくれた『鶴』は、まだ『鶴』候補な段階なら外の世界に行けるなら。



「『鶴』候補ーーいえ、『鶴』の名前を継承するとされる長子が『この土地』の外で『鶴』になった例ってありますか?」



 私の問いに狐様が首を傾げ、志鶴さんは息を飲んだ。


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