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 悪魔(万葉)さんも美容院に用が有ったらしい。……悪魔って髪切るの?


「テル君、練習台(シャンプー)にきたのー。お願いね」

「あ、すみません。いつも、ありがとうございます」


 ニコッと微笑む光原さんと対照的に光原母は、ケーっと万葉さんを睨む。


「金になんねぇんだよ。たまには切りに来い」

「えー、だって、うちには専属がいるからー」

「ババアの癖にブルな。気持ちわりぃ」


 ………な、懐かしい。ゲームの時も光原さんのお母さんは、男前で口が悪かったんだった。やっぱり、私のゲーム脳を一番刺激するのは光原さんなのか。

 助けてくれたことにお礼を言ったら、もう無理しちゃ駄目だよって。説教出来なくなった!


「ばばあじゃないわ!」



 喧嘩はまだ続行している。いや、喧嘩じゃなく漫才に近い。周りがみんなクスクス笑っている。


「同い年のあたしがババアって近所のガキに言われてんだから、ババアだろ!」

「ルーちゃんは、私を美人さんって呼んでくれたわ」

「はっ、お姉さんとは言ってないだろ。ババアはババアだよ。まったく、テルと同い年の子供がいるなら、可愛がってやれよ。葵だっけ?」

「心美ちゃんも私の子よー。」

継母(ママ)の言うことを一生懸命、鵜呑みにする子供を子とは言わねぇよ。うちのテルは、頭良い馬鹿で困るけどな」


 お客さんの前で言い争っても大丈夫ですかー?

 従業員のお姉さんが、ニコニコと髪染め中のお客さんの髪をチェックをしながら、私に初めまして。と挨拶してきた。


「テル君のお友達ですよねー。通常価格とお友達価格どちらで」

「こら、お友達価格って何だ!?」

「はい。さりげに月夜君と心美ちゃん、それから、遵君等、テル君のお友達に適用されてるものです。あ、万葉さん。いつもシャンプーの代金、ありがとうございます」


 でも、本来は、テル君の練習なので要らないんですよーって……、この人、出来る従業員だ!

 ふわふわとしたふくよかなお姉さん。よ、嫁に欲しい!是非、我が家にと言ってしまいそうな雰囲気がある。……羨ましい。私、絶対言われない。他にも二人居るけど、ゲームの時にみた顔はない。……三年後は独立してしまうのだろうか。


「遵君は、今日はカット?それとも、また金髪に染める?」

「黒歴史を紐解くな」



 あーたんが今日は客じゃないというとみんなあからさまにがっかりしている。なんで?


「金髪は似合わなかったよね。練習台(シャンプー)する?」

「あー…、邪魔じゃなければ、ここで本読んでる」

「邪魔だが許そう」


 光原母が、きっぱりしてる。それに従業員さん達が嬉しそうだ。光原さんが、万葉さんの纏めている髪をほどき、ブラッシングをし始める。


「テル。この子は?」


 え、お姉さんがシャンプーに連れてきてくれたのにまだ、何か?

 皆様の話に半ば呆然としています。駄目だ。身内展開でボケられない。


「え?ルーは普通にお客様だよ?」

「それを早く言え!」


 今日は、どうされますかー?と、いきなり営業口調になった!新規だから!?髪染めをしている人の前で普通にコントしてたよね。


「と、トリートメントとカットで…」


 もう、戦う前から負けているーー誰と戦う予定だったの?私は。


 もはや、逆らわないお人形さん状態でトリートメントを終えカットして貰う。

 鏡越しにチラチラと、あーたんが見える。うん、もう認めないといけない。あーたんが読んでるのは、『介護福祉』の資格の本だった。

 それにさっきから、お婆ちゃんとかお爺ちゃん、幼稚園児が来るとニコニコし、綺麗なお姉さんには、いつも通りのちょっと皮肉な笑顔で対応してる。赤ちゃんなんかだっこさせて貰ってるだとー!?

 ど、どうしたんだ。手慣れてやがる。


「お客様、いきなり頭を動かされると危険ですよ?」


 思わず、あーたんの方に顔を向けたら、シュパッと前髪を切られた。……危険だ。

 しかし、切りすぎてはいない。ふ、……怖いよー。この光原母、怖いよー。



「遵君が居ると、お客さんが増えるよな」



 誰かがポツリって呟いてる。んん?女の子は増えてないよ?いや、多いけど。むしろ、お爺ちゃんが増えた気がする。ただ、あーたんとだけ喋って、次はここで切るよって帰って行くだけの人もいるけど。

 鏡越しや視界に入る光原さんは、万葉さんの髪を乾かした後は、小まめに切った髪のお掃除やら、タオル類を出したり片付けたりしている。会計をしたり。お手伝いに余念がない。

 万葉さん、用が終わったら帰って。どうして、他のお客さんと談笑を始めてるの?


「お客さん、少なくなったら、遵も練習に付き合ってよ」

「あー…、顔にお湯かけないならな」

「……その件は、ごめん」



 どうやら、家業を継ごうと家の手伝いをしている光原さんだけど……、あれ?ルート次第だと専門学校じゃなく、大学に行こうとしていた筈だ。こんなに頑張ってお家の手伝いをしている話もなかった。

 光原さんのイメージが固定じゃないのは全キャラを攻略したことがないせいか。でも、……この違和感は引きこもった光原さんのイメージのせいか?


「シャンプーしたら、こっちに連れてきな。髪、少し伸びたみたいだから、切ってあげるから」

「俊平と違くなるから断る」

「悪ささせない為に決まってんだろ。来い」


 ゲーッと、嫌そうな顔するあーたん。

 そして、お疲れ様ですと少し整えた髪型に私は、鏡を眺め予想以上の出来に驚く。こう、ちょっと、と…髪を切った後にはちょっと、が大事な事がある。私だって女だ。この辺はうるさいんだ、もうちょっと長めで良かったとか、短くして欲しかった!と言う残念さがない。

 癖っ毛も存分にいかして貰えているっ!やだ。私、感動で体が震えちゃう。美容院って凄い!!

 いや、神取の件でサロンには行ったことがあるから、光原母が凄いんだ!天才!!


「きょ、今日の私はひと味違う…っ」


 ぷるぷる感動で震えている私にうんうん、頷く光原母。


「自分の才能が怖いわーっ。」


 凄い。自画自賛だ!

 お会計を終えたので、さて、帰ろうー…と、気合いをいれたのに捕まった。

 きょ、今日は本当は光原さんに『ルカ』の意味を訊こうと思ったけど、取り止めるくらい逃げたいんだよー。どうして、私を逃がさないの。万葉さん!


「葵くんのお話訊きたいなー」


 上手なおねだりをされてときめいちゃったー。こわっ。


「な、なんもございません!」

「そう?ルーちゃんの不思議さを調べてるかと思ったのに。……残念だわ」

「あ、でも。アドレス教えて貰いました」


 あ、言って良かったのかな?……私の言葉になんの反応も返さない……なんで目をパチクリさせてるの?


「あの子が?……女、嫌いなのに?」


 それはビーエル的な話でしょうか?

 私が首を傾げたら、同じ方向に傾げ返された。


「て、手慣れてますよ?」

「当たり前よ?(悪魔)の子供なんだから。……でも、プライベートに関わらせる訳が……」


 なんだか、私の手を握りながら考えこんじゃった。あ、お姉ちゃんからメールだ。

 わー、映画見るから迎え遅れるだってー。……リン、完璧に私を無いものとしてないか!?それはそれで泣くぞ。

 私は確かにお姉ちゃんとリンがデートするのは嬉しいけど、放置はやだーっ。後ろでニヤニヤさせてくれ!


「ルー、リンから預かってってメール来たから、暇だったら、うちからゲーム機持ってきていいよ」


 今、手を離せないからって。…女の子人気は光原さんに寄ってる。あーたん、飴貰ってる。小さい子には棒付き飴あげたりしてる。やばい。幻覚がひどい。


「ああ、万葉があたしのうちに入るなら、ビール買ってきて冷蔵庫に入れておけ」

「もう!私は、召し使いじゃないのよ」


 光原母、強い。

 万葉さん(悪魔)をパシリに使ってる。

 思わず光原さんを見上げたら、にっこり笑われた。


「母さんを見てると心美が凄く可愛いと思わない?」


 思わず頷いた私に光原さんが破顔した。……光原さんの気持ちは今、どこにあるんだろう。今のココさんから引き離すのはおかしい気がするけど。

 でも、やっぱり、良くない気がするのはどうしてだろう。



 ゲーム機を借りるよりと近くのコンビニまで、万葉さんにつき合わされた。大量にビールを買ってる。コンビニで買うよりって思いもしたが、痛くもかゆくもないならいっか。ツマミも買ってる。……これ、お泊りコースじゃない?

 私じゃなくて、万葉さんが。

 好きなもの買ってあげると言われたが、お断りした所、おでんねって。言われたので、オーソドックスに豚まんを五つ買って貰った。しかし、この様子だと、と……私の灰色の脳細胞的ものが煌いた。



「ココさんの家と不協和音が」

「ないわよ?」



 あ、そうですか。残念って思ったら、万葉さんは私の反応に笑う。



「正直なのは良くないわー」



 ふふんっと余裕たっぷりの万葉さんに内心辟易しながら、光原さんのお家にお邪魔する。……なんだか、そわそわしてる?

 そわそわされても困るけど、私もそわそわ。主人公様(光原さん)自体が、プレイヤーにあまり嫌われなかった理由として、ある毎日の日課。メンドクサイって批判は有ったようだけど、…私もこの家に足を踏み入れた以上それが気になって仕方ない。



「どうしたんだ。チビ」



 私の不審な動きに突然誰かが声をかけてきたので、光原さんの家の中から聞こえたので、そちらを向く。……うん、どうした。コンビニに行って30分くらいか。……結構思い切った?



「髪切りました?」

「……嫌味か。チビ」



 もともとが、大抵の髪型にも対応できる長さだったのに短髪過ぎないだろうか。坊主ではないが、顔立ちがくっきりとわかる程切られている。似合うけど、……これに額縁眼鏡は似合うんだろうか。



「……会長に」

「強制する気はねえよ。これは、俺の決意みたいなもんもあるし?」



 意味が分からず首を傾げたが、それ以上説明する気もないらしい。豚まんを渡したら、肉まん?って聞かれた。ーー同じじゃないの?

 ……どうしようかなって、悩んだが、仕方ない。



「あの、仏壇ってどこですか?」

「はあ?」

「えーっと、お世話になるお家の先祖にご挨拶をしなさいっていう躾が……」

「…それ、泊まる時とか…いや、良い教育方針だな。おじさんに挨拶してくれ」



 あーたんが拒否しなかった事にびっくりしながら、案内された部屋の仏壇の前で、私は線香をあげさせて貰った。

 コンビニで買ってきた……って、私じゃないけど、創造の動物がマークになっているビールも仏壇にあげて挨拶する。本当は何にもしらない筈の他人がする事とではないけれど、光原さんの家にもし来たなら挨拶したいと思っていた。この辺は、やっぱり、ゲーム脳なんだろうか。

 あれ、万葉さんがそわそわと落ち着かない様子だ。




「ルーちゃん、私の挨拶が終わるまで居てくれる?」

「え、はい。」



 反射的におねだりに応えてしまったと思ったが、長くもなく短くもない挨拶をし、ニコっと笑いかけてきた。



「飽きたから帰るわー」



 こ、この悪魔は……っ。



 私の脱力感もなんのそのと気まぐれ万葉さん(悪魔)がひらひらと手を振って帰った後あーたんが、お疲れーって、ジュースをくれた。くそ、ちょっと話が出来るかもと思った自分が憎い。

 光原さんが暇になったからと、こちらに来て大量のビールとおつまみに驚いた顔をした。



「重たかったでしょ?」

「いいえ、万葉さんがあの細腕で軽々と」

「そう?」



 冷蔵庫に入るかなって全部入れる気!?

 光原さんの冷蔵庫に全部入れる発言の根拠に力が抜ける。大型の冷蔵庫だというのに明太子とチーズと煮干し。調味料が数点か。


「なんにもないな」

「あ、豆腐買うの忘れてた」


 光原さん。豆腐だけですか。買い忘れた物は、豆腐だけなんですか!?


「米と豆腐って無敵だよね」


 ご飯は炊いてるからって。その笑顔に泣きそうだ。そっと、豚まんの残りを差し出す。

 ここで、私が作ってあげるとか言えたら良いんだろうけれど、私に家事スキルを望まないでくれ。普通なんだ。


「ここに女子が一人居るんだから作ってもらえばいいんじゃね?」


 ノオオオオオオオオオオォッッッッ!!


 あーたん、マジヤル!!いつか、きっと絞めてやる。ーーいや、待てよ。勝算はある。


「予算は」


 無言で、ポケットから万札を出すあーたん。え、あーたんが出すの?


「釣りはいらねえ」


 むかーっ。ふん、上限いっぱい使ってやるぞ。光原さんにタッパーが有無を聞き、私は文明の利器(携帯)を手にした。ふ……。



 召喚、マングース様(お姉ちゃん)!!!


 怒りのあまり、要領の得ない説明をしたにも関わらず、大量の食材をリンに持たせてお姉ちゃんが登場した。そして、もちろんー…、


「うまっ」


 オムライスと豆のスープにあーたんが舌鼓をした。


「勝った……しかし、虚しい」

「実際、ルカがやったのは野菜を切ったくらいですからね」


 リン、煩いよー。野菜を切るのも大変なんだぞ。

 お姉ちゃんが、光原さんに冷凍出来る物と保存が利く物の説明をしている。あーたんが、おかわりって。

 自分で盛りなさい。しかし、なんだか、このやっちまった感?


 後片づけをして、帰り道で私は、ようやくやっちまった事に気付く。


 主人公様(仮)の光原さんにお姉ちゃんを紹介しちゃったんだあぁっ!!


 私の必死の後悔の念を表す謎の小躍りにリンが恥ずかしいから、背負って帰ろうかって、背中に乗るように示してきたけど、……あれ、なんかやだ。


「今日はいい」

「?珍しいですね。怠惰が大好きなルカが、人の背中を断るなんて」


 頭を撫でようとリンが伸ばしてきた手も反射的に避けてしまい、リンの不興を買って頭を掴まれる。

 あれー、撫でて貰う為にトリートメントしたのになんで、嫌って思ったんだろ?……ま、いっか。


 お姉ちゃんにリンとなんの映画見たの?って聞いたら、ホラーな映画だった。うん、そうだね。私、それ系楽しく見れないもんね。でも、お姉ちゃんが怖がりなのに好きだからね。うん……。グッジョブ、リン。



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