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『お狐様』のお守りは強力だったらしく、泉さんを保健室送りにさせた。正直、ごめん。……クラスで一番煩かったお調子者も何故か体調を崩したらしいが関係ないか。
生徒会室に来いと昼休みメールが有ったので、お邪魔したらリンと会長が何か話していたが、その件を相談したら「甘い!」とのお言葉を頂きました。むしろ、リンから渋い顔で、
「ルカって、トラブルホイホイだったんですね」
「ん?」
「トラブル製造機だと思っていたんですが、トラブルを招いてキャッチするタイプですか…リリースの仕方を覚えてください」
なんか、無茶苦茶な事言われてる気がするーっ。え、なに、どうしたの?
「……典型は『お狐様』だから、笑えないがな……。怪我の功名もある。お守りのおかげで、片倉と泉に『契約』を申し込む相手が減った」
「どうしてですか?」
「秋月が『お狐様』のお気に入りだと思われたからだ。『欠落者』を助手として『堕とす』為には、最初に『堕ちる』理由になった相手を『堕落』させるか『破滅』させないといけない。藤咲が云うには『手順』の問題が有るんじゃないかという話だ。普通に『堕とす』と、助手として使えないんじゃないかと。『欠落者』が復讐を果たした後も普通に見えたんだろ?」
歌う牧師が普通かと問われれば微妙だけど、変な雰囲気もなかったな。私は、とりあえず頷いておく。それに会長が頷いて。
「後は、神のお気に入りに手を出してまで片倉と泉水穂を助手にする『契約』をしてうま味があるかと云う話だな」
そういえば、藤咲さんがいないな。それを聞いたら、私が『お狐様』に会うまで『悪魔の子供』である自分は会わないほうがいいと判断したらしいとのこと。……リンは?『天使の孫』だよ?
「それに藤咲は、片倉に自分と『契約』するか聞いてる最中です。『命じて』、他と『契約』しないようにする方法もあるんじゃないかと言ってました」
なんだろ。……次々に案を出して行動していくリンたちに私は、ポツンと劣等感が。
「わ、私は、なにしたら良いの?」
「話を聞いてろ」
「行動はしなくて良いです。情報をよこしなさい」
バッサリだね。仲間外れにはしてないから。って、リンが冷たい。役に立つよー。悪魔側の知り合いなら多いよー。……会いに行ったらいけないんだった!
微妙な疎外感。
トラブルを招いて、誰かに問題を解決してもらうってどこのヒロインだよ!と。嘆きつつ、
秋月ルカは、憂鬱な今週の登校日を終えて、日曜日。気分転換もかねて髪を切りに行く予定です。
光原さんが途中まで迎えに来てくれるとメールが有った。
リンとお姉ちゃんが画材屋に行くので途中で方向が変わってしまうがそこまで一緒にって。デート!お姉ちゃんとリンのデート!!
大人しくしていたご褒美にリンが、お姉ちゃんに頼んでくれた。やだ、リン大好き!!
写真もいっぱい撮ってきてくれるって。リンが、ちょろいなって呟いていたのは気のせいだ。空耳かな。
「良いですか。テルが来るまでこの店の前から動かないように。下手に歩いて誘拐されないように」
「リンくんの言う通りだよ。ルカ、誘拐には気を付けてね」
リンはただの嫌みだとして、お姉ちゃんはボケなの?それとも、本気なの?
やさぐれモードなので、お姉ちゃんに離れたくない!と我が儘を言ったら、邪魔するな。とリンからチョップが……危ない。おデートの時間を減らすところだった。
それにしても『天使の孫』を明らかにしてからのリンは、開き直り方がハンパない。よほど、腹に据えかねたらしい。バラした奴を必ず見つけ出して、痛い目見せてやるって、魔王モードで呟いていた。
…アディーじゃないよね…そして、そんな方法あるの?
あの子も、梅のお守りの効力に負けたらしく、セラ様に看病されているらしい。……天使に悪魔が看病されてるって。私に害を持たなければ、悪魔だって、そこまで深刻にならないんだと、会長の説明にされていたんだけど。
アディーに誰か説明してあげたんだろうか。……してても、やりそうだけどね。あの子は。
お姉ちゃんとリンと別れ、私はポツンとブティックの前でボーッとする。目の前には、ちょっと長い横断歩道。
そういえば、もうちょっと歩道の方の信号の青の時間を長くしてくれって申請されてるとかって、新聞に書いてたような。……わ、私が新聞を読んでたのが意外だと!?
ふ、………たまたまだ。普段は、番組表しか見ないのは確かだ。どん。
お年寄りや子供が渡りきるのに時間が短いから、途中で立ち往生とか問題に……と、何となく眺めていたら、青を示していた信号が点滅し、赤に変わる。
皆急いで渡り切ったと思っていたのにクラクションの音が鳴り響いた。ブティック前から離れて横断歩道を見たら、あ、杖をついたお婆ちゃんが真ん中よりちょっと、こちら側で立ち往生してる。真ん中に行くべきか渡り切るべきかと悩んでいるらしいが、そうしているうちにもクラクションが鳴り止まない。
ーー鳴らすより、指示してあげなよ!
私が声を張りあげようと足を一歩を出そうとした瞬間、誰かが「これ、持ってろチビ」と、私に微妙に重たい紙袋を持たせ横を走り過ぎて行った。
ん?見覚えのある後ろ姿だ。
横断歩道を車の途切れ目を選んで渡り、お婆ちゃんの背中を手を添えて真ん中に行くように誘導する。
私はそれが誰か気づき唖然とした。
あ、あーたん?
車に一礼し、どうぞと手で示している。申し訳なさそうにあーたんに謝るお婆ちゃんにニコニコと話しかけている。
最初のうちは申し訳なさが先立っていたであろうお婆ちゃんがだんだんと、釣られたように笑い始めると信号機が赤から青に変わり、お婆ちゃんの荷物を持ち空いている手でエスコートしながら横断歩道を渡るあーたん。………いや、あれはきっと、会長だ。
会長が自分の兄のフリをしてるんだ!
さすがに信号機が赤の中で道路を渡った事を叱る人も居たが、概ね好意的な対応をされ、お婆ちゃんにも手を握られて、ニコニコされている。きっと、たぶん会長もニコニコとしてる。ーーえ、それはそれで不気味だ。
何かお礼をしようとするお婆ちゃんにいいからと手を振って別れる……か、会長だよね?
ポケットを漁り、棒付き飴を舐める……はっ、
「『お狐様』と云う手も!?」
「何を混乱してんだよ。チビ」
私に近寄って、荷物寄越せチビ呼ばわりだと!?
ついにそこまでの真似を。……あ、桜田先輩にペンダコを確認しろって。私は手を差し出し、
「お手!」
やだ、何で頭に拳を置いてグリグリするの?
「いい加減にしろよ。チビ」
ドスを効かせた声で、脅しをかけてきたー。あーたんだった!!
「フギャーッ!止めてください。申し訳有りませんでした」
両頬を掴んで伸ばすのも止めてください。痛いし、よく伸びてるなって、肉付きが良くて申し訳ない!!でも、肉がついて欲しいとこに今のところ、付いてないよ。
「で、一人で何してんだよ」
「光原さん家に行く予定です」
「………ああ、髪を切りに」
何故、間が空いたんだろ?身綺麗になりに行くんだよー。
「『お狐様』のお守りは?」
「あります」
ひょいっとバッグから取り出す。リンから貰ったお守りは一緒にするなと言われたので、今日は家に置いてきた。
「……あー、と」
なんだろ。微妙に視線を外して、私に訊きづらそうな顔をする。
「片倉、どうだ?」
ーーうん、イラッとした。
「……チビには、本当に逆作用してんのか。」
私の不機嫌を感じ取り、憐れって、言われても困るよー。だって、何だろ。心配してるし私のせいだって気持ちもあるのに片倉さんと目が有ったり、視界に入ると色んな感情が混ざりあって、最終的にモヤッとするんだよ。
できる限り、考えないようにすると、罪悪感で泣きたくなる。そして、そんな感情にさせる片倉さんに不満が溜まると悪循環中だ。
「私は、そんな勝手な人間であります!」
「……突然、そんな宣言されても呆れてやるしか出来ないぞ」
荷物を返せと言われたので返そうとしたら、紙袋から、本のタイトルの一部が見える。『介護』と読めた。
私がそれを見て呆然としたのを見て取ったのかあーたんが拳骨を落としてきた。い、痛い。
「何か文句が有りそうだな」
「イイエ、トクニハ」
睨まれたので視線を逸らしつつ、遠くを眺める。……今日は秋だと云うのに暑い。蜃気楼だろうか。
ハッ、18禁の品を隠すために小難しい専門書に挟んで隠し買うという妙技を本屋でして来たのかもしれない。うん、そうに違いない。
「中学生がピンクな本を買っちゃダメですよ!」
「わかった。この買ってきた品で殴っても良いんだな」
せーのって持ち上げるあーたんに慌てる。
「良かったなー。セクシーなお姉さんが好きそうだもんな。チビ。ほら、一撃でコロッと逝けよ」
やだ、やっぱり、ピンクな本なのっ!?でも、目が殺気に満ちている。ヘルプーッ!!
「遵、ルー、何してるの?」
私の助けを呼ぶ声が届いたのかのほほんと微笑みながら、やって来た光原さんの後ろに慌てて隠れる。
「……足、大丈夫なの?」
「足より、生命の危機です!」
それに腫れもひいてテーピングも簡単なものになった。あの医者凄い。
「テル。そのチビを押さえ付けろ。俺に冤罪をかけやがった」
「だって、自分の態度を鑑みてください。絶対、ピンクな品だよ」
「うーん、でも、今は年齢確認されるから」
「テルは、どっちの味方だ!俺がそんな本を買うと思ってんのか」
「……無いこともないんじゃないかって……」
えへーっと、のらりくらりイカみたいに噛みきり難い返答をする光原さん。
「この前、グラビアの本読んでたじゃないか」
「あれは、別問題だろ」
「ルー的には?」
「どこで、ですか?」
「教室で」
「アウトです!!」
女子生徒に迷惑な。まったく、ちょっと見直しかけたのにやはり、あーたんはあーたんだった。残念な人だ。
「ところで、どこ行く予定?」
「別に帰って本読むくらい」
「じゃあ、うちに来ない?ルーも来るし」
笑顔だけど、光原さん。私、お客として行くんだよ。遊びに行くんじゃないよ。
しかし、別に光原さんが私の接待をするわけでもないので、別に構わないかって、あーたんが一緒に来るのを黙認する。
うん、良くないのは、あれだよ。悪魔だよね。この人の確認を取らなかった私だった。
「あら、ルーちゃん?」
今日も、着物姿が艶やかですね。悪魔さん。ちらっと、あーたんに視線を向けたら、ぼそっと「時間変えるか店変えろ」と指示が。
しかし、私に気付いた万葉さんは、コロコロ笑って、私に近づき腕を絡め、
「あらー、奇遇ね。さ、一緒に行きましょうか」
え、どこへ?それに悪魔が密着しているのに梅の匂いがあんまりしないぞって。困惑していると、万葉さんがクスクスとほほ笑む。
「危害を加えようって気でご飯を食べる人っているのかしら?」
ルーちゃんは、不思議ねーって。全部わかっててやってるこの人!!
「でも、今日はお喋りは、不敬になっちゃうから普通にお話しましょうね」
うふふ、って、お可愛らしいですね。
身綺麗にしないとって言ったら、私くらいになると大丈夫なのよって、本当かって、あーたんに視線を向けたら、どこかに連絡とっていて…、OKなの!?
『お狐様』。ちょっと思ってたけど、アバウトだよ。




