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悪女呼ばわりされて、腹がたった。ーー反省はしている。
しかし、暴言を吐いた私に牧師は妙な優しさを発揮し、気を失っている片倉さんを抱き上げ椅子に座らせ私には、お茶まで出してきた。その間に私の毒気が少し抜けた。はー、お茶がうまい。そして、冷静になった先に考える。
「先程のお話、なんだか必要な情報が多いのか足りないのか。上手く繋がらないので宿題にします」
ペコーって、頭を下げたら牧師が、大笑いしやがった。
何か、面白いことでも?
「秋月様、少し考えても見てください。先程、啖呵を切られた身として、身構えていたというのに突然、そんな馬鹿丁寧に頭を下げられれば、私自身の性格としては『ふざけるな!』と怒鳴りつけるのも、難しい。笑うしかありませんーーなるほど、『手順』が狂う筈です」
何かわかったようにうんうん頷いている。どうしたんだ。
「あ、『選定』の話は、」
「ええ、もちろん。まだ決まっておりませんよ。そして、確かに媚は売りましたね…天使どもに」
あれ、てっきり『あの方』って人かと思ったけど、天使全体?
「天使にとって娯楽の少ない『この土地』で、ファンの多い『あの方』のお孫様の活躍する場と『あの方』の登場は、よほど『感謝』の対象だったのか。随分力を取り戻していましたよ……中には少々過激な事をなさった馬鹿も居たようですが」
天使は、浅慮って……、『欠落者』も天使が嫌いなのか。あと多分、セラ様に娯楽ないの?って聞いたら、怒ると思う。そんなものいるかって。
「『この土地』のおかげで生きていられる者もいると云うのにーー『感謝』もしない」
だから、興奮気味に嫌いだと吐き捨てられた。
ちょっと、セラ様に進言してみるので、怒りを静めてくれないでしょうか。牧師。一曲歌っても良いから。
「そういえば、私にどんな害を成そうと?」
「ええ、万葉さんの行った事の強化ですよ。『夢』を最近、貴女も見るのでしょう?ーー上手くすれば、貴女も『欠落者』候補に戻るかも知れないと思いましてね」
録でもない事を企まれていた。しかし、私も『欠落者』候補だった?……特に手に欲しいものとか……ハッ、お姉ちゃんとリンがまだ付き合ってない!それかっ!!
「とても目を輝かせて何かを納得してるようですが、多分、違います」
はて?じゃあ、なんだろ。私が首を傾げていると牧師は冷たい目で私を見つめる。な、なんだ。しかし、頭をふり、今の貴方には関係ない話ですねって。
「……『欠落者』となった事に私は納得しておりますよ。『この土地』を愛しておりますし。『この土地』が淋しがっているならば、仲間を増やす事厭いません。……理解出来ないでしょうが」
牧師の自虐的な言葉に私は、肯定も否定も出来ない。
そういえば、『欠落者』になったら、『何か』を追い求めて乾き続けるって聞いたけど、牧師にはないのかな?
「欲しいモノを手に入れられなくされても、『この土地』が大切ですか?」
「ええ、勿論ですよ。万葉さんに言われませんでしたか?人間の常識を悪魔に押し付けるなと。『この土地の加護』は良いモノですよ。しかし、今日は本当に残念です。ーー『お狐様』には、『この土地』の意思など関係ないのですから」
『お狐様』に感謝をしなければならないのかー。
でも、謎が増えた気がする。どこだ。何が足りない?それとも、情報が多すぎる?ーー天使側の言い分が足りないのはわかっているけど。
「う…」
私の思考が行き詰まっていると片倉さんがうめき声をあげて起きあがる。牧師がふふんって嬉しそうだ。
「彼も起きたみたいですね。今度こそ、お話は終わりですね」
そんなに私との話が面倒になっていたのか。貴様。
しかし、そんな事より頭を押さえて起き上がる片倉さんには慌ててしまう。
「あ、頭打ってましたっけ!?」
やばい。じい様医者の所に!!って、片倉さんには近寄ると、茶目がぱちくりとし、私を捕らえる。
「『ルカ』?」
ーーえっ?
片倉さんが、私を乱暴に抱き寄せた!?フギャーッ!!
うおっ、右足がグキッて。痛い!また痛めた!?力いっぱい抱き締められて背骨が、軋んでいる!!
「『ルカ、良かった。生きてる!!』」
やめて、痛いし、恥ずかしい。こんなぎゅうきゅうされたら、いろんな意味で死んじゃうっ!!
頬と頬が当たる抱き締め方もヤだーっ!!死ねるっ。片倉さんは、私を殺す気だ。憤死か。憤死がお望みかーっ!のうないかいぎーっ!!たすけろーっ!!
ーーもう、ここが墓場でも文句はありません!!って、喧しいっ!!脳内会議はこういう時役に立たねえ。
「『ルカ』………ごめん。秋月さん」
片倉さんの頬から、私の頬へ何かが伝う。ーー涙だ。私がそれに驚いて、頬を拭おうとしたら片倉さんが、私からゆっくり身を離す。……泣いてる。
一生懸命、私の頬に伝った自分の涙を私の頬に自分の手を置いて拭う片倉さん。自分がぽろぽろ泣いてるのにそれを気にしないで私の頬を必死に拭っている。
「変な『夢』を見たせいで、秋月さんに迷惑をかけたみたいで……ごめん」
必死に笑顔を作ろうとする片倉さんになんだか、そわそわと落ち着かない気分になる。
なんだろ。私は、片倉さんに何かしてあげたいけど何をしたいのかわからない。
「ゴホンッ」
わざとらしい咳払いで空気を壊してくれてありがとう牧師。あ、私たちを見る目が腐った魚みたいですね。
これから、あの呪いの歌をお歌いになるんですね。わかります。
「ーーお帰りになりますよね?」
ふふっと笑う牧師は、明らかに殺気に満ちている。ぶれない。うん。これはさすがに撤退しないとなにをされるかわかったもんじゃない。
「今度は、一人で……」
「いいえ」
牧師が不愉快な思いをしないようにとの提案を牧師自体が拒否する。
「私の『命題』は、とある少女が幸せになる『未来』でした」
「……牧師様?」
突然なんだって、視線を向けたが、
「つまりは、『そんなものがなかった』と、『命題』を出された時点で諦める選択が正しいと思っています。最初から諦めろと……私は、『欠落者』になって幸せです。が、全員がそうなのかと問われれば別問題ですねえ」
ニコニコと意図が読めない笑顔だ。でも、うん、片倉さんが落ち着くまでは待ってくれなさそうだ。
「片倉さん。帰りましょう」
「……一緒に?」
やだ、どうして、そんな心配そうな顔をなさるんですか。
「『どうして、そんな当然なこと聞くのですか』。片倉さん」
あ、そうだ。ハンカチ出さないとっていうか。どうして、また抱き着くんですか。歌う牧師の殺意がシャレにならないレベルですよ。




