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教会内は厳かな雰囲気だというのに歌う牧師のはっちゃけ具合にその神々しさがなりを潜めてしまったように感じる。聖歌まで歌い始めた牧師の事をしばらく待ち、さすがに自分作曲の歌を歌う前に挨拶した。
歌う牧師は、私と片倉さんを不思議そうパチクリと見つめた。
「おや、てっきり、天久の神の方が先だと思っておりましたよ。」
なんでだろ?
むしろ、なんで知ってるの?
不審がる私を無視し、牧師は話しを進めるようだ。
「しかも…、ふむ」
続いて、片倉さんをジロジロと口許を隠しながら値踏みする牧師。……どうしたよ。
「『あの方』のお孫様か。『契約』している者達の誰かを連れてくるのかと……何故、彼なのですか?」
視線で片倉さんがどこまで知っているのか問いかけてくるが、私も知らない。
「牧師様を一番警戒して着いてきてくれましたので」
正直、牧師がそんな危険人物とは思っていなかったが、ほう、って感嘆する牧師。
「私ほど、善意に満ちた神の使徒はおりませんよ」
「それ、多分。私が私くらい傲慢じゃない人間はいませんよってくらい胡散臭いですよ?」
初老の牧師は愛想よく笑っている。
さて、片倉さん。外で待ってる約束なのにどうして教会の中に居るんだろうか。いや、うん、正直有難いんだけど。
あの歌聞いた後だと、牧師が危険人物じゃないって考えが浅はかすぎる。二人きりは怖いけど、でも、やっぱり、片倉さんがどこまで話していいかわからないから、あまり甘えちゃ駄目だ。
「秋月さん」
「彼女に危害は加えませんよ。……この順番ではね」
ーーニコリって。呟かれた言葉に意外と綱渡りだったのかと、内心冷や汗だ。つまり、『お狐様』の約束を先に果たしていたら、牧師ったら私に危害を加える気だったとーーどうしてだろう。
しかし、これを運が良かったかと聞かれれば微妙だな。……考えるのに圧倒的に材料がない。ーー話を聞くしかない。
「片倉さん、あの、牧師様に話があるので、少し席を外してください」
「秋月さん!?」
「そういう約束ですし」
すみません。……って、こんな状況になるなら、片倉さんを連れてくるべきじゃなかった。相談もしてくれない相手だと惨めな気分にさせるかもしれないが、うん、でも、牧師の態度から推察すると……片倉さんが牧師を警戒して、私についてきてくれたから、マトモに話す機会を得られたのか。
「片倉さん」
「……何」
「『護ってくれて、ありがとうございます』。少しの間、お待たせするかも……片倉さん!?」
私は見上げた瞬間ギョッとした。どうして、泣いてるの!?ツーっと、片倉さんの頬に滴る涙に私、大混乱しますけど!?っていうか片倉さんも混乱している。
「おや、『欲しい言葉』でももらいましたか」
牧師が、片倉さんの前に手をかざす。そうしたら、ふっ……と、意識を失ったように片倉さんが、その場に倒れた。
私は、意識を失った片倉さんの頭を抱き上げ、名前を呼んだが、反応がない。ーー牧師を睨んだら、業が深いって。知るか。片倉さんに危害を加える気なら、戦うぞ。
「ふむ。やはり、『貴女』に救われておりますね」
「?むしろ、助けて貰ってるのは、私ですけど」
「いいえ…、『悪魔』にも種類があると聞いていらっしゃるでしょう」
倒れた片倉さんを値踏みし、牧師はふう、ってため息を吐いた。
「『堕落』と『破滅』ですか?」
「正解です。これは『破滅型』の特技でしてね。『平行世界』と呼ばれるものを『夢』としてお見せするのですよ」
「『平行世界』?」
パラレルワールドか?えっと、『もしかしたら』こうなっていた世界だっけ?
「わかりやすく言っただけです、ただの『可能性』ですよ。ーー『何もない場所から何かを発生させる事はできない』。この説明はされておりませんか?」
たしか、藤咲さんが『秋月ルカ』の説明時に言っていたので、頷く。私の反応を見届けてから、そして、もう一度片倉さんを見る牧師。
「……何を焦ったのか、『手順』が無茶苦茶ですね。しかし、ただの人間だというのに自らで律していますね……ふむ、あの藤咲家の坊っちゃんと『あの方』のお孫様の親友だけあります」
ブツブツと何か重大なことをさらっと、語る牧師。
「あ、あの」
「ふむ、……『夢』と、なにか重大な誤差が生じたようですね。まあ、答え合わせは彼としてください」
私にしか答えられないことが聞きたいのでしょうと牧師。うん、確かに。気になるワードが。
「『手順』って」
「ついでにお教えしますが『悪魔』は、手順を乱されるのを極端に嫌いますよ。」
その言葉にハッとする。順番を気にしていた牧師。
「……牧師様も悪魔ですか?」
「いいえ、私は『欠落者』です。『欠落者』が、その者が一番望む能力に特化すると聞いた事は?」
「……あります」
「ふむ、子供の好奇心とは恐ろしい。どうせ、天久と藤咲のご子息でしょうが……一番、恐ろしいのは彼等が口を開いて情報を与えている君でしょうね。まさに男を誑かす悪女の資質」
牧師の言葉に私、キレそうです。
ムッカー!んだと、こらぁ!!誰が悪女だ。こんちくしょう!!私が生前プラスαで全然モテなかった恋人いない歴が現年齢プラス生前とか知ってんのか!?片倉さんを抱き起そうとしてなければ、今すぐ牧師の襟首掴んで揺らすぞ!!
「何をいきり立つ必要があるのです。貴女に『易しい』のはどちらかと云えば男性でしょう?女性側の優しさは苦労しなければ得られないのに対し、男性側は望まずともついて回る」
なんだろ。とてもグサグサと胸に突き刺さる。さっきの男の件もあって、さらにへこむ。
「誑かす技術はないと云うのに本能的に自分から、離れようとする相手を察知する。……可哀想に」
そのかわいそうはどこについて回るんだろう。
なんだろ。どうして、ここまで言われなきゃいけないんだろ。ーー否、コイツ、もしかして、
「『手順』を狂わせたことへの嫌がらせでしょうか」
私が怒りを込めてそう指摘したら、満面の笑顔だ。満面の笑顔で頷かれた。
「正解です。それと、私の『予測』から外れた事への細やかな敬意ですよ」
にこにこしながら、何をお聞きになりたいのでしょうかって。
「……未来がわかるとかじゃなく『予測』ですか?」
「『予知』との言い方を好む方もいらっしゃりましたが、私の好みでは『予測』です。まあ、外れた事はあまりありませんねぇ。特に男女の仲は」
にっこり、町中に出て、恋人や夫婦の別れたりする時期を『予測』するのが趣味だなんて、牧師、ぶれない!
確かにゲームの時もそんなキャラだったけど。あ、そうか、この攻略キャラとのルートが潰れたって指摘できるって、そういう『予測』が出来るからなんだ。
ただ、たまに本当に幸せな未来が見えると血ヘドを吐きそうになるらしい。……ぶれなさすぎて恐怖を感じる。
「『欠落者』って、普通に見えます」
「えぇ、ただ人の幸せは不愉快になりますが」
「それは元からの性格じゃ」
「わかりますか。その通りです。ーーおや、話が反れましたね」
即肯定された。なんだろう。何かいろいろ精神がガリガリと削られていく。
しかし、ここは奮い立たせねば。せ、生前の社会人経験でこんな狸親父なんていくらでも!あ、なんの職か覚えてなかった。しかし、話を聞いておかないと、また片倉さんに迷惑が。
私は、慌てて考えていた事を牧師に問う事にした。
「えーと、『欠落者』は『悪魔候補』でしょうか?」
「おや、よく考えましたね。正解です」
だって、リンが『加護』が届かないっていうから。しかし、それだと何だろうか。おかしい。
「『この土地』は、悪魔を量産したいんですか?」
「……それは、不正解ですね」
胸元で手を交差し、バツを作られた。え、違うんだ。じゃあ、なんでだ?
「…『命題』とは何ですか」
「『命題』?……ふむ、確かに言われてみれば……ふふ、」
何故か思いだし笑いをする牧師に私は、首を傾げる。違うの?
「失礼。それについては、私も深くは知りませんね。ただ、『欠落者』となった瞬間に『この土地』との繋がりが深くなる。そんな感覚を味わいますねえ…天使風に言えば、『加護』をしてくれる存在が『この土地』自体になったように思えます」
ふむ、『天使の加護』が移り『土地の加護』になると……私、『この土地』から『加護』どころか『ペナルティ』を受けてるけどね!!
「でも、他の土地からも悪魔が来てたりとか」
「はい。『泣き虫』様は、『この土地』以外の方でしたが、長く『この土地』にいたせいか、すっかり『同調』してしまったみたいですね」
アディー、何してんの?
たまにあの子は何をしてるんだろうって、ツッコミたい事が多すぎる。
「普通は力が弱ったり、自らの限界を悟り、緩やかな『消滅』を望む悪魔が『この土地』外から来る悪魔の大半です。それ以外は『この土地』の生まれたのだと聞いてますね」
「……『位』が上がっても出て行かないんですか?」
「ここは、悪魔にとって、小さな『楽園』ですよ。土地がどんな思惑が有ってなのか知りませんが仲間を増やしてくれます。ああ、天使はどうも、『この土地』を毛嫌いしておりますが、弱れば頼らざる得ない。『罪人の牢獄』と騒ぐ天』もいますが、どうなのでしょう。『この土地』いる時点で、弱っていたのか力を失いつつ有ったのか」
セラ様の顔がちらつく。弱っている?力を失いつつある?
「ああ、貴女の『契約』している天使は……遠からず、『この土地』から出るでしょう。もう少し、素直な性格でしたら、もっと早く出ていけるというのに」
難儀なって……、それに私はホッとする。いやいや、安堵してちゃ駄目だ。良い事聞いたけど、今は気を緩めちゃ駄目だ。
「『欠落者』を元に戻す方法はないんでしょうか?」
「それを『欠落者』に対して聞きますか……別段、私は困ったおりませんよ。むしろ、自らの行く先に恐怖を覚える事もなくなります。人間であるうちに『欠落者』に対し協力を惜しまない悪魔とともに『復讐』も終えましたので、後は、緩やかに人としての生を全うしようと思いましてね」
ふっと、笑う牧師に私はだから、元に戻す方法に拘ってるんですがとツッコミたい。
「泉さんの『復讐』対象って、私だと思うんですが」
「ああ、それは……、いいえ、貴女は『復讐』される対象では有りませんね。むしろ、孫様の方に気が云っているようです」
どうして、そこでリンなんだろう。
「貴女が自分の求める人間になるには、孫様が弱ればいいという考えのもとのようですが……」
意味が分からず、首を傾げる。『秋月ルカ』が好きなリンを弱らせるとか、……いや、少し、考えなければならないか。リンのこと全部知っているわけじゃない。
「では、お話はこの位で」
「まだ」
「いいえ、この件で貴女はある程度、満足してしまっています。続けても頭に入らないでしょう」
う、確かに少し、この話題を一旦整理したいと思っていた。しかし、
「『選定』はどうなりました?」
話は終えたと勝手に思われては困る。この件はは、確かに考えを纏めたいが、他は違う。もう少し、こちらに真剣になって貰うために話を振る。
さんざん、私をあおった癖にその話をせずに会話終了に持っていこうとかなめてる。というより、なんとなく、私は体育祭の不自然さに気付いている。私的にご馳走さまだが、天匙と深託の生徒数は圧倒的に違うんだよ。運動神経が良いからって出れる競技数がおかしい人が多い。
天匙側を特にリンが居た白組を勝たせようとする意志が大きい。藤咲さんが本調子だったら優勝していたかもしれない。
「リンとお姉ちゃんが、異常に競技に参加出来ていましたけど。媚びを売りたい相手に媚びは売れましたか?」
私の言葉に牧師は一瞬きょとんとし、続いて、にやーっニヤツかれた。
「ええ、だから貴女を『悪女』だと言っているんですよ。秋月ルカ様」
その言葉に、ふむ、ようやく、同じ土俵に立った気がするのは気のせいだろうか。




