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 病院には神取と行く旨をお姉ちゃんに言った所、お姉ちゃんが珍しくお父さんに怒りのマングース様を向けた。お、お姉ちゃん?

 朝御飯を一緒に食べていたリンに昨日は夜遅くまで起きてたねって言ったら、いつも、12時過ぎくらいに寝て5時に起きてるんだって。若いねーって言ったら、この中で一番若いのは、私だと指摘された。………うっかり!

 そうだ。肉体年齢は若いんだった。つい、わすれちゃ……、子供みたいにはしゃいでいたねっ!って煩いわ。は、反省はしてるぞ。


「ルカ、顔色悪いけど、どうしたの?」

「んー、変な夢見たの」


 そうなのだ。あの後、眠りについた私は妙に生々しい夢を見て、心臓が不規則になり、しばらく眠れなかった。……知らない男に腕を引かれて部屋に入る夢だった。とても気分が悪い。

 誰かの名前を言われて、真っ青になりながら、頷く私は、その男について行く。ーーなんとかそこまでで飛び起きたが、あまりのリアル感に吐き気を覚えた。なんだろ。あれは、本当に『夢』だろうかと疑問になるほど、男が私を引く腕の感触を覚えている。


「……微熱にはなったけれど、はしゃいじゃダメよ?」

「うん」


 お母さんとお父さんが微妙に視線を合わせない。……神取の事で喧嘩したの?

 私、別にって感じだよ。だって、優先順位は……家族だもん。家族、うん……神取は、違うよ。って、……微妙に言いにくい。どうしてだろ。


「私もついてくから!」

「マルは、体育祭の実行委員でのお疲れ会があるでしょ。そちらを優先した方がいいんじゃないですか」


 リンの指摘にお姉ちゃんが黙った。……リン、神取の味方なの?

 お父さん達が出勤し、お姉ちゃんとリンが玄関までお見送りしてくれる中で神取が……軽自動車を運転してきた。いつもの若頭然としたスーツ姿じゃなく、石○純一みたいな格好だ!に、似合わない!!いや、似合ってるのか!?


「さ、ルカ。乗りなさい」


 あまりのいつもの姿からかけ離れたインパクトにお姉ちゃんが唖然とし、リンはうんうんと頷いている。まさかーーリンなの。リンの助言なの?!

 このおかげか、ひと悶着もないまま私はいってきまーす!と、お姉ちゃんに言えた。……しかし、どうしたんだ。神取。



 市立の病院に行こうとした神取を止め、じい様医者の方に誘導する。神取はちらちらと後部座席に置いた『るぅ』と『ふじさき』を気にしている。


「出掛けにも手放せないくらいに気にいってくれたのかい?」

「……うん?」


 いや、ちょっとついでに雑貨屋に寄って貰って説明を求めようかと思いまして。とは、言わない。は、反省はしているから、今日はこれだけだよ。落ち着いてに生きるんだ!


「名前も、決めたのかい?」

「うん。『ふじさき』と『るぅ』だよ」

「ああ、『ふじさき』は知ってたけどね……そうか、『るぅ』か」


 神取が嬉しそうに笑う。しかし、ロールスロイスでもなく太刀川さんが運転してない……何気に二人っきりって初めてだね。


「この車は?」

「太刀川の愛車だよ。…リン君がロールスロイスで来るなら、蹴飛ばすって言うからね。彼は、あの涼やかな見た目でどうして狂暴なのだろうね。先輩そっくりだ」


 先輩って誰だろう。?後リンのは多分、ご近所さんの目を気にしての助言だと思う。言い方がキツいのは照れ隠しだよ。きっと。しかし、大柄な太刀川さんが軽自動車かー。狭いだろうなあ。

 あ、ちょっと、可愛いかも。

 その姿を思い浮かべてクスクス笑っていたら、頭を撫でられる。


「体育祭に行けずに申し訳なかった」


 最下位と失格しかなかった。……見ないで貰えて助かったかもしれない。


「うぅん、それより、今日はどうしたの?」

「……実は家の模様替えをしようと思って、ルカに意見を求めたくてね」

「……海外に行くのに?」

「ああ、少しの期間でもしてみようかと思って」


 変なのーって、考える。


「でも、歩き回れないよ?」


 お姉ちゃんに無理をしちゃ駄目だと念を押されている。


「カタログを持ってきたから、病院の待合室やどこかで、のんびりしながら眺めてくれれば良いよ」


 なんて手際がいい。私もこれくらい手際がよければ、熱だして倒れて怪我を悪化させるとかしないか。


 待合室には人っ子一人居なくて待ち時間なしに治療して貰えた。じい様医者が私の足を見たら、ほうほうって頷いた。


「元気じゃねえ」

「ありがとうございます」


 ほっほっほっ。と、笑いながら治療してくれ、支払いの時にハタッと、気づいた。前の治療代払ってない!?


「あの、この前の治療費」

「お支払頂きましたけん」


 ピンクナースが無表情に大丈夫だと。この前、保険証出してなかったし、払った相手を聞いたら……藤咲さんのお父さんか。市長かー…ど、どうしよう。


「ルカ?」

「うぅん」


 神取に言っても仕方ないのかな。……こ、こういう場合って、支払いすぎた額戻ってくるかな?て、手続き。でも、戻ってきた所で、どうやって、市長に渡そう。

 ……困った。藤咲さんにメールした所で『いらない』って返ってきそうだ。クソーッ!なんか腹立つ!!


「後からでも良いことなら、お昼にしないかい?」


 無駄な怒りを発生させていた所に神取の提案に頷く。


「どこに行くの?」

「近くに行きつけのカフェがある。行こうか」


 手を取り、エスコートしてくれる神取に苦笑する。今から、乗るのって日本産の軽自動車だよー。気取ってる人ってどこまで行っても気取ってるんだね。



 食事も終えて珈琲を飲みながらカタログを眺めていると、気に入ったものにはチェックを入れなさいってペンを渡された。私、持ち歩いてるよって言ったら意外な顔をされた。……準備してるのは、お姉ちゃんだぜ。

 それにしても、この場所にも覚えがある。そっか、ゲームの時によく主人公が通うカフェだ。……近くに『神光』があるからだもんね。

 む、……歌う牧師に会いに行ける距離だ。

 話を聞くくらいだから、無茶でもなんでもないよね。片倉さんが一緒に行くって言ってたけど、神取が居れば一人じゃないし。……メールしておこう。


「と、……すまない。電話のようだ」


 私が、片倉さんに神光に寄るかもという旨をメールにして送信したら、神取に太刀川さんから電話が着たらしく外に出てくると言われた。一人、ぽつんとカタログを読んでいたら、誰かに肩を叩かれる。

 ん?なんだ。

 振り返ったら、スーツ姿のにやけた男が私の肩に手を置いたまま、ジロジロと……、なんねん。不躾な視線は不快だぞ。


「神取さんと一緒に居たようだけど、新しい『花』かな」


 ゾワーッと鳥肌が立つ。こ、この男。私を『花』だと思って話し掛けてきたんだ。

 私は、肩に触れる手を慌てて力いっぱい振り払う。


「いってー…なんだよ。躾がなってねぇ『花』だな」


 叩いた手を押さえて、私を睨み付ける男。


「お前、俺は上客だぞ!?」


 カフェには他の客が居るのにその前で、何いってんの。いい大人だよね!?


「おい。『神取さんの迷惑になるだろ。早く来い!』」


 腕を掴んで乱暴に私をどこかに連れていこうとする男にゾワワッと、今朝見た『夢』と重なり鳥肌がたつと同時に『つていかなきゃ…』と、ーー『ついていかなきゃ、役に立たないと(・・・・・・・)』って。


 ちょっと、脳内会議に問う。この声は貴様らか、それともアディーか!?

 ーーまったくの濡れ衣であります!! アディーのことは知りません。

 よし、貴様等とアディーよ。まだ存命を許してやる。

 ーーハッ、有りがたき幸せ!!


 そして、私はスゥーッと戦闘態勢に入る。それならコイツ自体の問題に集中しよう。手加減はいらないな。


「すみませーん。お客さんたちとお店の方。痴漢なので警察に通報お願いします」


 私は、確かに警察に謎の苦手意識がある。が、こういう輩を痛い目に合わせる事に精神力が削られようが労力は惜しまない。

 ーーちょうど、お隣の席のお姉さんはキリリッとした知的美人さんだ。冷静に携帯を取り出して通報してくれるようだ。ウェイトレスのお姉さんも仕事とこの男への嫌悪感からか足早に男手を呼びに行ってくれた。

 やだ、なんで、この男。私の腕を掴みながら固まってるの?


「お、お前、俺は神取さんの上客だぞ」


 気持ち悪いから、私は掴まれてる腕をペシッともう一度引き離す。バカなの?神取と一緒にいる時点でそれなりの有望格か教育をされた『花』だ。

 こんな一般人が利用する場所で騒ぐような小物を相手にするわけがない。品質第一の『花』を育てている神取。

 ………なんで、私が神取の『裏の顔』をこんなにフォローしなければならないんだ。不愉快だ。全部、この男のせいか。



「だから何。私に話しかけずにその神取さんって人に話しかければ?」



 どうせ、神取の顔だけ知っているだけの奴だろう。

 ふん、って鼻を鳴らしてやれば案の定、顔を真っ赤にして、この野郎って。あ、暴力ですか。へっ、貴様を懲らしめるために我慢してやらないことも傷害罪も重なればいいよ。

 しかし、その拳は私には届かなかった。


「警察の前で暴力か。嘆かわしい」

「いてててっ」


 私に振り落とそうとした腕を後ろからひねられる男。私は、腕を抑えている相手に硬直する。警察手帳も出し片手で軽々、男を取り押さえている。

 ギャースッ!!片倉さんのお兄さんだ!!


「未成年者への暴行で逮捕してもいいが?」

「み、未遂ですよ!?それにほら、そのガキに断られてるんですから」

「ほう、……彼女がついていったら淫行のほうも未遂では済まなかったと」


 スゥッって、獲物を狩る猫科の目をしていらっしゃる。「片倉さん」って、頼りなさそうなスーツ姿の青年に署に連れてけって押し付けている。「なんの罪でですか!?」って、ご同僚様でしょうか。叩けば埃が出そうだってお兄さんに悲鳴をあげる。なかなか無茶な理屈を。

 いや、暴行未遂か。うん、連れてってください。


 それに本当ならここは、暴力を振るわれそうになった被害者として名乗り出て、この小物を痛めつけてやりたいが、私、身体が固まっている。この人、ーー怖い。


「大丈夫かい?」


 そう、この人を如何にも犯罪者として扱う「大丈夫かい」の言葉…。

 ん?大丈夫?なんか覚悟してたやつと違う。私が思わず、片倉さんのお兄さんを見上げたら、ああ、って苦虫を噛み潰したような表情を。


「あの時神取と一緒に居た子か」


 やっぱり、そこに何か思うことはあるんですね。わかります。そして、神取、まだ戻ってこないで。

 私が何も喋らず視線を逸らす仕草をすると、ふぅって、ため息が。


「あの時は、すまなかった」


 予想外の言葉に視線をお兄さんに向けると本当に申し訳なさそうな顔で頭を下げてきた。


神取(あれ)の側にいただけで、侮辱するような言葉を投げかけてしまった。君くらいの年頃の子は、大人が突然怒鳴りつけるような真似をすれば恐ろしかっただろう」


 すまなかったと、繰り返し陳謝してくるお兄さん。


「いえ、あの……」

「ただ、これからもあのような男と行動を共にするのは君にとって好ましくはない」


 あ、本当に真面目で融通が利かないんだ。知り合いって言ってんのにそれ言っちゃう!?ってタイプなんだ。なんだろう。片倉さんが軽い人間を演じようってしてるのって、お兄さんを見てきたからだって言ってたけど。お兄さん、この性格だから色々やらかしてるんだろうな。

 垣間見てしまった気がする。でも、性格的に嫌いじゃない。


「片倉さん。達也君が」

「ん、ああ。ようやく来たか」


 花束を持って現れた片倉さんが私の姿に目を見開いた。


「秋月さん。どうしたの?また、兄貴が何か失礼なことを?」


 どうやら、メールは見ていなかったようだ。しかし、赤い薔薇の花束って……。


「達也。人をなんだと思っているんだ。そして、なんだ。その花束は」

「義姉さんから、親父を通して母さんにって」


 思わず左手の薬指を見てしまった。指輪無し。まだ、婚約もしてない?

 まさか、片倉さん、私と同志?結婚もしてない相手を義理兄弟認定するっていう困った何かをお持ちでしょうか。


「それより、秋月さん。どうして神光高校の近くにいるの。まさか、あの牧師の所に一人で行く気だったの?」

「ううん、えーっと」


 ちらりっと、お兄さんの方を見る。押し付けられたらしい薔薇の花束に頭を抱えているようだ。


「どうして、病院に向かない花を」


 ぶつぶつと文句言ってる。しかし、病院?


「オレに言われても、困るよ。兄貴が義姉さんなんかに頼るのが悪いんじゃないか。あの人、しっかりしてるようで常識がすこんって抜けてるんだから。オレは、もう見舞いに行ったから兄貴だけでそれ持って行ってくれ」

「一緒に行くと」

「やだよ。親父と母さんの熱に一人で耐えて」


 身震いする真似をする片倉さんは、私に近づきボソッて耳打ちしてきた。外に待ってる人がいるって。

 神取か。支

 払いは、もう終えていたらしく、片倉さんがカタログを持ってくれ腕も貸してくれたので体重をかけないように歩くと駐車していた駐車場じゃない方の駐車場に神取が待っていた。


 あ、神取と来てるってわかってるなら一人?って聞いたのって、神取とお兄さんが不仲だって知ってるからか。神取が、すまかったねって片倉さんに感謝を伝えている。


「神光に行くなら、一緒に」

「神光?今日は、大人しくするんじゃなかったのか」


 お父さんに神取もいい含まれていたようだ。がっかり。しかし、片倉さんもいるし、行きたいなーって、目で訴えてみたら神取はため息を吐いた。


「仕方ないね。ルカには不愉快な思いもさせていたようだし。ーー内緒だよ」


 神取が話がわかってくれて助かる。


 車の中で、後部座席に座る片倉さんにお父さんが仕事中に怪我をして入院中なことや夫婦仲が良すぎてお兄さんが家に帰ってこずに義姉(婚約中)の家に入り浸っていることを教えて貰った。

 どうも、何代も前から親子ともに警察を職に選ぶ家系らしい。なんとも言えない私に苦手でしょ?って、別に片倉さんが苦手な訳じゃないと言えば、苦笑して、だからあんまり近寄らないようにしようってしてるんだけど……って、首を傾げる。


「最近、気持ちの抑制が下手になった気がするんだ。ほら、あの白組のパフォーマンスの奴等との話し。あの後、マルさんにどう納得させたかって聞いたら『本当にやりたいパフォーマンスがあるなら、熱意を見せなさい。腐ってたって時間は待ってくれません。恥をかくのは貴方方ですよ』って、云うようなことを言っただけだって。うん、なんだろ…そこまで言わずに殴ろうとしたような気がする。どうしてだろ。秋月さんが、あの牧師に会うのは……あの『教会』に近づくのは、とても危険なような」

「それ、『夢』を見たからですか?」

「……うん」


 よほど、『夢』に疲れているのかあっさりと肯定してくれた。

 片倉さんが云う『夢』があの妙に生々しかった私の『夢』みたいなものだったら、毎日見続けたら、そりゃ精神が病むかもしれない。やっぱり、何かあるのかも。私は、片倉さんの隣に鎮座する『るぅ』の方を取って貰い抱きしめると、片倉さんが何かに気づいたらしく。


「そういえば、昨日、変なメールしてごめん。なんだか、妙に気になって」


 ……『るぅ』か『ふじさき』か。それとも、片倉さんの勘か。藤咲さんはなんとなく、強い感情だったから『契約』が作用したんじゃないかって説明はつくけど。わからん。

 神取が運転しながらニヤニヤしてるのが気になる。なんねい。


 神光に着くと神取が駐車場で待っているって。む、何故だ。


「仕事の話がまだ残っていてね」


 仕方なく、神光の職員室に片倉さんと行き、手続きとか全部片倉さんがしてくれた。お、おかしい。手際が良すぎるぞ。って云うか、片倉さん、ほとんどの先生方と顔見知りだった。

 

 新しく建てられていた校舎も大分出来上がってきているようだが、それよりもぽつんっと異彩を放つ『教会』。う~ん、怖い。あのポップでファンキーな歌が入る前から聞こえてきそうだ。


「秋月さん、顔色悪いよ」


 熱が上がった?って、額に手を置かれた。……ひんやり。冷たい。


「少し、高いような」

「大丈夫です。話を聞くだけですから」


 このまま、やっぱり帰ろうって展開は、美味しくない。慌てて教会の扉に手をかける。


「しつれいしまー……」


 あ、何かお祈りしてるみたいだ。ふむふむ。そうしてると聖職者らしいけど、だんだんノッテきたのか声が大きくなって、




「主よ!!この場にいる迷える子羊以外の悩みなど全て解決せず、今も町中を腕を組み闊歩するカップルと云う禍々しき存在に天罰をーー!!」




 片倉さんが無言で私が開けた扉を閉めて、そして、私を自分に向きなおらせてがっちりと肩をつかみ、真剣な目で。


「帰ろう」


 やだ。拒否の言葉が出てこない。


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