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あの後、会長とマナルンがお見舞いに来たけれど、会長は「赤と青どっちが好きだ」と聞かれ、どちらかと言えば赤と答えるとそうか…って会話終了。
メールで良くない!?
マナルンから体育祭の浴衣は寄付に回された事を教えて貰った。在庫整理だと表情も変えずに言った会長にあり得そうだと思ったら戻ってきた片倉さんが、「照れてるだけだから」と耳打ちされた。
良い事したねって褒められたくないんだって。……難しい。
ーー3人が帰った後、お姉ちゃんが帰ってきたから病人を理由に甘えようとしたら熱を計られた。まだ熱が高かったのか軽く食べさせられ、薬を飲まされ、明日は病院だと言われた。……ちょっと、怒ってた。しょんぼり。
眠いなーってウトウトしていたら、いつの間にか寝てしまったらしい。
変な時間に時間に起きてしまった。10時過ぎかー。体が痒い。お風呂入りたいなーと体を起こしたら、右足が、ズキッと痛んだ。
……あの病院のじい様医者も動き回る前提で治療してないだろうからねー。治療されてからも動いたなー。
お父さん、起きてるかなと痛む足に体重をかけないように歩こうとしたら、携帯が鳴った。……ん、なんだ?
机上の充電器に置かれた携帯を取ると、メールだった。ココさんや光原さんにひばりんだった。お見舞いにいけない事を謝る内容でココさんのメールは、『体育祭からママが楽しそうなの。嬉しい』って……なんだろ?
何があったんだろ。企んでる?
光原さんとひばりんからは天使と悪魔の不機嫌さを伝えてくるものだった。ごめん。としか言いようがない。……あれー、なんでかモヤモヤする。なんでだろ?
まっ、いっか。
私は、リビングに右足を庇いながら歩く。
お姉ちゃんは寝てしまったようだ。あんまり、会話してなくて寂しい……。
二階からリビングの方に歩いていくとソファに座ってお父さんとお母さんが難しい顔で何かを読んでいる。どうしたんだろ?
……あれ?お父さんの近くにある紙袋って、太刀川さんから預かった物に見える。
む、神取、お父さんたちを悩ますような内容を渡してきたのかと内心憤慨する。
「ルカ」
私が、階段から降りてきた事に気づいたらしいお父さんが、おいで。って、やだ。断らないよ。隣に座ろうとしたら見ていた書類を片づけるようだ。
「どうしたんだい」
「お風呂入りたくて起きたの」
お父さんとお母さんが呆れたって顔をした。でも、だって、臭いが……片倉さんに抱き寄せられた時に凄く気になった。
ーー体育祭で確かに私、活躍しなかったけど、いつも以上に汗かいてるもん。……臭かったらどうしよう。
お風呂に入りたいーって、我が儘だと思っても言ってしまった。お母さんは苦笑して、一緒に入りましょうねって。やだ。お母さん、大好き!
足を防水しなきゃって準備までしてくれるようだ。お父さんは、温めるのはダメなんじゃって呆れ気味だけど。シャワーだけだからって、お母さんは女心優先してくれている。
お母さんが私に食欲があるかって聞いてきたので、鯖スパが食べたい!って我が儘云ってるのにまったく、否定されなかった。……キッチンに行ったお母さん。……お父さんと二人きりにされたら空気が重たくなった。どうしたよー。
「ルカ、他県に家を買ったから引っ越しなさいって言ったら行くかい?」
お父さんの言葉が最初頭に入ってこなかった……いや、おかしい。私、アディーとセラ様と『契約』してるのに他県に引っ越すだと!?『修正』は?外に憧れたりしないようにって云う『修正』は!?
あ、私は、もとから『この土地』以外を知ってるからかな?
ま、まさか、体育祭での態度に呆れたアディーとセラ様にいつの間にか『契約』を打ち切られただと云うことか。ーーそれだと、藤咲さんとも!?
……否、まだ『土地からのペナルティ』が、……他県を話題にされた時点で終わったのかな?あれー?
は、引っ越したら、リンのお隣さんってメリットもなくなる。毎日、お姉ちゃんとの進展をこの目で確認する機会が。…大人の事情だからそれは我慢しなきゃ。別な手か。リンは『この土地』から出れるんだから離れても『修正』されない筈だ。
しかし、お父さんったら、いつ、家なんか買ったんだ。……うちが貧乏になるって云うのはなんとなく、泉さんの話で『秋月ルカ』が何にもしなければ、回避できるんじゃないかって推測していたけど。家を買うくらいかー。
あれ、この家のローンって、まだ残ってるような?
「ルカ」
「お父さんの都合なら、我慢するよ?…離れたくないけど」
あれ、自分の言葉に首を傾げてしまった。……一瞬、誰かの顔が浮かびそうに。はっ、たくさん、と、友達が。それに心配な人たちがいるから、やっぱり、離れたくない。でも、そう言ってお父さんを困らせるのも。
どうして、グッと詰まったように黙ったんだろう。
「……お父さんの都合なら、一人暮らしもできるかい?」
「……え?」
続いての言葉に目を見開いて、頭で反芻するたびにだんだんと……悪い意味しか聞こえなくなってきた。お父さんの都合?…私だけ、どっかに暮らせって。
ーーさーっと血の気が引く。え、私が、イラナイってこと?
「ルカ、ごめん。ほら、こっちにおいで」
膝の上に私を乗せようとするお父さんに私は、頭を振る。
「ルカちゃん、ごめんなさい。鯖がなかったから、納豆でも……ど、どうしたの。顔色が真っ青よ!?」
お母さんも私の方に慌てて駆け寄ってくる。
1人暮らししろって、どういう事?
いらないって事?私の事いらないの?……わ、悪いことしたんだ。お、お父さんがそんなに私の事、呆れるくらい悪いことしたんだ。
こ、ここでショックを受けて泣いたりしたら、さらに呆れられる。部屋に戻らないと。ーー大丈夫。言われなれてるでしょう?って誰だよ…………無いよ。
お父さんにそんな事言われた事ないッ!!
「ルカ、違うんだ。言い方が悪かった」
ほらって、頭を撫でられても、ちっとも、落ち着けない。
撫でる手が優しくてさらに気持ちを落ち着けなくしたので逃げるように体を退くと、お父さんが、ショックを受けたような顔をする。
「……寝ます」
「ルカちゃん、お母さんと一緒に」
「大丈夫、です」
自分でも硬い声になった事はわかったけれど、泣かないようにすると、どうしてもダメだ。
部屋に一人で戻ってくる。二人とも途中まではついて来たけど、私が目の前でドアをバタンッと閉めた。
その場にヘタリこんで大声で泣きたいが、まだ部屋の前に気配もある。ーー隣の部屋のお姉ちゃんはもう寝てるだろうし。……布団に潜り込む気持ちにもならない。ーー神取の事、言い忘れた。
……太刀川さんのアドレスなら知っているから、自分で断ろう。……断って、明日から、大人しくすればいいんだ。存在を忘れてもらえるくらい。息を殺して、ずーっと。部屋にとじ込もって……普通に生活して。そしたら、今より悪い状況にならない。大丈夫だ…。大丈夫。『私』の親じゃない。
私のお父さんとお母さんだもん。
優しい人たちだから、なにか理由があるってわかってるーーなのに、どうしてこんなに不安なんだろう。
体が異常に震えるから抑えるために机上の『ふじさき』と『るぅ』を抱き締めて、窓の方にふらふらと歩くと、リンの部屋に明かりがついている。まだ、起きているみたいだ。
電話したら、こっちに来てくれるかな……、来て貰って……リンにまで、呆れられたら、どうしよう。
ズズッ…と、鼻を啜りながら、部屋を意味もなく彷徨いてしまう。足がズキズキと痛みを主張するけど、そうしてくれた方が有り難いくらいに胸がズキズキする。
携帯を取って、電話しようか悩んで、まだ電気が消えてない事を確認する。
しばらく、そんな時間が続いたかと思えば、コンッコンッて、ノックが聞こえた。
「ルカ、起きてるよね」
お父さんだ。
「入るよ」
お父さんの言葉に慌てて、私はベッドに潜り込む。
「ルカ」
私が毛布にくるまって、必死に『ふじさき』と『るぅ』を抱き締めていると、携帯が突然鳴った。あわあわと停めようとしたけれど、お父さんに背中をポンポンと軽く叩かれる。
「蓮ー…じゃなくて神取に明日、病院に連れていって貰いなさい」
思わず、毛布から顔を出して、なんでーって涙声で聞いてしまった。
「明日、一緒に出掛けたいって言われたんだろう。……太刀川から、連絡が有ったから」
「……お姉ちゃんが」
「ルカ、聞きなさい」
頭を撫でられた。やっぱり落ち着かなくて、ポロポロ涙がこぼれて、『ふじさき』と『るぅ』に染み込んでいく。ーー携帯も鳴り止む気配がない。
「僕は」
あ、お父さんが珍しく自分を『僕』って言った。リンみたい。
「ルカが大事なんだよ」
「……うん」
「だから、考えている事があるんだ。でも、……まだ、考えが纏まらないうちにうかつな事を言ってしまった。」
じゃあ、例え話だったのかな?ひ、一人暮らしはまだ、しなくて良いって事かな。離れなくても良いって話かな。
それなら、うん……良かった。
「ルカ、……ごめん」
よしよしって頭を撫でる手にようやく安心できた。誰かが『ずるい』って言った気がしたけど、私は、お父さんの頭を撫でる手を甘受する。
「もう少し、ルカの為になったら言うから…」
そうしたら、聞いてくれないかって。お父さんの話を聞かない理由が全くないので、私が頷くと複雑そうに微笑まれた。
お父さんが、おやすみって、部屋から出ていくとお母さんが「お風呂は明日ね」って部屋に来て頭を撫でてから言ってきた。うん、もう眠いや。
うとうと、しながらもさっきの電話のチェックをすると、藤咲さんからの着信とメール。片倉さんからもメールがあった。両方とも『大丈夫?』で藤咲さんからはもう少し突っ込んだ『何かあったの』のメールだった。……タイミングが良い。はっ、『るぅ』と『ふじさき』のせいとか?
どちらにも『大丈夫』と藤咲さんには、『ごめんなさい』も入れて返信する。あれ、なんかもやっとした気分が緩和した気がする。そのまま、眠気に負けて、眠りに就こうとすると、やっぱり、誰かが『ずるい』って、
ーー同じ『ルカ』なのにって。泣いてる声がした。




