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ーー何か引っ掛かるけど、なんだろう?
「るか、どうした」
セラ様も天匙へ片付けの為に戻っったので、アディーと2人で喫茶店の前で私の迎えを待っている最中にふっと藤咲さんとセラ様、アディーの妙な連携の良さに疑問を感じたせいだ。
あれー、よくよく考えたら、私が言う『秋月ルカ』が出てきたのって、リンが留学中じゃないか。
美術館に居たのも『悪魔』側だし。見張られてた?それとも、セラ様の能力のように感情を読めるの?それで原因を突き止めたとか……。
ん?今だにお姉ちゃんが傷ついてるとしたら、キッカケは『秋月ルカ』だけど、完璧に私の態度になる。
……置いて、置いておきたくないけど、この違和感。ーーまた、企まれてるのか?
そんな感じでもなかったから、納得したんだけど……。
体育祭での一番の目的はー…、神光の選定に選ばれる事。あとは、そうココさんの継母を確認する事。ーーどちらも運任せだった。でも、なんだろ。
この二つの事案のどちらかで放置しちゃいけない問題をスルーして……いや、待て。
あの美術館時に置いての問題点ーー光原さんもネガティブ思考だって、わかってるのにどうして今日、謝らせなかったんだ!
『悪魔』の近くに『贄』を置いてきてどうするんだ。私。
ハッ、ばーか!って、煩いわ!!……浮かれてたもんねー。って、しみじみ言うな!!そして、どっちも脳内ツッコミ!
「るか?」
私は、じーっと観察する。
多分、これは3人の共通事項だ。これ以上、悪魔に近づけるな。と。
藤咲さんは、面倒だからかな?アディーは他の悪魔に近づかれるのが嫌だからか。セラ様は危険だと判断したから。
だから、あんなに連携の取れた会話で『知りたかった事はわかったろー。帰れ』的な雰囲気を作り出したのか。いや、穿った見方のしすぎか?
でもなー、やっぱり、光原さんを放置するとあの時の『またね』の言葉が恐ろしい意味を持ちそうで、怖い。
それにこの問題を放置したくないって云うのもある。あの人、まだ、天匙に残っているかもしれない。しかしなー。3人とも私をなんだと思ってるんだ。
私が、睨んでる事に気づいたらしいアディーが視線を逸らした。それを確認し、……携帯を取りだしてメールで光原さんに確認を取る。……セラ様には内緒にしてくれと、文に入れて。
「る、るか……、今日は、帰るんだよね?」
アディーの怯えたような声に満面の笑みを返す。アディーは撒こう。
お父さんの車が喫茶店に横付けし、少し、泣きそうなお母さんが助手席から出てきた。
「勝手に居なくなっちゃダメでしょ」
「うん、ごめんね。お母さん……それで、『あの子』たちは?」
「?後部座席にいるわよ」
仲良く並んでいる『るぅ』と『ふじさき』。どちらかに『秋月ルカ』が入ってるなら、私の部屋に来た時点でアディーかセラ様が指摘しても良い筈なんだよねー。
むむっと、思案する。
「お父さん」
「?何」
「私、学校に用事あるから戻って」
「るか!?」
「あ、大丈夫、ちょっと、光原さんに謝って貰うだけだから。帰って良いよ」
セラ、怒る!!ってセラ様と藤咲さん、一番語るに落ちるタイプ置いていっちゃだめだと思う。
そんなやり取りを終了させて、お父さんに学校に戻って貰った。ーーこれは、私の用だけではなく、会長に体育祭の準備中に雑用ばかりやっていた私に確認したい事があると電話もあったので、堂々と理由をつけて戻ってこられた。
ふふん、会長と話している時にセラ様と目が合って驚愕しているが知った事か。光原さんが私に気づいて寄ってきた。
「ルー…万葉さんは美術室に知らないお爺さんと一緒に入って行ったって話だけど」
ん、誰と居たって?
獲物か。ーー私は、ごめん…と、謝る大型わんこに軽く説教し、後から何が問題だったのかを話し合う約束をした。そして、セラ様の足留めも頼んでおいた……なんだか、深託側って感情の制限が下手な子が多い気がする。
美術室に行くと、また鍵が掛かっていない。
許可が出ての事だろうか。
戸口を開くと、一人でお姉ちゃんの『絵』を熱心に見つめる艶やか美人が、ーー確か万葉さんだっけ。
私に気づいて振り返り蠱惑的に微笑んだ。
「あらー、ルーちゃん。帰ったのかと思って、残念ねって考えてたの」
「ちょっと、藤咲さんに捕まってしまって」
私は、誰にも邪魔をされないように鍵を掛ける。バッグの中にはお守りと『るぅ』と『ふじさき』が入っている。ちょっと、容量オーバーだが。
「もっと、早くくれば素敵な殿方にも会えたのよ。……滅多に『この土地』に来られない方らしくてね。お孫様のご活躍に感涙していたわ。内緒で来てたらしくて、早々お帰りになられたわ」
可愛らしいわねーって。どこかで訊いた話だ。
「……その人のファンなんですか」
「ええ、あの方のお孫様が『この土地』に来た瞬間は歓喜したものよー。『破滅』させたら、どれくらい美味しいかしらって考えたものよ」
うふふ…って。でも、元気になっちゃったって、しょんぼり。やだ、仕草は可愛い。
「今日は、おとなしくしててくれたんですね」
「そうね。……泉ちゃんって子が熱心にお願いしてきたから、心美ちゃんが関わってる事には手を貸してあげたくらいね。……でも、月夜君がいつの間に逞しくなっちゃったわ。あの子の我慢に我慢を重ねてる姿が可愛かったのに……いつか、大きく爆発して、心美ちゃんの事、すごく傷つけてくれるのを待ってたのに。どうしてかしら、ーールーちゃん。わかる?」
その件は私も疑問だ。
「男子3日会わざるば。ですかね」
「そう…、塾も変わっちゃったから、確認しづらくなったのが悪かったのかしら?心美ちゃんも最近、月夜君の話をしなくなったし」
ふぅーって、美人が溢す吐息にドキマギしながら、私は内心小躍りしてる。ーーココさんのヒロイン様としてのルートが確実に狂ってるんだ!
やったー。バンザーイ!!
今日は、祝杯としてエスプレッソを飲んで帰るぞーっ!!まだ、ニガイでありまーす!ミルクを入れろー。砂糖もたっぷりだーっ!!
「皆、私が美味しくご飯を食べたいって気持ちを否定するのね」
悲しいわって、目尻を拭う仕草。意味がわからずに首を傾げると、クスクス笑われた。
「ショートケーキとスポンジケーキどっちが美味しそう?」
この人は元だけど、藤咲家って例え話が好きなのかな?
「ショートケーキです」
「そうねー。じゃあ、私の気持ちわかってくれる筈よ。普通の不幸より相手が立ち直れないくらい追い詰められた不幸の方が、美味しいって」
いきなり、話が物騒になった!!しかも、うふーって、可愛らしく笑顔だ。
「ええっと、普通の不幸でいいなら…」
「美味しくないのよー。……ルーちゃんだって、美味しくて栄養がたくさん補充できる方が、……我慢のしがいが出てくるでしょ」
……セラ様が、危険だと判断した理由がわかった。アディーと違って、根本的から合わない癖に話が噛み合う部分を作ってくるタイプだ。
多分、私が同意した先から、それに被せて自分の主張をする。ーー否定すれば、貴方、おかしくない?って、真顔で問いかけてくるのだろう。人間を熟知したタイプか。
正論は通じない。イライラして手を出しても終わりなタイプかー。なるほど、やりがいがある。
「ところで、藤咲さんのことなんですが」
「あらー、葵くんがどうしたの?」
私は、バッグから『るぅ』と『ふじさき』を取り出すと、美人さんは、目を丸くする。
「あら、……可愛らしいわね?」
あれ、何にも効果ない!?例の雑貨屋から買ったし、藤咲さんが『るぅ』の方を熱心に見ていたからてっきり悪魔祓い効果が……、ないか。
この子たち買った後もアディーは普通に私の部屋に来ていたし。
「……何か効力があるんですか」
「そうね。貴女に悪意のある者を封じる作用はあるかしら?」
あ、あるんだ。
「び…万葉さんは、私に悪意はないんですか?」
「あら、食事をしようって時に悪意を持ち込むの?人間って大変ねぇ」
クスクス笑われた。やっぱり、得体が知れない。
「『魂の一部』を封じたり」
「出来ないわけではないけど、それ、人間がされたら死んじゃうわ。時間をかけて、ゆっくりとすれば問題ないかもしれないけど。そんな手間を天使がするかしら?意外とおおざっぱなのよね。彼らって」
「藤咲さんに私の負の感情を増強?違うな…えーと、増幅させられた事があったんですけど。それが、今、この中に居るって」
「すぐには無理よ?何か月前から手元にあるの?」
きょとんって、あ、本当に無理なんだ。
「葵くんにそう説明されたの?」
「天使と悪魔も居た場で」
「……それでも、私に聞いてくるって信用しなかったの?……全部が嘘って、わけじゃないけど?」
「はあ、前科があるので」
私が、こくりと頷くと、ほほっと上品に大笑いされた。
「あ、葵くんったら、すっかり警戒されて。…うふふ、」
「でも、今回は随分助けて貰っていたらしいのは、わかりました」
ん、何故か近寄ってきて、頭を撫でられた。
「面白いわ。よっぽど、ひどい目に合わない限りそこまで人の好意を曲解しないものよ。天然、としては、ルーちゃんは狡猾すぎるし……」
狡猾!?
「だって、私に何か頼み事があるのに、遠回りな葵くんの話から始めたでしょ?相手が好みそうな話や簡単に答えてくれそうなことから質問して断りづらくするって手ね。ふふ、話術っていうのは悪魔に取って嗜みなのよ」
アディーを思い浮かべる。……話術が嗜み?
「『泣き虫』を参考にしちゃだめよ。でも、良いわ。何かお願いがあるなら、聞いてあげる」
「えーと、じゃあ、人を『破滅』させるのをやめたり」
「ひどいわ。食事を止めろってこと?」
鬼のような子って、泣く真似をしやがった。
「悪魔と人間は根本的に違う部分があるのだから、人間側の都合だけの交渉をされても困るわ」
「人間でなくても代用できるって知ってますが」
「効率的にも一番、美味しいのは人間よ。人間同士でも相手を追い落としたりするんだから。自分の糧の為に相手を『破滅』させる悪魔の方が純粋ではないかしら」
なるほど、こんなのが毎日側に居て、にこにこと味方面して毒を蒔いていれば、ココさんが感情の制限が下手になるのもわかる。
ふむ、このままじゃ埒が明かない。一旦引くか。
「わかりました」
「あらー、やっぱり、ルーちゃんは、理解してくれると」
私の肯定の言葉に破願する美人さんに私がニッコリと生前プラスαな精神力で作り笑顔を張り付ける。
「現時点で万葉さんを理解して上げられないことがわかりました。話術が嗜みな割にちっとも、私の頭が理解できない内容ばかりですね。本当に優秀な悪魔ですか?アディーの方がわかりやすい」
あ、一瞬、きょとんとした。そして、また大笑いし始める。
「駄目よー。安い挑発ね。うんうん、それに私もさすがに『囁き』を聞きづらくされている子といつまでも話しているのは疲れるわ。今日は痛み分けにしましょう」
痛み訳どころか惨敗だ。しかし『悪魔の囁き』を扱われていたの?聞きづらくしたのって。
「この『るぅ』と『ふじさき』どっちの力ですか?」
「……赤人さんの力よ。葵くん、午後から元気になったでしょ。貴女の『制限』を手伝ってくれたみたいね。かなり、楽になったし繊細になったんじゃないかしら。……でも、あの能面がどうして、手伝う気になったのかしら?」
小首を傾げる万葉さんに赤人って誰?って首を傾げたら、市長だって。藤咲さんのお父さんだと!?
「あの、話の通じない!!」
「ぷ……、あははっ!!」
今度は上品に笑うどころか、気の向くままに笑っていらっしゃるようだ。なんで?
本当に面白かったのか目じりを拭う仕草をする。
「仕方ないのよ。生まれた時から周りが『お人形さん』ばかりなんだから。『悪魔憑き』はね。感情豊かじゃやっていられないわ。………うん、そうね。貴女、顔色が悪いわ。きっとたくさんの人間外に関わって当てられちゃったのかしら?早く帰って寝なさいって、誰も心配してくれなかったの?」
そう言われて、さっきも会長や光原さんに呼び出して悪かったから早く帰れ的なことと、藤咲さんとセラ様とアディーに喫茶店からもう帰れ的な雰囲気を醸し出されたこととか……。お父さんもお母さんも学校に戻るって言ったら渋い顔して、用が終わったらすぐ戻れって……、
「みんなに人の顔見るたびに帰れオーラが」
「そう、周りの子は苦労してるのね」
呆れながら、美術室から出る前にちょっと熱が出るかもよ。お大事にまたねと、鍵を開けて去っていく万葉さんの背中を見送った後、なんだか、体の力が抜ける。
「あれ?」
頭やら足やらが、ガンガン痛くなってきた。どうしたんだろ。さっきまで平気だったのに?
「ルー、万葉さんとの話終わった?……ルー!?」
戸口を開けて入ってきた光原さんが、その場に座り込んでいた私の姿に声を上げる。へらーっと笑いかけようとしたが、ひきつってしまった。これは、やばい。
「ルー!!ーー『ルカ』、しっかりしろ!!」
慌てて、私を抱き上げる光原さんの声に集まってきた生徒たちに私の荷物を任せ、どこか運ぼうとする光原さんの腕の中で、あれ、さっき、光原さん、私を『ルカ』って、呼ばなかった?って、考えながら意識が遠くなって行くのを感じた。




