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 悪魔と契約するために血寄越せと言われ丁寧にお断りして、天使様とひと悶着起こしました。

 バカな。痛いじゃないか。

 天使の見張りの元に契約を行ったので、『願いを叶えてやったんだ。身も心も寄越せや』的な悪魔の鉄板はないらしい。

 本当にあくまで『仮』だ。悪魔だけに。

 ………私は、脳内でもボケないといけない存在なのでしょうか。いいえ、たまには真剣になれる筈です。あー、ぐったり。


「む、もう遅い時間だな。親が心配している筈だな」


 やだ。この天使。現実的すぎて泣ける。人間離れした容姿で甘党だったり、まともな時間感覚ってどうなんだろ。私、嫌いじゃないが。


「自宅まで送ろう」

「え?まだうつろってる悪魔はどうするんですか?そして、送られて自宅が知れるのは嫌です」


 あ、睨んでる。ふ、甘いなこの短時間で天使の睨みなどには慣れたよ。

 ………おねえちゃーん。こわいよー。この天使怖い。


「何度も言うが、お前がこれ(・・)に関わる以上、お前と身内の安全の確保の為に私が側に居た方が都合がいい」


 これって悪魔。そして天使に周りをうろちょろしないでくれ。って頼みは拒否された。なので、私の周りの人の記憶をむやみに消すな。と注意。

 困惑した顔で『何故、私の能力を…』ぶつぶつ言ってましたが、その辺はスルー。


「お姉ちゃんとリンに惚れないでね」

「人間ごときに惚れるかっ!」


 私のせいか天使様がだんだん口汚くなってる気がする。バカな。会って二時間も一緒にいないぞ。

 きっと、元から口が悪いんだね。わかります。


「力の供給って、ちょっと私の運が悪くなる程度なんですよね?」


 とりあえず、もう一度確認。天使様、苦々しい顔なさらないでください。


「ああ、そんな程度だ」


 ちょっとが、どの範囲かわからないが。悪魔のこの状況はいろいろ問題らしいし、負の感情が生命維持に必要なら、私から限定で供給する事になった。勝手なことが出来ないよう天使様が見張ってくれるらしい。

 大変だね。天使様と私。

 でも、いつも、暗い感情を発生するのも難しいので天使様により少し運を落とされたらしい。そんな力有ったのか貴様。命やら貞操の危機はないようにはしてくれるって。アフターケアがハンパない。

 それより、問題が起きた。天使様に奢られた。

やだ。どこで調達したのかわかんないお金だよ。怖い。

 丁寧に断ったのに沽券に関わるとかなんとか譲らなかった。

 私は、そんな出所の怪しいお金で後から警察のお世話になるとか怖い。でも、奢られた。同罪だ!


「うう…、さっそく不幸な気分だ」

「天上の存在に施しを受けたのだぞ。感謝されることが多いというのに、何故、悲痛な顔をする」


 言ってもわからんだろう。しかし、悪魔と手を繋いで帰宅か。まさか、家にあげないといけないのかな?


「それは、私が回収する。側にずっと居なくてはならない訳ではないが仮にも契約者だ。喚べば顕れる」


 全力でいらない能力を獲得したよ。


「しかし…、解せんな」


 高身長の天使様は私を見下ろしている。なんだよ。何がわかんないって?


「お前の案は、お前だけが損をするものだな。少しくらい周りを巻き込もうとも誰にもバレんぞ」


 天使様、口調が砕け始めてますか。そして、貴様は本当に天使か。なに、周りを不幸に巻き込もうとしてんの。能力もなんかアレな感じがする。もしかして、堕天使か。


「天使様」

「セラと呼べ」


 あ、本名は『セフィートラ』ですもんね。そして、彼を天使、天使って呼んでる私、イタイ子。実は店から視線が痛かった。

 まあ、一応、セラ様…と、まだイタイ子か。うん、セラさんだな。でも心では呼び捨てにしよう。………どこまで持つだろうこの決意。


「セラさん、私。この状況は自業自得だと理解してますよ?」

「は?」


 大口開けて、驚いてる美形って面白い。

あれ?意外だった?


「だって、私がこれの名前を不用意に呼んだせいでしょ?一応、ご迷惑はかけてる気はしてます」


私の言に最初は、驚いたようにだんだん肩を落としながら、


「いちおう………気だけか」


 なにその残念なものを見る目。

 私だって傷つくんだぞ。そして、反省もする。遠くに捨てるのが無理なら、私たちには近づかないように教育しよう。

 誰にも迷惑をかけずにひとりの契約者と末長くお幸せエンドにしてしまえばいいのだ。確か、コイツ、エンディングで主人公とエロエロしいシーンの時、性別が選べた存在だ。

 あ、でも『成長しちゃって残念!』『俺は子供のほうが良かった』と掲示板を荒らしていたな。いきなり成人させるとみんなびっくりするよね。

 んん?セラも性別が選べるのかな?

 子供の姿しか見たことないや。


「セラさん、妙齢の女性になれますか?」


 なに、怪訝な顔してる。


「出来るが何故だ」


そりゃ訊くよね。


「見たいから。……じゃなくて、ほら、あのですね。家にいきなり、成人男性に送られて帰ったら、………おねえちゃん、こわい……」


 喋りながら、絶望的な事に気づいた。

 私ったら、なんの連絡もせず、ふらふら男となんか帰ってみろ。ーーいつも、ふわっと柔らかな笑みを癒しオーラとともに浮かべるお姉様の癒しオーラが、どす黒く変貌する瞬間を見ることになるかもしれない。そ、想像しただけなのにお姉ちゃんの後ろにマングースが!


「怒ったお姉ちゃんも大好きーーっ!!」


 きゃーっ!と叫んだら、悪魔と繋いでいた手がぴくり、と動く。なんだ?


「…」


 下を見れば、ボーッとはしているが、顔色は悪くない悪魔がいる。どうしたのかな?

 あんまり、元気になられても困るよ?


「何をそんなに見つめているのだ」


 ん?女の人の声だ。


「あ、」


 白髪の迫力美人。………あ、セラか。え?いつ変身した。まさか、ここでか。



「こわっ」

「お前の願いを叶えたというのにその態度か」


青筋を立てないでください。


 女の姿でも美形か。グラマラス。……うん。


「胸をもんでいいですか?」

「殴るぞ」


 セクハラな発言をしたら、ぎろっと睨まれる。だって、本物か確認してみたいじゃないか。


「くだらないことを考えるな。思考を閉ざせ。帰り道だけをもくもくと歩け」

「テレポートとかはないんですか」

「楽を覚えるな!」


 体育系かこの天使。

 しかし、否定はなしか。仕方ない。目の保養をさせてもらったのだ。私は、悪魔と天使を連れだって、家路を急ぐ。


 

 黙ってるのも苦痛だな。

天使様のご指示通り黙って歩いたが、いつもの帰宅路までつくと緊張が解ける気がするから不思議だ。


「あ、あそこのコンビニでジュース買って帰っていいですか」

「ああ、好きにしろ」


大仰に頷くセラに感謝の言葉を述べて鼻歌交じりでコンビニに向かう。

 姉へのお詫びにミルクティーを買って帰ろう。うん。それがいい。

 私は、にこにことミルクティーを受け取ってくれる姉を想像しながら、コンビニに来店しようとしたが、視界に入ったピンクの髪に自分の血の気が一気に下がるのを感じた。

 さすが『天使の祝福』と『悪魔の手引き』だ。

 いろんな意味で、パネェ不幸を巻きやがった。

 ーーメインヒロイン様と出会うとか、負の感情以外なにをまき散らすべきか。悩んでるよ。一応。


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