08 イノシシ
がさがさっと茂みを掻き分ける音がした。
危険を感じ飛び退くと、さっきまで居た場所を何かが駆け抜けていく。
それは、木の手前で止まりこちらへ向きを変えた。
どうやらイノシシの様だ、鼻から螺旋状の角を一本生やしているが。
突貫して来る、どうやらターゲットにされたようだ。
(まいったな…)
武器も無ければ、スキルも無い。
直線状に突っ込んでくるだけなので横に避けるのは問題ないが、背を向けて逃げれば追いつかれそうだ。
そもそも、猫は瞬発力は高いが持久力はそれほど高くない。
また避けると、イノシシは木の手前で止まり向きを変えた。
ふと思いついて、大き目の木を背にする。
するとイノシシは突っ込んで来ず、こちらを中心に円弧を描くように動き始めた。
こちらもそれに合わせる。
硬直状態が生まれた。
(そううまく来ないか、何か手は……うん?)
イノシシが円弧を描くのを止め、こちらを向き体を縮め深く沈める。
猛烈な危険信号に突き動かされ間一髪で避けたが、イノシシの溜め突貫が直撃した木は地響きを立てて倒れこんだ。
イノシシが頭を振って角を振り回す。
体の小ささを生かし避け続け範囲から逃れようとするが、服が角に引っ掛かり投げ飛ばされる。
「ガハッ!」
息が詰まる。
痛む体に鞭打って何とか立ち上がったが、イノシシはまた体を深く沈めていた。
生きた砲弾となったイノシシをもう避ける力は無い。
(やられる?!)
無我夢中で魔力の障壁を張る。
障壁に衝突すると、角は折れ飛び、頭蓋が潰れてイノシシはぶっ倒れた。
障壁が消えるとこびり付いてた血や肉片が地面に落ちる。
(た、助かったー)
魔力を使い果たしたのか、少しだるさを感じる。
投げ飛ばされた影響で、体の節々が痛む。
だが、とにもかくにも生き残ったのだ、障壁を張って―張れて。
おかしい。
昨日、新がウサギと戯れてる隙に試したのだが、その時は出来なかったのだ。
でも、今は出来た。
嫌な想像が頭を過ぎったが、とりあえずドロップ品だ。
イノシシに《ゲイザー》を使用すると〈折れた一角猪の角〉、〈一角猪の肉塊〉×2、〈一角猪の皮〉を取得した。
一段落したので最初の疑問に戻ってみる。
モンスターに襲われて強制的に考えるのをやめたからか、少し冷静になれた。
とりあえず、体を確認する。
顔を触れば髭があり、頭の上に耳がある。
掌には肉球があり、尻尾がある。
脚は人間で言うなら爪先立ちだが、猫としては当然だ。
しかし、腕は体の横に付き、手は物を掴み易く変わり、背筋は真っ直ぐ伸びていて、二足状態なのに姿勢が安定している。
キャラクター作成時にはシャツ、ズボン、靴と一揃い装備していたが、今はシャツしか装備してない。
残りの2つはインベントリに入っていた。
体型に合わず弾かれたのだろうか?
〈ソウル〉付与欄を見てみたが、何も付与されていなかった。
(なんだかバグっぽいな。でも猫でやったら〈猫?〉になりましたとか報告しようがないしな)
とりあえず情報掲示板とか回ってみるかとログアウトを選択する。
――ERROR――
「……あれ?」
ログアウトを選択する。
――ERROR――
「…えっと…」
ログアウトを選択する。
――ERROR――
「…まじか」
ログアウトを選択する。
――ERROR――
インターネットを回っていて見つけたとある小説投稿サイト、そこで見かけた類型。
曰く『VRMMOから出れなくなった』『VRMMOだと思ったら異世界だった』etc…
まさか本当に体験するとは…って、元々異世界組じゃん、オレ。
「ははははは……」
乾いた笑いがこぼれた。