07 魔術猫
やっと話が進んだ
「じゃあ、行ってくるね」
ガチャっと扉が閉じ鍵が閉められ、足音が遠ざかっていく。
「……始めるか」
狙う隙は今しかない。
準備は足りないがまあ何とかなるだろうと覚悟を決め、目的の場所へ向う。
この世界に来て一番衝撃を受けたはコンピュータゲームという文化だ。
映像や本などは、レベルが違うが前の世界にも存在していた。
だが、ゲームは別だ。
制限はあるにせよ、自らの思い通りに動かせるそれに深く感動を覚えた。
まあ、すぐに挫折も味わったが……人間用コントローラは猫の手に余る。
操作に速度や正確さを求めるタイプはうまく出来なかった、一番気に入ったジャンルはACTなのに。
日々を猫生活を堪能しつつも心の底で悶々とした気分を味わっていた。
そして昨日、VRMMOを体験していて思ったのだ、これACTゲーじゃないか、と。
コントローラ式じゃないから、この体でも安心して楽しめる。
絶対遊ぼうと深く決意した。
まず、架空の名前でオープンβのアカウントを取った。
18禁なのに身分証明とか必要でないのに不安を覚えたが、自分的には好都合なので良しとしよう。
VRセルを置いてある部屋に行き、ペット用VRセルを立ち上げ設定を変更する。
普通の方は毛の掃除など後で面倒になりそうなので。
ペット用VRセルも制限をはずせば、ただの小型なVRセルになるし。
傍らに置いたマニュアルを参考に、悪戦苦闘して何とか制限をはずした。
やり方は覚えたので、次はスムーズにやれるだろう。
マニュアルをしまい、リングを付けVRセルに潜り込む。
(それじゃあ、スイッチオンっ)
襲い掛かる睡魔に身を委ねた。
―――
気が付くと石造りの神殿のような場所にいた。
正面には濃い霧が立ち込め、見透しが利かない。
いつもよりも目線が高い。
体に違和感を感じ、見下ろすと服を身に纏っていた。
どうすれば先に進むのだろうと考え、辺りを見回すと頭の中に声が響いた。
――汝ノ姿を定めヨ――
霧が左右に分かれると大きな姿見が現れた。
姿見には多種多様な目盛が存在し、表示の拡大縮小をはじめ名前や種族、性別、髪型、体型の細かい変更などが可能のようだ。
姿見には中肉中背の日本人的な美形が映し出されている。
そういえば顔の平均値は美形になるって聞いたことがあるし、これがテンプレートなんだろう。
変える必要を感じなかったので外見はそのままにし、種族も〈街人〉のままにする。
〈森人〉と迷ったが、目標を考えるとこっちのほうがいいだろう。
名前はマオと入力して決定ボタンを押す。
同名は弾かれると聞いていたが、ペットで登録してる分とは重複しないようだ。
――姿は定めラれた。汝の進ムべキ道ヲ決めるガよい――
姿見に映る姿が変化した、金属の鎧を身に纏い剣を佩びた姿だ。
これは〈魔術士〉に変更する。
そう、目標は近づいては殴り、離れては魔法を飛ばす遠近両用キャラ。
昨日見かけた中にそういう事をやってたPCがいて、感銘を受けたのだ。
正直、人間の体は久しぶりだし体術に自信も無いので純後衛とかも考えたのだが、出来るならそちらの方が楽しいだろう。
決定ボタンを押すと、姿見に種族、職業やステータスが表示される。
姿見に微かにノイズが走った。
――デは行くがヨイ。汝ノ旅立ちに祝福ヲ――
―――
周りを木々で囲まれ木漏れ日が差し込んでいる。
前とは違うようだ、出発地点はあの場所固定では無いのかもしれない。
どちらへ向かえばいいのかと辺りを見回し…違和感に気付いた。
キャラクター作成時よりも視点が低いのだ。
しかも、何だかこの視点に見覚えがあるような…、
ガバッっと掌を上げて見る。
肉球と毛皮。
(まさか、まさか、まさか、まさか…)
「す、スキル使用…《コンソール》」
〈コンパネ〉を手に取りステータス確認。
名前:マオ
種族:〈猫?〉
職業:〈魔術猫〉
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「…な、なんじゃこりゃーーーーーー!!!!」
――こりゃー
こりゃー
こりゃー
こりゃー―――