06 チュートリアル
説明回その2…というか長かったので割った残りというか…
いつの間にか高い塀で囲まれた芝生の上に立っていた。
足元でニャーと声が聞こえる。
「マオ、無事だったか。良かった~」
抱き寄せ頬ずりしようとしたが、避けられた。
「離れ離れになってたのに、つれない……」
少し落ち込んだが、気を取り直して辺りを見回すと、他にも結構人がいた。
塀の一角に出入り口があり、その近くに人だかりが出来ていた。
他に出入り口は無いので近づいていくと、呼び込みをやっていた。
「『新人訓練』受付です。『新人訓練』を受ける方は、こちらへお並びください」
(『新人訓練』、たしかチュートリアルクエストだっけか。装備とかもらえるんだよな)
最後尾へと並ぶ。
流石に初日なので混雑していたが、予想よりは早く受付を終え、訓練所へ案内された。
20人ほど集まると、前に鎧を着た戦士っぽい人が登場した。
「ようこそ、僕が君たちの訓練を担当するジョン教官だ。よろしく!」
金色の髪に小麦色の肌、にかっと笑い真っ白な歯がキラーンと光る…そんな所にエフェクト入れてどうするんだろう…
「では『新人訓練』を開始する。まず始めに、自分を知ってみよう。手を前に出してー、スキル使用…《コンソール》!」
教官が突き出した手の前に光が集まり、ノート大の板が現れた。
板を手にすると教官が説明を続ける。
「これが色々な機能を持ったパネル、通称〈コンパネ〉だ。
各種情報を始め、フレンド登録や通信なども可能だ。オプション設定で〈コンパネ〉の大きさを変更したりも出来るぞ。ログアウトもこれを使って行うぞ。
では皆、試してみよう」
言われたとおりやってみると、〈コンパネ〉が現れた。
「ペットを連れている者はその分の情報をこれで確認できるぞ。終わるときは手を離せばOK、プライバシー保護もバッチリだ」
というわけでマオの情報を見てみる。
名前:マオ、種族:〈猫〉、職業:〈飼い猫〉、ステータスはStrとVitが低く、AgiとIntが高い、スキルに《危険感知》と《にくきゅう》があった。
Intが高いのは魔女の使い魔のイメージからだとWikiで考察されていた。
《にくきゅう》はパッシブスキル、肉球をもにもにしてくる相手の自然回復量を増加させるスキルだ、運営グッジョブ。
「さて皆〈コンパネ〉は出せたかな?
では教材を配るので、1人1組受け取ってくれ」
木の剣、木の盾、3冊の本が配られる。
「受け取ったかな? では〈ウッドソード〉と〈ウッドシールド〉を装備してみよう。装備するには、一回インベントリに入れて〈コンパネ〉から装備する方法と、そのまま身に着ける方法があるぞ。
インベントリに入れるには、手を触れてスキル《ゲイザー》を使用するんだ。逆にアイテムを出すには、インベントリからアイテムを選択、そのまま〈コンパネ〉外にずらすことで出せるぞ」
試しにインベントリに出し入れし、〈コンパネ〉から装備変更すると、瞬く間に剣と盾を身に着けていた。
「よし、皆装備したな。では次にアイテムを使ってみよう。アイテムの使い方はインベントリで選択して使用だぞ。
では、さっき渡した〈初級動作:剣〉〈初級動作:盾〉〈初級スキル書:《クロススラッシュ》〉を使ってみよう」
使用するとモーション欄に〈縦斬り〉〈横斬り〉〈突き〉〈防ぐ〉が、スキル欄に《クロススラッシュ》が追加された。
「一度使用した本はスキル《リード・○○》で読める。内容は動作の細かい解説で勉強になるからしっかり読むんだぞ。〈コンパネ〉と同じく手を離すと消えるが、自動栞機能があるから安心だ。何を使用したかは使用履歴に載ってるぞ。
それでは手本を見せよう、よく見ておくように。〈練習スライム〉カモン!」
掛け声とともに教官の前にボールが浮かんだゼリーのようなものが現れる。
教官の発言から察するにこれが〈練習スライム〉なのだろう。
教官が武器を構える。
「〈縦斬り〉、〈横斬り〉、〈防ぐ〉、〈突き〉!」
掛け声とともに縦横に剣が振るわれ、〈練習スライム〉の攻撃を防ぎ、核を貫く。
ダメージを受けた〈練習スライム〉は弱弱しく震えた。
「スキル使用…二連の剣閃、交差して敵を切り裂く《クロススラッシュ》!」
剣に淡く光が灯り、その軌跡が十字を描いて叩き込まれると、〈練習スライム〉は核を残して四散した。
教官が核に手を置き、《ゲイザー》を使用すると飛び散ったゼリーも一緒に掻き消えた。
「モンスタードロップはこうやって取得するんだ。取得権限は倒した者に与えられるが、一定時間経つと死体が消えるので注意が必要だぞ。パーティーを組んでる場合は仲間が倒したのも取得できるぞ。
あと、注意事項が一つ。武器には耐久値と抵抗値がある。先ほど剣が発光したのはスキルを使用するのにマナを通したからだが、マナを通すと抵抗値が上がり、その武器の上限に達するとマナ焼けを起こす。抵抗値は時間経過で減少するが、一度マナ焼けになると抵抗値が0に戻るまでその武器を使用したスキルが使えなくなるんだ。
では実習に移ろう、ノルマは〈練習スライム〉2体だ。用意…始め!」
わらわらと〈練習スライム〉が湧き出した。
先の手本に習って、攻撃し防御する。
マオを見ると毛づくろいをしている。
Wikiで検証されていた、モンスターはペットを後回しにする、というのは本当なのかも知れない。
2体倒しアイテムを取得する。
インベントリに〈練習スライム核〉と〈練習スライムゼリー〉が2個ずつ追加された。
「ようし、皆倒したな。では最後に応用を教えよう。
スキル使用や〈縦斬り〉、〈横斬り〉などの掛け声は補助輪のようなものなんだ。慣れれば無くても使えるようになる。
それに、モーションを使用しなくても攻撃は出来るし、むしろその方が自由度が高い。
だから頑張って自分を鍛えるんだ、まだ見ぬ明日に向かって!
これで『新人訓練』の全過程が終了だ、お疲れ様。出口で受講報酬を受け取るのを忘れないように」
受講報酬は〈アイテムポーチ〉と〈粗製ポーション〉5個、〈傭兵都市キンベージの地図〉1枚。
〈アイテムポーチ〉はアイテムの出し入れを簡便にするもので、そこに入れればインベントリに入り、出す時は手を入れて目的のアイテム名を言う。
戦闘での消耗を癒すため、マオを捕まえて肉球をふにふにとする。
《にくきゅう》の効果なのかいつもより心がほっこりと感じる。
「あー、癒される……さてと、レベル上げに行くか」
踏み潰されないようにマオを抱きかかえ、混雑する大通りを抜けて都市の外へと向かった。
―――
『新人訓練』からゲーム内時間で三日、同じころに始めた人は10レベルを超える中、現在のレベルは5。
原因は今戦っている相手、もこもこした新緑の毛並みにつぶらな瞳のアクティブモンスター〈グラスラビット〉、適正レベル4~6。
都市出てすぐにいた〈グラスラット〉は、的が小さいので当てずらかったが倒すのに苦労はしなかった、硬そうな毛と無毛の尻尾だったし。
だが、こっちは違う。
もこもこなのだ、もこもこのもふもふなのだ。
しかも倒すと、悲しげにキューと鳴いて倒れる…人の魂削る気か、運営。
敵なのだと自分に言い聞かせて、ようやく倒したあの時の衝撃は計り知れない。
心置きなく倒せる西にしておけばとも思ったが、選んだ以上仕方が無いと腹をすえた。
〈ウッドシールド〉を1つ買い込み両手に装備し、〈グラスラビット〉の猛攻に身をおいている、精神力を鍛えるために。
ある攻撃は防ぎ、ある攻撃は弾き、ある攻撃は流す。
モーションではなく、大叔父に仕込まれた護身術が役立っている。
(これは敵これは敵、あっぽてっと倒れた。大丈夫かな?モフモフ……はっ、マオたんが冷たい目で見ている! 違うんだ、これは浮気じゃなく――げふっ)
気を逸らした隙に良い蹴りが腹に入った。
追撃を慌てて防ぎ、体制を整える。
(やっぱり無理だぁ。一旦上がって考えよう)
〈グラスラビット〉の追跡を振り切り、ログアウトした。
―――
「これだ!」
ログアウトしたら結構いい時間になっていたので、夕食を取るなどしてからWikiをのぞいてみた。
どうやらあの場所とは別の地域に虫型モンスターの生息区域があるらしい。
獣型モンスターに目が眩んでいたようだ。
もう遅いし、明日学校から帰ってきたら行ってみよう。
パソコンを消し、布団に入る。
暖かくなってきたので、マオを呼んでも入って来なくなったのがちょっと寂しかった。