05 Lost EDEN
設定説明回に…
Lost EDENクローズドβに落選してから、オープンβを一日千秋の思いで待ち続けた。
もちろん、ただ待っていただけではなく、クローズドβのWikiや公式サイトで予習をしていた。
Lost EDENの対象年齢は人間で18歳以上、犬猫は1歳以上。
R18指定のVRMMOは現実世界と時間の同期をある程度とらなくてもいいので、実時間で1時間がゲーム内時間の1日となっている。
神々の加護を受けた一つの巨大な大陸があったが星辰の彼方から異神が来訪し、元からいた神々が争った結果砕かれ、4つの大陸と無数の島々になったという設定。
プレイヤーはまず始めに種族と職業を選択してキャラクターをつくる。
キャラクターのステータスはStr、Vit、Dex、Agi、Int、Spi、Lucで表される。
Strは武器攻撃力や装備重量、Vitは防御力と毒など肉体系状態異常の耐性、Dexは弓など射撃武器攻撃力への補正と罠解除など、Intは魔法効果、Spiは魔法防御力と魅了など精神系状態異常への耐性、Lucは取得アイテムのレア度などに関係し、最大HPと最大MPはそれぞれStrとVit、IntとSpiに加え職業とレベルから計算される。
7つの能力値の内、先の6つはレベルアップで職業ごとに一定値増加する他、その際に取得するステータスポイントを消費して上昇させる。
残るLucにはステータスポイントの割り振りはできず、ゲーム内で0時になるとランダムに変動する。
種族は〈街人〉、〈地人〉、〈草人〉、〈森人〉の4種類で、初期ステータスに補正を受ける。
〈街人〉は都市に住む現実世界と変わらない種族、ステータスに補正を受けない。
〈地人〉は平野で農業を営む種族、がっしりとした体格と膝まである長い腕が特徴、StrとVitにプラス補正、Agiにマイナス補正を受ける。
〈草人〉は草原で狩猟する種族、街人の2/3程度の身長と身長に比べ大きい足が特徴、DexとAgiにプラス補正、Vitにマイナス補正を受ける。
〈森人〉は森林で祭祀と採取生活を営む種族、長い耳が特徴、VitとSpiにプラス補正、Strにマイナス補正を受ける。
この他、体格によってもステータスに修正を受ける。
体格はある程度自由が利くので、〈草人〉のような〈地人〉や、〈地人〉のような〈森人〉も一応は可能である。
職業は〈戦士〉、〈斥候〉、〈魔術士〉、〈祈祷士〉の4種類から選択する。
〈戦士〉は武器戦闘のエキスパート、攻撃型の〈狂戦士〉と防御型の〈騎士〉に転職できる。
〈斥候〉は罠や毒などを使うトッリキーな職、状態異常に特化した〈暗殺者〉と罠に特化した〈狩人〉に転職できる。
〈魔術士〉は魔法戦闘のエキスパート、火力特化の〈魔導士〉と弱体など搦め手に長ける〈賢者〉に転職できる。
〈祈祷士〉は回復や支援を得意とし、その長所を伸ばした〈司祭〉と精霊による属性付与なども可能な〈霊術士〉に転職できる。
このゲームには様々なスキルがあり、大まかに種族スキル、職業スキル、汎用スキルに分かれている。
武器作成など生産系スキルは汎用スキルなのでどの職業でも取得可能、熟練度が設定されているものは上げることで様々な恩恵を受ける。
そして、ここにLost EDENの特徴的なシステムの一つ、〈詠唱システム〉がある。
一定の意味のワードを組み込んだ言葉を唱えることで即スキルを発動できるのだ。
詠唱に動作が必要でないものは移動しながら、戦いながらでも使用可能。
無論、唱えるのが恥ずかしい人のために溜め型の発動もできるが、〈詠唱システム〉を利用した場合、再使用規制時間がわずかながら短縮されるので結構有用である。
クローズドβ中にどこまで短く出来るか検証した人がいて、その人の作った構文は余りの味気なさに軍隊式詠唱術と呼ばれた。
短くする人が入れば逆に長くする人もいるもの、とある人は初期に取得するスキルを使用するのに1時間詠唱し続けたという。
通常の溜め時間と再使用規制時間を合わせたよりも長く詠唱し続ければ、再使用規制時間が発生しないというメリットもあるので、一概に長い詠唱に意味はないとは言えない。
また、熟練度をあげたスキルの場合、詠唱に特定のワードを組み込んだ際に追加効果を受ける事が出来る。
例えば魔術士の初期取得スキル《マナブレット》は直進する魔力弾を放つスキルだが、詠唱に『追う』意味の言葉を混ぜることで追尾式に変化する。
と、ここまで来て疑問になるのがクローズドβの説明会にいた4つの種族に無い鱗のあるキャラクター。
あれはLost EDENのもう一つの特徴的なシステムによって生み出されたものである。
その名を〈ソウルエンチャントシステム〉、略して〈SES〉。
モンスターを倒すと一定確立で〈ソウル〉という宝石状のアイテムをドロップする。
〈ソウル〉はアイテム製作にも使用するが、キャラクターの頭、体、腕、脚に付与することでステータス上昇する。
品質が高ければ上昇量も増え、固有スキルがついたりもする。
付与とは言うがアイテム消費や不可逆性は無く、実際には単に装備枠に装備するだけらしい。
そしてこのシステムの最大の特徴が外見の変貌である。
例えば〈ソウル:フォレストウルフ〉を頭に付ければ耳が生え、〈ソウル:キラートード〉を腕に付ければ水掻きができ、〈ソウル:レッサードラゴン〉を体に付ければ羽が生える。
変貌割合はある程度自由に設定できるので、ステータスは変動しないが、上記の例ならば耳のみからほぼ狼頭まで変更可能。
件のキャラクターは蛇系の〈ソウル〉を付与していたのだろう、蛇系〈ソウル〉はIntが上げるため魔法職に人気のアイテムだという。
その他にも色々な情報があった。
ペット専用スキルやペット専用装備、愛犬愛猫のコーディネートや活躍報告……
(ふん、うちのこに並べるようなのはいないな。鴉の濡羽すら裸足で逃げ出す艶やかな漆黒ヘアーに青天を映したかのようなブルーアイズ、極めつけは穢れを知らない薄桃色のにくきゅう!! マイすうぃ~とえんじぇる、マオたん!!)
結局のところ、いつも通りの日々であった。
―――
オープンβ当日、朝の内にある程度用意しておき、帰って来てすぐ完璧に準備を整えた。
マオの首に付属のリングを付ける。
VRセルと連動して睡眠誘導波を発する物で、スムーズなダイブを可能にするのだ。
マオをペット用VRセル内部に置き、蓋を閉めスイッチを入れる。
ふらっとしたかと思うとマオは眠りにつき、VRセル内部が液体で満たされるとその体は真芯に浮かんだ。
安全に作動しているのを確認すると自分もリングを装着し、服を脱ぎ捨てる。
人目を気にするならば肌にフィットしたVRスーツを着る必要があるが、誰も来る予定はないのでそのままVRセルに入り、スイッチを入れる。
朦朧とする視界の片隅で蓋が閉じるのが見えた。
―――
多種多様な色の光が眼下を駆け抜ける、噂に聞くダイブ時の副作用だろう。
個々人によって違うらしく、中には耐え難い悪臭を感じる人もいるというので軽い方だろう。
光が収まると石造りの神殿のような場所にいた。
正面には濃い霧が立ち込め、見透しが利かない。
いつの間にか衣服を身に着けているようで、見下ろすと中世期の村人風の衣装に見えた。
辺りを見回し、マオがいないと思うと頭の中に声が響いた。
――汝の同胞は今だ眠りについている。まず汝の姿を定めよ――
霧が左右に分かれると大きな姿見が現れた。
姿見には多種多様な目盛が存在し、表示の拡大縮小をはじめ名前や種族、性別、髪型、体型の細かい変更などが可能のようだ。
現在の表示されている姿は現実と全く変わらない。
とりあえず種族をカラカラと変えるなど色々試した、しかし…
(猫は外見で判断すると言うしな。マオたん天才だけど、いきなり変わったら判らないかも…)
最悪の事態を思い描き、初期化する。
名前は新だし鳴き声っぽいからと、ニューと入力して決定ボタンを押す。
――姿は定められた。汝の進むべき道を決めるがよい――
姿見に映る姿が変化した、金属の鎧を身に纏い剣を佩びた姿だ。
これは既に決めていたので、迷い無く決定ボタンを押す。
姿見につらつらと種族、職業やステータスが表示される。
――汝、この運命に従うか?――
決定ボタンを押す。
――汝の運命は定められた。次に同胞の姿を定めよ――
(この完璧な姿のどこを変えるっていうんだ!!)
迷い無く決定ボタンを押す。
確認を入れてきたが、さっさと押す。
――始まりの地を選べ――
世界地図が表示される。
4つの大陸の内、真ん中の大陸だけが明るくなっている。
他の大陸はまだ未実装なのだ。
その大陸――〈リアリシア大陸〉の東と西に光点が一箇所ずつ灯っている。
東は〈傭兵都市キンベージ〉、西は〈学術都市サーゼドウ〉。
細かな違いはあるが、最大の違いは生息しているモンスターの傾向。
〈キンベージ〉の周辺は獣系、〈サーゼドウ〉の周辺は爬虫類系、どちらを選ぶかは言わずもがな。
迷わず〈傭兵都市キンベージ〉を選択する。
――では行くがよい。汝らの旅立ちに祝福を――