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04 クローズドβ

とりあえず本編?

(うわー、見てる。すっげー見てる。…嫌な予感しかしないな)


 今日は日曜日。

 新が日がな一日かまい倒してくる日だ。

 仕方が無いので、膝の上にだらりと体を預ける。

 それを新がわしゃわしゃとブラッシングする。

 テレビでは適当にかけた局の情報番組が流れている、いつもの穏やかな風景。

 それを遮ったのは移り変わったニュースの内容だった。


 暗雲がたちこめる岩山、地面に降り立つ巨大なドラゴン。

 迎え撃とうとするのは杖を持った鱗の肌の青年と、一匹の犬――外見の特徴から柴犬のようだ。

 ドラゴンはブレスを吐こうと、息を大きく吸う。

 それを見た青年が指示を出すと柴犬は物凄い速さでドラゴンに近づき、喉笛に噛み付いた。

 痛みに溜めを阻害されたドラゴンが首を大きく振り、落とそうとするが犬はなかなか離れない。

 その光景を尻目に青年は詠唱を始め、杖に光が灯り出す。

 いくらかの格闘の後、ようやく犬を剥がしたドラゴンの目に映ったのは猛烈な吹雪。

 氷像になったドラゴンへ向けて指示を出すと、犬が体当たりし粉々に砕け散った。

 強大なプロジェクターに映ったそれらの映像の後、ステージ上にあった大小のカプセルから出てきたのは鱗は無いが先ほどの青年と、柴犬。


『愛する家族とともに冒険の世界へ! ペット用VRセル完全対応MMO Lost EDEN クローズドβ近日開始』


 VRセルとは元々医療機器だったものを応用して作られた仮想現実接続機器である。

 ペット用VRセルは、昔は小児用VRセルと呼ばれていた。

 VRセルは入るカプセル部分とその内部を満たす液体を溜めるタンクからなる。

 本体は結構値が張るのでレンタルが基本、液体は浄化装置もついているが一月に一回は換えたほうが良い消耗品である。

 なら本体を小さくして液体の節約を出来ないかと考えられて作られたのが小児用VRセルである、対応年齢は0歳児から。

 無論、ただ小さくしただけではなく、親設定したVRセルの者から一定以上離れられない迷子防止機能や持ち物検査できる機能など搭載し、子供の親からは支持された。

 一方、親に監視されて楽しく遊べるかと子供の大半からは反発を受けた。

 与えようとする親と反発する子供、そのとばっちりを受けて大量の在庫を抱えたある会社が他に使えないかと試行錯誤した結果できたという。

 ソフトをバージョンアップし設定を変更するだけで使用可能になるので、錯乱した研究員が子供なんて動物とかわんねぇーと捕まえてきた野良猫を押し込んだらうまくいったらしいという噂が実しやかに囁かれた。

 そんなこんなでペット用VRセルと姿を変え、ペット愛好家たちに飛ぶ様に売れたのでその会社は危機を脱したらしい。

 しかし、機器が出来たからといってすぐに対応できるわけではない。

 結果、従来のVRMMOにおかしなプレイヤーとその保護者が増えただけだという。

 その関係からかマナーの悪いプレイヤーをアニマルと呼ぶ風潮が生まれたりもした。

 新は一時期これに興味を持っていた、ただの人の姿になるだけだと知るとすぐにさめたが。

 応募要項にVRセルの保有とあるのを見ると、新は普段切っている携帯の電源を入れ電話を掛けた。



―――



「おう、坊主か。珍しいじゃねぇか、そっちから連絡入れるなんざ」


「じっちゃん、相談があるんだけどちょっと時間いいかな?」


「いいぜ。で、相談って何だ?」


 ノイズキャンセラー機能が働いてるはずだが、少し騒音が混じって聞こえる。

 ドンッとかバババとか叫びみたいのも聞こえるが、祭りでもやっているのだろうか?

 とりあえず用件を伝えよう。


「お金のことなんだけど、使っていいかな?」


「ん、どのくらいだ?」


 金額を告げると少し黙り、くつくつと笑い出した。


「…じっちゃん?」


「くっくっ…おう、わりぃわりぃ。いや、坊主もそんな年かと思ってな。で、横に乗っけるかわいこちゃんは決まってるのか?」


「かわいこちゃん?」


「そん位の年が車気にするっつぅたらそれ目的だろ。それとも、走り屋にでも目覚めたか?」


「いや、車じゃないし」


「ああ? んじゃ、何にそんだけ使うんだ?」


 説明すると少し呆れたような気配がした。


「ああ、そういやんなのもあったな。しかし、冒険なら現実にすればいいじゃねぇか」


「いや、遊園地みたいなものだから。安全な危険というか…」


 内心、現実にそこまでの冒険あるかなと思ったが、大叔父の著作を鑑みるにそういう風に感じているのかもしれない。


「んー、まあいいんじゃねぇ? どうせ金なんざ残る奴が使うもんだしな」


「ありがとう、じっちゃん」


「おう。じゃ、ちょっと手を離せなくなって来たんで切るぜ。元気でな」

 

 プチッ、ツーツー。

 最後に挨拶入れるまもなく慌しく切られたが、とりあえず許可はもらった。

 後は実行に移すだけだ。

 マオを下ろし、慌しく出かける準備をする。

 見送りにきたマオに行って来ますの挨拶を済ませると、即座に目的の場所へと向かった。


 後日、大量の荷物が届いた。

 大小二つの、お揃いのVRセルだった。


「クローズドβに応募したし、これでマオたんと一緒に冒険の世界へ。マオたんと一緒に戦う…いや、まてよ可愛いマオたん矢面に立たせる訳にはいかねぇ。可憐なマオたん、守る俺。そして、疲れきった体を癒してもらうんだー、モフモフ…」


 妄想爆裂している新に向かって、マオは一言ニャーと鳴いた。



―――



『今回の抽選では真に残念ながら落選となりました。オープンβを楽しみにお待ちください』


「ノーーーーーーーーーッ!!!!」



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