02 魔将
とりあえずプロローグその2
「治癒士はまだかっ!」
鎧に身を包んだ大男が吼える。
「落ち着いてください、将軍。すでに手配は済ませておりますので、もうしばらくお待ちを」
「くっ、わかってる。だがっ…」
将軍と呼ばれた大男が視線を下ろす。
その先には黒く焼け焦げた木材のようなもの。
焼死したらしき死体、胴部には大穴が開いており、火で焼かれる前に絶命したとも考えられる。
「何でこんなことになった!!」
頭を掻き毟りながら喚く将軍に、周りの部下たちは一歩退く。
城の深部での突然の警報、駆けつけようとすれば従うはずの魔獣どもが暴走し道を塞いでいた。
なんとか排除して駆けつければ、王は黒焦げの遺体と、何者かと争ったらしき痕跡が発見された。
何者か――
「くそっ、あいつらめぇっ!!」
昨今、有力貴族が次々と暗殺されるという事件が起きている。
被害者は十三名、事件の起きた範囲は広く、その法則性は不明。
しかも、その周辺では行方不明が多発している。
生き残った者の証言によると、首魁は勇者と名乗っているという。
この国始まって以来の大事件、その捜査のために使える人員をかき集めた。
城の守りも、人ではなく大量の魔獣で代用し、その分の兵をそちらに回した。
その矢先の出来事だった。
「くそっ、くそっ、くそっ!!」
ゴスゴスと壁を殴り砕いている将軍に、部下たちはまた一歩退く。
そんな所へ一団が入ってきた。
「ち、治癒士一軍第六小隊、ただいま到着しましたっ!」
入ってきた六名全員が整列し、隊長らしき青年が一歩前に出て直立不動で声を出す。
「遅いっ!」
「はい、申し訳ありませんっ!!」
「では、やれっ!」
将軍が死体を指差し命じる。
「はっ、ですが…」
「早くしろっ!!!」
「はいっ!!」
治癒士小隊が死体を中心に円陣を組み、呪文を唱える。
《蘇生魔術》、使用に六名もの人員を必要とする高位魔術。
長々と続けられる呪文に導かれ、光が走り、陣が敷かれて行き、死体へと集約する。
死体は薄く光を纏うと、焦げた肌が張りを取り戻し、胸の大穴も塞がっていく。
だが、あるところまで修復されたとたん光が消え、死体は霧散した。
「くそっ!」
将軍が壁にこぶしを叩きつける。
だが、治癒士たちを責めようとはしない。
実のところやる前から結果が見えていたからだ。
《蘇生魔術》の効果を及ぼすのに一番の重要なのは魂との距離。
町の治癒士ならすぐそばに、軍の治癒士ならば山向こうまで離れていても蘇生可能。
これは通常の方法の場合で、法力により殺害された場合は別である。
そもそも魔力と法力は相反する代物。
神話によると対立する二柱の神がそれぞれ種族を創り、力を分け与えたという。
その為か、魔族と法族間に子供が生まれると一定の成長後、自家中毒により爆散、死亡する例が有史以来存在し、現在も婚姻が制限されている。
そのような訳で魔族が法力により殺害された場合、魂は散り散りになり、蘇生することはほぼ不可能と言われている。
事実、被害者十三名の内十二名は蘇生失敗し、残る一名は成功したものの壊れていた。
完全殺害人数十二名他余罪の可能性大、国始まって以来の大事件とされる理由である。
そして、また一人追加された。
「…当初の予定通り先代魔王の血族の招集、及び新魔王選定の準備だ。行けっ!」
「「はいっ!!」」
血を吐くような声で命じると、最初からいた部下たちも治癒士たちも脱兎の如くいなくなる。
「……新魔王選定の後は、貴様らだっ! 必ずっ! 逮捕っ! してくれるっっっ!!!」
強く握ったために血を滴らせるこぶしを振り上げ、天に向かって咆哮する。
その後の捜査活動の凄まじさは筆舌に尽くしがたく、いかなる歴史書もその詳細な内容を書き記すことは無かった。
ただ、言い伝えにのみほのかに残る。
曰く、悪い事をするとマショウに頭を引き抜かれるぞ、と。