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01 勇者

とりあえずプロローグその1

―ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…―


 暗い洞窟のような城内を一人駆け抜ける。


「ファナ、ソーマ、プリス、無事でいてくれよ…」


 自分を無傷で先へ進ませるために残り、魔獣と戦っている仲間たちを思い描いていると、目的の場所に辿り着いた。


 この城を統べる魔王の部屋。威圧感を与える巨大な扉、その向こうに奴はいるはずだ。


 前に討ち滅ぼした魔族の館で、この城の見取り図と警備情報が手に入ったのは僥倖だった。

 それがなければ侵入者用の迷路で迷い、ここに辿り着く前に力を使い果たしていたかもしれない。


 魔王は知能のない魔獣たちを統制する要、奴を早く倒せば残った仲間たちの助けになり、世界も救われる。


 先手必勝、扉に向けて法術を放つ。


「風、渦巻きて、貫くは、槍の如く、打砕くは、槌の如く――《風螺貫砕》!!」


 巨大な空気の円錐が扉を吹き飛ばし、そのまま直進していく。

 それを追いかけるように部屋に飛び込む。

 部屋の中、天井は高く、壁の全ては書架になっていた。


 敷物は裂かれ破壊に巻き込まれ書籍が紙吹雪となって宙を舞っている。

 だが、その破壊を起こした円錐は部屋の奥で何かに阻まれるように止まり消えていった。


 消えた後に影が一つ、先の風にも消えない明かりに照らされて浮き立つ姿は人間のようだ。

 だが、いくら人に見えようとそれは全くの別物。

 魔族、それもその王。


「……勇者か」


 豪奢な衣装を身にまとったソレが虫を見るような目でこちらを見据え口を開く。

 きっと見返し言い返す。


「そうだ! この世に混乱を招く貴様を倒し、世界を救う!!」


「ふふふ、口豪奢な。まあ折角ここまで着たのだ、相手をしてやるとしよう」


 相手の手に暗い光が灯る、魔力をそのまま飛ばす魔術師型の魔族の基本攻撃。

 ということは先ほどの攻撃を受け止めたのは魔術師型が良く使う魔術結界か。

 攻撃と同時には展開できず、展開中は動くこともできないが全ての攻撃を防ぐ。


 いくつもの魔力塊が飛んでくるが、その全てをかわし魔王に迫る。

 避けた魔力塊は壁などに当たり轟音を撒き散らす。


「ふん、良く逃げる」


 そう言うと飛んでくる魔力塊の量が一段と増えた。

 だが、まだ避けきれる範囲。

 避け続け射程に収めると、魔王の攻撃に合わせて踏み込む。


「くらえ!」


「遅い」


 言葉の通り、攻撃が届く寸前に魔術結界が完成する。

 しかし、こちらの手に在る剣はシンゥガンギ、魔力を斬り裂く聖剣だ。

 魔術結界など紙の如く易々と斬り裂く――はずだった。


「なにっ?!」


 効果がないわけではない、刃は魔術結界にほんの少しだけ食い込んでいる。

 だが、それ以上先へ進まない。


「何を驚いている。まさか魔王の守りをそこらの雑魚と同様に考えていたわけではあるまい」


「くっ!」


 剣に法力を込める。

 だが、魔王は結界を内側から破裂させた。


「がはっ!」


 その勢いにより吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。

 急いで体に法力を循環させ回復を促す。

 そこへ魔力塊が飛んでくる。

 間一髪でかわす。


 無数の魔力塊が飛んでくる。

 回復中なため、先ほどと違い近づく余裕はない。

 だが回復しきったところで先ほどのようにしても防がれるだけだ。


 と、魔力塊が飛んでこなくなる。


「ちょこまかと面倒な…」


 魔王から強い魔力が感じられる。


「ちっ!」


「燃えよ!地に満ち喰らい尽くせ!――《炎獄波》!!」


 魔王を中心に炎が津波の如く放出される。

 火の海となり動くものの無くなった辺りを見回し魔王はひとりごちる。


「大言壮語の割には呆気なかったか」


「風、渦巻きて、双牙、天貫く――《風螺双天》!!」


「ぬっ!」


 二本の竜巻が辺りの炎を巻き込みながら魔王を襲う。

 魔術を剣で斬り裂き、魔王が気を抜く瞬間待って潜んでいたのだ。

 余波の炎で炙られはしたが、装備の加護によりダメージは多少抑えらる。


 魔王は魔術結界を展開し防ぐ。

 最初の時と同じくそのうち衰え消えるだろう。

 だが、その少しの時間が欲しかった。

 残る法力の全てを聖剣に注ぐ。

 漏れでた力の影響で周囲が鳴動する。


 炎で目隠しされているが流石に分かったのだろう。

 魔王は魔術結界を強固にしていく。


 仲間がここにいれば隙を作って攻撃できたかもしれない。

 だが、今は一人。

 ならば正面から打砕くしかない、最大の奥義でもって。


「極まる光、天を穿ち、地を砕き、魔を滅す――――――《天・地・滅・光・剣》!!!!!!」


 この身が一条の閃光となり、竜巻を越え、魔術結界を砕き、魔王を穿つ。


 胴体に大穴を開けた魔王の体が崩れ落ちる。

 巻き込まれ自分も倒れる。

 魔王はピクリとも動かない、死んだようだ。


「…これで、世界は救われる…」


 最後の瞬間、魔王が笑ったような気がした。

 こちらにはもう余力がないことに気付き諸共とでも思ったのだろうか。

 竜巻に突っ込んだ影響で体には裂傷が走り、辺りの炎を衰えを知らない。


 それも良いだろう。

 勇者が必要の無い時代が来るのだ。

 僕は静かに目を閉じた。



―――



「……火を封じ、身に纏たる、防火の衣――《火封纏衣》!」


「……生ける者、癒し、治す――《生者治癒》!」


「……ユーリ! ちょっと、寝てないで起きなさい!」


 体が楽になり、突然騒がしくなった。


「…寝てる、ではなく気絶ではないか?」


 その通りだと思いつつ目を開ける。六つの瞳がこちらを心配そうに見つめていた。


「あっ、起きた」


「もう、心配しましたよ。黒焦げの干物見たいになっていたのですから。大丈夫ですか」


 プリスが声を掛けてくる。

 大丈夫と返すと、ソーマが穴の開いた黒焦げの死体を指差し聞いてきた。


「あれが魔王か?」


「あ、ああ、たぶん」


「たぶん?」


「いや、気を失ってたわけだし」


「そうか」


 納得したようだ。

 まあ、あんな大穴開けた死体ほかにわざわざ用意する意味も無いからそうなんだろうけど。


 どうやって着たのか聞くと、突然魔獣が見境無く暴れたらしい。

 その隙に急いで駆けつけたという。


「それじゃ、早く帰ろう」


「魔王を倒したことで結界は解けている。法術による転移は可能だ」


「よし。天翔けず、地駆けず、望む地へ、我らを移す――《望地移翔》!」


 四人の姿が跡形も無く消える。後には黒焦げの死体だけが残った。



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