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無能テイマーとして追放された俺ですが、かつての幼馴染である冷酷な最強騎士団長に買われて激甘に溺愛されています〜拾った神獣の赤ちゃんもモフモフです〜  作者: 水凪しおん


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第8話「過保護な檻と秘密の露呈」

 リアンが目を覚ましたのは、翌日の昼過ぎだった。

 見慣れた天井。天蓋付きのベッド。

 しかし、何かが違った。

 部屋の中に、アルヴィンがいる。

 彼はベッドの脇に置かれた椅子に座り、腕を組んで目を閉じていた。

 その顔には疲労の色が濃く滲んでいる。

 リアンが身じろぎすると、アルヴィンはすぐに目を開けた。


「……起きたか」


 低い声。

 リアンは昨夜の出来事を思い出し、慌てて体を起こそうとした。


「あ、あの! 勝手に出歩いてすみませんでした! 魔獣が心配で、つい……」


「横になっていろ」


 アルヴィンは制するように手を挙げた。


「怒っているわけじゃない。……いや、怒ってはいるが、それはお前が無茶をしたからだ」


 彼はため息をつき、サイドテーブルの水差しからコップに水を注いだ。


「飲め」


 差し出された水を一気に飲み干す。渇いた喉に染み渡る。

 アルヴィンは空になったコップを受け取ると、真剣な眼差しでリアンを見据えた。


「昨夜の件で、騎士団中がお前の噂で持ちきりだ」


「えっ……?」


「『聖女の再来か』『いや、精霊使いの秘儀だ』とな。あの凶暴な魔獣を一瞬で手懐けたんだ。無理もない」


 アルヴィンの言葉に、リアンは顔を青ざめさせた。

 目立ってしまった。

 一番恐れていたことだ。

 無能として生きてきた自分が、そんな注目を浴びれば、ろくなことにならない。


「す、すみません……迷惑をかけて……」


「迷惑なものか」


 アルヴィンは強く否定した。


「お前はすごいことをしたんだ。誇っていい。だが……」


 言葉を濁し、彼は苦しげに顔を歪めた。


「お前の力が知れ渡れば、利用しようとする輩が出てくる。王宮や軍の上層部、あるいは他の貴族たち。あいつらはハイエナだ」


 アルヴィンはリアンの手を強く握りしめた。


「俺は、お前をそんな連中に渡したくない」


 その言葉には、ただならぬ独占欲が込められていた。

 リアンは心臓が高鳴るのを感じた。

 借金のかたにこき使うためじゃなかったのか。

 どうして、そんなに必死な顔をするのだろう。


「……アルヴィン様は、どうして俺なんかに構うんですか?」


 勇気を出して聞いてみた。

 アルヴィンは一瞬目を見開き、そして視線を逸らした。


「……幼馴染だからな」


 嘘だ。

 それだけではない何かが、彼の瞳の奥に隠されている。

 でも、リアンにはそれを追求する勇気はなかった。


「それに、お前にはまだ秘密があるだろう」


 アルヴィンが話題を変えるように言った。


「秘密……?」


「昨夜、お前の体から出ていたあの香りだ」


 ドキリとする。


「あれは……ただの香水とかじゃなくて?」


「しらばっくれるな。俺はアルファだぞ。オメガのフェロモンくらいわかる」


 断言された。

 リアンは唇を噛んだ。

 バレていた。自分がベータではなく、オメガかもしれないという事実が。

 オメガは社会的に弱い立場だ。保護という名目で自由を奪われ、子供を産む道具として扱われることもある。

 もし自分がオメガだと確定したら、借金返済の契約内容も変わってしまうかもしれない。


「……ごめんなさい。隠すつもりはなかったんです。自分でもよくわからなくて……」


「謝るな。責めているんじゃない」


 アルヴィンは握っていたリアンの手を、そっと自分の頬に寄せた。

 手の甲に、彼の無精髭のチクリとした感触が伝わる。


「俺が守る。誰にも指一本触れさせない。たとえ王命だろうと、俺がすべて跳ね除けてやる」


 それは愛の告白にも似た、重すぎる誓いだった。

 リアンは顔が熱くなるのを感じた。

 この人は、本気だ。

 自分のために、世界を敵に回す覚悟ができている。

 嬉しい。でも、怖い。

 自分がそんな価値のある人間だとは思えないから。


「……ありがとうございます」


 今はそう言うしかなかった。


***


 その後の数日間、アルヴィンの過保護ぶりはさらに加速した。

 屋敷の警備は倍増され、リアンの部屋の前には常に信頼できる騎士が配置された。

 食事も、毒見役を通したものしか出されない徹底ぶりだ。

 リアンは完全に「籠の鳥」となった。

 しかし、不思議と嫌ではなかった。

 アルヴィンが毎日、忙しい公務の合間を縫って様子を見に来てくれるからだ。

 彼は来るたびに、珍しいお菓子や本、あるいは綺麗な花を持ってきてくれる。

 そして、何をするでもなく、ただリアンのそばに座って過ごす。

 会話は少ない。でも、沈黙が心地よい。

 ポチもアルヴィンに慣れてきたのか、彼の足元で寝転がるようになった。

 そんな穏やかな時間が流れる中、リアンの体調は一進一退を繰り返していた。

 熱は下がったものの、時折襲ってくる「発作」のような疼き。

 体が熱くなり、甘い匂いが強くなる。

 そのたびに、自身の輪郭が曖昧になり、理性が甘い熱の波に呑み込まれていく恐怖と戦わなければならなかった。

 アルヴィンは苦しそうな顔をして部屋を出ていく。

 リアンは知っていた。彼が我慢していることを。

 そして、自分もまた、彼を求めていることを。


***


 ある日の深夜。

 リアンは喉の渇きで目を覚ました。

 水差しが空だ。

 使用人を呼ぶのも申し訳ないと思い、自分で厨房へ行こうと部屋を出た。

 廊下の警備兵はうたた寝をしている。

 そっと通り抜け、階段を降りる。

 1階の執務室から、明かりが漏れていた。

 まだ起きているのか。

 リアンは吸い寄せられるようにドアに近づいた。

 中から話し声が聞こえる。


「……やはり、北の森で異常発生しているようです」


 部下の報告だ。


「スタンピードの兆候か」


 アルヴィンの声。深刻な響きだ。


「はい。規模は過去最大級かと。王都への到達予想は……3日後です」


 リアンは息を呑んだ。

 スタンピード。魔獣の大暴走。

 それが起きれば、王都は火の海になる。


「わかった。俺が出る。全騎士団を招集しろ」


「しかし団長! あなた一人で最前線に出るのは危険です! それに、リアン様の護衛は……」


「あいつのことは、結界を強化して守る。俺がいない間、絶対に外に出すな」


 アルヴィンの決意に満ちた声。

 リアンは胸が痛んだ。

 自分のせいで、彼はまた無理をしようとしている。

 そして、自分を守るために、戦場での判断を誤るかもしれない。


(俺は、守られているだけじゃ嫌だ)


 初めて、明確な意志が芽生えた。

 あの時、魔獣を鎮めた感覚。あれが偶然でないなら、自分にもできることがあるはずだ。

 リアンは拳を握りしめ、静かにその場を離れた。

 部屋に戻ると、ポチが起きて待っていた。

 金色の瞳が、すべてを見透かしたように光っている。


「ポチ……俺、行かなきゃいけない気がする」


 ポチは短く吠え、尻尾を振った。

 それは「もちろん、お供します」という頼もしい相棒の返事だった。

 運命の歯車が、大きく回り始めようとしていた。

 守られるだけのヒロインから、共に戦うパートナーへ。

 リアンの中で、何かが確実に変わり始めていた。

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