番外編 第1話「新婚旅行と精霊たちの嫉妬」
季節は夏。
リアンの体調も安定し、医師の許可が出たため、二人は遅ればせながら新婚旅行へ行くことになった。
行き先は、精霊が多く住むと言われる南の島「アヴァロン島」。
青い海と白い砂浜、そして豊かな自然が広がるリゾート地だ。
当然、ポチも一緒だ。彼は「護衛兼ペット」として特例で同行が認められた。
***
島に到着すると、そこは楽園だった。
透き通るような海、色鮮やかな花々、そして心地よい潮風。
リアンは麦わら帽子を被り、ゆったりとしたマタニティ用のリゾートワンピースを着て、はしゃいでいた。
「うわぁ、綺麗! 見てくださいアルヴィン様、海がキラキラしてます!」
「ああ、綺麗だな。……お前の方が」
アルヴィンはサングラスをかけ、アロハシャツという珍しいラフな格好だが、それでも隠しきれない色気が漂っている。
周囲の観光客からの視線が痛いほど突き刺さるが、本人はリアンしか見ていない。
「ほら、足元に気をつけろよ。砂浜は歩きにくいから」
すぐに手を差し伸べてくる過保護ぶりは相変わらずだ。
***
ホテルはコテージタイプで、海に面したプライベートビーチ付きの豪華なものだった。
荷物を置いて一息つくと、リアンは窓を開け放った。
すると、どこからともなく小さな光の玉が集ってきた。
島の精霊たちだ。
リアンの特異体質は、ここでも健在だった。
精霊たちが次々と部屋に入り込み、リアンの周りを飛び回る。
「ふふっ、こんにちは。可愛いですね」
リアンが指を差し出すと、精霊たちが止まって挨拶をする。
しかし、それが気に入らない人物が一人。
アルヴィンだ。
「……おい、多すぎないか?」
眉間にしわを寄せている。
せっかくの二人きりの甘い時間を、精霊たちに邪魔されたくないのだ。
「シッ、あっちへ行け。俺の妻だぞ」
手で払おうとするが、精霊たちは実体がないため素通りするだけ。
むしろ、アルヴィンの周りに集まってきて、髪を引っ張ったり、耳元で悪戯をしたりする。
「くっ……!」
アルヴィンは精霊相手に本気でイライラし始めた。
その様子を見て、リアンはクスクスと笑った。
「アルヴィン様、精霊にまで嫉妬するんですか?」
「うるさい。俺はお前とイチャイチャしたいんだ」
直球な発言に、リアンは顔を赤くした。
「も、もう……昼間から何を言ってるんですか」
「新婚旅行だぞ? 当然だろう」
アルヴィンはリアンを抱き寄せ、精霊たちに見せつけるようにキスをした。
精霊たちは騒ぎながら、恥ずかしそうに逃げていった。
ようやく静かになった部屋で、二人は笑い合った。
***
夜はビーチでバーベキューを楽しんだ。
新鮮な魚介類やトロピカルフルーツ。
ポチも大きな骨付き肉をもらってご満悦だ。
波音を聞きながら、満天の星空を見上げる。
「流れ星だ」
アルヴィンが指差す。
「願い事、しましたか?」
「ああ。……この幸せがずっと続きますように、とな」
アルヴィンは照れくさそうに言った。
リアンは胸がきゅんとなった。
「俺も、同じことを願いました」
二人は手をつなぎ、肩を寄せ合った。
その時、ポチが砂浜を掘り始めた。
何かを見つけたようだ。
近づいてみると、そこには美しい虹色の貝殻があった。
精霊の加護を受けた「願いの貝」だという伝説がある。
「ポチ、ありがとう! これ、赤ちゃんのお守りにするね」
リアンが貝殻を拾い上げると、ポチは得意げに鼻を鳴らした。
アルヴィンも微笑んでポチの頭を撫でた。
「でかしたぞ。ご褒美に肉を追加してやろう」
ポチの目が輝く。
賑やかで、温かい夜。
新婚旅行は、笑いと愛に満ちた最高の思い出となった。
***
翌日、島を出る時、精霊たちが見送りに来てくれた。
船が出航すると、海の上を光の帯が追いかけてくる。
リアンは甲板で手を振った。
「ありがとう! また来るよ!」
アルヴィンも隣で静かに手を振っていた。
「……また来ような。三人で」
「はい、四人ですよ。ポチも一緒ですから」
ポチも元気よく返事をした。
船は王都へと向かう。
これからの未来に、希望の風を受けながら。




