第12話「英雄の凱旋と嫉妬の嵐」
戦いが終わり、王都は復興へと動き出していた。
魔獣災害を退けた英雄として、アルヴィンと騎士団は熱狂的な称賛を浴びていた。
そして、もう一人の英雄、リアンについても噂が広まっていた。
精霊を操る謎の美少年、神獣を従える聖女など、尾ひれがついた話が酒場で語られている。
当のリアンは、騎士団の屋敷のベッドで安静にしていた。
過労と魔力枯渇で倒れたのだ。
アルヴィンは公務で忙しい中、一日に何度も様子を見に来ていた。
「具合はどうだ?」
「もう平気です。熱も下がりましたし」
リアンは申し訳なさそうに答える。
ポチも元気を取り戻し、ベッドの上で尻尾を振っている。
「そうか。だが、まだ無理はするな」
アルヴィンは過保護に布団をかけ直す。
その表情は柔らかいが、どこかピリピリしているようにも見えた。
それもそのはず。
屋敷には連日、リアンへの面会希望者が殺到していたのだ。
貴族、商人、魔術師ギルド、さらには王宮からの使者まで。
全員が「あの素晴らしい能力を持つ少年を一目見たい」「我が家の養子に」「研究に協力を」と押し寄せてくる。
アルヴィンはそれらをすべて門前払いにしていた。
「あいつは俺の妻だ! 誰にも会わせん!」
と怒鳴り散らして追い返しているらしい。
リアンはその話を聞いて、嬉しさと恥ずかしさで顔を覆った。
妻って。まだ結婚してないのに。
***
ある日、王宮から正式な招待状が届いた。
国王陛下が、今回の功労者たちを称える晩餐会を開くというのだ。
アルヴィンはもちろん、リアンも特別ゲストとして招かれていた。
「行きたくないなら断るぞ」
アルヴィンは不機嫌そうに招待状をひらつかせた。
「俺の権限でもみ消してやる」
「でも……陛下のお招きですよね? 断ったらアルヴィン様の立場が悪くなるんじゃ……」
「俺の立場などどうでもいい。お前が晒し者になるのが嫌なんだ」
アルヴィンの本音が出た。
彼はリアンを美しいドレスで着飾らせて、他の男たちの目に触れさせるのが我慢ならないのだ。
特に、あの日の戦場でリアンの姿を見た騎士たちが、彼に熱い視線を送っているのを知っているから余計だ。
「俺……行きます」
リアンは決意したように言った。
「え?」
「いつまでも隠れてばかりじゃいられません。それに、アルヴィン様の隣に立つのに相応しい人になりたいですから」
その健気な言葉に、アルヴィンは撃ち抜かれたような顔をした。
「……わかった。だが、絶対に俺のそばを離れるなよ」
「はい!」
***
晩餐会の当日。
リアンは特注の礼服に身を包んでいた。
純白の生地に銀糸の刺繍が施された、騎士団の制服をアレンジしたようなデザインだ。
髪を整えられ、少し化粧を施されたリアンは、息を呑むほど美しかった。
鏡を見て、自分でも驚いてしまう。
「これが、俺……?」
「ああ、世界一綺麗だ」
アルヴィンが後ろから抱きしめる。
正装した彼は、いつも以上に凛々しく、そして色気が漂っていた。
「やっぱり行かせたくないな。ここで二人きりで過ごしたい」
耳元で囁かれ、リアンは顔を赤くした。
「だ、駄目ですよ。馬車が待ってます」
しぶしぶ離れるアルヴィン。
二人は馬車に乗り込み、王宮へと向かった。
***
会場の大広間は、シャンデリアの光と着飾った貴族たちで溢れかえっていた。
入り口で名前が呼ばれる。
「魔導騎士団長、アルヴィン・エルハルト卿! ならびに、そのパートナー、リアン様!」
扉が開くと、会場中の視線が一斉に注がれた。
ざわめきが起こる。
「あれが噂の……?」
「なんて美しい……」
「まさかオメガなのか? あの匂いは……」
好奇と欲望の入り混じった視線。
リアンは足がすくみそうになったが、アルヴィンが腰に手を回し、しっかりと支えてくれた。
「堂々としていろ。お前は誰よりも素晴らしいんだ」
その言葉に勇気をもらい、リアンは顔を上げて歩き出した。
玉座の前まで進み、国王陛下に謁見する。
陛下は温厚な老紳士で、リアンの功績を称えてくれた。
「そなたの力が、我が国を救った。感謝する」
「も、もったいないお言葉です」
リアンは緊張でガチガチになりながら頭を下げた。
その後、パーティーが始まった。
案の定、リアンの周りには人が群がってきた。
「リアン様、ぜひ一度我が家の領地へ……」
「今度、お茶でもいかがですか?」
次々と声をかけられる。
アルヴィンは笑顔を張り付けながらも、目は笑っていなかった。
近づく男たちをフェロモンで威圧し、会話を遮る。
「すみませんが、彼は疲れていますので」
「これ以上近づくと、斬りますよ?」
物騒なことを小声でつぶやきながら、リアンをガードし続ける。
その過保護ぶりに、周囲も苦笑いし始めた。
そんな中、一人の青年が近づいてきた。
金髪碧眼の、いかにも王子様といった風貌の美青年だ。
第二王子のセオドアだった。
「やあ、アルヴィン。そして、君がリアン君だね」
王子は親しげにリアンの手を取ろうとした。
アルヴィンがすかさずその手を払い除ける。
「殿下、気安く触れないでいただきたい」
「おや、相変わらず独占欲が強いね」
王子は楽しそうに笑った。
「実はね、彼に興味があるんだ。僕の専属魔術師にならないかと思って」
爆弾発言だ。
周囲が静まり返る。
アルヴィンのこめかみに青筋が浮かぶ。
「……お断りします。彼は私の番です」
「まだ結婚はしていないんだろう? なら、チャンスはあるかな?」
王子は挑発的に言った。
アルヴィンの殺気が膨れ上がる。
会場の空気が凍りつく。
リアンは慌てて二人の間に割って入った。
「あ、あの! 光栄なお話ですが、俺は……アルヴィン様のそばにいたいです!」
はっきりと言い切った。
王子は少し驚いた顔をして、それから吹き出した。
「ははは! 振られちゃったか。愛されているね、アルヴィン」
王子はポンとアルヴィンの肩を叩いた。
「冗談だよ。二人の仲を試しただけさ。幸せになれよ」
そう言って去っていく王子。
アルヴィンは深いため息をついた。
「……寿命が縮む」
リアンは苦笑しながら、アルヴィンの腕にしがみついた。
「俺はどこにも行きませんよ」
「ああ、知っている。……帰ろうか」
「えっ、もう?」
「限界だ。お前を他の奴に見せたくない。帰って、続きをしよう」
アルヴィンの目が妖しく光る。
リアンは顔を真っ赤にして俯いた。
英雄の凱旋パーティーは、騎士団長の早退という形で幕を閉じたのだった。




