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≠LOVE〜恋愛拒否の私が、男子クラスにぶち込まれました。〜  作者: 花咲美羽


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4/4

輝きプリンスと遭遇!?

「遅刻! 遅刻〜!」


――などと、漫画のヒロインのような台詞を叫びながら走る朝。


だがこれは決してテンプレではない。

※昨日の女の発言を少し気にしているヒロインであった。


現実の、そして致命的な遅刻である。


完全に寝坊した。

アラーム?知らない子ですね。


(やばい、花クラス初の大遅刻とか洒落にならん……)


男子しかいない花クラス。

恋愛至上主義の空間。

恋愛拒否人間の私にとっては、毎日が戦場だというのに。


角を曲がった、その瞬間。


キキィ――ッ!


目の前に迫る車。


(……あ、詰んだ)


反射的に目を閉じた。


……衝撃は来ない。


恐る恐る目を開けると、車はギリギリのところで止まっていた。


(セーフ……! 生きてる……!)


見るからに高そうな車。

黒くて、無駄がなくて、品がある。


「……こんな車に誰が乗ってるんだろ」


そう思った瞬間、後部座席のドアが静かに開いた。


(え、え、怒られる!?)


私は慌てて頭を下げた。


「急いでいたものでその!

飛び出してしまい本当に申し訳ございませんでした!!

以後、学問だけでなく交通面においても十分注意し、二度とこのような――」


「花子くん?」


……名前を呼ばれた。


顔を上げると、そこにいたのは。


「……プリンス」


思わず、心の中で呼んでいるあだ名が口から漏れた。


月城奏汰。

月城財閥の長男。

成績優秀、運動万能、顔面国宝。

金髪に光を纏ったようなその姿は、もはや人間というより物語の登場人物だ。


私だけが密かに呼んでいるニックネーム――プリンス。


彼はその呼び名に少し微笑み、膝をついて手を差し出して言った。


「お怪我はありませんか? お姫様」


(神よ。これが国の財産ですか?)


プリンスを拝むヒロインの図。


「……完璧っす!」


思わず本音が漏れた。


奏汰は、にこりと微笑みながら言った。


「よろしければ、僕と一緒に登校しませんか?」


「いえいえいえ!!

迷惑をかけたというのに、そんなことできません!!」


全力拒否。

恋愛拒否人間としての条件反射である。


だが、彼は穏やかに続けた。


「けれど……そうすると、遅刻は確定だけれども?」


(……あ)


完全に忘れていた。

遅刻という現実。


「……」


「無理にとは言わないよ」


そう言って、奏汰は振り返る。


「爺や、車を」


その瞬間、私は彼の手を掴んだ。


「乗せてくだせえ!!」


なぜか江戸っ子口調が飛び出した。


「では、どうぞ」


笑顔で言われ、私は車に乗り込む。


「わ、でけぇ車じゃのう……じーさんや」


「何してるの? ちゃんと座って」


「へい!」


(江戸っ子として乗ったけど……

こいつ、めちゃくちゃ坊ちゃんやんけ……)


こうして私は、

完璧王子・月城奏汰と、

人生で一番落ち着かない登校をすることになった。


恋愛拒否人間にとって、

この遭遇は――


間違いなく、災厄の始まりだった。


――最悪だ。


そう思ったのは、校門をくぐった瞬間だった。


黒塗りの高級車。

そこから降りる私と、月城奏汰。


視線が、痛い。


(終わった……完全に目立った……)


花クラスの男子たちは、恋愛という名の花畑に咲き誇る猛者ども。

ゴシップと噂話は主食である。


案の定。


「え、今の月城じゃね?」

「隣の子、花クラスの女の子?」

「一緒に登校!?!?」

「おいおいイベント発生してんじゃん!」


ひそひそ、ざわざわ。

女子の会話。

黄色い歓声。

音が可視化されそうな勢いだ。


(やめろォ!!)


私は顔を伏せ、足早にその場を離れようとした。


「花子くん」


……逃がしてくれない。


「今日は大変だったね。間に合ってよかった」


「はい!ほんと助かりました!

では私はこれで!!」


早口でそう言い、逃走を図る。


しかし。


「放課後、少し話せる?」


にこやかな声。

しかし逃げ道は塞がれている。


(フラグを立てるな!!)


「い、いえ……特に話すことなど……」


「今朝のこと、ちゃんと謝りたい」


「謝るのは私の方なので……!」

必死な私を見て、奏汰は少しだけ首を傾げた。


「……もしかして、僕と話すの、嫌?」


(あ)


その一言で、周囲の空気が凍った。


「え?」

「月城、振られかけてね?」

「そんなことある?」


視線が一斉に私へ突き刺さる。


(こんなところでそんなこと聞くとか反則やん!!

もう!!どーしたらいいんやー!!)


「ち、違います!!

嫌とかじゃなくて、その、私は、その……」


言葉に詰まる。


――恋愛拒否人間。


その言葉を、この場で言えるはずもない。


「私は!

平和に!

静かに!

目立たず!

学生生活を送りたいだけで!!」


叫ぶように言った。


一瞬の沈黙。


……そして。


「ふふ」


奏汰が、楽しそうに笑った。


「やっぱり、君は面白いね」


(最悪だ)


「安心して。無理に距離を縮めるつもりはないよ」


そう言いながら、彼は一歩近づく。


「ただ――」


低い声。


「君が困っているなら、助けたいだけだ」


心臓が、嫌な音を立てた。


(この人、無自覚系プリンスだ……)


恋愛主義の世界で、

優しさは最凶の武器だということを、

この男は理解していない。


「……では、放課後、少しだけ」


完全敗北である。


「…はい」


「ありがとう。じゃあ、中庭で会おう」


「はい」


「じゃあ、また後で」


颯爽と去っていく背中。


残された私は。


「こ!これは恋愛フラグではありませんか!!」

「そうですよね!月城様とフラグなど最高では!?」

「これは写真に収めなくては!!」

「私、もう動画ずっと回していますわ!」

「あなた、とっても気が聞くじゃない!!」


女子たちの会話が盛り上がっているのが聞こえる。

同時に、パシャパシャと写真を撮られる音も響いていた。


(……これ、公開週刊文春とかじゃないですよね?)


『あなた! 恋愛拒否しておきながら、月城様といい感じではありませんか!?』


『あ……それは……』


『ちゃんとご説明を!! さあ!!』


(違う!!

これは恋愛じゃない!!

事故だ!!)


心の中で叫びながら、私は教室へ向かった。


花クラスの扉を開けた瞬間。


「おはよー、花子ちゃん!」


元気な声とともに近づいてくる影。

私は軽く手を上げて、適当に返した。


「赤パン、はよー」


「だからさ、俺の名前は夕日蓮也だって何回言えば――」


「赤パンは赤パンでいいの」


そう言い捨てて、自分の席に着く。

星影はまだ来ていなかった。


……と思った次の瞬間。


「ねえ」


突然、肩に重みがかかる。


「月城と何話してたの?」


「わっ!?」


思わず声が出た。


「ちょっと! 背後からやめてよ、怖いから!」


振り返ると、そこには顔を近づけた星影。

目が……完全に嫉妬している。


「で? 月城と何話してたの?」


「何って……あー。放課後、少し話そうって」


そう答えた途端。


「俺も行く」


即答。


「はあ!? なんでよ!」


「じゃあ、俺も!」


赤パンが勢いよく手を挙げた。


「赤パンは来るな! 絶対ややこしくなる!」


「いいだろ? 一人くらい増えたって」


「その髪型してるならスポーツしなさい! スポーツ!」


「え? スポーツ?」


「そうそう、スポーツ! 部活とか入れば?」


「あー……それ、ありだな」


(よし、流れた)


私は強引に話を切り上げる。


「ってことで、にゃーも諦めて?」


「……本当にダメ?」


少し上目遣いで聞いてくる。


(……可愛い顔しやがって)


(でも私は恋愛拒否人間。

そんな顔にやられるほど、ちょろくない)


それから放課後。


西日が校舎の廊下をオレンジ色に染め、部活に向かう生徒たちの足音が反響していた。

私は指定された場所――中庭のベンチへ向かって歩いていた。


……のだが。


「……なんで星影くんがいるのかな?」


一歩後ろ。

影のようにぴったりと付いてくる人物。


「あ、あのね!来てるんじゃないよ?

……えっと〜着いてきちゃった感じ?かな!ね?」


問いかけても、星影は何も答えない。

ただ、黙って歩調を合わせてくる。


(ん〜。

もうそこまで来たらホラー漫画になるからやめようね?)


指定された中庭に着くと、すでに月城奏汰――プリンスは待っていた。

制服の着こなし一つ取っても完璧で、夕日に照らされて無駄に絵になる。


「待たせてしまってごめん」


「いえ……」


とても良いムード。

少女漫画だとここで告白するシーンは多々あるのだろう。すると、月城が口を開く。


「僕さ」


「花子さんのことが、気になってて」


「……え?」


本当に告白されるとは思っておらず動揺をする花子。

花子は思考が止まる。


(いや、早くない?

会って、まだそんなに経ってないよね?)


「それは……目の錯覚だと思うけど……」


正直な感想をそのまま口にすると、

月城は少しだけ困ったように、でも優しく笑った。


「違うよ」


「……なんで違うって分かるの?」


すると、花子の後ろにいた星影がぼそっと言う。


「そーだ。錯覚に決まってる」


その瞬間。


「猫は、飼い主の後ろにいてくれないか?」


そう月城からの声。

完璧な笑み。柔らかな声。

なのに、空気が一変した。


月城奏汰が、微笑んだまま星影を見ていた。


(プ、プリンス怖……)


星影は一瞬言葉に詰まり、視線を逸らす。


「……もう少しで終わるから。静かにしてて」


花子は星影に聞こえる声で、こそっと言った。


「分かった」


(よし、いい子じゃ。)


プリンスは何事もなかったかのように話を戻す。


「本題なんだけど。来週、大会があってね」


「大会?」


「うん。応援に来てほしいなって思って」


「え?部活入ってるの?」


少し意外で聞き返す。


「入ってるよ」


さらりと答えてから、


「バレーボール」


「へえ……」


(完璧王子がバレー……爽やかや〜。

すぐシーブリーズのCMが決まるわ〜。

似合いすぎて想像つくのが腹立つわ〜。)


「今日は休みの日なんだけど、

もし暇な日があったら、練習も見に来てほしい」


「……うん」


自然に返事をしていた。


「ありがとう。嬉しいな」


(あ…自然と返事をしてしまった。)


「花子さんは、部活入ったの?」


「あ……いや……まだ……」


そう答えた瞬間。


(……あれ?)


頭の中で、何かが噛み合った。


(これ、いいんじゃない?)


――星影を部活に入れさせる。

――忙しくさせる。

――付きまとい、自然消滅。


完璧な作戦が、今ここで組み上がる。


(星影〈にゃーこ〉を部活に入れて、

私から物理的に距離を取らせる作戦……開始!!)


私は、内心で拳を握りしめた。


もちろんこの時点では、

この作戦がそう簡単にはいかないことを、

まだ知らなかったのだけれど。

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