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8 菜美子 好子宅にドキドキ!お泊まり女子会。

 今夜は早乙女さんの部屋でお泊まり飲み会だ。

ドキドキ緊張する。私は実家暮らし。既に一人暮らしをしている彼女が少し大人に感じた。

 彼女宅の近くのコンビニで買い物をした。

飲み会と言っても未成年だ。ジュースにお茶に炭酸飲料を大量買いした。

 早乙女さんがビールに手を出そうとしたがダメ。ダメ!すると今度はノンアルビール。それもダメーッ!

 後はお弁当にお菓子を大量にレジカゴに投入。

割り勘を申し出たが、今夜は早乙女さんの招待と言うことで奢ってくれた。

 同人誌の物販の収益もあったが、それは微々たるものだ。造本代に物販コーナーのエリア確保代金。

 その少ない残りを殆ど学費にあてている。親の負担に対して少しでも、報いたかったからだ。

 だから、ありがたかった。甘い物に飢えていた。疲れた脳に潤いを与えたかった。

 私は普段は殆どお茶だ。お菓子類も余り口にしない。いや、出来ない。実家暮らしをして、反対された美大に通い学費まで出して貰っている。そんな身で贅沢は出来ない。

 それさへも私にとっては贅沢なのだ。

私にとっては.....


 彼女の部屋はワンルームで間取りは普通だ。

ただ特別なのは、その壁中にコスプレの衣装が掛けてある事だ。それ自体がカラフルで部屋のインテリアの様だ。

 手描きのイラストも銀色のフレームに、きれいに収めて飾っている。机の上のイラストブックも見せて貰ったが。かなりの腕前だ。

 私の漫画を手伝って貰いたいレベルだ。三次元を、ニ次元に落とし込む、彼女なりの表現が群を抜いている。センスがイイのだ。

 同じ価値観を持ち合わせている様で彼女との絆を以前以上に深く感じた。

 イラストブックを机の上に返した後、何気なく本棚を見た。大学関係の専門書にコスプレ専門誌。小説とコミックス。彼女らしいラインナップだ。

 どんな漫画を読んでるのだろうと、気になり、改めて、そのコーナーを見ると驚くべき本があった。

 何と私の本が早々たる有名漫画家達のコミックスの端っこに置かれているのだ。

 私はゆっくりと、その本を抜き出した。

 

   間違いない。私の描いた漫画だ。


 それは二年前、初めてアニフェスに参加した時に出品した本だ。まさかこんな所で再会するとは思わなかった。

  彼女の部屋で....。

 慣れない事ばかりで、極度の緊張。舞い上がってしまった。あの時は...。

 それでも一生懇命だった。

   記念すべき一冊だ。

 しかし、何故ここに、私の本があるのか?

彼女が買ってくれただろうと言う事は間違いない。彼女もアニフェスに参加している。

 ただその事を彼女から何も聞かされていない。

 

( 気を使ってくれたのかな?)


私も話していないのだからお互い様では、あるけれど。

 私が漫画を描いている事は話していた。でもゲイを題材にした漫画を描いているとは、話せずにいた。

 イコール腐女子である事は、伏せたかった。知られたくなかった。恥ずかしかったのだ。

 私は、真面目で堅物だと思われがちだ。ある意味そうかも知らないが…。

 ずっと優等生タイプと見られてきた。その事が私の行動をがんじがらめにしてきたのだ。

 その反発とは、言い切れないかもしれないが脳内は、いやらしい妄想でいっぱいなのだ。

 それを漫画にしてきた。妄想を二次元化してきた。   私の脳内をさらけ出してきた。

 優等生と腐女子。その矛盾が私を苦しめる事になっていた。友達にも言えなかった。当然、家族になど言えるはずなかった。

 昭和気質の父に知れたら大変な事になる。漫画を描く事さへ反対されかねない。そう思う程に、私はこの事を秘密にしてきたのだ。

 

 そして人に話すことに臆病になっていった。


 いつか彼女には話すつもりでいた。それが絆を深める唯一の方法だと思える様になっていたからだ。

 全てをさらけ出した時、本当の友達になれると心底そう思っていた。ただ、その勇気が中々出せずにいた。

 それが、こんな形で露見してしまうとは…

この展開に正直、戸惑っている。

 このまま気が付いてないふりをするべきか、この機会にちゃんと話すべきか。棒立ちのまま思案していた。

 するど"ガチャ"突然、浴室のドアが開いた。

私は"ドキッとして本を床に落としてしまった。

 振り向くと早乙女さんがバスタオルを巻いて火照った顔で微笑んでいる。

 お化粧を落とした素顔は、いつもと違うあどけなさが残っているが、バスタオルからはみ出そうな胸や太腿のボリュームとのアンバランスさが妙な妖しさをかもし出している。

 彼女の視線が私の足元の真っ赤な表紙の本に向いた。私は居た堪れなくなって、泣きそうになりながら玄関ドアに向かった。

 やっぱり勇気が、出なかった。折角の機会を棒に振ろうとしているのだ。情け無かったが、身体が勝手に反応した。

 ドアノブに手が届く直前。

   彼女に後ろから抱き締められた。


「帰らないで。お願い。帰らないで.....」


 耳元で、ゆっくり、ささやかれた。静かだが切実な想いが、込められていた。

 私の興奮が治るまで玄関で長い抱擁が続いた。


「わかった。ごめん。大丈夫。帰らない。

  突然、ごめんなさい。私...。」

 

全て話そうとしたが、彼女がそれをさえぎった。


「菜美子ちゃん。シャワー浴びてきな。カワイイ顔が涙でクシャクシャだよ。さっぱりするからさあ、早く!」


 そう言って浴室に肩を押されて行った。振り向くと彼女は素っ裸になっていた。

 慌てて私を追いかけてバスタオルが外れてしまったのだ。女同士とは言え目のやり場に困った。


「ハハッ!失敬!菜美子ちゃんが慌てさせるからだよ。

でも、私は裸族だからね。家では、いつもこれだから。

もうブラジャーなんて最悪だろ。締め付けがイヤなんだ。今日は特別にパジャマ着るけど。」


そう言って下着を身につけた。


私は、妙な心の温かさを感じて、落ち着きを取り戻し


ぬるめのシャワーを浴び始めた。


早乙女さんの優しさと心遣いが


このお湯のように


ほんわかと心に染みた。

 


         続く


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